三好夏凜は剣士である。   作:佐樹

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遅れました。


始まりの日-2

「ここが……ゲームの中?」

 

 ログインしてキャラメイクはデフォルトに少し手を加えた程度に収めすぐに終わらせ、簡単なゲームの説明を受けたところでついにSAOの世界へと意識が飛ぶ。

 ゆっくりと自分の体を確認し、周囲を見回していく。しかし、その光景はまさしく"街"と言うべき光景が広がっていた。

 ひしめく人々。活気ある商店街のような大通り。高い空。細かいところまで作りこまれている装飾。

 現実ではあり得ない。しかし同時に、私が知る従来のゲームとはあまりにもかけ離れていた。

 

「……すごい」

 

 思わず口に出る。

 そうとしか言えないぐらいこのゲームは圧倒的だった。

 

「そうだ。あいつら探さないと」

 

 待ち合わせ場所は特に決めていない。ただ風は自信満々に「すぐわかるわよ」と言っていたが……。

 

「ん?」

 

 そう思って周囲を見回すと、すこし離れた場所に人だかりが出来ていた。

 なんだろうとその場に近づくと、一気に力が抜けた。

 

「こんにちはー! 私たちは"勇者部"でーす! あなたたちの冒険をサポートさせていただきます! なにがご用があればお声をかけてくださーい!」

「お願いしまーす!」

「お、お願いします!」

「お願いします」

 

 ……。……あー。私は今からあそこに混ざるのかー。

 そう思うと、途端に足取りが重くなる。このまま立ち去ってしまおうか。

 

「あ、夏凜ちゃん! こっちだよー!」

 

 しかし、それはその声によってできなくなってしまう。

 その声の主の視線は完全にこちらを向いていたからだ。その視線を追うように、勇者部を囲んでいた人たちに視線も私に集まる。

 

「かりむぐっ」

「はーい、リアルネームは厳禁よー。ほら、えーと、名前わかんないわね。とりあえずあんたもこっちきなさい!」

「……ああもう! 今行くわよ!」

 

 半ばやけくそになった私は人ごみを掻き分けるようにして前に進む。あいつらと合流するために。

 とりあえず、なんで私に気付いたのか聞いた後で(恐らく)友奈であるキャラをぶん殴るとしよう。

 

 

 ____

 

 

 宣伝が一通り済んだ後で、私たちはそれぞれ武器を携えてフィールドに出ていた。

 広大なフィールドは遠くまで見れば他のプレイヤーを見かけるが、街中のように密集してはなく、周りを気にせず話すには丁度いいからだ。

 

「さて、みんな集まったわね。そんじゃ自己紹介していきましょうか」

 

 そんな姉御肌を感じさせる女性キャラが最初に声を上げる。まあ、誰かはだいたい想像がつくのだが。

 

「私の名前は"ガスト"。リアルでは"犬吠埼風"よ。よろしく! ……しょうがないとはいえ、見知ってる相手に自己紹介ってなかなか違和感があるわね」

 

 そう言って風__ガストは先陣を切るようにして名乗った。

 

「そんでこの娘が」

「えと、"ユシル"です。リアルだと"犬吠埼樹"です。よろしくお願いします!」

 

 次に名乗ったのはガストの隣にいる小柄な少女。こちらも想像通り。

 

「ええ。よろしくねユシル」

「ユシルちゃん! 名前かわいいね!」

「えへへ。園子さんに考えてもらったんです」

「へえ。そのっちが」

 

 そんな感じで交友を深めたところで、次は大和撫子といった雰囲気の少女が話し出す。

 

「私の名前は"グンソウ"。リアルでは東郷美森よ。よろしくね。みんな」

 

 美森改めグンソウは"立ちながら"そう言った。

 

「……えっと、一つ聞きたいんだけど、東郷……じゃなくてグンソウ。あんた、立てるの?」

 

 聞きようによってはとても失礼な質問であることは百も承知だが、どうしても聞かずにはいられなかった。

 グンソウはそのこともきちんと想定していたのか、笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。

 

