幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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??「ゆかりんが2体……くるわよメリー!」

???「こねーよ蓮子」




蓬莱山輝夜の永夜異変三分間クッキング(完成)*

「私の邪魔をするなよ永琳ッ! アイツを仕留めるのは私なんだからなぁッ!」

「始末してくれるならそれで結構。拒む理由なんてないわ。……手出しはしますけど」

 

 藤原妹紅のけたたましい咆哮とともに妖力が爆炎となって立ち昇り、巨大な火柱を作った。

 くぅ熱い……! やっぱり初っ端から飛ばしてくるのね……恐るべし不老不死。

 

 けど気のせいだろうか。前に体験した熱よりかは全然マシなレベルだ。精々サウナに入っているくらいの熱さ。不老不死でも疲れるものなのかしら?

 

【肉体的な損耗も脅威だけど、あの焔で注意しなければならないのはアレに"永遠の力"が付随されていることよ。魂魄を焼き焦がされた者は再生の力を失い精神を大きく傷付けてしまう。まあ今回は私が居るので大した影響にはなりませんが】

 

 説明ありがとう!

 

 強い踏み込みとともに噴き出る熱波が妹紅の背中を押し上げ、凄まじいスピードでこちらに迫ってくる。狙いは完全に私に絞られているみたいだ。

 早速きたわね! 霊夢さんお願いします!

 

 疾駆する霊夢と妹紅。二人の凄まじい霊圧が直線上に交わり───。

 

 

 お互いに華麗なスルー。霊夢の横を素通りした妹紅がどんどん私に近付いている。

 えっ、ちょっ、ま……。

 

「うぉらァァッッ! 死に晒せェ!!」

「う"おぇっ!?」

 

 妹紅の拳が腹に突き刺さるとともに身体の悉くを焔が焼き焦がしていく。熱さ、痛さ、苦しさ……全てが未知数。故に、どれが死因になるのか分からないほどの痛みを覚悟した。

 

 だがその予想は大きく裏切られる。なんと身体の損傷がなんと半殺し程度に済んでいるのだ! いや死ぬ程ツライんだけどね!

 

 この謎の耐久力アップによって、私の中でこの世界は夢である説が浮上した。夢じゃ殺されても中々死なないもんだから、この悪夢はまだまだ続くのだろう。

 身体は……動く……!

 

「やられっぱなしは性に合わないわね。さあ──ぼちぼち反撃に転ずるとしましょうか」

「んな──!?」

 

 某破戒僧の如く大物感たっぷりに反撃を宣言! さあ奥の手……を使うのはまだ早いので、必殺技を繰り出すとしましょう!

 くらえいスキマチョンパ!(目潰しver)

 

 説明しよう! スキマチョンパとは指をなぞる事によって指定した空間を分かち、相手を切断するというエゲツない技なのだ!(当社比)

 妹紅には前回これを腕にしたわけだけど、今回は容赦なく目を狙った。だって不老不死なんでしょう? そんな躊躇してる暇なんてありませんわ。

 

 光を奪われ動揺している今がチャンス! スキマを展開し妹紅を飲み込まんとする。このまま隔離できれば戦いがグッと楽になる!

 が、その考えはスキマ、そして妹紅とともに穿たれた。鋭い一撃が遮蔽物ごと私の胸を抉り、色々なものをぶち撒ける。

 

 ……ふぁ?

 

「げほっ……あの野郎、私ごと、やりやがったな…!」

「あ…これ、やば……」

 

 卒倒しそうなほどにショッキングなその光景に頭が真っ白になる。わ、私の胸が……無くなっちゃった……。凄い喪失感を感じる。

 妹紅の肩越しに矢を放った人物、永琳という名の悪魔の姿が見えた。だが彼女もまた、致命傷を負っていた。霊夢の一振りで首が飛んでいたのだ。

 

 なるほど……私を囮に勝負を一気に決めたのね…! 実に合理的な判断だわ。

 それよりもこれは……もしかして私死んじゃう? 折角拾った命を、ここで散らすとは……む、無念……!

 

【思い込みも大概にしてしっかり状況を把握なさい。あの程度で死ぬような身体ではないわよ、それは。だって八雲の集大成だもの】

 

 煩くどやされたお陰なのか幾分意識がはっきりする。そして言われた通りに傷口を確認してみると……あら不思議! なんかぽっかり穴が空いてるだけで血の一滴すら出ていない!

 そして空洞は何も無かったかのように埋め合わされ、綺麗なままの身体をこれでもかと私自身に見せつける。

 

 ……いやちょっと待って。

 私に何が起こってるのコレ。正直なところ嬉しさとか安心とかよりも、異形の者に成り果ててしまったような不快感を感じる。

 

 まさか、貴女の仕業なの?

