幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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個人的趣味回


東風谷早苗の憂鬱(後)

『東風谷早苗は狂っている』

 そんな事を子供の頃から何度も囁かれた。

 

 緑の髪は「気味が悪い」と周りから罵られ続け、神社の巫女という立場は「時代に則していない」と散々に言われ、私だけに天から降り注ぐ様々な言葉の成り損ないは「気狂い」だと嘲笑された。

 

 そんな罵詈雑言の数々を私は否定できずにいた。

 当の本人に自分が狂ってるか否かなんて、判断しようがなくて。世界は私の言葉を戯言と切り捨て、私の心に響く誰かの感情は全てを受け入れてくれる。

 

 もうぐちゃぐちゃだ。

 私には何も分からなかった。何を信じていいのかすら、はっきりとしなかった。

 

 だけど、年を重ねて自ずと理解できた事がある。

 私の目の前に広がる確かな『現実』の声は、疑いようもないものなのだと。

 私の頭に響く誰かの感情は、その『現実』に則さない幻なのかもしれない、と。

 

 

『私たちはすぐ側にいる。早苗を見守ってるよ』

 

 そんなニュアンスの声がしたような気がする。だが、そんな幻聴は私を決して助けてくれやしない。救いにならない。

 私の周りで頻繁に起こる不可解な出来事もそうだ。『奇跡』と呼ぶに相応しいそれらだって、本当は望んでなんかいない。

 

 私を虐めた人が不幸な目に遭い、それっきり誰も私に近付かなくなった時だってそう。両親が交通事故で他界し、私だけが生き残った時だってそう。

 私はそんなこと、望んでなんかいないんです。

 

 神様――もし貴女が存在しているのなら――私の言葉をどこかで聞いているのなら――どうか私の願いを叶えてください。

 

 私は独りではない……アナタ様も共にいることをどうか証明してください。

 私がまともであると、証明してください。

 

 そんな事を、寂れた神社に何度も祈願してしまった。……私は巫女失格だ。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 ある日のことだった。

 脳内に流れ込む形にならないイメェジ。自称【神様の声】が告げたのは、いつものようなたわいのないものや、早苗を心配するものではなかった。

 何か切羽詰まっているような、そんなものを感じたのだ。早苗は慌ててその日、半日を費やして【神様の声】解読に努めた。

 ある意味では悩みの種でしかない呪いのような【神様の声】だが、それでも"神様"という幻想と早苗を繋げる唯一のツール。無視する事はできなかったし、万が一存在するかもしれない神を無下に扱うことなど許されない。

 

 解読の結果、神は自分の消滅を予見したようだった。そんなの……絶対に嫌だ。まだ一度も会ったこともないのに……一度も面と向かって話したことすらないのに。

 本当に存在するかも分からない神様だけが、早苗の心の拠り所。唯一、心の底から願っている奇跡だ。消滅なんて決してさせてなるものか。

 

 神が存在する上で大切なのは『信仰心』なるものらしい。言葉の意味が分からなかったから近場の図書館に行って調べてみたところ、どうやら神様を信じる心の事を言うらしい。

 現代では完全に死語となっている言葉だ。

 

 つまり神の消滅を食い止めるには、沢山の人に神を信じてもらわなくちゃならない。だがこのご時世に神という超常的な存在を信じるなど、そんなの……『気狂い』の類だけだ。

 こうして【神様の声】を聞いている早苗だって、まだ心の底から信用しきれていないのだから、一般人には無理な話だろう。

 

 そこで早苗は考えた。

 最初に神を『信じてもらう』のではなく、まずは『知ってもらう』ことから始めよう! それこそ仮想の存在なのに人の心を惹きつけてやまない漫画のキャラクターのように! 

 だけど早苗は漫画なんて描けないし、そういう知り合いがいるわけでもない。もっとキャラクターとしての神様を知ってもらえる手段はないだろうか。

 

 その時、東風谷早苗に電流奔った。

 そうだご当地キャラとして売り出していこう。そしてやがては全国的に有名なマスコットキャラクターとして国民に周知してもらうのだ! 

