001
私は私を言い表せない。誰にも無理だろう。お姉ちゃん以外、私を確定してる人はいないはずだ。お姉ちゃんでも確定してないかも。ただ言えるのは、私という存在は、すっごく希薄な存在だということ。
外の世界の誰かが「私という現象は、一つの青い電燈です」なんて言ったらしいけど、だったら私は空気だろう。無意識に結界を抜けて、外の世界に出ていることがある。ちょうど、今みたいに。
あれ?私、いつの間に外の世界にいるんだろう?
002
「君が確定されてなくても、君という存在があるんだから別に良いんじゃないのかな?」
私の前にはアロハシャツのおじさんが。ここはどこだろう?
「はっはー。そんなこと気にしなくても良いんじゃないかい?僕が居て、君が居る。それだけで十分だろう」
廃墟で向かい合っている。うーん、怨霊とか出そうでワクワクする。
「聞いてるのかい?」
「聞いてるよ?」
なら、良いや。
おじさんは胸ポケットからタバコを取り出して、口にくわえた。
「火を点けなくていいの?」
「良いんだよ。それで、だ。君は、君に何を望むのかな?」
私が、私に何を望むか?うーん、
「何もないね!」
「はっはー。驚いたね。怪異だろうと、何かを望むと思うのに」
「あ、お姉ちゃんに抱きつきたい」
「ああ、君は無意識だっけ。なら、突拍子のない言動にも合点がいく。なら、質問を変えてみよう」
君は、一体誰なんだい?
003
「お主が誰であろうと、お主はお主じゃろう」
儂が、伝説の吸血鬼であるように。
目の前には金髪ドレスの女の人が居た。おじさんはどこに行ったんだろう?
「かかっ。あやつの事などどうでも良いじゃろう、小娘。お主が気にかけることではない。無意識妖怪なら、ちゃんと意識しないでおくべきじゃろう」
ああ、私は無意識妖怪だっけ。なら、おじさんがどこへ行ったかは意識しないでいいんだね!
「で、あなたはだあれ?」
「儂は、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃ」
「うん、長いから覚えない!」
いや、そこは覚えるべきじゃろう。
そんなツッコミをされたけど、長すぎるもん。日本の神様並みに長すぎる。ニニギのフルネーム何も見ずに言える人間なんているのかな?
それはさておき、吸血鬼。
「私の知り合いにも吸血鬼って居るよ?ちっちゃいのが」
「うぬも儂をロリの王と呼ぶ気か?」
ロリの王。なにそれ見たい。
「それはともかく、じゃ。お主、自分という存在で悩んでいるようじゃが」
時に自分を客観視するのも大切じゃぞ?
004
客観視。無意識なのに客観視できたら凄いと思う。主観視すらやりにくいのに。
「そもそも、自分について意識することが間違ってるんじゃないか?怪異ってのは、他人の認識で成り立ってるんだから」
アホ毛の高校生が言う。また人が変わった。
「それは今は置いておいて、君に対する、他のみんなの認識は何なんだ?」
私に対する認識。そんなもの決まってる。
「誰も、私のことを認識してないんじゃない?」
「なら、お前は消えてるはずだ。誰も知らないのなら」
世界からも、認識されないんだから。
彼は、真面目な顔で言った。アホ毛はピンと立っていた。
「君はみんなから認識されている。自分でそれに気づいていないだけだ。だから」
君が誰だろうと、君は君なんだ。
005
後日談というか、今回のオチ。
廃墟で会った人たちは、私が見ていた残滓らしい。そこに残っていた意識を、無意識に確認していたらしい。
一つわかったことといえば、私が何をしていようと、私は私で、何も考えずに行動するのが私だということだ。
だったら、やることは一つだけ。地霊殿に帰って、お姉ちゃんに抱きつくことだ。「ただいま」と声をかけて。
でも、どうやって帰ろう。どうしたら戻れるんだろう?
無意識に歩き出しながら、私は帰り方を意識しないことにした。ちゃんちゃん。
そんなこんなで、零崎妖識です。さて、六作目は短編集。思いつきの見切り発車です。一発目は無意識妖怪こと、古明地こいしちゃんでした。