 

【あら? 怨まれる覚えは無いわねぇ】

 

 いやいや自分の知らない間に身体を勝手に改造されてさ、怒らない人なんて居ると思う? 河城にとりとかいうメカキチを除いては居ないと断言するわ。

 ちゃんと元に戻るんでしょうね…?

 

【そんなことよりも、"死"程度じゃあの二人には足止めにしかなりませんわ。次なる対策への楔を打ち込みましょう】

 

 話題逸らさないでよ!?

 

 だが確かにグダグダと心の中で喋っているほどの余裕と時間があるわけもなく、妹紅は当然のように再生し、首を飛ばされた永琳も落ちた首を手に掴んで無理やり接着している。

 あっ、そう言えば貴女(永琳)たちって不死だったわね(白目)

 

 なんていうか……化け物ここに極まれりって光景ね。極めてなにか生命に対する冒涜を感じますわ。そしてその一端を自分が担っているという恐怖よ!

 ただこれで霊夢の足手纏いにならなくて済むっていうちょっとした安心感があることも事実。これでようやく霊夢の横に並べたような、そんなちょっとした嬉しさが心の中で芽生えた。

 

 化け物にはなりたく無いけどね!

 

「埒が明かないわ……なんか良い案はないの紫。アンタ賢者なんでしょ?」

「都合のいい時だけ賢者なんて言っちゃって……。そうねぇ……」

 

 なんか良い案はないかしらAIBO! 霊夢にズバッとカッコいい所を見せれるような権謀術数を是非ともカモン!

 

【考えるそぶりくらいは見せて欲しいものですわ。同じ八雲紫として情けない限りよ】

 

 うっさいわ! 貴女に八雲紫の何がわかるっていうのよ。勝手に私面しないで!

 ったく……つまり貴女を頼りにしてもアテにならないって事でいいの?

 

【いえいえ存分に頼って頂戴な。それに蓬莱人なんてわざわざ正攻法で攻略しようとするところから間違ってるのよ。ほら、相手が仕掛けてくるのを待ってなさい。さすれば勝機は自ずと見えてくる】

「そんな無責任な……」

 

「独り言垂れ流してる場合じゃないわよ! 結局どうすんのよ!」

「……彼奴等を攻撃しても意味がない訳だし、取り敢えず手の内を曝け出してもらいましょう。特にえーりん、だったかしら? アレが何を仕掛けてくるのかがまだ予測もできない」

 

 霊夢が気に入らなそうに鼻を鳴らす。ああ、貴女って受け身が嫌いだもんね。気持ちは分かるけどAIBOの指示だから……。

 それにしても待っていれば勝機が見えてくるって……一体どういう事なんでしょ? 今更になって疑問が噴出する。

 

 だがそれらを考えさせてくれる暇を与えてくれるほど連中は優しくない。妹紅の腕が紅蓮に染まり、凄まじい熱波が私たちへと向けられる。さらにその後ろでは新たなる弓矢を何処からか取り出す永琳の姿が確認できた。

 

 くるわね……!

 

「きっちりキメろよ永琳ッ!!」

「……」

 

 爆発的に膨れ上がった妖力が熱線となって放たれる。あまりの高熱度に周りの空間がぐにゃぐにゃにひしゃげ、かなりの熱量が込められている事が見て取れる。まともに当たればこの身体でもどうなるか……。 しかも私たちの後ろには傷付いたみんなが居るから避ける訳にはいかない。

 これも全部織り込み済みってことか。

 

 ……いける、のよね?

 

「霊夢っ! 貴女に合わせるわ!」

「──夢符『二重結界』!」

 

 展開された霊夢の結界を半ば模倣しながらシンクロさせるように結合、そして重ね合わせる。藍と橙の連携を真似た形になる。

 そうね、名付けて『永夜四重大結界』……てな感じでどうかしら?

 

【いいんじゃない? まあどこまで腐っても一応は八雲紫ってことかしらね】

 

 お褒めの言葉ありがとう!

 熱線との衝突とともに強い衝撃が掌を伝い吹っ飛びそうになる。だけどそんなみっともない姿を、霊夢に見せるわけにはいかないわ!

 隣で微動もせず踏ん張っている霊夢を横目に勇気を貰いつつ何とか耐え切る。

 

 ふふ……今もすっごく怖くてキツいのに、なんだか楽しくなってきちゃったわ! だってこれが霊夢と私の初めての共同作業のような気がしてね! ……ハッ、これはもう結婚なのでは!?

