三好夏凜は剣士である。   作:佐樹

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始まりの日-3

「じゃあ、今後の私たちの活動を決めましょうか」

 

 そう言って風__ガストは、"現実と変わらぬ顔で"そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この"ソードアート・オンライン"という世界は、たった数分でその在り方を一変させた。このゲームを作り出した茅場明彦の手によって。

 今、私たちの視界の端に映るヒットポイントは文字通りの"命の残量"となった。この数字がゼロになったその瞬間、私たちはこのゲームでも、そして"現実の世界においてでも"死んでしまう。

 不可能だ、と思った。しかし、ナーヴギアは原理的には電子レンジに近く、出力さえあれば可能だと何においても信じることができる勇者部の仲間である東郷__グンソウが認めた。そしてその出力をナーヴギアのバッテリーなら出せることも。

 死ねば死ぬ。そんな、バカみたいに当たり前な"現実"を、私たちはこの"ゲーム"の中で背負っていくことになる。

 そして、この現状に叩きのめされてる現状に追い打ちをかけるような茅場明彦からのプレゼント。

 それは手鏡だった。普通の、手鏡。そこに映るのは、たいして作り込まれていないモブ然とした私のアバター。

 だが、それも次の瞬間には無くなってしまうモノだった。

 視界がブルーの光に包まれる。それは転移の時と似た光だった。またどこかに飛ばされるの!? と思ったが、光が消えて飛び込んできた光景は先ほどまでと同じ広場だった。

 "プレイヤーの男女比と、アバターの造形を劇的に変化させていたが"。

 

「夏凜、ちゃん?」

 

 その声に反応し振り向くと、そこには"あまりにも見知り過ぎている顔があった"。

 

「ゆう、な? 友奈、よね。なんで」

 

 __なんで現実と同じ顔をしているの?

 その言葉を言い切る前に、雷に打たれかのような衝撃が体に走る。

 ぐりん、という音が出そうな勢いで首を回す。視線は手鏡。そこには、先ほどまでのアバターの顔はなかった。"現実世界における三好夏凜"の顔がそこにはあった。

 現実だ。

 今私たちがいるこの世界は、ゲームであり、現実だ。

 たった一枚の手鏡が、そのことを痛いほどに私たちに突きつけてくる。

 恐怖という感情が、私の体を蝕んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームクリア。それだけがこのゲームの脱出法。

 アインクラッドは全百層からなる石と鉄の城だ。つまり、城の頂点まで行って、ラスボスを打倒すること。それがクリアの条件。

 すべてのチュートリアルが終わった後の人の動きは幾つかに別れた。

 生きるために動き出す者。

 突きつけられた現実を受け止められず思考を止める者。

 話を信じずログアウトの方法を模索する者。

 そして、私たちは__

 

「じゃあ、今後の私たちの活動を決めましょうか」

 

 私たちのやる事は変わらない。それが結論だった。

 

「今、ソードアート・オンラインという世界はかなり危機的状況と言っていい。このままじゃ、被害者は増える一方よ」

 

 ガストは私たちを引っ張ってすぐに宿の一室を借りた。そして今はその部屋の中にいる。

 私たちの表情は硬く、友奈__ユウナだけが現状とまっすぐ向き合っていた。ガストでさえ、表情を見ればかなりギリギリなのが分かるのに、本当にユウナは強い。

 

「状況はかなり変わってしまったけど、だからこそ私たちは勇者部として行動するわよ。いいわね」

 

「はい!」

 

 返事を上げたのはユウナだけだ。だが、私たち全員がその言葉に頷いた。

 締めるようにガストが声を上げる。

 

「それじゃあ勇者部VR支部! 活動開始よ! 勇者部五箇条『なせば大抵」

 

「なんとかなる』! ですね!」

 

 ガストの言葉にユウナが続けて、ようやく私たちは少しだけ笑えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日から私たちの活動は本格的に始まった。