「ええ。ナーヴギアっていうのは脳と直接情報のやり取りをするから、脳が正常であればたとえ身体的に障害が__私のように足が動かないなどという障害があっても、こんな風にゲームの中ではみんなと同じように立ち上がったり、走ったりできるわ。とは言え」

 

 そう言って、グンソウは一歩前に歩こうとするとバランスを崩したようによろめく。それを咄嗟に隣の活発そうな少女が受け止めた。

 グンソウは少女に一言「ありがとう」と伝え立ち上がる。

 そして、どこか恥ずかしそうにこちらを見る。

 

「普段、全く足を動かすことができないから急に動かせるようになってもそんな上手には動けないのだけどね。みんなに、迷惑かけると思うわ」

「そんな事、今更気にしなくていいでしょ。迷惑だから一緒に居たくないってならとっくの昔に捨ててるわよ」

 

 私がそう言うと、なぜかガストがニヤニヤとこちらを見る。

 

「な、なによ」

「いいえ〜。夏凜はかっこいいと思ってね」

「は、はぁ!? なに言って」

「うん! 夏凜ちゃんはかっこいいよ!」

 

 同調するように声を上げる活発そうな少女、というか友奈(確定)はどこまでも真っ直ぐな目でこちらを見てくる。それが恥ずかしいやらなにやらで、私は目をそらした。

 周りから笑い声が聞こえるが、気にしない。

 

「あーもう! 私は"ナツ"! リアルだと三好夏凜よ」

 

 勢い任せに自己紹介をして、ふん、と顔を背ける。「ナツなんて安直ね〜」なんて言われてるが無視する。

 

「じゃあ、最後は私だね! 私は"ユウナ"。リアルだと結城友奈"だよ!」

 

 ふーん。友奈はユウナ……て、

 

「あんたそれリアルネームと同じじゃない!」

「えへへ、思いつかなくて」

 

 みんなもどこか呆れたような、困ったような表情を浮かべた。

 友奈__ユウナもその空気を察知したのか、あはは、と困ったように笑う。

 どうしたものかと考えていると、部長であるガストが空気を変えるようにパンパンと手を叩く。

 

「ユウナのことはしょうがない。ま、大丈夫でしょ。ナツはわからないけど」

「なんでよ」

「そりゃさっき、ユウナがあんたの名前を思いっきり叫んだからよ。プレイヤーネームが"ナツ"なんだから"夏凜"があんたのリアルネームだってあの場にいた何人かはわかるでしょう」

「っ、ユウナ〜!」

「うわわ。ごめんかり、ナツちゃーん」

「というかさっきなんで私だってわかったのよ!」

「え、えと、なんとなく」

 

 実際ユウナならそれでわかりかねない。

 

「〜〜、あーもう、いいわよ。次から気をつけなさいよ」

「うん。ごめんねナツちゃん」

 

 申し訳なさそうに言ってくるユウナ。思わずうっ、となるが、我慢。

 そんな様子をニコニコとグンソウが見ていた。……なぜか凄く怖い。

 

「はーい、話戻すわよ。とにかく、今ここに勇者部VR支部が設立されたわけだけど、グンソウのこともあるし私たち自身もこのゲームに慣れなきゃいけないと思うのよ。というわけで」

 

 ガストが背中に吊るしていた"剣"を抜き放つ。

 

「レベル上げ、しましょうか」

 

 そして私たちは、五人で広大なフィールドを走り回る。身体的な体力の消費が無いゲームの中で、気力さえあれば幾らでも走り回れる。ユウナがグンソウを支えながら、私たちはこのゲームを、"ソードアート・オンライン"を遊び続けた。

 __始まりを告げる鐘が鳴る。その瞬間まで。

 

 

 __

 

 突然、リンゴーン、リンゴーンという、鐘のような__あるいは警報音のような大ボリュームのサウンドが鳴り響き、私たちは飛び上がった。

 

「な、なにっ!?」

 