 とまあ、AIBOから冷たい視線の様なものを飛ばされた気がするのでしっかりしましょう。何だかんだしてるうちに妹紅の熱線が徐々に収まりつつある。

 つまりこの攻防、私と霊夢の勝利というわけね! うふふ、圧倒的じゃないの我々のチームは! よし、このまま泥沼戦に持ち込んで戦いを有耶無耶にしちゃおうかしら。どうせ決着は付かないんだし。

 

【それもまた一策。しかし貴女が余裕に耽る暇はないわよ。ほら、右方をご覧なさい】

 

 言葉に釣られて思わず右側を見た。そして飛び込んできたのは鋭い矢じりが自分の脇腹に食い込む瞬間。痛みよりも先に目眩がした。

 結界が破壊され──いや違う。結界を跳躍してきたんだわ! だって結界の側面には傷一つ付いてないんですもの!

 

【妹紅の熱線は空間を捻じ曲げる為のモノだったみたいね。つまり本命は八意永琳が放ったこっちの矢じり。これから面白いことになるわよ〜】

「いやふざけ……あわわわ!?」

 

 深く刺さった矢尻から変な力が噴き出す。

 これは恐らく召喚魔法だろう。そして召喚されたのは……数えるのが億劫になるほどの矢、矢、矢! それらが私に突き刺さる度にどんどん新たな矢を召喚していって、これは……!

 

「あばばばばば!!?」

「ちょっ、紫!? これは一体……」

「霊夢っ、それは互乗召喚魔法だ! 術式の元を断ち切らないと永遠に攻撃が続くぞ!」

 

 助言ありがとう魔理沙! つまり私は独力ではどうしようもない詰みに陥ってしまったわけね! もう身体中ひっちゃかめっちゃかでよく分かんないけど、取り敢えず霊夢助けてぇ!

 

 頼りになる我が愛娘は結界を解放して妹紅の熱線を打ち消すと、身を翻しながら宙を疾駆し焔々と禍々しい力を放出するお祓い棒を振り上げる。見るからに悪人の様相だけどカッコいいから問題なしね!

 だがその進撃は妹紅によって遮られ、背中の炎翼の羽ばたきと共に大量の羽根弾幕がスコールの様に降り注ぐ。霊夢には勿論当たらないけど、その背後には私と皆が居る。よって、またもや足を止めざるを得なくなってしまったようだ。

 どこまでも嫌な戦い方だわ!

 

【だけど理に適っている。それにこのままでは八意永琳の思う壺……私たちどころか霊夢も危ないわ。……均衡も時間の問題ね】

 

 霊夢が負けるっていうの!? 見たところ好調をキープしている霊夢がまさか……と言いたいけど、あの二人からは何とも言えない凄みがある。確かにAIBOの言う通り、万が一があるやもしれない。

 てかそもそも私が現在進行形でボコボコにされてるんですけどね! もうハリネズミより酷いことになってるわよ。なんか痛覚が麻痺してしまったのか何も感じないのが幸いだけど。

 

【……仕方ないわね。あまり多用したくはなかったんだけど、また少しだけ身体を借りるわよ。この状況を一気に打開する】

 

 貸すも何も私にゃどうにもできないわよ!

 そんな私の心の叫びを無視するかのように身体の中枢から末端への感覚と支配が失われ、視界が何故か後ろに退がる。まるでテレビ画面越しに目の前の光景を見ているかのようだった。

 ……この感覚、なんだか覚えがあるわ。

 

 恐らくは共有されている視界。つまり、自ずともう一人の私が注目している場所は私にも見当がつく。視線は永琳の全体から、僅かな眼球の動きまで精密に捉えている。

 何が狙いなの……?

 

 

「……、」

「……ここね」

 

 八意永琳ともう一人の私の動きは完全に一致していた。僅かに指で空をなぞるだけ。

 たったそれだけで場の状況が完全に揺れ動いた。そしてその結果が私にとって優位に働くものであることも明らかだった。

 

 眉間に皺を寄せながら永琳が唸る。

 

「読まれて、いたのね」

「大掛かりなトラップでしたわね。そしてそれは私たちにとって致命傷になり得る脅威だった。……まあ、霊夢への対応なんて限られてきますし、想定は比較的容易でしたわ」

 

 怪訝な様子で此方を見遣る霊夢。痛恨の痛手に今までの平静を崩していく永琳。そして、この場から完全に消え失せてしまった妹紅。

 

 えっと……説明よろしくて?

 

【自分の頭の中を探ってみなさい。そうすれば私の思考に辿り着くはずよ】

 

 なんか多重人格とか精神分裂とか、もうそんな域ね……。だがさとりごっこができるなら、この好機に甘んじるとしましょう!

 本当に読んじゃっていいのね?

 

【見られて嫌なものは既に隠してあるから大丈夫よ。それに私だって貴女の心の中を隅々まで把握してるわけだから、まあおあいこね】

 

 いや、どこがよ(絶望)

 

 だが迸る情報は私に沢山の事を教えてくれる。なんか難しい根拠とかをペラペラ説明したものもあったけど、あんまり考えると頭が痛くなりそうなので省略! それにしてももう一人の私ったらめちゃくちゃ頭いいのね……!