 

 善は急げと神様から詳しい容姿を聞けば、ぐちゃぐちゃなイメージが流れ込んでくる。それは幼い頃から問いかけ続けてきた問いだったが、今回ばかりは興味ではなく義務だ。気を引き締めてこれまた何十時間もかけて神様のイメージを固めた。

 神のイメージを形とする作業は困難を極めた。途中、負荷により鼻血や高熱が出たし、酷い時には失神までした。

 

 だが早苗は諦めなかった。

 

 結果、2種類の容姿を書き出すことに成功する。

 どちらが神の姿なのかは分からないが、大きな前進であることには間違いない。

 幸いにも? 神の御姿は個性的なようで、外見のキャラクター性は十二分にあった。「これなら売り出していける!」と早苗は自身のマーケット戦略の成功を予見した。

 なお、その横では肝心の2柱が「これはもう駄目かも分からん」と項垂れていたそうな。

 

 早苗は体調が整い次第市役所に殴り込み、諏訪市長に直接掛け合った。だが残念なことに理解は得られず、お引き取り願われる事となる。

 失意に沈みながら帰路に着く中、早苗は痛烈に反省していた。そもそも早苗は地元では悪い意味での有名人、彼女への信頼などあってないようなモノ。

 これが東風谷早苗の世界だ。

 

 他人を頼ることはできない。

 自分が全てやるしかないのだ。孤独な戦いになるだろう。存在の有無すら分からぬ神の為に全てを投げ出す必要があるだろう。

 

 だけど、その不確かな存在だけが早苗の心の拠り所。何にも変え難い。

 今も頭の中で誰かが囁いている。巫女を心配する感情のなり損ないが早苗の心を満たしてくれる。早苗を長年に渡って苦しめてきた"神様の声"だが、早苗が今の今まで己を喪わなかったのも"神様の声"の存在があったからだ。

 

 破滅なんて、怖くない。

 もっとも恐ろしいのは『孤独』だ。

 

「大丈夫ですよ」と、虚空に語りかけた。

 決意を固めた早苗はおもむろに分厚い冊子を取り出した。表紙には「ご利用は計画的に♪」というポップな文字。

 

 神たちの制止は早苗に届かなかった。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 春風麗らかな昼下がり。

 モリヤーランドは休園日とのことで機械音や人の声はなく、守矢神社境内は静寂に、そして重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

 私に諏訪子に神奈子、そして秋姉妹。5人が古いちゃぶ台を囲んで項垂れていた。原因は卓上に置かれている山のような催促状に督促状。

 内容を見た瞬間、ひっくり返りそうになったわ。

 

「負債が……80億……」

 

 明らかに女子高生が背負える金額ではない。普通ならもうどうにもならないほどの規模だ。ま、まあ私ならまだ何とかなるかな……。

 いやけどこれは借りる方にも問題はあるが、貸す方も貸す方だ。なぜ未成年にここまでの金を融資しているのかと。

 

 だがその金貸業者の名前を見て納得いったわ。二ッ岩ファイナンス……ちょうど数日前に私が利用したアレだ。

 モリヤーランドの広告を見た時、マミさんの反応がおかしかったのはそういう事だったのかと合点いったわ。何を企んでいるんだろう? 

 

「なるほど、人件費がやたらガサツなのもこれじゃ仕方ない……のかなぁ?」

「ちゃんと給料出るの? これ」

 

 私と同じくモリヤーランドの実態を把握していなかった秋姉妹も複雑な心持ちみたい。初任給で焼肉に行こうなんて気楽に話してたのに……とことんついてない神様たちである。

 

 早苗のとんでもない行動力を私なりに評すなら、これは『無謀』である。賭けにもなり得ない破滅の運命まっしぐらだ。

 けど、余裕が無かったんでしょうね。そして早苗には自分がどうなろうがどうでもいいと腹をくくるほどの覚悟があった。

 

 昨日の諏訪子の口振りからして遊園地建設を決めたのは神サイドの方だと思ってたんだけど……2柱もやっちまったもんはしょうがないと腹を括ってる節があるわねこれは。

 

 ……うーん。どうしましょ。

 

「取り敢えず二ッ岩ファイナンスへの返済は私の方からなんとかならないか掛け合ってみるわ。最悪の場合、私が肩代わりすることも考えておきます」

「済まないね紫……。昔ならこの程度の額なんてポケットマネーでぽんっと出せたんだけどね。今じゃすっからかんさ」

 

 太古の祭具なんかは価値がありそうなんだけど、今の社会では受け入れてくれないらしい。というか歴史軽視な潮流まであるそうで。

 つくづく私達に優しくない世界だ。

 

 取り敢えず機を見計らってマミさんに会いに行かないと……! ああ、だけど早苗の修業を見なきゃいけないし……忙し過ぎる!! 

