幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:とるびす

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2XXX年、日本海沿岸より発見された年代不明の日記。一時とある界隈を騒がせたその日記帳は、最終的にとある不良サークルの手に渡る事となる。


今昔幻葬狂〜花風〜
ゆかりんずトラベル


『要調査:境界だらけの日記』

『以下本文写し』

 

 

 11月2日(晴れ☀︎)

 小道具屋で日記を買ったのでこれに外の世界での出来事を綴っていこうと思う。せっかくの大型連休(不定期)だからね、いっぱい楽しまないと!

 さてさてAIBOに突き落とされたスキマの先はどうやら畿内の和泉……現在での大阪だったようだ。それじゃ、適当に美味しいものでも食べながら観光名所を周るとしましょう!

 

 

 11月3日(晴れ☀︎)

 今日は外の世界での祝日だったみたい。えっと、なんだっけ? 忘れちゃった☆

 そういえばこの風貌は外の世界じゃちょっと浮いちゃうらしいのよね。今まではそんなことなかったのに、なんでだろ? 最後にまともに外の世界に来たのは10年くらい前だし、流行やらトレンドやらが変わった感じ? 取り敢えず簡単な衣服とウィッグを購入した。

 

 

 11月30日(曇り☁︎)

 本当に妖怪が少ない。昔の京都なんてちょっと路地に入ればゴロゴロ居たのに……もはや私たちは絶滅危惧種というやつか。ところで幻想郷に居る連中はなぜ外の世界に行かないんだろう? あの人たちなら普通に今の世界でも天下取れると思うのに。

 うーん、それにしてもやっぱ京都はいいわね。なんていうか、凄く落ち着く。後でちょっとした文献を調べに京都大学の方にも行きましょう。なんかワクワクしてくるわ♪

 

 

【字の乱れ】

 

 

 12月11日(雨⚡︎)

 名古屋に来ている。……この数日間で起きた激動ゆえの心中整理のために、現在の状況を日記に書き出していこうと思う。

 ・財布をすられて一文無し。

 ・スキマで移動ができない。

 ・携帯でAIBOにその原因を確認したところ「私が貴女の力を使っているからだと思うわごめんねてへぺろ♪」との事。

 ・以後AIBOと音信不通。

 ・私、生身じゃ幻想郷に帰れない。

 ……流石にキレるわよ?

 

 

 12月15日(晴れ☀︎)

 収納用のスキマはまだ生きていたので、そこから様々な仕舞物を取り出して質に入れ、現金を確保した! なんとか詰みは回避できそうね。

 あと幻想郷に帰る手段についても既に考えついている。流石は大賢者ゆかりん、と自分を褒め称えたいところですわ!

 それじゃ、東海道新幹線に乗ってまずは関東を目指す! いざしゅっぱーつ!

 

 

 16日

 新幹線内で妖怪に襲撃された。どこぞのマフィアの幹部如く、壁に開けたスキマから車外へ叩き落としてやったけど、正直危なかった。悪目立ちし過ぎたため途中下車する羽目に。

 これからは極力歩きで移動しようと思う。

 もうやだやだ! 早く幻想郷に帰りたい! ……ごめんなさいやっぱ帰りたくない。

 

 

 12月24日(晴れ☀︎)

 東京に到着。外の世界に来て一番の活気だが、今の私に観光地を巡る余裕などない。取り敢えず現金を使い果たしたので新しく質に入れなければ。

 あとストレスによる寝付きの悪さのためか悪夢が続く。ドレミーふぁっきゅー。

 ところで今日はクリスマスイブ。街中はクリスマス一色である。……帰りたい。

 

 

 

【空白】

 

 

 1月7日(雪❄︎)

 突然だけど、全国指名手配になりました。罪状は公務執行妨害よ、ふぁっきゅー。

 経緯は簡単。街の中を歩いてたら軽そうな感じの男たちに絡まれた。俗に言うナンパってやつ? そんなの初めての体験だからオロオロしちゃって、それで連中をつけあがらせてしまった。

 ……モテるのは嬉しいんだけど、男の人とはあんまり話したことがないから、ちょっと苦手。まともに話してた異性って妖忌さんと霖之助さんくらいですもの。ああ、別に一癖も二癖もある男性がタイプというわけではないので、そこらへん勘違いしないように!