 

 簡単なようで複雑なトリックだ。

 そもそも、この部屋の中で戦うことは、即ち永琳の体内で戦っているのと同義だった。地上の密室と例えるその空間は、そもそもの空間に宙を無理に介在させた閉鎖空間。本来ならば侵入を不可能にする効果も持ち合わせる永琳が得意とする術のようだ。

 誤算は妹紅がその空間の境目を破壊したこと。"永遠"の性質を持つ者ならば地上の密室を開け放つ事が可能なのである。そのあたり、妹紅を連れてくる決断を下した霊夢の勘は凄まじいわ。

 

 そういえば霊夢も妹紅も、況してや私が眼を覚ます前にレミリア達も暴れまくってた筈なのに部屋が殆ど壊れてないのもよくよく考えればおかしい話だったわね。

 

 だが結果的にはそれが永琳にとって良い方向に働いた。簡単な話、その密室を放棄して自分以外をその空間に留まらせればいいのだ。それは即ち、宇宙への放逐となんら変わりはしない。

 いくら無敵の夢想天生だとしても帰還方法がないんじゃ『考えることを止めた』状態になりかねない。つまり霊夢の倒し方のお手本そのものだったわけね。八意永琳、恐ろしや……!

 

 だがその策はもう一人の私に看破され、変な能力をちょちょいと行使して妹紅以外の全員を一気に幻想郷へと引き戻したのだとか。

 私の言ってる事の意味が分かってる? 私はね、正直全然分かんない。一番間近で見てるからこそ分からない部分が多々あるのよ!

 

 ひとまず身体中に刺さりまくった矢を内部に展開したスキマへと飲み込んで、霊夢と合流し永琳と向かい合う。数の面では有利になったが……。

 

「ねぇ紫……じゃないわね。今度は擬きか。アンタら今日はやけにコロコロ変わるのね。まあ区別が分かり易くて助かるわ」

「今夜限りの大判振る舞いですわ。……それよりも、妹紅の方は私に任せて貴女は永琳を相手なさい。そうねぇ、前みたいに無理に勝たなくていい、しっかりと貴女の力を見せつけるのよ」

「また訳の分かんないことを……」

 

 次に私の口が八意永琳へと言い放つ。色々と複雑な構図をその頭で思い描きながら。

 

「貴女が体内に仕込んでいるその便()()()()。それを使って今にでも失敗をやり直したいと思っているでしょう?」

「……どこまで貴女は」

「ふふ、月の頭脳ともあろう者が気付かないわけがない。もしも安易な考えに走っていたなら、貴女はもはや独力では取り返しのつかない域まで至っていたわよ。今よりも酷い、永遠の牢獄に閉ざされるという結果にね」

 

 唖然としたのは永琳だけではない。この私自身もこの口から放たれた言葉の意味と、脳裏に浮かぶ計画に呆気にとられてしまった。

 時間に境目を作り出して時の流れを固定させ、延々とループするだけの時間軸を新たに創り出すって……言いたい事が分かるような分からないような、そしてやっぱり分からない!

 

 これほどの次元の話には一生無縁なものだと思っていたが……境界を操る能力がこんなにも強力だったなんて知らなかったわ。もしかして私って強い?

 

【思い上がるのは危険よ。貴女は間違いなく有象無象の雑魚に過ぎないのだから】

 

 あっ、はい。

 ……くぅ〜…! なんか屈辱……!

 

「幻想郷の恐ろしさはもう嫌という程認識したはず……引き時を誤ると長く尾を引き摺る事になるわ。それは互いに利のない結果ではなくて?」

【後のことは霊夢に任せておけば大丈夫よ。貴女はただ生き残るだけでいい】

 

 ここまで言うといきなり視界が透明感溢れたクリアなものに開かれた。試しに手足を軽く動かしてみたが、いつも通り何の不自由もなく動く。私に身体が戻ってきたのだろう。

 こういうのをなんて言うか分かる? あのね、丸投げって言うんだよチクショウ!

 

 心の中で問い質してみたが返事はない。あれ、もしかして逃げてない? 大丈夫?