 まず、グンソウとユウナは少しでもこの世界の情報を得るためにベータテスターを探した。とはいえ、こんな現状になった今、簡単に見つかるとは思えない……と、思っていたのだが、その日の終わりにみんなで集まった時に、アテはすでに見つけたとのことだった。一週間後にもう一度会う予定らしい。仕事の速さはさすがとしか言いようがない。

 ガスト、樹__ユシル、そして私は買い出しだ。NPCの店を街の端から端まで片っ端に探し出し、売っているものやその価格を調べ、今後の活動に必要な物を買っていく。しばらくは資金集めのために外での狩りを想定しポーション類を多く買った。

 

 SAOに閉じ込められて三日目。私、ユウナ、ガストの三人で外での狩り。他のパーティーを見つけては顔を売り込み、勇者部の名を広めるのを忘れない。ピンチを助けお礼を言われることも。私は余裕がないこともあって雑な受け答えしかできなかったが、そこはガストとユウナが上手く対応してくれた。……私は現状、戦うこと以外で役に立てていない。

 グンソウとユシルは生産系のスキルを上げている。料理、裁縫、鍛冶などといった、直接先頭に関係ないようなスキルも、今の状況を打開するには貴重な手段だ。さらに、生産系は物作りで僅かだが経験値も手に入る。安定して物資を供給さえできれば、グンソウとユシルは圏内で安全にレベル上げをさせることができる。グンソウは足を動かすのに慣れてなく、ユシルは戦闘では残念だがあまり役に立てていない。弓など遠距離からの攻撃手段があればいいのだが、投剣以外にまともに遠距離からの攻撃手段が無い以上、無理はさせれない。一瞬の隙が死に直結するのだから。

 

 SAOに閉じ込められて四日目。ついに勇者部として動き出した。

 グンソウとユシルは料理スキルを上げており、NPCの店で買った材料と調理器具で少しでも美味しい物をプレイヤーたちに振舞っていく。接客兼ボディガードとしてガストが付き、私とユウナは引き続き近場で狩りだ。もっと遠くで稼げればいいのだが、情報がない。グンソウが二日目に見つけた"アテ"と話すまでは無理をするのは禁止されている。私一人ならともかく、ユウナを巻き込むわけにはいかなかった。

 

 SAOに閉じ込められて八日目。グンソウとグンソウが見つけたという"アテ"との話し合いの日。見つけた時一緒にいたユウナも同席する。私、ガスト、ユシルで今回の支援活動をすることに。しかし、接客になれない私は度々ミスをし、その度にガストのフォローが入る。「元々はあんたの人見知りを直すためでもあったんだから気にしないの」なんて言うけど、状況はすでに変わっている。気にしない、なんてことはできるはずがない。私は、戦い以外役に立ててはいなかった。

 その日の終わり、ユウナとグンソウは明るい顔で帰ってきた。どうやら相手の方もこの状況を打開するために動いてるらしく、ベータテスター時代の情報を集めた攻略本なるものを製作し、無料配布しているようだった。今回、その一冊を貰ったらしい。相手もあくまで我が身一番であり、情報を取り扱う立場でもあるらしいため欲しい情報を無料で、というわけにはいかないものの、依頼さえあれば優先的にこなしてくれる約束をしてくれたらしい。もちろん有料だが。攻略本のおかげで私たちの活動範囲も広がりそうだ。レベルが上がったことで増えたスキルスロットにどんなスキルを当てはめるかの参考にもなり、とても役に立った。

 

 そして、SAOに閉じ込められて一ヶ月が経過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前のモンスター、"ラージネペント"が腐食液を撒き散らす。私はバックステップで攻撃範囲ないから脱し、"左手に持っているアニールブレード"を投擲する。

 すでに何十、何百と行った行為。とはいえ、油断はできない。私の装備は動きやすさ重視で防御面には不安が残る。少しのミスでヒットポイントは一気に持っていかれる。

 投擲したアニールブレードはウツボ部分にあたり、その巨体を僅かに後方へ逸らさせる。すると、ウツボ部分と茎の接合部、下位個体のリトルネペントと同じ弱点部位が剥き出しになる。