 話を戻して、そんなこんなであまりにもしつこいもんだから、脅かして追い払おうと思ったのよ。張りぼてのスキマを背後に展開させ、妖力で目を光らせながら仕事モードの口調で強く拒絶したわけ。妖怪の血かしらね、人を驚かすのに快感を覚えてしまいそうなほどに楽しかったわ。

 ただ問題は何故か男たちが卒倒してしまい、オマケにナンパを止めようとしてくれていたお巡りさんも巻き込んでしまったこと。毒ガステロでも起こったのかと思ってビックリしたわ!

 そして(文字数)

 

 

 1月8日(雪❄︎)

 愚痴が多すぎて一ページ丸々使っちゃったわ。続きはこのページで。

 それでね、後から来たお巡りさんに「なんたらかんたらの容疑で現行犯逮捕」とか言われて……もうあまりの急展開に言葉も出なかったわよ。これって確か冤罪っていうのよね?

 結局私は取り調べの間独房に入れられ……そして今日、あまりの進展の無さとイライラに脱獄を決意。スキマで壁を通り抜けてそのまま逃げた、という顛末よ。大いに同情して欲しい。

 現在、脱獄犯として私の顔とその特徴がテレビを介して全国に垂れ流されている。とんだ肖像権の侵害である。ただ何故か分厚いモザイク付きなのよね……なんでだろう?

 

 

 1月24日(雪❄︎)

 正体がバレたら大変なことになるのでサングラスとマスクとウィッグ、そして厚手のコートを購入。逆に怪しさが増したような気もするが、私だとバレなければ問題ないでしょう。

 

 

 2月3日(曇り☁︎)

 コンビニで買ったおつまみピーナッツをそこらに投げ捨てながら、独り寂しく豆まき大会を行った。鬼といえばやはりあの顔が思い浮かぶ。

 福は内、鬼も内……。すいかぁ助けてー……。

 

 

 2月9日(晴れ☀︎)

 財布の中身が尽きたのでまたもや質屋に訪れる。結果、愛用のパソコンといつぞやかに使ったキャンプセット、八雲一家お揃いの携帯電話、そしてG B A(ゲームボーイアドバンス)を手放すことになった。

 泣かない。ゆかりん泣かないもん。

 

 

 2月27日(雪❄︎)

 ナズニーランド……言わずと知れた日本三大テーマパークの一つ。外の世界を旅行する時は絶対に寄るんだって決めていたの。けど今回、あまりにも状況が切羽つまっているので泣く泣く断念した。

 ミナミツ・ダックと写真撮りたかったなぁ。

 

 

【空白】

 

 

 

 3月20日(おひさま)

 数日謎の土地を彷徨った。

 日本語は全く通じず、文化レベルは幻想郷以下、そして何より好戦的な原住民……私は日夜槍を持った人間たちに追いかけ回されていたのだ。

 彷徨い逃げ惑った果てに、私は今日ようやく近代人工物のある場所に辿り着く事が出来た。妖怪としてはアウトだけど、初めて人間の英知の光を頼もしく感じたわね……。

 もう二度とあんな所はうろつかないわ。なんで群馬県に入っただけでこんな羽目に……。

 

 

 4月1日(くもり)

 恐れていたことが遂に起きてしまった。とうとう財布とスキマの中身が共に空っぽとなってしまったのだ。今日はおふざけオーケーの日ではあるが、残念ながらエイプリルフールの嘘ではない。

 ……だがこうなることは予め分かっていたことだ。この為に、本来の目的地である長野を迂回したのだから。

 今、私が居るのは新潟県。そして目指すはその北西部に位置する佐渡島である。あの島に辿り着けさえすれば後はどうにでもなるはずだ。

 しかし問題が一つある。……定期船に乗船できるほどのお金がない。つまりつまり、私に残されたのはたった一つの選択肢だけ。

 泳いで渡るしかない! 「飛んで行け」って思ったかもしれないけど、私の妖力では不安な部分が多々あるのよ。霊夢と一緒にしないで欲しい。私ならまだ泳いだ方が可能性がある。

 

 幻想郷のドブ貝と呼ばれた私の泳ぎ(名付けさとり)……魅せてくれるわ!