 ひ、ひとまず負債の話は置いておこう。これについてはまだ全然やりようがあるだけマシだ。本題は他にある。

 

「それで、早苗の才能についてだけど……どの程度までなら開花すると予想しますか? あの子の人生を見守ってきた貴女達に問いたい」

「私は、良くて人並みと観ている」

 

 先に答えたのは神奈子だった。キリッとした凛々しい顔立ちを少しばかり歪ませながら淡々と言葉を続けていく。

 

「霊的な存在を見る力――"見鬼の才"が才能に依るのは仕方のないことではあるが、早苗には全くその才能が無いわけではない。我々の声は僅かに届いているようだし、神や妖怪が完全に見えないわけでもない。お前や秋姉妹が最たる例だろう」

 

 それについては納得した。

 よくよく考えたら早苗って私と秋姉妹の事が見えてるのよね。私については理由不明だけど、秋姉妹の方は理由が明らかになっている。

 なんでも、祠や神社を持たない野良神様は人間の信仰と同時に、自然パワー的なものを糧にしているらしく、カナスワに比べればまだ実体を保っているそうな。また早苗が秋姉妹の事を神様だとは微塵にも思っていないことも大事なポイントらしい。

 

「要するに、早苗の考え方や価値観をなんらかの形で改善する事ができれば、可能性は大いにある……と思いたい。あくまで希望だね」

「その可能性を聞けただけでも十分ですわ。それならばまだやりようはあるでしょう。……それで、諏訪子はどうかしら?」

「私は……」

 

 言葉を詰まらせてしまい、困ったように笑うと深く項垂れてしまった元最恐の土着神。顔がまるまる変帽に隠れてしまった。

 言っていいものかと遠慮しているように思える。正直いうと私としてもあまり聞きたくはないが、指導する身としては聞いておかなきゃ。

 

「諏訪子……」

「早苗が私の子孫だということは知ってるでしょ? つまり、守矢の巫女は代々私の子供達が務めてきたわけさ。だがこの子たちの力は私の血が入っているとは思えないほどに弱かった。いや、常人と比べれば相当強かったとは思うけどね」

 

 守矢の巫女については私の事前調査それなりに情報を得ている。どの代の巫女たちも頗る優秀で、妖怪退治にも勤しんでいたようだ。まあ諏訪子ほどの存在からしてみれば、少しばかり物足りなさを感じたみたいだけど。

 ただ、その評判は時代が経つにつれ消えていく。巫女の力が衰えていったようだ。

 諏訪子曰く「血が薄くなったから」らしいけど、それなら……ってダメダメ! いけない妄想をしてしまった! ゆかりん反省!! 

 

 あとその話を聞いて気になることがあって、これって博麗の巫女とは逆パターンなのよね。現に霊夢は歴代最強の巫女だし。

 

「なるほど、それで早苗は力を……」

「いや違う。私はね、早苗は歴代でも特に洩矢の血を受け継いでいると思ってるの。今までにあれほど鮮やかな翡翠色の髪を持った巫女はいなかったし……まあ、ただの勘だけどね」

 

 うむむ、確かに。あんなに綺麗な緑色の髪なんて幻想郷じゃ幽香か四季映姫ぐらいしか……ぐっ、思い出しただけで胃が……! 

 緑髪にロクな奴いない説を早苗には是非とも覆して欲しいものだが……。

 

 とまあ思考を本筋に戻して、と。

 

「つまり、諏訪子の結論としては?」

「あの子は絶対に大物になれる素質があるよ! なんたって私の血を多く受け継いだ子孫なんだからね! 才能が開花しないのには何か理由があるはずだ……私はあの子を信じてる!」

「見事な親バカね」

 

 ただ口ではこう言ったものの、諏訪子の言葉には大いに共感できる。子に絶対の信頼を預けるのは親として自然な行いだ。

 私だって霊夢が子供の頃から彼女の躍進を信じ続けた。私と諏訪子で違うのはその躍進の時期だけ……そう願わずにはいられない。

 

 

