幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで 作:とるびす
「さて、そろそろ時間か。詳しい話は会議の後にでもしようか」
正邪はふと周りを見る。既に相当数の席は埋まっていた。自分の対面にいつのまにか座っている茨木華扇が神妙な面持ちで此方を窺っているほどだ。話に熱中しすぎて気付かなかった。
正邪は愛想良く首を垂れ隠岐奈から距離を取る。ちょうど部屋に戻ってきた影狼とわかさぎ姫を手招きし、大人しく待つ事にした。
少しして、天魔が護衛の犬走椛、大天狗と共にやって来て隠岐奈の対面に座した。御簾の奥から挑発的な威圧が漏れ出し天魔へとぶつけられるものの、当の天魔は気にした様子もなく、無表情のまま微動だにしない。
そして両者の間に剣呑な雰囲気が流れる最中、気にした様子もない藍と阿求、最後に紫が澄ました顔で悠々と入室する。いつも阿求の護衛を務めていたはずの上白沢慧音の姿はない。
これで全員が揃った。
「遅れてしまい申し訳ございません。少々用件が立て込んでおりまして。では、始めましょうか……此度の戦争の講和会議を」
紫はこう切り出したものの、この場に居る殆どの者の結論は決まっていた。
戦争の勝利者は誰の疑いようもなく河童で決定である。今は休戦中につき両陣営静かなものだが、もし「待った」が入らなければ妖怪の山の覇権は容易くひっくり返っていただろう。
つまり、もはや結果の分かりきっている駆け引き。出来レースのようなものだ。それを象徴するかのように、天魔を除く天狗二人の顔色は優れない。
「代表の河城にとりは今回の戦争の都合上この場には居ません。遠隔映像投射機による参加を検討していたようですが、私から却下させていただきました。彼女には前科もございます」
あいも変わらず澄ました顔でそんな事を言い放つ。ならばどうするのかと、正邪は疑問に思う。そして一つの推測に辿り着いた。
紫は既ににとりとの話し合いを済ませているという。大まかな河童の要望は聞き出しているはずだ。つまり、彼女が河童の代理人としてこの講和会議に臨んでいるのである。
当事者のいない講和会議。字面だけなら天魔の圧倒的優位だが、相手はあの八雲紫……万全の策を以ってこの場に現れた筈だ。狙いは十中八九、天狗の力を最大限削ぐ事だろう。
つい先週に妖怪の山頂上を不法占拠した神社を手引きしたのも紫。下手すれば今回の戦争の引き金を引いたのも紫かもしれない。
──完膚なきまでに天狗を潰す気だ。
そう推測せざるを得なかった。
「少し宜しいでしょうか? 最終的な結論を出す前に確認したい事が」
発言したのは茨木華扇。彼女も妖怪の山に居を構える身であり、今回の衝突によって少なくない影響を受けていた。それ故だろう、今回の講和の発案者は彼女になっている。
「今回の争いの発端は、河童による奇襲攻撃によるものと聞き及んでいます。そして現時点では河童の圧勝であると。間違いないですね?」
「……」
天魔は無言でやはり微動だにしない。だが無言は肯定と捉える事ができる。また背後に控える従者の表情を見るに確実だった。
「あなた方の古い確執は存じていますが、それでも今回暴力的な方法に踏み切ったのは河童の非であると言えましょう。どちらか一方に多大な責を押し付けるのは道理ではないと思いますが」
「ええ。河童に義はありません。寧ろ今回の被害者は全面的に天狗側であると、私も考えています。しかし勝者はあくまで河童……非常に難しい判断となる。事が起きてしまった以上、全てをなあなあに済ますことはできませんけれど、せめて双方が最大限納得できる落とし所を決めなければなりません」
華扇の言葉に紫がすかさず同調する。つまり二人はどっち付かずの【中立】を形の上では表明した事になる。てっきり紫なら徹底して天狗を叩くだろうと考えていた面々は拍子抜けだった。