 

 

 

【継ぎ足されたレポート用紙】

 

 

 

 以上で日記は終了した。

 この[ゆかりん]と名乗る人間か妖怪か判明しない人物の足取りは分からない。もしかしたら日本海の荒波に飲まれてしまった可能性すらある。しかしいま彼女の生死に興味はない。

 財力に物を言わせてこの曰く付きの日記を買い取ったわけだが、期待通り、私達が暴きたい世界についての情報が散見できた。

 

 明日には相方とともに詳しく内容を調べてみるつもりだ。彼女のことですもの、とっても喜ぶだろうなぁ。

 

 

 

 

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 気の遠くなるような永い年月。幾多もの夜を越えて、当然のように昇り続ける月を何千、何万と眺めてきた。

 世界は変わり、私も変わる。

 名前が変わり、力が生まれる。

 

 私の身体は5回、心は2回、それぞれ壊れた。その度に私か()()が修復してきたけれど、もう元々の形には戻れない。

 私が変わるたびに、薄れていく本来の記憶からかけ離れてしまっているような気がする。誰にも言えない私だけの悩み。()()にも言えない深刻な悩み。

 

 私は幸せ者だ。

 自分が犯している過ちに気付くことなど決してないのだから。私がそれを望まない限り、私は私の変化に気付かないだろう。

 後悔を募らせるだけで何もなく過ごせるのだ。こんな破格の待遇は他にない。可哀想な私へのお情けだろうか? 癪に触るが、それでよし。

 

 気付くな。

 知るな。

 思い出すな。

 

 それだけを守っていれば貴女は世界一の幸せ者。どうか、その幸せを自ら踏みにじってくれるな。私は、自分にそう願わせている。

 

 

 

 

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「ス─マ──っかりせんかスキマ殿」

「あー…えっと……」

 

 目の前には真っ白い湯けむり。そしてぴょこんと生え出た狸耳と眼鏡美人。いつ自分の意識が戻ってきたのかすら気付かなかった。

 

 湯槽に浸かると同時に一瞬の立ちくらみの後、急に意識がなくなったのだ。もしマミさんがいなければ溺死、なんてこともありえたかもしれない。

 

 ひとまず湯槽から出て身体に異常がないかチェックする。感じ取れたのは相変わらず身体中に染み付いている強烈な疲労だけ。あとなんか強烈な二日酔いのような頭痛も感じた。

 

 取り敢えず今度は恐る恐る、ゆっくりと湯槽に浸かるとしよう。折角の疲れを癒す機会なんですもの、こんくらいで中止にしてたまるもんですか!

 怪訝な顔をしているマミさんに笑いかける。

 

「長旅の疲れかしらね。こんな事は初めてでしたわ。……まあ、別にどうという事もないみたいなので大丈夫でしょう」

「ふむ、それは難儀じゃったのう。まあ今日はゆっくりしていくとよいぞ」

 

 お言葉に甘えよう!!

 

 ふぃー、と変な声が口から漏れ出てしまう。それほどに私の身体は疲れていて、尚且つこの温泉の質が良いということだ。つまり最高だってことよ!

 向かいで浸かっているマミさんも目一杯身体を広げて温泉を堪能している。ふむふむ……やはり玄人はくつろぎ方が違うわね……!

 

 そう、ただいま私は佐渡島に来てますわ。昔は金山の開発で栄えていたが、時の流れとともにそれらは廃れ、今となっては漁民とタヌキの物となった大きな島である。

 そして目の前にいるマミさんこと二ッ岩マミゾウ親分は、その実質的な元締めをしている化け狸の頭領だ。器も尻尾も妖力も、とにかく色々とデカい妖怪さんよ。

 彼女とは昔からの付き合いでね、チャットでもたびたび交流している世にも珍しい『話の通じる妖怪』ゆえに重宝してるわ。

 

 久しぶりの出会いを祝して湯槽に浮かべたお銚子で乾杯。風情があるわね!