「なんにせよ早苗の秘められた力を引き出すのは容易ではないでしょう。もしかしたら明日にでも目覚めるかもしれないし、下手すれば1ヶ月、1年……それ以上かかるかもしれない」

「失敗は考えてないのか?」

「早苗の力を引き出すことはもう決定事項よ。それ以外のプランを立てる気はないわ。ただ、唯一の懸念は……貴女達の消滅までに間に合うかどうか」

 

 話を聞いた限り、早苗は諏訪子と神奈子に依存している。しかも自分の存在意義と結び付けてしまっているのが厄介だ。もし、2柱が消滅したとなれば、自身の命を絶ってしまうことだって考えられる。

 それに、諏訪子と神奈子が消えたら私の本来の目的も達成できずじまいになっちゃうしね。ていうかそもそも幻想郷に帰れない! 

 

「あとどれだけこの世に留まれるかしら?」

「私は……半年かねぇ。なんとか頑張って1年くらいは生き残りたいが……」

「私も半年――って言いたいところだけど、正直そこまで耐えれる自信がないや。2ヶ月……は頑張る。まあ、神奈子がいれば守矢神社は存続できるから大丈夫だよ!」

 

 オッケー把握したわ。

 タイムリミットは2ヶ月ね。ただこの期間については自己申告なので、2柱が見栄を張っている可能性がある。

 それも考慮して1ヶ月以内にはなんとかしたい! まず私も幻想郷を長期間空けるわけにはいかないし! もう出発してから半年くらい経ってるけど! 

 

 とにかく私が頑張るしかないわ! 

 幻想郷を統治し、歴代最強と謳われる博麗の巫女を育て上げた私の敏腕……とくとご覧になってもらいますわ! 

 

「で、どういうプランで早苗の能力を開花させていくんだ? 簡単に教えてくれれば助かる。……いやなに、紫を疑ってるわけじゃないんだが、私たちが考案した修行法は効果が無かったからね。神として気になったんだよ」

「私も気になる! そういえば昔のお前さんも言ってたじゃないか――『戯れで化け狐を九尾まで育てた』とかなんとか。是非ともその指導能力をご教授してもらいたいな」

 

「プラン? 戯れ……? 九尾……??」

 

 ちょっと待ってね、頭が働かない。

 そもそも! 修行プランについてはここに居るみんなと考えようと思ってたんだけどォォ!? なんでもう考えてるみたいなっちゃってるの!? ていうか期待重っっ! 

 そもそも霊夢の時は適当に蔵から持ってきた巻物を渡してただけなのよねぇ! 

 

 あと九尾を育てたとか戯れとか! それ間違っても藍の前で言わないでね!? 他の狐に浮気したとか思われたら軽く死ねるから!! 

 話を聞く限り狐と藍が同一人物っていう線もあるけど、時系列が合わないからね! そこんところよろしくお願いします!

 

「ふふ、プランについては早苗が帰宅したら伝えるわ。だってそろそろ帰ってくる頃でしょう? どうせなら一回で伝えますわ」

 

 取り敢えず今はこうとしか言えない……! 

 早苗が帰ってくるまでに修行内容を考えるなり思い出すなりしなきゃ!

 ぬおおお……全然思い付かない。

 考えろ、知恵を絞れ賢者八雲紫ぃぃぃ! 

 

 確か、確か昔に慧音が何か言ってたような気がする! これを思い出せれば……! 

 

 

「……ねぇ、なんで私たち神様って思われてないんだろう? 早苗様にはちゃんと自己紹介したよね? ……よね?」

「した! 絶対にした!!」

「よね! お姉ちゃんもそう思うわ!!」

 

 

 

 

 

 

「紫お師匠様! 今日は絶好の修行日和ですね!」

「快晴ですものね。修行日和かどうかは別として」

 

 満面の笑みでそんなことを言いながら、私の目の前でセーラー服から巫女服に着替える早苗。非常に眼福……もとい目のやり場に困る光景である。

 時間が勿体無いと慌てながら着替えてるため、大変危なっかしい。

 

 なおその側では秋姉妹が撃沈していた。

 

「静葉も穣子も、いつまで落ち込んでるの。ほら、早苗と一緒に頑張ることにしたんでしょう? 気持ちは……まあ分からないけど、そんなんじゃいつまで経っても認めてもらえないわよ?」

