衛宮切嗣は計画の大幅修正を強いられていた。
それは、三勢力による巨大同盟の存在が明らかになったことも原因ではある。しかしそれよりも寧ろ生還した舞弥からの情報により浮上してきた存在、バーサーカーのマスターたる『間桐雁夜』の存在が大きな理由だ。
化け物じみたバーサーカーの供給に耐える程に膨大な魔力を持つ魔術師でありながら、躊躇無く現代兵器や科学を使う異端者。その上一切姿を見せず、間桐邸は当主の兄が一人暮らす以外はもぬけの殻。冬木市の宿泊施設は全て監視しているにも関わらず、切嗣は未だ間桐雁夜を見たことがない。
自宅で穴熊を決め込む遠坂時臣も攻略し難い事は確かだが、存在すら捕捉出来ない雁夜よりは遥かに下しやすいだろう。
「くそっ……!! 間桐を出奔し、一年前に戻ってきた急造魔術師だって? アイツはそんな奴じゃない、確実に間桐の魔術を極めた秘蔵っ子だ……。それに魔術師として上なのに、その上舞弥の話だと改造した上に魔術で強化したエアーガンを装備させてバーサーカーをアサシン代わりに運用するだって?」
更に、切嗣は間桐雁夜こそ見ていないが、その使い魔なら何度も見かけている。雁夜の使い魔の数、その数凡そ十万。10センチ程の蜻蛉に似たそれは昼夜を問わずに冬木を監視している。流石にアインツベルンの城に張ってある結界の中には居ないが、周囲の森を監視されている時点で此方の勢力は筒抜けだろう。
そしてそれを踏まえた上で最も厄介なのは……。
「あのバーサーカーとアーチャー、それにアサシン陣営による同盟。……まさか、アサシンとアーチャーの三文芝居を見抜いた上で同盟するとはね」
正直に言って、この組み合わせは異常なまでに凶悪だ。なにせ、最も相性の良い組み合わせのクラスに最も凶悪な英霊二体を据えて運用するのだ、弱いわけがない。
接近戦に無類の強さを持つバーサーカーと、遠距離から航空爆撃の様に宝具の雨を降らせるアーチャー。そして、その超攻撃力でサーヴァントを釘付けにした状態で確実にマスターを仕留める為のアサシン。
そのマスター達も、魔法使いの弟子、遠坂時臣。聖堂教会の元代行者、言峰綺礼。謎のダークホース間桐雁夜といった最強の布陣。
全く隙がないと言っても過言では無いその布陣に対して、此方は最優とはいえセイバー単騎に切嗣と舞弥だけ。
「……駄目だ、奇襲、遊撃、伏兵。どれをとっても勝てるビジョンが浮かばない。……こんな敵にどうやって対応しろっていうんだ!?」
既にズタボロだった切嗣の思考は先程からループし、胃はキリキリと痛み、既に煙草は三箱目。
そんな限界の状況が、普段の切嗣では考えられない行動を取らせたのは神の采配か、悪魔の囁きか。
衛宮切嗣は普段なら絶対に相談しない相手に話しかけたのだ。
「……なぁセイバー、君ならどうする?」「え? ……切嗣、今貴方に似た声が私を呼ぶ幻聴が聞こえたのですが」
「幻聴じゃないさ……はぁ」
「本当に切嗣……? 貴方が私に話しかける程の事態なのですか?」
「あぁ、君ならこの状況をどう見る?」
そう言って切嗣が差し出すメモを何やら嬉しそうに受け取り、真剣に目を通すセイバー。彼女は暫くして口を開く。
「……確かにこれはあまりに不利ですね」
「……正直、僕はもう限界だよ。……あぁ、イリヤは人質だし、アイリはどう足掻いても生きて帰れないし、舞弥は既にボコボコだし、良いこと無いなぁ、最近。……はぁ」
「切嗣!? しっかりして下さい切嗣!! 大丈夫ですか!?」
「うぅ、あれ、此処はアリマゴ島? …………シャーレイ、僕はね、正義の味方になりたいんだ」
「シャーレイ!? 誰ですかその人!? 誰か!! 切嗣が、切嗣が壊れましたッ!! 誰か来て下さいっ、誰かー!!」
その日のアインツベルンの森は少々騒がしかったとかなんとか。