「ふむ……落とし所としては【河童】に独立を与えるべきだろう。奇襲攻撃とはいえ、それは天狗が過去に行ってきた常套手段。それが妖怪の山における常識なのだろう? ならば問題ないではないか」
「同じく。それにこの状況下で天狗の下に戻った河童がどのような目に遭うのか、想像に難くありません。彼等を守る事も踏まえ、河童を有利とした講和を結ぶべきです」
その代わりと言わんばかりに、隠岐奈と正邪から集中砲火を浴びせられる。しかも嫌味と正論、人道的観点からの意見であるため反論がしづらい。天魔は元より沈黙を保ち、その配下の賢者たちも言葉に窮している。
椛は何か言いたげに口を開くが、天魔に制される。そして歯痒そうにがっくりと項垂れるしかなかった。
「では、河童の独立を承認し今後一切の侵略を禁止する相互不可侵の条約を結ぶ──ということでよろしいでしょうか?」
「条約破りの前科は河童の常套手段。奴等には枷にすらなりはすまいよ」
「では監視員を付ける事としましょう。既に河城にとりとは話を通してあります……不都合がなければ、我々が受け持ちますが」
藍の総括に大天狗による指摘が飛ぶも、即座に主人の紫が介入する。これで紫の真意は明らかになった。
まず間違いなく、河童を取り込もうとしている。前回の山頂占拠と合わせて妖怪の山をどんどん削り取っているのだ。
そもそも八雲と河童は吸血鬼異変を皮切りに共闘の機会が多かった。永夜異変では賢者同士の戦争にさえ参加している。つまり元から河童は八雲に加担していたと考える事ができる。
──ここだ。
やはり紫は天狗を潰す気なのだろう。正邪は確信を持った。
故にそれを紫に譲るわけにはいかない。ここが勝負どころである。彼女の決意とともに
「それは横暴が過ぎませんか、八雲紫。これ以上の介入は要らぬ諍いを招く事になります。これは天狗と河童の問題であり、貴女の介在する余地など元々からなかったはずです」
「……と、言うと?」
突如紫に噛み付く新参賢者に周りが騒つく。というより、余計な事を言うなと戦々恐々としていた。
てゐが居なくなり、天魔の没落も間近。八雲紫の一極化は仕方のない事だが、これで幻想郷にしばらくの安寧が訪れるというのに。
というより、あの八雲紫を怒らせないかと肝を冷やしていた。現に彼女の従者である藍が境界賢者の背後から殺気を飛ばしている。
それに呼応して影狼が正邪の側に進み出る。温厚な彼女であるが、敵意を飛ばしてくるなら容赦はしない。彼女もまた常識外れな大妖怪なのだから、九尾の威圧に臆してなどいられるものか。
一触即発の危なっかしい空気が流れる中、正邪は毅然と言い放つ。
「今回の件、貴女が仕組んだことでは?」
しん、と。辺りが静まり返る。
天魔に阿求、華扇に藍……皆、開いた口が塞がらなかった。唯一、隠岐奈だけが愉快そうに声を上げて笑っていた。
八雲紫が今回の黒幕。
確かに可能性としては十分あり得る話だ。その線についてはここに居る賢者一同全員が想定していた。だがあくまで仮定の話である。確固たる証拠は無いし、何より疑惑があったところでわざわざ声に出して追及などしない。相手はあの八雲紫なのだ。
あまりに反抗的。これが稀神正邪の危うさ。
対して紫は扇子で口元を隠しつつ、妖しい桔梗色の瞳で正邪を睥睨する。
「詭弁である、と言えば?」
「正しき言葉にて反論いたしましょう」
嫌なものを感じたのだろう。話の流れを変えるべく阿求が口を開きかけるが、正邪の声に遮られてしまう。日々弱小妖怪を鼓舞し続けていた正邪の声量は凄まじい。
「そもそも、私はずっと不思議でならなかったのですよ。この半年、幻想郷の最高責任者とも言える貴女様が姿を見せなかったのかが。そして帰ってきたと思えば山頂に奇妙な神社を持って来て、さも当然のように山の妖怪達に認めさせている。自分の力を背景に無理無条を押し通している様は独裁者そのものです」
徐々に場の空気が正邪へと流れ出している。
