雁夜が目を覚ましたのは午前5時。いつものように腕時計のアラーム機能で目を覚ました彼は目を擦りながら伸びをする身体に僅かな疲労感こそ残るが、今朝は此処一年でも例を見ないほどに身体の調子がよい。その状態に若干の疑問を抱くが気にするほどでもないと判断。水でも飲もうかと身体を起こしたところで、彼は此処が自宅でなく、ホテルの一室であることに気がついた。
当然、混乱する雁夜だが、早朝の記憶が徐々に蘇るにつれて重要事項を思い出した。確か、昨日の深夜、サーヴァントの召喚をしたはずだ、と。
「……ッッ!? バーサーカー? バーサーカーはいるのか!?」
その声に応じるように彼の前に現れたのは長身の青年。金髪を肩まで伸ばし、深い紫色の西洋貴族じみた装束に身を包む彼が雁夜の呼び出した英霊、バーサーカーのサーヴァントらしい。
「お前が……バーサーカーなのか?」
「如何にも私はバーサーカーだ。最も、狂化のランクはE-にすぎないがね。……それよりも気分はどうかね、マスター? 私を召喚した際は死にかけていたが」
「……問題ない。……いや待て、狂化がE-ってどう言うことだ?」
疑問に対する肯定とともにさらりと告げられた言葉に、雁夜は更なる疑問を投げかける。そもそも、冷静に考えれば バーサーカーが会話している時点で異常事態なのだ。
「どう言うことかと問われても台詞のままなのだが。私の狂化ランクはE-。興奮すれば言動が狂うが、平常時は何のことはない並の英霊だよ」
「……ステータス強化は?」
「当然だが、無いな」
その回答に、雁夜は目に見えて落ち込む。そもそもバーサーカーを呼び出した理由が狂化によるステータス強化だと言うのに、それが無ければ全く意味がない。燃費が良いのは嬉しいが、弱くてはプラスマイナスでマイナスだ。
だが、そんな雁夜にバーサーカーは平然とある一言を付け足した。
「まぁ、そう落ち込むなマスター。狂化によるステータス強化が無くとも私のステータスは概ねA以上だ。それに私は知能関連のスキルを四つ保有している。それらが使用可能な今ならば私は下手に狂化した私より強いと保証しよう」
「……確かに、知恵が回る英霊なら下手に狂化しても不利になるだけか」
「そうとも。……あぁそうだ知恵が回ると言えば、昨日マスターの屋敷を抜け出す際に直感が発動してな。何となく其処の少女を連れてきてしまったが、マズかったかね?」
そう言ってバーサーカーが示した場所、雁夜が眠るベッドと隣り合うベッドに眠るのは遠坂家から養女としてやってきた雁夜の姪、間桐桜だった。バーサーカーが彼女を連れてきたのは雁夜にとって僥倖とすら言える。
「……いや、むしろ助かったよ。だけど、臓硯のジジィはどうしたんだ? 桜を黙って連れ出されるほどジジィはボケてないぞ」
「ジジィ? ……ああ、あの老魔術師かね。アレなら喰ってしまったが……」
沈黙。バーサーカーの答えに対して、雁夜が行えたのはポカンと口を開けてその言葉を頭の中で反芻するのみ。
「……喰った? あの吸血ジジィを?」
「ああ。君が死にかけていたのにニヤニヤ笑っていた、味方とは思えぬ蟲妖怪だったからね。丁度魔力も欲しかったから魂喰いをした」
「そうか……」
蟲妖怪間桐臓硯にしては呆気ない死。それを鵜呑みには出来ないが、バーサーカーの言っていることが確かなら生きているとしても魂の一部を喰われた以上、暫くは動けまい。朝から身体の調子がよいのも、体内の蟲が大人しいからだと仮定すれば、確かに臓硯は死んだか、瀕死かのどちらかなのだろう。
そんな風に雁夜が情報を纏め、反芻していると、バーサーカーが何か思い出したように口を開いた。
「吸血ジジィと聞いて思い出したよ。うっかり失念するところだった。マスター、君は現在、死徒化している」
「……はぁっ!?」
まるで「昨日の夕飯は何だったか」を思い出したように呟いたその内容。しかしそれは三流魔術師の雁夜でさえ知っている人類の上位存在。
死徒。
不死身に近い耐久力と、化け物としか言えない怪力、人外の魔力を持ち、人の生き血を啜る吸血鬼。あの間桐臓硯すら死徒に比べれば弱い存在と言えるほど死徒というのはかなりの化け物なのだ。
「俺が死徒ってどう言うことだよ!?」
「まぁ、不可抗力と言うべきか……輸送中に君が一時的に心停止したのでね。すぐに持ち直したとは言え、死なれては私が困る。慌てて下水道に隠れ、君に私の血液を注入したのだよ」
「お前の血液……?」
雁夜の疑問にバーサーカーは薄く微笑むと言葉を紡ぐ。
「私はズェピア。ズェピア・エルトナム・オベローン。元死徒二十七祖十三位にして元アトラス院院長。この度狂戦士の配役を得て現界したサーヴァントだよ」