セイバーとランサーの決闘が続く海浜倉庫街。コンテナの陰には未だにズェピアが潜み、匂いの元を探っている。
さて、そのズェピア。彼は昼に街を歩いていたままの格好である。ワイシャツにジーンズというシンプルな格好の彼は、肩から下げたメッセンジャーバッグの蓋を開け、中から分解された銃らしきものを取り出して器用に組み立てる。
雁夜とズェピアが用意した武装の一つ、違法レベルまで改造し、金属製の4.5ミリベアリング球をBB弾代わりに装填した「殺傷仕様」の電動ガン。魔術師による強化と、とある「一工夫」がなされたそれは、人間に対する武器としてはかなりのものと言える。それを手に、ズェピアはそろそろと匂いの主に向かって移動を始めた。
まずは一番近い「石鹸」を狙い、「煙草」と「香水」は後回しにする。そう判断し、気配を消したまま、セイバー達からは死角になる位置まで移動すると跳躍。匂いとの距離を一気に詰めると、視界に見えた「石鹸」と思しき人影に向けて躊躇無く発砲した。
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久宇舞弥が襲撃を受けたのは切嗣の命令で配置に着いた直後だった。
連続的な発射音と共に飛来した物質は舞弥の背に直撃。肉に細かな金属がめり込む痛みに顔をしかめつつ素早く振り返り舞弥はステアーを撃つ。
しかし、その弾丸は姿勢の不安定さからかコンテナを直撃。その火花に一瞬照らされた金髪は驚異的な加速でもって舞弥に接近して来る。その手に持つのは、フランス製のアサルトライフルFA-MAS。 銃器というこの戦争に置いてまず見かけないだろうと予想していた物体を見て一瞬動揺したのが、舞弥の運命を決めた。およそ人間には不可能なスピードで飛来した相手は舞弥の首に手を掛け、万力のような力で締め上げてくる。
「ぐっ……あ………」
「ふむ。此処まで危機に陥ってサーヴァントが飛んでこない辺り、マスターではないらしいな。ならば、暫く寝ていたまえ」
その声の直後、一層強くなる締め付けに意識を奪われていく舞弥が見たのは、自らに迫る金色の髪だった。
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思わぬ収穫を得たズェピアは一旦先程とは別のコンテナの陰に潜み直していた。先程は膂力に任せた突撃で瞬間的に無力化出来たが、まさか銃器で武装しているとは。これは、一度雁夜に連絡する必要があるだろう。流石に「対策」はしたとはいえ、このまま放置するのは不安である。
『雁夜、事情が変わった』
『どうしたんだバーサーカー? セイバーとランサーに気付かれたか?』
『いや、流石にそこまでのミスはしていないが、相手マスターへの警戒を強める必要がある』
『……続けてくれ』
『相手マスターの中に、近代兵器を使う者がいるらしい。先程遭遇した女性が雁夜がインターネットで見せてくれたライフル…………確か、ステアーAUGだったか? あれの本物を持っていた』
『…………一応予想はしてたが、現実であって欲しくはなかったな。で、殺したのか?』
そう言う雁夜の声は意外にも冷静だ。それはなぜか?
一言で言えば雁夜は自分に『自信がない』。だがそれは逆に分をわきまえて居るとも言える。故に『自分に思い付くようなことは他人ならもっと先に思いついている』という若干ネガティブな予測を立てていたのだ。今回はその不安がプラスに働いたらしい。
『いや、殺してはいない。プランBで行こう』
『あぁ、なる程。……確かにプランB発動を確認したよ。これで、近代兵器で武装した陣営が何処か分かればいいんだがな』
『ふむ、マスターが板に付いてきたなマスター。……ならば私もそろそろサーヴァントらしい事をしようではないか。雁夜、私の装備と戦利品を海浜倉庫街のマンホール「D」に入れておく。回収しておいてくれたまえ』
『わかった。頑張れよズェピア』
『パトロンの応援を得たからには、期待に答えるのが役者の務め。……任せておきたまえマスター。機会を見て突入する』
そう答えたズェピアは薄い笑みを浮かべ、ぽつりと呟く。
「さぁ、開幕と行こう」