Fate/Zepia   作:黒山羊

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+1days PM7:40 『双鬼共闘』

 名乗ると同時に雁夜は素早く術式を組み上げ、刻印蟲を励起させる。数瞬でそれらを準備した雁夜は、先程の名乗りに呆然と此方を見ている子供達に向けてその紅い瞳を向け、魔術を待機状態で留めつつ、出来るだけ優しく声を掛ける。

 

「大丈夫だから、皆こっちに集まって。悪い奴をやっつけたら、すぐにおじさんがお家に帰してあげるから」

 

 その声に反応し必死の様相で集まる子供達に向け、雁夜は内側からは外を見ることが出来ないと言うだけの単純な隔離結界を施す。

 当然、そんなモノに閉じ込められた子供達は混乱するが、雁夜の優しい口調で告げられた一言によってその不安はある程度落ち着いた。

 

「大丈夫。コレはバリアだよ。おじさんはスーパーマンだからバリアだって使えるんだ。皆、此処から出たらお家に帰れなくなっちゃうから、じっとしてるんだよ?」

 

 数秒の後、全ての子供が落ち着いたのを確認して、雁夜は結界から抜け出し、使い魔を呼び寄せる。

 

「----翅刃蟲!!」

 

 大量に呼び出された蟲の群れ。それが雁夜の号令で一斉に脱皮し、ギロチンのような爪とも顎とも取れる器官を持った巨大な羽虫へと羽化を遂げる。

 

 翅刃蟲。唯でさえ人の腕程度ならば食いちぎる事の出来るその蟲は、雁夜の手によって更に強化されていた。死徒である自分の血を餌に育てる事で、より強靱で巨大な蟲と化したそれはもはや蟲と言うよりも大きさで言えば鱈場蟹に近い。

 

 それに対抗するかのように、復活したキャスターもまた、宝具らしき本を構えて大量のタコに似た怪物を召喚し始め、アインツベルンの森は一瞬にしてタコと蟲がギチギチと威嚇の声を上げながら睨み合う人外魔境へとなり果てた。 激突する軍勢。蟲が触手に捕らわれ、怪魔が蟲の顎に切り裂かれるその合間を縫うようにして紫電が駆ける。

 

 子供達の安全を確認するや否やどす黒い魔力と共にキャスターへと接近する狂戦士。彼は充分な助走をつけるとスクリューかチェインソーの様に身体を回転。奇声を上げてキャスターに突撃した。

 

「カットカットカットカットカットカットカットォーッ!!」

 

 その突撃は木々を薙払い地を抉り、ソニックブームすら発生させて怪魔ごと再度キャスターを吹き飛ばすに充分な威力を誇る人間砲弾。その直撃を死に物狂いで回避したキャスターは怒りも露わに吼える。

 

「おのれ匹夫めがッ!!」

 

 下手な刀剣類より鋭いズェピアの鉤爪に数多の怪魔が切り裂かれ、ベチャベチャと不快な音を立てて地に落ち、キャスターの軍勢は既に半壊状態。だがしかし、キャスターことジル・ド・レェも並の英霊ではない。

「----ふんぐるいむぐるなふくとぅるぅるるいえうがふなぐるふたぐん」

 

 それは果たして呪文なのだろうか。名状しがたく、呪文と言うにはあまりに冒涜的なその言葉と共に、キャスターは手にした魔導書に魔力を注ぎ込む。すると一瞬にして死した筈の怪魔がその肉片から再誕した。いや、再誕と言えば語弊がある。なにしろそれは飛び散った肉片の数だけその数を増しているのだから。

 

「成る程、今の呪文でハッキリしたよキャスター。人革の装丁、蛸に似た怪物の召喚、そして先程の呪文。『クタートアクアディンゲン』かとも考えたが、君のそれは恐らく『ルルイエ異本』だろう?」

「そうでしょう!! 素晴らしいでしょう!! 我が盟友の究極宝具たるこの書程に神を冒涜するものも有りますまいッ!!」 噛み合わない会話を交わしながら、ズェピアは腕の一振りで数匹の怪魔を粉砕し、キャスターはその破片から大量の怪魔を召喚していく。狂人と狂戦士の争いは尚苛烈さを増し、森の木々はへし折れ、大地は怪魔の血に染まり、大気は戦闘の余波からかビシリと嫌な音を鳴らす。

 

 雁夜が蟲の大群と簡単な結界で防御していなければ子供達は今頃良くて重傷、最悪タコのエサだろう。

 

 そうならないようにと蟲や水の魔術を駆使して結界を防衛する雁夜の瞳は、強い決意に溢れていた。

 

----今度こそ、後悔する事がないように、この子達を守る。

 

 そんな想いを胸に抱きながら、雁夜はまた眼前の怪魔を踏み潰した。

 

 

--------

 

 

 駆ける。駆ける。駆ける。

 

 セイバーは一陣の疾風と化して森を駆け抜ける。

 

 その顔は先程届かぬ制止の声を上げたときとは打って変わって喜びに満ち溢れる笑みを浮かべていた。

 

 心のどこかで諦めていた。

 

 騎士と呼べる程の人物はこの国には一人とて居ないのではないかと思っていた。

 だが、それは間違いだった。

 

 この人と人との繋がりが希薄になった極東の国でも、幼子の為に身体を張って戦える益荒男が未だ生き残っていたのだ。

 

 間桐雁夜。魔術師としては確かに甘い人物なのだろう。魔術師は子供を囮に使うことすら厭わないというのに、逆にその子供を守るために今までひた隠していた姿すら晒してこの森へと現れたのだから。

 

 だが、その気概はセイバーからの好感度を急上昇させるにたるものだった。

 

「……切嗣も彼のように護るための力を振るってくれれば良いのですが」

 

 あのバーサーカーと間桐雁夜のように、自身と切嗣と戦場に共に立つことが出来ればどれほど良いだろうか。

 そう思ってしまう程にバーサーカー陣営の2人はお互いに背中を預けて戦っていた。

 

 

 きっと、あの主従からは何か得る物が有るに違いない。

 

 そう考えたセイバーは更に速度を増して。

 

 一条の光となった彼女はトップスピードでキャスターの迎撃に向かうのだった。

 

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