 

 実に感情の色彩豊かな姉妹ね。

 早苗が帰宅するや否や「私は豊穣の神、穣子!」「私は紅葉の神、静葉!」とか名乗り出してドン引きされた挙句、それでも神だと信じてもらえなかった哀れな姉妹神の図である。

 ……まあ私もこの二人が神様だって確証を持ててるわけではないんだけどね。幻想郷の事を知ってる変人二人ってだけだし。

 

 ていうかこの二人みたいなのが神様だと早苗に認識されると、色々と面倒臭いことになりそうなのよね。早苗の中での神様イメージをなるべく壊さずにやっていきたいし。

 ただ二人をこのまま放置するのも可哀想なので、早苗の修行に付き合ってもらうことにした。何かの拍子に力を取り戻してくれれば儲け物だ。

 

「まあ神様らしい事を一つでもやってくれればちゃんと信じるんですけどね、今は流石にないです。……さて、準備完了しました!」

 

 ビシッと軍人のように胸を張る早苗。それに合わせて、静葉と穣子がのっそりと起き上がる。涙目のままだけど大丈夫だろうか? 

 

「やる気は十分みたいね。それじゃあ内容を伝えるけど、その前に貴女達に問いましょう。どんな修行を想像していますか?」

 

 この問いは背後に控えている諏訪子と神奈子に対してのものでもある。私の計画と彼女らの理想がかけ離れていないかの確認だ。

 

「やはり亀の甲羅を背負って畑を耕したり、重力室の中で筋トレしたりとか……」

「そういうのは滝に打たれながら念仏を唱えるのが主流じゃないの?」

「いやいや、山麓で行脚すると強くなれるって天狗達が言ってたよ」

 

 若干一名のサイヤ人は置いといて、秋姉妹の答えはオーソドックスながら最適解である。恐らく、その行動一つ一つに何か特別な力が働くわけではない。しかし太古からそれらが修行法として行われてきたのには確かな理由があるのだ。

 俗に言うパワースポットというものだが、これの存在は実証されている。そもそも幻想郷自体が巨大かつ強力なパワースポットだしね。そういう特別な場所で修行することによって人間は霊力を吸収し、己を高めたとされている。

 

 つまりだ。

 

「身体を動かす必要はないのです。場所を選び、時間を選び、そしてある目的を持って精神統一に徹すればそれでいい」

「おお! なんとも"らしい"修行ですね! ……しかし、そんな漫画みたいなことをして本当に神様が見えるようになるのでしょうか……」

 

 貴女さっき漫画の修行内容言ってなかったっけ? ま、まあいいや。

 ここからが重要ね! 

 

「『好きこそ物の上手なれ』という言葉が有りますけども、能力の開花とは、秀でた力の到達点でもあるの。だから貴女達には『自分の得意なものを極めた姿』を頭の中でひたすら反芻してもらうわ」

 

 3人が一斉に首を傾げた。頭の上にクエスチョンマークが見えるわね。ただこの修行内容は我ながらかなり理に適っていると思う。

 

「私には『境界を操る』という能力があるわ」

 

 私の眼前を指で軽くなぞる。するといつものように空間が縦に裂けて、黒々とした不気味な空間を覗かせる。移動にも使えない収納用のスキマだが、演出にはちょうどいいわね! 

 秋姉妹は「おお……」と声を上げたが、早苗は何事かとキョロキョロ私の周囲を見渡している。やっぱり見えてないのね……。

 

「これは私がスキマ妖怪という種族に生まれた事での恩恵なのだけれど……そうね、もし河童なら『水を操る能力』で、天狗なら『風を操る能力』って感じかしら。これが生まれながらに持つ"種族の力"や"天賦の才"――いわゆる先天性の能力」

 

 妖怪や神の殆どはこれに属するわ。

 そもそも霊的存在の成り立ちからして、妖怪とか神は発生した不可解な出来事の属性を元に誕生するからねぇ……。まあここにも広義の条件があったりするのだけれど、今は割愛。

 またこのタイプの能力を持っている人間はかなり希少とされていて、漏れなく強力なのよね。それこそ"呪い"と見紛うほどに。

 十六夜咲夜や阿求のことよ。

 

 そして次が本題である。

 

