Fate/Zepia   作:黒山羊

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+1days PM7:39 『危機一髪』

 アインツベルン陣営は結界が捉えた侵入者の姿を水晶玉越しに確認していた。術を発動して居るのはアイリスフィール。これはお伽噺にあるような、所謂遠見の魔術である。

 

 漆黒のローブに魚のような異形の顔。一度見れば忘れようがないその姿はまさしく昨日遭遇したキャスターに違いない。

 

「こいつが、例のキャスターかい?」

 

 今までキャスター見たことがなかった切嗣に問われてセイバーとアイリスフィールは頷く。このサーヴァントこそ、狂気に駆られたフランスの『聖なる怪物』ジル・ド・レェ伯爵。

 

「……だけど、キャスターは一体どういうつもりなのかしら?」

 

 アイリスフィールが戸惑うのも無理はない。キャスターは十人あまりの連れを伴って森の中を歩いていた。そのどれもが幼い少年少女であり、最も年長の子供でもせいぜい七歳といったところだろう。皆覚束無い足取りでふらふらと彷徨う様に歩いていることから、魔術か何かで操られているのは明白だ。

 

「アイリ、キャスターの現在位置は?」

「此処から北東に約二キロ。まだ深入りしてくる様子はないわね」

 

 キャスターが彷徨いているのは結界の外周部分。もう少し内側ならば結界内部に魔術的な攻撃を仕掛けられるのだが、流石に魔術師の英霊だけあって此方からは見ることは出来ても他には何も出来ない絶妙な位置取りをしている。

 

 その様子にセイバーは硬い声で呟く。

 

「奴はどうやら誘いをかけています。私ならば数分であの場所へ到達する事が可能だ。マスター、許可を」

 

 何もセイバーは血気に逸っているわけではない。キャスターが引き連れた子供達の集団。その不吉な意味合いを理解している故の発言だ。それは切嗣とアイリスフィールも同様だった。

 

「まず間違いなく人質だろうね。……C4もジャベリンも使うわけにはいかなくなった。……確かに僕にはお手上げだ。だが、セイバー、手負いの君で奴に勝てるかい?」

 切嗣の問いにセイバーは言葉を詰まらせる。手負いの身でキャスターと対峙する事が如何に危険かを知っているのは彼女自身だからだ。自身の直感はジル・ド・レェが油断ならない難敵だと声高に告げている。だがしかし、騎士として幼子が殺められるのを見過ごす訳には行かなかった。

 セイバー考えを巡らせている最中、突如としてキャスターがその巨大な両目で真っ直ぐと水晶玉の視点を見つめ返し、にっこりと笑みを浮かべた。

 

--確実に此方に気付いている。

 

 魔術師の英霊たる彼にとって遠見の術を見破るなど呼吸より尚容易い事なのだろう。キャスターは真っ直ぐと水晶玉の中からアイリスフィール達を見据え、洗練された貴族らしい優雅な所作で一礼する。

 

『昨夜の約定を果たすべく、不肖ジル・ド・レェ、まかり越して御座います。我が麗しの聖処女、ジャンヌ・ダルクに、今一度、拝謁する事をお許し戴きたい』

 

 その言葉に、セイバーはしっかと切嗣とアイリスフィールを見据える。既にセイバーは死地に自ら飛び込む覚悟を決めていた。その眼に切嗣は鼻から深く息を吐き、言葉を紡ぐ。

 

「僕はセイバーに任せるよ。……アイリはどうだい?」

 

 アイリスフィールは未だに決めかねていた。セイバーを失うのが恐ろしい、セイバーが傷つくのが恐ろしい。その思考が堂々巡りを繰り返す中、キャスターは再度口を開く。

 

『ご決断は急ぎませんとも。こんな事もあろうかと時間を潰すための簡単な遊びは用意しております故…………』

 

 そんな呟きと共に、キャスターはその指をパチリと鳴らす。と、同時に周囲の子供達は「何故自分はこんな所にいるのかな?」とでも言うように周囲をキョロキョロと見回し始める。キャスターが催眠術を解除した結果である事は誰の目にも明らかだ。

『さぁ、鬼ごっこと参りましょう。私が十を数える間にお逃げなさい、子供達。…………さもないと』

 

 そう言いながら一番近くにいた子供へと手を伸ばすキャスター。その姿に言いようのない恐怖を抱いたセイバーは、届かないと分かりつつも制止の声を上げずにはいられなかった。

 

「止めろキャスター!!」

 

 果たしてその想いが届いたのか否かは分からない。だがセイバー達が見つめる水晶玉の中で確かにキャスターはその動きを止めていた。

 

 伸ばされたその腕の手首を、白いフリルの付いた袖から出たもう一つの手が締め上げ、そこに加えて、キャスターの顔面へと空気を切り裂く音を伴ってスニーカーの蹴りが叩き込まれる。

 バーサーカー、ズェピア・エルトナム・オベローンとそのマスター、間桐雁夜。『正義の味方』の様な登場を果たした金と銀の流星は、子供達を庇うようにキャスターへと立ちはだかる。

 

「……随分と良い蹴りだったね、マスター」

「……スーパーマンになったつもりで思い切り蹴っただけなんだけどな」

「いやいや、スーパーマンになったつもりと言うのは些か語弊があるだろう?」

「まぁ、確かにそうかもな」

 

 吹き飛んだキャスターを視界の端に収めつつ、軽口を叩くズェピアと雁夜は周囲の子供達の前で高らかに名乗りを上げる。

 

 

「「ヒーローが助けに来たぞ、子供達」」

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