 

「セイッ!」

 

 気合とともに"右手に持っているアニールブレード"でソードスキル"ソニックリープ"を発動させる。通常時であれば、ホリゾンタルの方が当てやすいが、今の体勢を崩している状態なら他のソードスキルでも多少軌道を合わせるだけで十分に当てられる。

 スコーン、と狙い違わず弱点部位に直撃。あらかた減らしていたヒットポイントも無くなり、四散。光となり中へと消えていった。

 私は周囲に索敵スキルで敵がいないことを確かめてからすぐに経験値とドロップアイテム、そして金の確認をする。そこにガストが話しかけてきた。

 

「流石ねーナツ。変則二刀流のキレもなかなかじゃない」

「……やめてよその変則っての」

 

 変則二刀流__それはガストが付けた私の戦闘スタイル。

 私の武器は片手直剣。それを二本だ。通常、二本装備はイレギュラーとなりソードスキルを発動できなくなるのだが、"二本同時に装備していなければ"その限りではない。だから私は、ソードスキルを使用する時だけ、先ほどの投擲のように、相手の体勢を崩したり、牽制したり、妨害したりするために片方の剣を手放し、もう片方でソードスキルを叩き込むという戦闘スタイルを確立させていた。

 二刀流なのに二刀だと本領を発揮できず、一回片方をぶん投げなければならない。そんな戦い方としては穴がありすぎな戦い方で戦果を上げているもんだから、ガストはいつしか変則二刀流と呼ぶようになった。

 

「さて、今日はこんぐらいにして戻りましょ。あんたは、話もあるんでしょう」

「……ええ」

 

 少し前から、考えていたこと。私が勇者部に、今生きている人たちに貢献する一番の方法。

 ガストにだけは相談し、そして決めていた。明日、実行するつもりだ。だから、その前に一度みんなに話さなきゃと思っていた。

 

「あんたは今でも反対なんでしょう」

「ええ。でも、あんたは止まらないでしょ?」

 

 全て分かってますよ、と言わんばかりの反応。

 何か言い返そうと思って、何も思い浮かばずそのまま返す。

 

「……ええ」

「なら、止めれないし、止めない。私にできるのは、あんたの居場所はここだって訴え続けるくらいかしら。いつか折れそうになった時、何も気負わずにあんたが戻ってこれるように」

「……そう」

「にしても、あんたは凄いわ。私はできない。このゲームがデスゲームになったその時から、私は不安で押しつぶされそうだったもの」

 

 珍しく弱音を吐くガストに驚きながら、その言葉の続きを聞いた。

 

「だから、任せたわよナツ。今からあんたを勇者部遊撃隊長に任命したげる。……死ぬんじゃんないわよ」

「ガスト。あんたが踏ん張ったおかげで私たちは立ち続けられたわ。だから、信じなさい。今度は私が、あんたたちを支えるわ」

 

 ガストは私の言葉に驚いたように目を見開き、そして花が咲いたような笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなに話があるわ」

 

 夕食。

 今日ももうすぐ終わるというこのタイミングで、私は斬り込んだ。

 話を知っているガスト、雰囲気を察したグンソウはすぐに今行っている作業を止め、話を聞く体勢に入っている。ユウナとユシルはどこか困惑しているようだった。

 私は息を吐き、一呼吸入れてから声を出す。

 

「明日。前線に向かうわ」

 

 少しの間。

 そして、少し困惑したようにユシルが言う。

 

「それは、みんなで前線に行くということですか?」

「いいえ。行くのは私一人よ」

「ダメだよ!」

 

 即座にユウナが却下する。が、私はすでに決めているのだ。

 

「悪いけどもう決めた。そのための準備もしてきた。明日にはもう出発できるわ」

「だったら私も行く!」

 

