無人の冬木に日が昇る。いつもなら活気に溢れる街は今、静寂が満ちる廃墟と化し、実に不気味だ。
そんな中、ウェイバーは無人の街に繰り出していた。
災害発生の混乱で放置されたコンビニエンスストアから弁当を頂戴し、公園に向かう彼の背後。そこに立つ霊体化したライダーは、相も変わらず口が減らない。
『ウェイバーよ、お主本当にそれだけで良いのか?』
「それだけって、お前と一緒にするなよな……」
そう言うウェイバーが自分の分として確保したのは豚の生姜焼き弁当と野菜ジュース。一方、ライダーはカツ丼と焼肉弁当、ミートドリアにシーザーサラダ、ついでにコーラが1リットル。軽く二人分の食事を『簒奪』していた。
『むぅ、小食は病の元だぞ?』
「……大食も病の元だよ、バカ」
相変わらずの漫才は、物寂しさを僅かに緩和し、ウェイバーの思考をクリアにする。ウェイバーにはさっぱり解らないが、ライダー曰わく『今日が決戦になるぞ』との事だ。備えるに越したことはない。
そこまで考えて、ウェイバーはふと数日前のライダーの発言が引っかかった。彼を召喚したその日、彼は確か、『余が真に頼みとする宝具は他にある』と言っていたような気がする。
「……なぁ、ライダー。お前の最強の宝具、そろそろ教えといてくれないか?」
『む、言っておらなんだか? ふむ、余の最強宝具は簡単に言えばサーヴァントの大量召喚能力を持つ固有結界だ。我が軍勢を呼び出し、敵を蹂躙する。分かり易い宝具であろう?』
「成る程、お前らしい宝具だな。で、呼び出すキーは何だ」
『キー?』
「呼び出す兵士には何か共通点があるんだろ?」
『あぁ、余と強い絆で結ばれた英傑どもを呼び出す。お前が知ってる連中なら、ブケファラスとかだな』
「あぁ、あの馬か。……少し考えとくよ」『何を考えるのだ?』
「お前の最強宝具をより最強にする方法」
そう言って「むむむ」と唸りながら頭を捻るウェイバーにライダーは暫し呆気に取られてから、大声で爆笑する。
『ガッハッハ!! やはり余はお前と組んで良かったぞウェイバー!!』
「何だよいきなり。……僕以外にお前のマスターがいる訳ないだろ?」
『然り!! 余とお前に蹂躙できぬ敵は居らん!!』
響き渡る笑い声とウェイバーの溜め息を吸い込む空は冬の澄み切った青。
勇者と賢者の凸凹コンビは迫る決戦に備える。
それが、別れに繋がるとしても。
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間桐の地下工房、その出口でズェピアと雁夜は最後の出撃に臨んでいた。桜には、ズェピアが帰国すると伝えて。
「ズェピア先生、かえっちゃうの?」
「あぁ、そろそろ家に帰らなくてはならなくてね。突然の別れになって済まない、桜君。まぁ、ラニ=Ⅳは今後も雁夜の家にホームステイする事になっているから、安心したまえ」
「…………わかりました」
「良い子だ」
しゃがみこんで桜の頭を撫でるズェピア。その背後には臓硯の遺品である『日傘』をさした雁夜が泣きそうな顔で立っている。
「……桜ちゃん、おじさんはズェピアを空港まで送るから、帰るのが遅くなるかも知れない。ご飯はラニ=Ⅳに頼んであるからしっかり食べるんだよ?」
「うん」
雁夜の言葉に釣られるように、立ち上がるズェピア。だが、彼はふと思い出したように、紅いペンダントを取り出して桜に差し出す。
「御守りだ。記念に取っておいてくれたまえ」
桜が、それを受け取るのを見て、ニコリと笑った彼は今度こそ身を翻して出口に向かう。
その背に、桜は告げる。
「先生、またね」
「…………あぁ、また会おう桜君」
「やくそくだよ」
「あぁ、約束するとも」
そう言い残して出口をくぐるズェピアの背に、桜はラニ=Ⅳが呼びに来るまで手を振り続けていた。
「果たせない約束、か」
「どうしたズェピア、随分しおらしいな。お前らしくないぞ」
「泣きそうな顔で言っても説得力が無いのだがね、雁夜」
「既に泣いてるお前よりマシだ」
「…………化け物が泣くわけがないだろう。狐の嫁入りではないかね?」
「……随分、紅い雨だな」
「あぁ、紅い雨だ」
「行こうか、ズェピア。歩いてるうちに雨も止むさ」
「……ククッ、今日は随分詩的だね雁夜」
「何とでも言え」
傘をさす彼等に降る雨は暫く止みそうになかった。