 私たちはみんな似たような反応を取り、硬直した。無意識にみんなの無事を確認するために周囲を見回す。そして、私たちは再び目を見開く。

 私たちの体を、鮮やかなブルーの光の柱が包んだのだ。

 私たちは驚愕の声を上げる暇もなく、一際強く脈打った光の柱によって、その視界を遮られた。

 青の光が薄れると同時に、風景が再び戻った。だがそこはもう、先ほどまで私たちがいた外のフィールドではなかった。

 広大な石畳。周囲を囲む街路樹と、瀟洒な中世風の街並み。そして正面遠くに、黒光りする巨大な宮殿。

 間違いなくログインして最初に飛ばされる街、"はじまりの街"だ。

 __なぜ!?

 先ほどまで感じていた楽しさはもはや、欠片もない。あるのは、この理解できない状況への氷のような冷たい恐怖だった。

 すでにこの場には一万人近くはいる。恐らくは、全員プレイヤー。それも、現時点でログインしている全ての。

 なぜこのような場が設けられているのか、それが全くわからない。ただ、幸いなのは勇者部の面々は一つの場所に固まっていたということだ。もしこんな状況で、たった一人だったらもはや思考を回すこともできなかったかもしれない。

 不意に、右手に熱が伝わってきた。

 ユウナだった。

 

「ユウナ……」

「ナツちゃん」

 

 振り向くと、そこには不安気な表情__ではなく、何かを決意したかのようなユウナの表情だった。

 私を真っ直ぐ見る瞳は、まるで私に「心配ないよ」と伝えているようだった。そんなに不安そうなしていただろうか。

 ユウナの空いた方の手はきっちりグンソウが握っていた。ユシルはガストに抱きつくように寄り添っていた。

 そんな光景を見て、ふと気持ちが軽くなった。そして、すぐ近くのこんな光景さえ目ぬ入らなくなるくらい切羽詰まっていた事実もまた自分に突きつけられる。

 

「……ありがと。もう大丈夫よ」

「うん」

 

 お礼を言うと、ユウナは曇りのない笑みを浮かべる。どこにそんな精神的余裕があるのか。

 こちらも少し心にゆとりができて、現状を再確認しようとした。__その時だった。

 

「あっ……上を見ろ!!」

 

 誰かが声を上げる。

 この場にいる全員が、その声につられて上を見る。そこには、異様としか言えない風景が広がっていた。

 

 百メートル上空、第二層の底を、真紅の市松模様が染め上げていく。

 そこには二つの英文が交互に書かれていた。真っ赤なフォントで綴られた単語は、【Warning】、【System Announcement】と書かれていた。

 それを見た瞬間、周囲が安堵するような空気に包まれた。ああ、ようやく運営からアナウンスがあるのか、と。

 思わず私も肩の力を抜きかけたが、私の手を握るユウナの手にはさらに力が入った。睨む、とまではいかないものの、それに近い目つきで空を睨む。

 どうしたのかと思ったが、それを聞き出す前にさらに状況が動いた。

 空を埋め尽くす真紅のパターンの中央部がまるで、巨大な血液の雫のようにどろりと垂れ下がった。高い粘度を感じさせる動きでゆっくりとしたたり、だが落ちることはなく、赤い一滴は突如空中でその姿を変えた。

 出現したのは、二十メートルはあろうかという真紅のフード付きローブを身に纏った巨大な人の姿だ。

 しかし、そのローブの奥底からは表情が伺えない__否、そもそも顔が存在しなかった。

 先ほど感じた安心感はもはやなく、あるのは目の前の存在への気味の悪さ。

 周囲にプレイヤーもまた、再びざわめき始めた。「あれ、GM?」「なんで顔ないの?」という声がそこかしこから聞こえる。

 と、それらの声を抑えるかのように、不意に巨大なローブの右袖が動いた。

 ひらりと広げられた袖口から、純白の手袋が覗いた。しかし、袖と手袋もまた切り離されるようにして存在し、肉体は見えない。

 続いて左袖もゆるゆると掲げられた。一万のプレイヤーの頭上で、中身のない白手袋を広げ、顔のない何者かが、話し始めた。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

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