 

「今度はいつもの紫……でいいのよね? いい加減面倒臭いからどっちかに統一してくれない? ……できればアンタの方で」

「この件が終わり次第あっちに掛け合ってみるわ。私も初めてのことでねぇ」

 

 曖昧に言葉を返しながらポツンと独り佇む永琳を見遣る。無表情なのは当初と変わりないんだけど、鋭い視線に混じって確かな疲れが見え隠れする。

 明らかに消耗しているようだ。最初に相対した時に感じた絶対感が薄れているように思える。

 

「薬は使えない……助けも見込めない。そして状況は最悪、と。──だけどまだ退く時ではない……。まだ僅かにでも可能性があるなら、諦めるわけにはいかないもの。輝夜には、決して───!」

 

「そんなこと知るもんか! 私は異変を解決するだけよ。そしてアンタにツケを払わせる! 私の安眠を妨害したそのツケをね!」

「動機は兎も角、心意気は素晴らしいわ」

 

 真っ向から二人の霊力がぶつかり合い、しのぎを削る。術の解けた部屋にそれらの余波を耐え切れるほどの耐久力があるはずもなく、ミシミシと音を立てて崩壊しようとしていた。

 

 

 先に動いたのは霊夢。

 まるで霊体のように脚を消失させると強く跳躍し、身に纏っている焔を御幣へと集約して振りかざす。上空からの渾身の一撃を狙っているようだが、普通ならばこんな隙の大きい行動なんて悪手も悪手、今頃弓矢による迎撃で原型を留めてはいられないだろう。つまり霊夢のみに許された最高の一撃ってわけ。

 

 当然、永琳がそれを許すはずがなく、畝る霊力の渦が何重にも構築されて、霊夢を迎え撃たんと無機的、かつ暴力的に牙を剥く。それも直接的なものではなく、綿密に計算され尽くした複雑怪奇な構造で待ち構えている。何かの罠であることは明らかだ。

 

 恐らく、互いに手を尽くした最期の一撃……!

 

 

 

「ぐ、く……!?」

「──間に合った。私の勝ちよ」

 

 宙ぶらりんに縫い止められた霊夢が苦しそうに呻く。霊力の塊が霊夢の至るところに張り付いていて、動きを封じ込めているようだった。

 半透明の輝きは失われており、それは霊夢の無敵タイムが終了していることを示す。つまり、夢想天生、攻略……!?

 

「空なるは虚無。それ即ち存在しない事……だけれども、それを認めては目の前に立つ矛盾を証明できない。ああ、一つ言っておくけど、矛盾とは成り立たない事象のことを言うんじゃない、巧妙に誤魔化された事実のことを言うのよ」

 

 今日一番であろう、桁外れの力が永琳の掌……正しくは弓矢へと集約されている。あ、あんなのまともに食らったらバラバラどころじゃ……!

 そんな事を私が許すはずがないでしょうが!

 

 スキマを開いて即接敵。

 何時ものように境界を分かつ一撃を繰り出そうとした矢先、永琳の背中から放たれた霊力の波動に打ちのめされ、壁に叩きつけられた。

 いったぁ……! い、いつのまにか謎強化も消えてるし、何がどうなってるの!?

 

 永琳は私に見向きもしない。

 

「永遠無限の上に存在する物は無い。矛盾だって、永遠の時と無限の方法が有れば成し得ることができるのです。とは言っても……私が無から時空操作能力を作り出したのではない。私を頼って、力を貸してくれている方が居るから、私は貴女を、貴女達を越えたのよ。ある意味、らしくない力押しなのかしらね…」

 

 息は絶え絶えて、重苦しく沈んだ声音からは疲労困憊ぷりがよく判った。だがそれでも一向に永琳は崩れず寧ろ力が増している。

 もはや狂気以外の何物でもない。

 

 くそぅ…助けに行きたいのに、身体が今になって激痛で動かない……!

 このままじゃ霊夢が……!

 

『奴とお前を隔てているのは単に地力の差よ! そんなものに屈するな霊夢ッ!』

「ふぁ!?」

 

 鼓膜がぶっ壊れたのかしら霊夢から二人分の声が聞こえるわ。幻聴幻覚もう一人の私の出現といい、私も終わりなのかもしれないわね……。

 

『頭を使うな! ありったけの精魂を振り絞れッ! あの程度の者が、お前の輝きに勝ることなど、あるはずがない!!』

「当たり前よ! こんな程度の奴に燻ってて、博麗の巫女が……! 務まるもんかっ!!」

 

 永琳の完全な術に小さな亀裂が入った。やがてそれは蜘蛛の巣状にじわじわと広がっていく。苦虫を噛み潰したような顔で永琳が追加の霊力で抑えにかかったが、それをも薙ぎ払い、拘束を砕きながら飛翔した。

 霊夢が見据えるのは永琳ただ一人。再度お祓い棒を振り上げて展開される結界を貫通しながらひたすら突き進む。纏ったオーラも相成ってまるで赤い弾丸だわ!