 

「直接会うのは120年ぶりくらいじゃが、そっちは随分と苦労しとるようじゃのう。幻想郷とやらの経営が上手くいっておらんのか?」

「最近は酷いものよ。私の身体に幻想郷……いくつあっても足りないわ」

「まあそうじゃろうなぁ」

 

 ある程度こちらの事情を把握しているマミさんは同情を含んだ声で相槌を打つ。半ば投げ出されたような成り行きで幻想郷を出てしまったが、今頃どうなっているんだろうか?

 うぅ……想像もしたくない。

 

 取り敢えず心のうちで藍に謝っておこう。

 

「それで今日はどういう要件で佐渡まで? わざわざ儂の顔を見に来たわけじゃなかろう? 新手の宗教勧誘以外ならなるべく期待に添えるようにするが」

「相変わらず話が早いわね貴女は。まあ簡潔に言うと、今回は貴女の仕事の方に用がありまして……」

「仕事? ふむ……どれじゃ? 最近色々始めたもんじゃから分からんぞい」

「金貸しの方ですわ」

 

 聞くところによるとマミさんは時代の流れに合わせて商いを変えているそうだ。確かチャットで聞いた中では不動産やIT産業とかかしら。裏では傭兵派遣まで行なっているという噂まで聞くわ。

 現代の狸は逞しい。

 

「ほう『二ッ岩ふぁいなんす』の方か。意外じゃな! お主に限って金回り関係の話が来ることは無いと思っておったが」

「こっちも色々ありまして、こちら(外の世界)で使える貨幣が必要になったのよ。その、あまり突っ込んでくれないと助かります」

「ふむ……気にはなるが、深くは詮索せんよ」

 

 マミさんは得意げにそう告げた後、露天の外に待機しているのであろう子分狸に手拍子で合図を送った。これでしばらくの間は懐も安泰ね。

 

 ふぅ、一時はどうなることかと思ったわ。幻想郷には帰れず移動も満足にできず、懐が尽きた時には色々なことを覚悟した。

 しかし私は諦めずに藁を掴む思いで佐渡にやって来たのだ! マミさんが居なければ身体を売らなきゃならないところだった!

 

 マミさんは安堵する私を見てか、快活に笑う。

 

「まあここは儂とスキマ殿の仲、利子はお安くしておこう。出血大さーびすじゃ。ほっほっほ、警戒するでない。世の中不景気でも金貸しという機関はいつでも元気なものよ」

 

 

 それからは暫くはとりとめのない近況報告と、世間話。マミさんは話し上手だから会話が弾むのなんの。温泉の気持ち良さも相成って癖になりそう。

 飲み干したお猪口が数杯目を突破したくらいで、マミさんがとある話題を切り出した。

 

「そうじゃそうじゃ。儂ら化け狸も近々幻想郷に行こうと思うとるんじゃ。……一応聞いておくが、大丈夫かのう?」

「それはまた……えらく急ですこと。ちょっと前に誘ったばかりじゃないの」

「できることなら、此方の世界に留まっていた方が好都合だったんじゃがなぁ。そろそろ儂らも退き際を弁えねばならぬ時が来ただけのことよ」

 

 マミさんの幻想郷入りについては正直願っても無い話である。彼女が来てくれれば幻想郷の貨幣経済を荒らしまくってる狐狸を統制してくれるはずだ。……だからこそ、これまで何度も誘ってきたんだけどね。ホント急なのよ!

 

「幻想郷は全てを受け入れます。私はマミさ……マミゾウを歓迎しますわ。それに、今回の旅の目的の一つは外の世界で燻っている妖怪を幻想郷へ引き入れることにありましたので、好都合です」

「ただすぐには行けんぞい。此方の世界での(しがらみ)を全て断ち切っておかんと、後から面倒なことになりかねん」

「そうですか……」

 

 そこがネックなのよねぇ。

 マミさんほどの妖怪ともなれば様々な手続きや条件を満たすことなく幻想入りすることができるだろう。それに乗じることができれば簡単に幻想郷に帰ることができたんだけど……。