 ユウナならそう言うだろうとは思っていた。

 いつだって真っ直ぐで、困っている人がいたら考えるよりも体が動き、そして何より友達思い。

 ただでさえ危険なこの世界で、私一人で危険な場所に行くのは許容できないだろう。しかし、

 

「ダメよ」

「なんで!」

「足手まといよ」

「今まで一緒に戦ってきたよ!?」

「あんたじゃない。グンソウよ」

 

 みんなの視線がグンソウに集まった。

 ユウナも、なぜここでグンソウの名が上がるのか理解できていないようだ。

 だが、ユウナが付いてくるということは同時に、グンソウの問題も付いて回るということだ。

 

「あんたがくればグンソウは必ず付いてくるわ。未だに走れば転びかける。スキルも生産系で埋まっている。戦闘じゃ役に立たないわ」

「ぐ、グンソウさんにはここに残ってもらって」

「って、言ってるけどグンソウ?」

「っ」

 

 グンソウは顔をしかめる。何かに耐えるように唇を強く噛む。そして

 

「ごめん。ユウナちゃん」

「グンソウさん……」

 

 もしもユウナが出て行く場合、例え迷惑になるとしても付いていくことをグンソウは選んだ。そして、ユウナならそれを絶対見捨てることなど出来ないだろう。ユウナだけじゃない。私たち全員、グンソウが相手でなくても勇者部の誰かを切り捨てることなど選択しないだろう。

 

「それに、どっちにせよ無理よ。勇者部の支援活動を滞らせるわけにはいかない。私一人抜けるのがギリギリなのよ」

 

 戦闘でしか役に立っていない、私しか。

 

「だったら! 夏凜ちゃんもここに残ればいい!」

 

 ヒートアップしたユウナは、私のことをナツではなくリアルネームの方で呼ぶ。それだけ私の身を案じているのだとわかる。

 だけど、譲るわけにはいかない。

 

「最近、ついにこの層がクリアされたわ。一部のプレイヤーはどんどん先に進んでる。他にこの波に乗って行くプレイヤーがどんどん出てくる。このままじゃ、置いていかれるわ」

「置いていかれるって、そんな言い方。クリアを目指す人たちはみんな仲間だよ! 私たちは前にいる人たちが安心して戦えるように他の人たちを守らなきゃ!」

 

 人の善性を信じて疑わないユウナの言葉。

 たしかにそうだ。決して私たちが戦わなければならない理由などない。生産職として、前線のプレイヤーを支えることもできるだろう。

 だけど、"私が守りたいのは他のプレイヤーではない"。

 

「私たちただの中学生に何ができるのよ」

 

 私の責めるような言葉にユウナは言葉を詰まらせた。

 そう、私たちはただの中学生だ。

 滅びゆく世界で神様に選ばれた存在ではないのだ。人外の力を持って強大な敵と戦う勇者などという存在ではないのだ。

 自分たちは平和な世界で暮らすただの女子中学生なのだ。

 

「力がいる。置いていかれるわけにはいかないのよ。ここにいるプレイヤーは地域の人やご近所さんじゃないのよ。少しでも勇者部の名を広める必要がある。少しでも多くの収入源を手に入れる必要がある。少しでも多くの人とつながる必要がある」

 

 自分たちで身を守るしかない。

 その為には、前に進まなければならない。

 

「でも、夏凜ちゃん一人で行く必要なんて」

 

 それでも食い下がるユウナ。

 少しだけ、苛立ちが募る。

 

「勇者部の活動はただ勇者部としての活動じゃない。周囲に味方を増やすことにも繋がる。あんたに自覚はあるかは知らないけどそうなってる。それが私たちの安全にも繋がる。だからこそ、途中でやめるわけにはいかないの。でも、それだけじゃダメなのよ。他の奴らは前でどんどんいいアイテムを揃えて行く。じゃあ私たちは? ずっと初期装備? 最初の街で手に入るアイテムだけでやり繰り? この現状をいつ終わるかもしれないこのゲームでずっと維持し続ける?」

 

 万が一。

 プレイヤーを襲うプレイヤーが現れたら。

 私たちよりも強いプレイヤーが敵になったら。

 どうして安全だと言い切れる?