 

 当然のように永琳は先程と同じような結界を張ろうと試みていた。

 だが、できなかった。側面から襲いかかる極太レーザーに妨害されたからだ。

 

 虹色の派手なレーザーを放ったのは、もちろんあの自称普通の魔法使い。震える掌で掴まれた八卦炉からは黒い煙が上がっている。

 

 腕を焼かれた永琳は再起を始めていたが、それは私が許さないわ! 永琳の足元にスキマを展開し、膝の中程まで沈んだあたりで切断! 流石に今の私のスキマでは身を切るには及ばず嫌な音を立ててスキマが破損したが、永琳のバランスを大きく崩すことに成功したわ!

 

 間髪入れずにお祓い棒が永琳へと迫り、彼女は片手を伸ばしガードを試みる。だが、霊夢の一撃はそれを易々と突破した!

 

「はぁ、はぁっ! 私には、これくらいしか……! やってくれ霊夢ッ!」

「やりなさい霊夢ッ!!」

 

「そ、んな──人間に、私が──!」

 

 勢いそのままお祓い棒が永琳の脳天へと叩き込まれる。迸る霊夢の力が永琳の身体を粉々に叩いて砕いた。霊力の激しい瞬きとともにそれらは散り散りとなり、完膚なきまでの破壊を齎す。

 

 残ったのは、静寂と私達だけ。

 

 

 ……っやったぁーっ!

 そうよ、私が心配する必要なんてなかった! やっぱりウチの霊夢がナンバーワンなんだから! 見たか聞いたか思い知ったか八意永琳!

 

 

「──もう懲り懲りよ。これが終わったら、しばらくは隠居する事にしましょう……」

 

 そして当然のように復活! 演出的にもしかしたら……って思ってたのにぃぃ! 粉々に砕け散った粒子や煙から復活するって、どうやったら倒せるのよこんな化け物ぉ!

 

 霊夢はまだまだやる気だけど、多分いずれは限界がきてしまう。一応永琳の方も疲労が蓄積されているみたいだけど意志は折れそうに無い。

 

 もう一人の私ー! なんとかしてぇー!

 

 と、示し合わせたように金縛り……! またもや視点が奥の方に引っ込んだ。身体を変わるのは別にいいんだけど合図くらいしてくれないかしら? すっごくビックリするのよねこれ!

 

【──お疲れ様。後は任せてちょうだい。ふふ、私達の勝利は今を以って決定したわ】

 

 ほ、ほんとぉ?(無垢)

 ていうか貴女どこに行ってたのよ。

 

【もう片方の決着ですわ。これから先も藤原妹紅に狙われるのは色々と不都合でしょう? だから私が動けるうちに無力化しておきました。……ああ、あと藍の迎えに行ってきたわ】

 

 そう告げると、私は収納用のスキマを展開して二つの物体を取り出した。そう、件の人物である妹紅と藍である。

 なんで二人ともスキマの中にいたんだろう?

 

 いやそれよりも不可解な事が。意識を失っているであろう二人の表情が変なのだ。

 藍は何故だかとても幸せそうな表情を浮かべているが、一方で妹紅のそれは……なんだこりゃ……。苦悶に満ちていて今も寂寂と涙を流している。時々痙攣してるし……。

 

 絶対二人に変なことしたでしょ!?

 

【貴女が言えた話ではないわねぇ。どちらかと言えば私は貴女の長年のツケを代わりに払ってあげたのよ。感謝してほしいものですわ。……はいこの話はもう終わり】

 

 私の抗議を無理矢理ぶった切ったAIBOは、見せしめのように妹紅をそこらに投げ捨てると、突拍子もなく掌に刺さっている矢を掴み、反しを気にすることなく引き抜いた。痛みは感じないけど見てるだけで痛いわよ!

 無理に引き抜かれた矢じりから大量の血が滴っている。人の身体だからって乱暴に扱わないでよねもう! 痕が残るじゃないのよ!

 

「天稚彦を殺した要因になったのは高皇産霊神に射返された矢だった。それらの神と関係深い貴女が放った矢もまた、同じ力があるのではなくて?」

「……天探女(稀神サグメ)の力も無しに、況してや私を滅ぼすなんて夢物語に過ぎないわ。貴女は私の事を甘く見積もり過ぎて───」

 

「逆よ。貴女を見縊る者なんて世界中探しても何処にも居ない。私だって貴女の存在には何時も手を焼いていたわ。攻略の手立てが無いわけではないけど、現時点での《それ》はもう諦めました」

 

 解せない、といった様子で永琳の双眸が細められる。私もそう思うわ。だってそれなら何故そんなことをわざわざ古事記の一文から引用したのかって話よ。頭の中を覗いても、今度は変な靄みたいなものに包まれて把握できないようになってるし……。

 

 だが、その疑問は隣の部屋から届いた大きな声に掻き消された。

 

「ちょっ、ダメですって姫様! せっかく師匠が抑え込んでるのに───あ!?」

 