「逆に後天的な能力の発現もあるわ。例えば剣術に秀でた者がその才を伸ばし続けたなら『剣術を扱う能力』として確立されるでしょう。これが今回、早苗の目指すべきステージよ」

 

 人間は殆どこのケースに当たるわね。

 霊夢はちょうど前者と後者の中間パターンだけど、自分に備わっていた性質を正しく理解し、それを完全に身に付けたという点では後天的なものと判断しても相違ないでしょうね。

 ちなみに妖怪としてもこのパターンに該当する存在は少しだけいて、藍や紅魔館の門番とかが当てはまるんじゃないかしら。

 

 ちなみに小傘みたいなタイプはハナから論外である。てゐみたいなのも論外! そもそも幻想郷の連中の能力認知は自己申告制だからね! 

 

「その……奇々怪界な『能力』なるものを身に付ければ、私でも神様が見えるようになるのですか? 正直、まだにわかには……」

「そういう訳ではないけれど、能力を身に付けるという事は貴女にとっての『非常識』に足を踏み入れる合図とも言えるわ。その頃には貴女の目も適応しているんじゃないかしらね」

「な、なるほど……!」

 

 早苗の目が爛々に輝いてる。こんなにも熱心に話を聞いてくれる弟子を持てるのは、師匠冥利に尽きるというものですわ! 

 頑張りましょうね! 

 

「幸いにもこの守矢の地は力に溢れている。修行場所としてはもってこいと言えますわ。これもまた、太古から積み重ねられた神の恩恵――存分に利用させてもらいましょう」

 

 言葉に合わせて諏訪子と神奈子に目配せする。2柱はグッと、力強いサムズアップを返してくれた。気のいい神様だこと。

 ……ただそんな好条件な場所に住んでたにも関わらず早苗の能力は開花しなかったのよねぇ。大丈夫かしら……。

 

 

 と、穣子が怪訝な顔をしながら挙手した。

 

「私とお姉ちゃんの能力はもう分かってるよ? 座禅してても力は戻ってこないと思うんだけど、そこのところどうなの?」

「そうねぇ……また後で順を追って説明するわね。早苗の話がまだ終わっていないし、これは貴女達にも関係あることだから」

 

 秋姉妹については……ホントどうすればいいんでしょうね? (思考放棄)

 力を奪われたらしいけど、元に戻りたいならその元凶(レティ)を倒せばいいんじゃないの? まあ絶対勝てないと思うけど! 

 

 取り敢えずまたもや時間稼ぎ。話を終わらせるまでに考えましょう。

 しっかりと早苗の目を見据える。

 

「早苗。これまでの話を聞いてこう思ったんじゃないかしら? 『そんなこと本当にできるのか』って。それらしい事を言っても結果が伴わないんじゃ、ただのペテン師ですものね」

「……えっと」

「勿論、何も分からない貴女が何年精神を研ぎ澄ましたところで、能力は目覚めないでしょう。それどころか貴女は自分の秀でた部分すら把握できていないと思うわ。それは仕方のない事です」

 

 ゆっくりと力を漲らせる。

 

「特別な力を手にするには、やはり特別な方法が必要よ。一度その方法が体に染み付けば可能性と選択肢は一気に広がるわ」

 

 離れる大地。天へと近付く浮遊感。

 

「嘘……宙に浮いて……!?」

「信じられないでしょう? しかしこれが貴女の思う幻想の上に立つ、紛れも無い事実よ」

 

 ここまで一気に捲し立てて、地に降りる。そして大きく深呼吸! やっぱ飛びながら喋るのはキツイ……! (満身創痍)

 この八雲紫、実は飛ぶよりも走った方が速かったりする。その事に関して、確かさとりからは「幻想に生きる者の面汚し」とか言われたっけ。ほんと酷い。

 

 だがここまでアピールしたのだから、私が言う神秘についての信憑性は高まっただろう。それに、空を飛ぶ事には大きな意味があるのだ。

 

「空に浮かぶのは存外難しいことでは無いですわ。ただ、身に付ける為には独自の感覚を掴まなきゃならないの。これが身体における霊力操作の初歩よ」

「初歩を身に付けるだけで飛べるんですか!?」

「ただその独自の感覚を掴むのには案外個人差があってねぇ。天才でも躓く子はとことん躓くわ。けど最後には大抵飛べるまで成長するわね」

 