というより、正邪は紫の推薦で賢者入りした妖怪である。つまり、他の賢者達から見れば子飼いの犬に手を噛まれている形になる。
「神社の登場により天狗達は当然動揺するでしょう。河童はそれを好機と見て今回の軍事行動を起こした。……そう思えませんか?」
「そうかもしれないわね」
「秩序を真に乱しているのは誰か……弱小妖怪の安寧の地を奪っているのは誰か……見えてきませんかね?」
あまりに直情的すぎる物言い。本来なら心の死んでいる賢者一同には響きやしないだろう。それどころか憐憫と侮蔑の目で見下されるのがオチだ。
しかし今回は違った。正邪の言葉がすとんと、心に入り込んできた。
違和感に真っ先に勘付いたのは華扇。
自分のよく知る魔力が部屋全体に蔓延しつつあることに不快を隠せない。これは、かなり古いタイプの鬼の魔力である。発生源は恐らく正邪。
「私が幻想郷を乱していると」
「その通りです。試しに今回の件からは完全に手を引いてみてください。そうすれば自ずと本来の幻想郷が見えてくるでしょう。貴女の居ない世界がどれほど美しいのかがね」
「──紫様。私に許可を」
鋭利な殺意が部屋中を迸る。藍の毛という毛が逆立ち、濃密な妖力がその身から立ち込める。そのあまりの禍々しさに「ひぃ」と、誰かの情けない声が漏れ出た。
殺意の矛先は一匹の天邪鬼。主人の許しが出れば、すぐにでも9本の尾が蠢き、正邪を引き裂きすり潰すだろう。
だが過去に流血沙汰があって以来この場での乱闘騒ぎは固く禁じられている。故に、藍に少しでも拮抗できる力を持つ者が一斉に刃を抜き放ち、敵意を示す。影狼、わかさぎ姫、椛、二童子、華扇が一斉に臨戦態勢を取った。
そして紫は、微笑むだけでアクションを起こすことはない。静観を保つ。
「
同意の言葉こそ無いが、場を一つの感情が満たしつつあった。それは『現状への懐疑』である。自らの立場を改めて回顧すれば、次から次へと疑問が湧いてくるのだ。
何故、自分が八雲紫の下に付くことを甘んじて享受しなくてはならないのか。元々は対等な立場であったはずだ、それがどうして今となってはここまで隔絶した格差が生まれているのか。
ごく少数の者のみが力を保持し、気儘に行使するこの世界。その元締めであり、混乱の元凶である紫へ不満の矛先が向かうのも謂わば必然だった。
権力欲だけではない。
矜持もまた、奪われていた。
「今日に至るまで幾多もの同胞達が殺されました。特に吸血鬼異変での惨状は今でも夢に見ます」
護衛の身であるはずの椛が惨憺とした様子で呟き始めた。本来なら越権行為にあたるのだが、場の空気がそれを許した。
何かが壊れつつあった。
「私が剣を取り戦うのは同胞を守る為、そして散っていった同胞達に報いる為です。……しかし今となってはそれすらも許されない」
吸血鬼異変の首謀者である紅魔館は紫の一存で罪を問われる事はなかった。これは自分の勢力下にかの吸血鬼を組み込むための布石であったと言われている。
この時天狗の味わった屈辱たるや、想像を絶するものだった。彼女らの想いはあまりに深く、そして暗く──。
「我等を殺したのは八雲紫……そして貴女ですよ。違いますか、天魔様」
「……」
「受け入れるだけでは淘汰されるだけなのです。そろそろ覚悟を決めるべきでしょう。貴女も、私も」
ここにもまた、亀裂が走る。
皆が熱に浮かされている。
文治派として紫と同派閥を組む阿求ですら、考え込んで声一つ発さない始末。
この場で唯一と言っていい、正常な思考を保っている華扇はなんとか動揺の収拾に努めようとするが、一度崩壊に向かって進み始めた組織の立て直しは至難であった。
ただの講和会議はたった二人の扇動によって、崩壊寸前。これまでの積み重ねの全てが失われようとしていた。
「これはどういう事でしょう。お師匠様がとっても憎くなってきました!」
「やだ奇遇ね舞。私もよ!」
「はっはっは落ち着けお前達。それはまやかしの感情だ。そんなつまらん機能など従者たるお前達に備え付けるはずがなかろう」