 勢いよく開け放たれる襖。新手が来たのかと思って一瞬ヒヤッとしたが、何やら様子がおかしい。新手には違いないのだが、私の危険センサーが全くといっていいほど反応しないのだ。

 しかしだからと言って無視して良い有象無象などではなく、彼女は間違いなくこの場の誰よりも強い存在感を放っている。

 

 真っ直ぐに伸ばされた艶やかな黒髪。あまりの色の深さに、まるで髪が鏡に見えてしまうほど……なんて言うかその、綺麗だわ(小並感)

 洋風な着物を着ているのに、その姿から純然たる和の美を感じさせる。

 そんな美しさを形容する言葉を私は持ち合わせていない。つまり語彙力が崩壊するほど綺麗だってことね……!

 

 

「──永琳。もういい」

「かぐ…姫様っ!? 〜〜ッなんでよりにもよって! こんな時に出てきたのです!」

「ごめんなさい──……寧ろ遅過ぎたくらいだわ。私の迷いが貴女に大きな苦痛を与えてしまった。けどもうこれ以上は……取り返しがつかなくなってしまう」

 

 この時、私の口が大きく歪んだ。

 恐らくこれは愉悦の笑み。自分の策が為った事への強い優越感と達成感だろう。

 もう一人の私の表情、永琳の表情……そして輝夜と呼ばれた完全にお伽話のあの人の登場に、私は何故だか異変の終結を予見した。

 

 つつつ…と、矢じりの先がゆっくり永琳から移動し、いと美しき珠のかぐや姫へと向けられる。肝心のかぐや姫が微動だにせず余裕さえ見せている一方で、付き人的な間柄なのだろう永琳は今日一番の焦りを見せていた。

 

 嬉々として口を開く。

 

「貴女の起こした異変は誰を守る為のモノだったのかしらね? そこの非力なお姫様? それとも月から逃亡した玉兎? ……いいえ、貪欲な貴女のことだから全てを望んでいたのでしょう。しかし、それらを実現できる能力を有していたのが運の尽きよ」

 

 神殺しの矢に纏う特殊な妖力。スキマの力が付与された今なら、あのかぐや姫が何処へ逃げようと矢は追尾し続けるだろう。つくづく私の能力のポテンシャルの高さに感嘆するばかりである。

 奇しくも、まるで私を追い詰めたあの時の展開をそのままひっくり返したような状況ね。辛かったわよ、アレは!

 

「貴女と私の弱点は共通している。何に変えても護らなければならない存在がいる事……それが繋がりの齎す最悪のデメリット。しかし貴女はこの"幻想郷に住まう者達(八雲紫にとっての大切な存在)"を殺す事なんてできない。八雲紫と、博麗霊夢の目が黒いうちはね」

 

 お、おおう……意外と良いこと言うじゃない。まあ、まさにその通りですわ!

 それにひきかえ、と続ける。

 

「貴女には大切な者を護る事ができない。何故なら"私"が居るから。何処へ逃げようと、如何様な手を使おうとも、最期まで追い詰めて……いずれは死に至らせてみせましょう。──このように、蓬莱人の扱いは心得ているものでして」

 

 倒れている妹紅へと目配せした。それに対してかぐや姫の目はまるで脆弱な者を哀れむかのようなものだった。同情かしら?

 そりゃそうでしょうね……殺されかけた私でも彼女には同情してるんですもの。

 

「そこの姫様の場合はこんなものじゃ済まないわよ。だって元月人ですもの。取るに足らない脆弱な存在でも念入りにやらせていただきますわ。そうねぇ……」

 

 私の口元が歪む。コレが自分の顔なのかと思うほどに、いやーな笑みを浮かべた。そして次の発言が場の空気を完全に凍らせた。

 

「彼女の頭から皮を剥ぎとり、足からは一寸刻みに肉を削ぎ、長い時間をかけて私の気が続く限り死に至らせる。そして陵辱の限りを人目にさらし、苦と惨と悲をからめて地獄の深奥へと突き落とす」

「……ッ!!」

 

 私ですらドン引きである。ほら霊夢からの視線が凄いことになってんじゃないの! 魔理沙に至ってはまるで化け物を見るかのような目つきである。

 ああ、そういえば化け物だったね(白目)

 

 バキッと、何かが壊れる音がする。その正体は八意永琳の掴んでいた弓矢の折れる音だったようだ。あ、握力強いのね……。

 ていうかキレてるキレてる! あの美白の鉄仮面だった表情がこれでもかと歪み、額に何本も青筋が浮かび上がっている。睨まれてるだけで寿命がゴリゴリ削れていますわ!

