Fate/Zepia   作:黒山羊

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+4days PM6:01 『決戦開幕』

 静寂の夜が明け、無音の朝と虚無の昼を越えて。再び魔術師の時間が訪れた冬木の街。

 

 その中にいる全ての魔術師が腹の中で何かが蠢くような不快感を感じていた。

 

 異常魔力による魔力回路の不調。その原因は明白。キャスターが満を持して出現したのだ。

 

 その魔力は今までに無いほど歪み、重力が倍になったような圧力と幼子の爪を削ぎ落とすような悪意に満ちている。

 

 その発生源にいち早く向かったのは、5人でメルセデスベンツェに乗り込んだセイバー陣営。

 

 切嗣がリミッターを叩き壊し、セイバーが運転するそれは白銀の矢と化して無人の街を突き抜け、凄まじいドリフト走行で未遠川の中流域、海浜公園へと到着。その間約三分。10キロはある道のりをその速度で走破したベンツェから、セイバーと三騎士、そして若干気分が悪そうな切嗣が降り立った。

 

「切嗣、大丈夫ですか」

「……戦闘に支障はないよ」

 

 軽く言葉を交わして切嗣の無事を確かめた、セイバーは立ちこめる濃霧の中目を凝らす。河の中程。水面に立つそれは間違い無くキャスターだ。

 

だが、しかし。

 

「何かがおかしい……」

 

 そう呟いたセイバーの声を拾ったのか、キャスターはダラリと脱力していた体をガタガタと揺らしつつ、セイバーの方に向き直る。その姿を見て、セイバーは漸く違和感の原因に気が付いた。キャスターの顔は血の気が失せ、特徴的なその目は白目を向いて口からは涎を垂れ流している。そしてその首に、黒い触手が巻き付いていた。

 

「なっ……!?」

 

 驚愕するセイバーを前にキャスターは陸に揚がった魚のようにパクパクと口を動かし、必死に首を締め上げる触手を解かんと腕に力を込める。そうして、漸く吐き出されたキャスターの言葉は、セイバーをさらに驚愕させるに充分だった。

 

「お……逃げ……な、さい……。ジャ……ン……ヌ」

「おい、キャスター!? 逃げろとはどういう……!?」

 

 その問いとほぼ同時に、キャスターの首からゴキリと鈍い音が響く。巻き付いた触手はそのままキャスターを水中へと引きずり込み、暗い水面から何かを咀嚼する様な音が少しして、それきり水面は静かになった。

 突然過ぎる事態に困惑するセイバーと警戒を強める切嗣。三騎士も普段の和気藹々とした雰囲気を消し去り、周囲を油断無く見渡す。そんな中、彼等の耳に響いたのは、迸る雷鳴だった。

 

「Aalalalalalalalaie!!」

「っ!? ……何だ、ライダーですか」

「何だとは何だセイバーよ。……それに、余だけではないぞ。なぁ、ランサー、バーサーカー」

「相乗りさせて貰っておいて言うのは何だが、もう少しマシな運転をしてくれないかね……」

「あぁ、俺も酷い目にあった。……ところでセイバー、キャスターは何処だ?」

 

 若干青い顔で問い掛けるランサーに、セイバーは苦い顔で口を開こうとする。だが、更なる訪問者がそのセリフを遮った。

 

「あの外道めは蛸に食われた。……それより雑種ども、喋るのは良いが、今はそれ所ではないようだぞ?」

「……居たのですかアーチャー」

「いや、綺礼と時臣がチマチマと準備しておったのを待っておったせいで今来たところだ。……しかし、何とも不快な蛸よな」

「……さっきから蛸と言っていますが、何のことです?」

「アレだよ、セイバー君」

 

 疑問を口にするセイバーに答えたのは、ズェピア。夜の闇を見通す吸血鬼の視力で捉えた水の底を指し示すズェピアに訝しむ視線を向けかけたセイバーだが、それより先に水面から『蛸』が姿を表した。

 

 ゆっくりと立ち上がる巨体。無数の触手が犇めく頭部だけで優に15メートルはあるだろう巨体はコウモリの様な羽を広げ、脳味噌を握りつぶすように不快な遠吠えを放つ。

 

「----ッッッ!?」

 

 その場にいる全員の頭にダイレクトに響くおぞましい音。その中で、ズェピアの影からスルリと這い出した桃色の歌姫がクルリとマイクを振って対抗するように叫ぶ。

 と、同時に、パタリと音が止んだ。

 

 逆波長。怪物の声を打ち消すその音は彼女の肺から生み出されるドラゴンブレス。竜の血を引き、類い希な音感を持つ彼女にとって、この程度の芸当は実に容易い。 その姿を見て音波攻撃は効かぬと見て取ったのか、巨大な怪物は咆哮を中断し、此方の様子を伺い始めた。

 

「……良いタイミングだエリザベート君」

「……バーサーカー、あの化け物は一体」

 エリザベートを労うズェピアと、油断無く剣を怪物に向けながら問うセイバー。比較的回復が早いその二人の様子にハッと正気に戻った英霊達は怪物に向け挑むような視線を投げ、彼等を後から追ってきていたケイネス、時臣、雁夜の三人も到着次第魔力を練り上げる。

 

 その緊迫した空気の中で、ズェピアの返答が嫌に良く響く。

 

「アレはクトゥルフ。クルウルウ、九頭竜などの別名がある怪物だ。……最も、魔術師であればこの呼び方の方が脅威を察しやすいか。ゾスの星のアルティメット・ワン『TYPE-ZOTH』。一つの星における究極生物がアレだ」

 

 その声と共に、ズェピアは影から更にウラドを呼び出して命じる。

 

「ヴラド君、エリザベート君、作戦を建てる時間を稼いでくれないかね」

「任せるが良い。私は防衛戦は得意だからな」

「プロデューサー、後で温泉旅行を要求するわよ」

 

 軽口と共に駆ける二人を確認し、ズェピアは並み居る英雄とそのマスターに向き直る。

 

「さて、作戦会議を始めよう、諸君」

 

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