「「やっぱむかつくー!」」
傍らでバグを起こしつつある二童子を適当にあしらいつつ、考えを巡らせる。なるほど確かに強力。抗う術を持たぬ者には致命傷だろう。
(これが噂に聞く『打出の小槌』の力か。案外使えるものだなぁ)
なお秘神は元から狂っているため鬼の秘宝といえども影響を与えるに至らない。極めて冷静にこの会議の行く末を見極めようとしていた。
正邪とは所謂『敵の敵は味方同盟』の仲ではあるが、彼女の最終目的に秘神の打倒が含まれていないとは到底思えない。でしゃばった真似を看過するほど、隠岐奈は甘くないのだ。
一旦この場を鎮圧して聞く耳を持たせてやろうかと重い腰を上げかける。しかしそれは空気に走る鋭い破裂音によって遮られた。
八雲紫だ。
彼女が愛用の扇子を圧し折っていた。声を出すまでもない一喝に全員の思考が急速に冷えていく。見る者全てを底冷えさせるような亀裂を思わせる
先程までの自分が思い描いた理想は、この賢者が居る限り決して叶うはずがない事を改めて認識させられたのだ。
「そうねぇ、致し方ないわよね」
静かに語り出す。
「貴女達の要望、そして不満は理解できます。至らぬ私への憎悪……これもまた受け入れましょう。そして此度の件──この天狗と河童の戦争の非、私の独断により戦火を齎した事、これらの罪もまた認めましょう」
戦争……ああそんなこともあったな、と。全員が思い出した。当の天狗達ですら、もはや半分意識から流れているような状態だった。
しかしこれは大きな進展である。あの紫がついに自らの非を認めたのだ。完全無欠と謳われたあの八雲紫に土を付けたのだ。
これで八雲紫の絶対性は薄れ、逆に正邪の影響力は確固たるものになる。ついにあの隙間妖怪と殴り合える位置まで上り詰める事が出来た!
にやけてしまいそうになる口元を押さえつつ、正邪は紫の次なる言葉を待つ。しかしそれが少しばかり斜め上だった。
「私の手ではこの程度が限界……不完全な結果しか残せません。しかし逆に問いましょう。他の方々なら、果たしてどれほどの結果を残せたのでしょう?」
「それは、私では分かりかねます。それこそやってみない事には……」
「きっと、今よりもっと素晴らしい幻想郷を作ることができたのでしょうね。誠に惜しい事ですわ。ええ、本当に」
紫は目元を伏せて悲しげに呟く。
これは挑発か。自らのこれまでの成果を誇ることで自分以外の権勢を許さない構えを示したのだと、正邪はそう解釈した。
「いえいえ、私も貴女が成したこと全てを否定するつもりなど毛頭ありません。しかし如何せん貴女は影響力が強過ぎるのです。なので──」
「そう、いい加減うんざりしてた頃ですわ。……もういいでしょう。戯れは終わりとします」
投げ捨てられた扇子が壁へと叩きつけられ、辺りに木片となって散った。普段は微笑むだけの紫が高圧的なアクションを取った事により一同に衝撃が走る。話している内容も内容だ。
八雲紫の言う『戯れ』とは何を指すのか。これが問題である。
その疑問は即座に払拭される事になる。
「そろそろ決めるべきでしょう。真に
「────っ!?」
「待ってください紫さん! それは……!」
「紫様ッ!」
「ずっと不思議に思っていましたわ。貴方方もそうでしょう? この場に相応しくない者が、何故幻想郷の指導者なんて大役に収まっているのか。……異物は排除しなくては」
空気が凍りついた。
慌てて藍と阿求が諌めようとするも、紫は聞く耳を持たない。硬直する正邪、困惑する華扇、神妙な面持ちの隠岐奈、目を大きく見開く天魔を睥睨し、妖しく嗤う。
「一週間後、また会議を開く事にしましょう。その際に正式に通告を発表いたします。その間、貴女達がどのような働き掛けをしようが、それは貴女達の自由です。……ただ私の決意は固いと、改めて明言しておきますわ」
──では、御機嫌よう。