 そこら辺をマミさんに無理強いする訳にもいかない。彼女が来てくれるだけでもありがたい話なのだ。……そうなんでしょ? AIBO。

 

 

「────……そういえばお前さん、最近ちゃっとの方に目を通しておらんじゃろ?」

 

 急な話題転換きたわね。

 確かに最近はあのチャットルームに入ってない。パソコンも質に入れちゃって無いし。

 

「菫子が言っておったんじゃが、お主ちょっと前に何か大切な物を無くしたそうじゃのう。それはもう見つかったのか?」

「……? 菫子がそんな事を?」

 

 心当たりがないわ。そもそもここ最近は夢に菫子や謎の少女が出てくることも無くなったので、あの子とは顔すら合わせてないのだ。

 まったく見に覚えがない事を告げると、マミさんは何やら思案する様子で口に指を当てる。そしてゆっくりと喋り出した。

 

「実はの、少し前にりあるで菫子に会いに行ったんじゃ。あやつは特定されやすい個人情報を簡単にちゃっとへ載せるからな、住所はすぐに分かった」

「……うわぁ」

「引くな引くな。話はこれからじゃ」

 

 引くなってのは無理な話よね。

 私の住所は……多分バレてるんだろうなぁ。相手がマミさんだから良かったものの、もしそれらが月の連中にでもバレたら一巻の終わりだわ! これからは気を付けましょう!

 

「儂は最初、なぜお主ほどの妖怪が菫子のような一般人の子供をあのちゃっとに招いたのか、不思議に思っておった。だがよくよくあやつの気を感じてみると、なるほど何か特殊なモノを抱えているのが分かったのだ。……結果的に言うと、スキマ殿の判断は正しかった」

「私が、正しかった?」

 

 何が正しいのかは知らないけど、褒められて悪い気はしないわね。うん。

 だがそれにしてもマミさんの言葉には不可解な点が多すぎる。それらを尋ねようと思ったが、彼女の凄みに押されて喉から声が出ない。

 

「あの子は将来化ける。ほぼ確実に」

「化ける、ねぇ。まるで貴女みたいに?」

「そうじゃ。ふわっと、ぱぱっと、ある日突然にのう。それから先に菫子が歩む道は儂やお主次第じゃろう。厄介な性質よ」

 

 ――頭が痛い。

 

「菫子は根本から儂らとは異なる力を持っておる。今はまだ微弱じゃが、いずれは儂らを脅かしかねない程の存在になるぞ。……そこで儂の中で一つの仮定が生まれた。お主、()()()()()()()()()あのちゃっとに招いたのではなかろうな?」

「……!?」

 

 瞳の奥が妖しく光る。

 

「【HEKA】殿と数人はあの子の異質さに気付いておる。今でこそ親しくしているかもしれんが、いざとなれば彼奴らは……っ」

 

 マミさんが言葉を詰まらせた。しばらくの沈黙の後、お猪口を飲み干し、そして鋭い目つきで私の事を観察するように睨みつける。

 あー、顔に出てたかしら。なんていうか、そういう……陰謀論?的なのは好きじゃない。況してやその対象が菫子ならば尚更だ。あの子に危害を加えるならマミさんといえど……。

 まあ、何にもできないんだけどさ!

 

 心地の悪い時間が過ぎる。

 この嫌な雰囲気……断ち切るしかあるまい。

 

「この件は終わりにしましょう。私はそんな話をしに佐渡に来たのではありません。貴女とは建設的な話がしたいわ」

「そうじゃな、儂としたことが軽率じゃった。それにスキマ殿の想いは先程のやりとりで把握した。随分と菫子を気に入ってるようじゃのう? ほっほっほ、狐の奴が妬かん程度にな」

「藍はそんくらいじゃ動じませんわ」

「そうでもないぞ?」

 

 悪戯っぽく笑うマミさん。果たしてそんな事がありえるのかと鼻で笑いそうになったが、よくよく思えば絶対に無いとは言い切れないかもしれない。

 そういえば藍って私に滅茶苦茶な理想を抱いてたんだっけ。こんな私のどこに執着しているのかは知らないが……藍ヤンデレ説が急浮上した。

 