 

「貴女ならともかく、彼女なら抵抗なんて気にせず好きにする事が出来るでしょうね。そこらの妖怪となんら変わりのない、彼女なら」

「私に……どうしろと……!」

「諦めなさい。なればウサギ一匹の命も取ることなく、この件は"一応"の終わりになりますわ。それに、月の都によるこの世界への侵攻ルートは既に悉く潰していることですし、当初の貴女達の目的は既に形骸化しているようなものです」

 

『諦めろ』──この言葉には様々な意味が込められていた。異変の達成、幻想郷への勝利、私の殺害、練られていた策謀、今後の進退──その全てを。

 勿論、あの八意永琳がそんな無条件降伏に簡単に応じるはずもなく、腹ただしげに口調を強める。恐らく保身の為ではなく、大切な人を守る為に。

 

「諦めた先にあるものを知らずして認める気には到底なれないわ。それに、どのみち貴女を殺さない限り、私達に先など──!」

「もう止めて、永琳。私はもう……これ以上壊れていく姿を見たくないの。貴女も、イナバ達も……そして妹紅も。……もう沢山でしょう?」

「──っ……姫、様……! だけど要求を飲んでしまえば、貴女が……」

「大丈夫。私に考えがあるわ」

 

 弾けんばかりに溢れていた暴力的な霊力がどんどんなりを潜めていく。そして挙句には力無く項垂れるだけになってしまった。

 永劫不壊と思われた八意永琳の牙城とは、ここまで脆いものだったの……?

 いや、永琳が脆いからじゃない。あのかぐや姫の言葉が永琳の戦闘意思をへし折ってしまったんだわ。それほどまでに、彼女の存在は永琳にとって絶対的なものなのだろう。

 

 ……弱点、か。

 

 

「ここに宣言しましょう。()()()()()()()()()()()()()()()()蓬莱山輝夜は、今この時を以って幻想郷に無条件の降伏を申し入れる。……これでいいのかしら? 腹黒さん」

「──ええ十分。これ以上の恨み言は無しにしましょうね。……()()()()

 

 戦域の規模、動員された戦力、被られた被害──どれを取ってしても過去最悪に位置するだろう今回の異変は、私の口から紡がれた私の意思無き言葉によって呆気なく終結した。

 

 怪訝な表情で疑う霊夢もいれば、実感が湧かずにへたり込むままの魔理沙もいる。納得のいかない様子で永琳とかぐや姫に泣きながら何かを訴える兎に、昏倒したままの敵味方の面々。

 

 ……散々だわ。

 

【けど最悪ではない。それで良いのではなくて?】

 

 いつのまにか奥に引っ込んでいるもう一人の私がわざとらしく問いかける。

 簡単な答えなんてわざわざ用意する気にもならないわ。そもそも貴女は回答を用意しているだけで、それに至る問題を一切とも私に提示していない。

 

 私は見逃さなかった。

 かぐや姫の口の端が僅かにつり上がっているのは、絶対に見間違いなんかじゃなかった。そしてあの笑みは、私が先程まで浮かべていたモノと全く同じ部類のモノだった。

 とても嫌な笑み。

 

 今回の異変の勝者は、多分私でも永琳でもないわ。私達ではない、他の誰かさんの一人勝ちだ。なんて不毛な争いなんだろうか。

 

 

 と、偶然か故意的か、かぐや姫と目が合った。透き通る深遠の鏡に映る私はどのように見えているのかしら。少なくとも敵意ではなかった。

 そして美しくも幼さの残るあどけないウインクの後、背を向けた。

 

 ……ああいうのを魔性の女、とでも言うのかしらね? 悪女って怖いわー! かぐや姫怖いわー! これからはちゃんと幻想郷の戸締りしましょ。

 

 




登場だけで異変を終わらせる姫様こそ異変解決者の鑑ですわ。ゆかりんと霊夢には見習ってほしいものです。

ではいつもので締めましょうか。

リグル…D(B)
ミスティア…C
慧音…B(A−)
てゐ…D−
鈴仙…A

殺意の波動に目覚めた幽々子…S−
サポートレミリア…A +
覚醒藍…S−
グリモアアリス…S−
霊夢コンゴラstyle…S−
ゆかりん…F〜?

永琳…S
輝夜…E
妹紅…A +


ゆかりんに次ぐ2人目の弱体化キャラはぐーや様でした! もちろん理由はあります。蓬莱人三人は中々の重要人物。

永琳の弱点は輝夜の存在、と言う事でしたが、実際のところ正面から戦うとしたらどうやって戦えばいいんですかね…? 多分あのまま紫と戦ってても『負ける』ということは無いと思われ。寧ろ紫不利なまでありますねコレ。


さて、ようやく物語がターニングポイントに差し掛かったような感じです。ここから加速的に進行していくと思われるので……なるべく投稿頻度を上げていけたら、と思っています。
止まるんじゃねえぞ…!

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