そう言い残し紫はスキマの奥へと消える。緊急の事態に激しく狼狽する藍もまた、場の進行を放棄して退室してしまう。
残された者達は過熱しすぎた己を抑えつけると同時に、激しく頭を悩ませた。紫の先ほどの言葉が何度も頭を反芻する。
真に幻想郷の頂点に立つ賢者を決める。
並ならぬ言葉であった。言い換えれば、
また賢者という職に窮屈さを感じるというのは、この場にいる全員への警告なのだろう。お前達の地位など吹けば飛んでしまうほどの脆弱なものであるとでも言いたいのか。
「ひとまず、私は河童に講和の内容を伝えてきます。その後は……解散でいいですね? 皆さんも対応に要する時間が惜しいでしょう」
華扇の言葉によって、重圧から解き放たれたように空気が急速に緩和する。この場に留まって何かできるわけでもなく、一人、また一人とその場を離れていく。天狗達はバタバタと慌ただしく、阿求は一人では人里に帰れないので橙を探しに。
そして混乱の立役者、正邪は若干の混乱とともに壁へともたれかかった。影狼とわかさぎ姫が心配そうに顔を覗く。
結局、この会議の場での勝利者は、最後まで二転三転する状況を楽しんでいた隠岐奈一人かもしれない。精神的勝利というものである。
「こういう事は事前に相談してからやることだな。でないとどんな不都合が発生するか分かったもんじゃない」
「私は……もしかして機を誤りましたか?」
ある程度腐敗した権力者は大抵の場合、事なかれ主義へと傾倒していくものだ。若干思考が読みにくい紫ではあるが過去の傾向を見る限り穏健派である事は間違いないし、余程の過ち……それこそ因幡てゐのように異変を起こしたりしなければ直接動くケースは少ない。紫も
正邪が狙い、行使していたのは『ドア・イン・ザ・フェイス』と呼ばれる交渉テクニックである。
あえて通らない要求を予定通り断らせ、次の本当に通したい要求を断り辛い状況に相手を追い込むのだ。
だからあれほどの挑発も実行したし、自らの手駒を増やすべく秘策まで用意した。だが紫は正邪の予想を裏切った。
甘く見過ぎていたのだ。
「これはお前が過去の紫を知っているからこそ起きてしまった失敗だ。確かに今の紫はそれなりに衰えているだろうが、決して気を抜いていい相手じゃない。かなりのくせ者だ」
「……今あいつと戦って、勝てる見込みは?」
「ある──しかし負ける見込みもあろうよ。我々は未だ万全ではない」
一週間という短い期間で紫に対抗する戦力を揃えるのは、至難の業である。しかも小槌の魔力による扇動は中途半端に終わってしまったため、紫vsそれ以外の構図にすら持って行けなかった。
このままでは紫に屈する形で幻想郷が纏まってしまう。そうなれば、奴に付け入る隙は完全に消滅してしまうだろう。
「ちくしょう……!」
「まあ待て。確かにこの一週間を無為に過ごすのはいただけない事だが、逆に焦る必要もない。多分、戦争は起きんよ」
「何故そう言い切れるんです?」
「言っただろう。あまり今の紫を舐めない方がいい。恐らく一週間後には斜め上な結果を持って我々の前に現れる。気を張っていたのがバカらしくなるぞ?」
そう言って気楽に構える隠岐奈。
しかし内心は穏やかではなかった。これはそう──ドキドキである。数多の神格、人格を持つ自分ではあるが、この感情を持つのは非常に稀有なことであり、最も好むに値するモノである。やはり紫は今も昔も自分の胸をときめかせてくれる。
「くふふ……」
この一連の事件が今後に大きな余波をもたらすことを予見し、隠岐奈はまたもや喜色満面の笑みを浮かべるのだった。
正邪はドン引いた。
???「よし正邪から合図だ!そーれ!みんな自分の現状に不満を持っちゃえー!」
みんな「ゆかりん許せねぇ!」
阿求「妖怪許せねぇ!」
二童子「クソ秘神許せねぇ!」
椛「ゆかりんと天魔許せねぇ!」
藍「ゆかりんに従わんやつ許せねぇ!」
ゆかりん「ゆかりん許せねぇ!」
???「あれ?」
×幻想郷の黒歴史
⚪︎ゆかりんの黒歴史