 それにマミさんと藍は、どうやら私が二人と出会う前に一度邂逅しているらしい。その時の二人の決闘は妖怪史10大決戦の一つに数えられるほど幻想郷では有名だ。なお藍にとってはかなり苦い思い出だったりするらしい。

 なお10大決戦を編纂したのは稗田一族なので結構大袈裟なものも含まれていると思う。例としては私とオッキーナの抗争とか「全く記憶にないんですが」って感じ。共闘なら何回かあるけど。

 

 まあ話を戻して、そんなマミさんだからこそその言葉にはかなりの説得力がこもっているというわけだ。彼女なら私の知り得ない藍の姿を見た事があるでしょうしね。

 

 

 

 その後、私が逆上せて意識が再び沸騰するまで話は続いた。マミさんの温泉耐久力おかしすぎぃ! あんな暑苦しい尻尾を持ってるくせに……やはり大妖怪、格が違う!

 疲れを癒すつもりが逆に消耗するとは、これこそ本末転倒というとの。……いやこれいつものパターンだ!?

 

 

 

 今夜は夢を見なかった。

 

 

 

 次の日。

 

 当然のように数十億規模の借用金を用意していたマミさんには度肝を抜かれた。マミさん曰く「外の世界で何処かの土地を買うつもりなんだろうと見積もってた」との事らしい。

 やめてねそういうの! 心臓に悪いから!

 結局、数十万だけ頂戴する事にした。

 

 波風立つ港湾を背にマミさんへ別れを告げる。

 

「ありがとうマミさ……マミゾウ。貴女のおかげで外の世界に来て初めて笑えたような気がします。後ろの狸の方々にもお礼を……」

「あやつらには儂から伝えておくぞい。お主が近付き過ぎるとひどく怯えてしまうからのう」

「はて、それは何故?」

「スキマ殿……昔と随分変わったように思うとうたが、そういうところは全然変わっておらんのう。ちぃとばかし安心した」

 

 あっそう(思考放棄)

 それにしてもホント子分狸たちの怯えようが尋常じゃない気がする……。マミさんの背中から恐ろしい物を見るかのように窺い見る様子は、まるで変質者へのそれである。

 この対応には結構慣れっこだったりしますけど、傷つくもんは傷つく……。いい加減にしないと泣くわよ?

 

 と、マミさんが手を挙げた。

 

「そういえば聴き忘れとったんじゃが、お主これから何処へ向かうつもりなんじゃ? 他に訪れなければならん場所でもあるのか?」

「ああ言ってなかったかしら」

 

 私はスキマの中から一枚の紙切れを取り出した。これは大阪観光の際にサービスステーションで貰った無料パンフレットである。

 マミさんにそれを渡した。そして目を通すや否や「むぅ?」と、途端に怪訝な表情を浮かべる。

 うん、私も最初は吹き出しそうになったわ。恐らくマミさんとは違う意味でだけど。まさかこんな事になるとはねぇ?

 

「知らんかったわけでは無い……ここもなかなか有名なところじゃからな――それこそ裏でも、表でも。だが、これは――」

 

 

 

 まず【新開園!!】という大々的な見出し。

 そして【最高の奇跡、神々の恋したテーマパーク爆誕】という強烈なキャッチフレーズ。

 その下には注連縄を担ぐ『カナちゃん』と変な帽子を被った『スワちゃん』という二()のマスコットが、目一杯の笑顔で吹き出しを揃えて、こう言っている――――

 

『モリヤーランドへようこそ!!』

 場所:守矢神社[跡地]

 

 




マミ「ゆかりんとの初混浴は儂が戴いた」
らん「は?」
霊夢「いや初混浴は私となんだけど??」
らん「は???」

ゆかりんの顔にモザイクがかかってるのは、アレを全国で流したら日本の少子高齢化が更に促進されるからです。マスコミ有能。
この章は外の世界編だけあってちょくちょく俗っぽい話が入ってきますね。されどゆかりん、適応できず……。


なお、ナズニーランド及び群馬県付近に存在する謎エリアについては完全なフィクションです。詮索しないのが身の為です

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