 今の現状が大丈夫だと何を根拠に信じられる?

 

「誰か一人でも前に進まなきゃダメなのよ」

 

 本当に守りたいモノを、守るために。

 

「う、うぅ……」

 

 泣きそうな顔でユウナは助けを求めるようにグンソウを見る。しかしグンソウは静かに首を振った。

 ガストは涙目のユシルを抱きしめてこちらを見据える。

 

「本当なら、力付くでも止めるべきなのかもね」

「どうかしらね」

「……ごめんなさい。あんたに背負わせるなんて部長失格だわ」

「元々は私を成長させるためだったんでしょ。そこは笑って送り出しなさいよ」

 

 すでにガストは覚悟を決めている。笑みを浮かべたまま頷いた。

 そんなガストの腕の中で不安そうにこちらを見つめるユシル。

 

「ナツさん」

「……」

「本当に、行っちゃうんですか?」

「たまに戻ってくるわよ。そんな永遠の別れみたいに言わないでよ」

 

 安心させるように笑ってみせる。ユシルはみんなの表情を一巡して、こくりと頷いた。

 

「ナツちゃん」

「グンソウ」

「よくスキルを眺めてたり、攻略情報をあつめてたりしてもしかしたらとは、思っていたけど」

「やっぱ、気付いてるわよね」

「いえ。気付いていなかった。気のせいであってほしいと思ってたわ」

「悪いわね。あんたを引き合いにだして。足手まといなんて全然思ってないわ」

「大丈夫よ。少なくとも戦闘じゃたしかに、役に立てないから。だから、私は私のできることをやるわ」

「そう。私も同じよ」

「……帰ってくるときはご馳走を用意するわ」

「楽しみにしてる。ぼた餅以外でね」

 

 グンソウは最後の言葉に不満気に口を尖らせるものの、最後には笑ってくれた。

 そして、ユウナは。

 

「……」

 

 一人納得できずにただ悲しそうに、苦しそうに顔を歪ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 それぞれが部屋へと戻り休んでいる。攻略本に乗っていた少し割高だが五人まで泊まることのできる家だ。

 明日の出発に備え、アイテムの確認をしながら休んでいた。

 そこに、コンコンと扉を叩く音。

 

「かり、ナツちゃん。いい?」

「ユウナ? いいわよ」

 

 かちゃり、とドアが開く。そこには寝間着姿のユウナだった。対する私は戦闘時に来てた装備のまんまなのだが。金属系の装備ははずしているものの、可愛らしいパジャマに身を包むユウナを見るとだいぶ自分が現状に毒されていることを自覚する。

 この世界なら汗もかかない、服にシワもできない、そもそも汚れない。私みたいに軽装な人ならきっと最低限金属系の装備を外してそのままベッドに飛び込むんじゃないだろうか。

 そんな言い訳がましい思考をよそに追いやり、ユウナに声をかける。

 

「どうしたの?」

「えっと、今日一緒に寝れないかなって……」

 

 ……。

 

「ベッド、サイズ的には一人用だけど」

「あ、ご、ごめん。やっぱり、迷惑だよね」

 

 あはは、と笑いながら部屋を出て行こうとするユウナ。

 これでよかったのだろうか。なんかあっさりしてしまったけど。

 いや、というかいつもの勢いとかどうしたの。いつもはこっちの気持ちも知らないでずかずか踏み込んでは勝手に騒いでいくくせに。

 いや、そもそもなんで私がこいつを気遣わなきゃいけないのか。

 こっちの気も知らないで、怒るし話聞かないし泣きそうになるし……!