 なんか予備校の告知みたいなこと言ってるけど本当にここは遅いか早いかなのよね。聞くところによると魔理沙は魔法を嗜み始めてすぐに飛べるようになったらしい。しかし、それに対して霊夢は紅霧異変の数年前まで飛べなかったりするのよねぇ。

 私? 私は……忘れちゃった☆

 

 とにかく、霊力操作で行う動作で一番簡単なのは『浮遊』である。つまり自身の霊力を自認するのに最適なシチュエーションってわけ。

 

 霊力操作を使えないと能力を身に付けるのは難しい。そして能力を身に付けるのが霊力操作習得への近道。

 一見堂々巡りのようだけど、この二つの修行は相互に好影響を与える。一から物事を開拓するのだから、関係する物事は手当たり次第にやった方がいい……と、慧音が言ってたような気がする。

 つまり、能力発現の修行と、浮遊の修行の二つに並行して励むことが大切なのよ! 多分! だってけーねが言ってたんだもん! これ魔法の言葉ね! 

 

「これら二つを同時に習得しようとするのは倍大変だけど、その経験値は倍以上。そしてどちらか一方を半分でも習得できれば、その時には神を見る力も備わっているはずよ」

「……お師匠様。私、その……」

 

 早苗が震えながら俯いてしまった。しまった、一度に喋った情報が多すぎたのかしら!? ぐぐ……不覚だったわ……! 

 早苗の心を折るのは悪手中の悪手! なんとか彼女を元気づけないと……! 

 

「な、長々と説明したけどうまくいけば明日にでも終わるわ。借金とかもあるみたいだけど? まあ多分おそらくきっと何とか――――」

「私、もう……もう……っ!」

 

 

「もう! 我慢できませんっ! 早急に修行しましょうそうしましょう!」

「あら?」

 

 バッ、と勢いよく上げられた早苗の顔。表情はもちろん満面の笑みだった。感情を抑えきれないようでぶんぶん腕を振り回している。近くにいる秋姉妹が慌てて避けていた。

 あー、うん。そういうことね。

 

「能力は身に付けます。空だって飛びます! 私、頑張りますから!」

「……ふふ、そうね」

 

 まあ、よくよく考えれば心配する必要なんてないわよね。早苗のメンタルは私なんかよりも数段上なんだもの。

 ではお言葉通り、早速修行に取り掛かるとしましょうか! 

 

 

 

「あのー……紫さん」

「私たちは?」

 

 あっ、忘れ……てない! ちゃんと覚えてるからね!? そんなに落ち込まないで! 

 秋姉妹は――――……うーん。

 

「貴女達は少なくとも基礎はできてるのよね。つまり浮遊できるくらいの霊力さえ多少取り戻せればなんとかなる。……なら筋トレするしかないんじゃないかしら」

 

 結局サイヤ人的結論に落ち着いた。

 筋肉は裏切らないからね。仕方ないわよね。

 

 

 こうして、早苗は力と霊力操作を身に付ける為に『能力の発現』と『浮遊』の修行、穣子は重りを背負っての畑仕事、静葉はひたすら諏訪の大木を蹴り上げることに明け暮れることとなった。

 秋姉妹のあれは神様時代の日常生活をそのままやってもらってるだけだ。聞けば中々にとんでもない神様たちみたいね。

 

 

 ついでに、私はいつのまにか幽霊会社と化していた二ッ岩ファイナンスの捜索に追われることとなる。そういえば事業を畳むとか言ってたわねあの狸さん! 

 一体どこから督促状送ってるの? 莫大な延滞金ばかりが増えていく! 

 汚い、流石は狸、汚い!




慧音「こんなこと教えた覚えないぞ……?」
妹紅「汚いな、流石スキマ妖怪、汚い」

ゆかりん意外とコーチの才能あり。まあそれらしいことを思ったままに伝える才能はありますからね……うん。
ちなみに作者は秋姉妹大好きです!こんな扱いだけど大好きです!ゆかりんもこんな扱いだけど本当に大好きなんです!!(言い訳)

ちなみにゆかりんが胡散臭い言い方をあまりしなくなったのには理由があります。とあるタイミングからですね
なので初対面時の心証が若干良くなってます。まあそれでも胡散臭いんですけどね! ゆかりん自身も結構適当に思ったこと言ってるので解決にならないという。

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