 

「ああもう!」

 

 気付いたときには身体が動いていた。

 部屋から出て行こうとするユウナを追いかけ、その手を掴む。

 

「え、ナツちゃ」

「いつもの勢いはどうしたのよ! そもそも部屋来る前にそのくらいは気付きなさいよ! なんか如何にも話したいことありますって感じで来といて勝手に引きさがんじゃない!」

 

 支離滅裂だとは思う。そもそも、断ったのはこっちだというのに。

 

「ほら。話したいことあるんでしょ」

 

 繋いだ手はそのままに、強引に部屋へ引っ張る。

 そして、ユウナはとても嬉しそうに

 

「うん!」

 

 そう返事をするのだった。

 本当にこいつは。

 部屋へ戻り、ベッドに腰掛ける。ユウナはその隣へ。

 ……というか手が離れない。

 

「……ねえ。夏凜ちゃん」

 

 リアルネーム。だが、このタイミングで注意するのもはばかられる。

 

「なによ友奈」

「夏凜ちゃんが前線に行こうとするのって、私たちのためなの?」

「……そうよ」

 

 いざ言ってみようとするとめちゃくちゃ恥ずかしくて、つい声が小さくなる。だが、友奈の耳には届いたようだ。

 

「そっかぁ。えへへ」

 

 友奈の顔はとても緩んでいた。

 

「な、なに笑ってんのよ」

「ううん、嬉しくて。えへへ」

「……」

「……でもそれって、私たちが夏凜ちゃんに無茶させてるって、ことだよね」

 

 先ほどまでの表情とは一転し、その顔は曇っていた。

 

「私ね。ソードアート・オンラインがただのゲームじゃなくなった時、なんとかしなきゃって思った。みんなで力を合わせればなんだってできる。そう、思ってた」

 

 視線は下を向き、繋がった手には力が入る。

 

「でも、違うんだね」

 

 はっきりと。暗く。

 

「ごめんね夏凜ちゃん。調子乗ってたのかもしれない。勇者だってはしゃいでたのかも。私、負担かけてたよね」

 

 そう言って笑った。弱々しい笑み。

 そうか。だから友奈は怒ったし、悲しかったんだ。

 みんなで力を合わせれば何だってできる。でも、私が勝手なことをしようとしたから。危険なことをしようとしたから。

 力になれていると思っていたのに、実際には枷になっていて、自分の行動にみんなを巻き込んでしまった。私の発言で、そういう風に思ってしまった。

 ……けれど。

 

「……はぁ」

 

 出るものはため息だけだ。

 

「ねえ友奈」

「なに?」

「あんた。そんなこと考えてたの?」

「へ?」

 

 友奈の怒りも、悲しみも、葛藤も、全部全部見当違いも甚だしい。

 私は大きく溜めて、声を出す。

 

「バカにすんな!!!」

「っ」

「負担? なにが? あんたはやるべきことをやってるでしょ! あんたが前を見てたから私たちだって前を向けた! あんたが私たちに"勇気"をくれたのよ!」

 

 なにを迷っているのか。

 あんたはいつもみたいに笑えばいい。突っ走って勢いで他のみんなを引っ張ればいい。

 その行動に、どれだけ救われたか。

 

「私の名前は三好夏凜__勇者よ!」

 

 私は名乗る。誇りと覚悟を持って。

 

「あんたが私を勇者にしてくれたの! 負担なんて感じたことない! あんたの、みんなの力になりたいと、あんたがいたから思えたのよ! それに、樹にも行ったけどちゃんと戻ってくる。その時に、きっといろいろ迷惑かける。私一人じゃどうしようもないことがあった時、みんなを頼る。みんなで力を合わせるの。だから__友奈の力も私に貸しなさいよ」

 

 全部見当違い。

 迷惑をかけるのも負担をかけるのも、これからは私の方だ。

 ここに残りたい。みんなと一緒にいたい。でも、戦うこと以外で役に立てていない私は、いつかきっとみんなの足を引っ張る。

 東郷や樹だっていつかは戦えるようになるだろう。

 友奈や風だって、戦う以外にコミュニケーション能力だって高い。

 私もなにかやらなければ。みんなの役に立ちたい。

 だから、戦う。みんなより多く戦って、多くのものを還元する。

 けれど、それだってみんなに心配をかけるだろうし、迷惑をかける。

 結局私はこんなことしかできないのだ。

 それでも一歩踏み出す勇気が持てたのは、友奈のおかげなのだ。

 

「かり、ん、ちゃん」

 

 眼に涙を浮かべ、そして友奈は抱きついてきた。

 

「ちょっ、ゆ、友奈!?」

「頑張る! みんなで、頑張ろう! 私も勇者だから!」

 

 __ああ、よかった。

 私の言葉はきちんと届いてる。

 

「……ええ、そうね。みんなで。私たち全員で、頑張りましょう」

 

 やる事が変わっても私たちの目的は同じ。

 勇者部が勇者部である限り、私たちは繋がれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行くわ」

「ええ。行ってらっしゃいナツ」

 

 翌朝。

 私はついに旅立つことにした。

 ……まあ、週一ぐらいで戻ってくるのだが。

 

「勇者部五箇条一つ。『悩んだら相談!』よ。何かあったらすぐに連絡よこしなさい」

「お姉ちゃん。昨日寝る前に凄く心配してなかなか寝付けなかったんですよ。だから、なるべく帰ってきてください」

「ちょっ、ユシル!?」

「そうね。わざと連絡しないで突然帰ってきて、こいつの泣き顔を見るのもいいかもね」

「ふふ。先に進めば写真を撮れるアイテムもあるらしいですよ」

「あ! じゃあいつかみんなで記念撮影しよ!」

「ついでにガストの泣き顔もね」

「任せてください。お姉ちゃんの可愛いところは全部抑えてみせます」

「期待してるわ」

「期待せんでいい!」

「ユウナちゃんの可愛いところも全部抑えるわ」

「えへへ〜」

「グンソウならやりかねないわね……」

 

 いつも通りの会話。思わず話こんでしまう。

 ……このままじゃダメだ。私の方が泣いてしまう。

 

「ナツちゃん」

 

 そんな私の心境に気づいてかそうでないのか、ユウナが話しかけてくる。

 

「ナツちゃんは、勇者だよ」

「……ええ。そうね」

 

 その言葉に奮い立たされる。昨日、自分で宣言しておいてなんてザマだ。

 もう、大丈夫。

 みんなの視線が私に集まっていた。

 私は一人一人と視線を合わしていく。

 

「それじゃあ、行ってきます!」

「「「「行ってらっしゃい!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私のソードアート・オンラインはこうして始まった。

 その過程で様々なことがあった。

 出会いに別れ。目の前で救えたはずの命を取り零すこともあった。

 自分の手で、殺したこともあった。

 私はこの罪の意識と一生付き合っていくことになると思う。

 後悔はないなんて、口が裂けても言えない。

 それでも私は、全部を引きずって前に進むと決めた。

 今はアインクラッド第七十四層。二年もの歳月が過ぎていった。

 

 

 




変則二刀流:ソードアート・オンライン二巻・心の温度より。キリトがリズに二刀流スキルを見せた時にリズが二刀装備状態だとイレギュラー状態で云々みたいな説明があったので、夏凛に二刀流使わせたい。でもキリトから二刀流を無くしたくはない。ということで生み出された作者の苦肉の策。二刀装備状態がダメならソードスキル使う時だけ片方手放しゃいいじゃん、という発想。

生産系スキルで経験値取得:同じく心の温度より。リズが自らが手に入れた経験値の半分以上が武具作製で手に入れたという一文から、じゃあ他の料理とか裁縫でもいいんじゃね? というとこから。

プレイヤーネーム
犬吠埼風=ガスト
結城友奈=ユウナ
東郷美森=グンソウ
犬吠埼樹=ユシル

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