茫然。ズェピアの台詞を聞いた後の英霊達の反応はまさしくそれだった。理由は2つ。彼の提案の真意を図りかねたのと、彼の真名に聞き覚えが無かったからである。
しかし、この空間を見つめるマスター達の反応は異なる。その顔は苦虫を噛み潰した様に歪み、早急に相手に対してどう対応するべきか考え始めていた。
そんな自分の「マスター」の様子に、セイバーは疑問を投げかける。
「アイリスフィール、あのサーヴァントを知って居るのですか?」
その質問に、アイリスフィールは表情を曇らせたまま答える。
「……えぇ、彼は魔術師の間では有名だもの。元、アトラス院院長で死徒27祖の先代13位、『狂人』ズェピア。……錬金術を嗜む者としては出逢えたことを喜ぶべきかしら。個人的には会いたくないタイプの敵なのだけれど……」
そう口ごもるアイリスフィールの言葉を引き継いだのは今まで戦車の中でうずくまっていたウェイバー・ベルベット。彼は先程名乗りやがった自分のサーヴァント、つまりライダーに愚痴の一つでも言おうとしていたのだが、今はそんな事もすっかり忘れ、怯えたように叫ぶ。
「コイツ、ステータスがおかしいっ!?」
いきなり叫んだ自分のマスターをイスカンダルはヒョイとつまみ上げ、質問する。
「坊主、もうちっと具体的に言え。何がどうおかしいのだ?」
「コイツ、コイツの幸運と魔力以外が全部A++なんだよ!!」
「……ふむ。A++とやらは、大体どれほどの物なのだ」
全く動じない自分のサーヴァントを見て落ち着いたのか、ウェイバーは溜め息を吐くとライダーにより分かり易く説明してやる事にした。
「はぁ……。お前6人分の馬鹿力とお前の3倍の頑丈さ、其処のランサーの1.5倍の速さを持ってる。判ったか?」
その答えにイスカンダルは一瞬目を見開くが、次の瞬間。爆笑を始めた。その姿にウェイバーの溜め息が増加したことは、言うまでもあるまい。
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ウェイバーが叫ぶのとほぼ同時刻。衛宮切嗣は自分も叫びたいような気分だった。セイバーはランサーの魔槍による不治の傷に必殺技を封じられ、現在ランサーと何とか拮抗する事しかできない。 当然先程のライダーの宝具らしき戦車に対抗出来るだけの余力は無いだろう。
そんな中チラリと見たズェピアのステータスは、切嗣をして戦慄を禁じ得ないモノだった。
……ナンダ、アレハ。
そんな風に、一瞬思考をフリーズさせてしまった切嗣を誰も責められまい。それ程にそのステータスは絶大だった。一体、どれほどの英霊がどれほどの魔力供給を得れば、あんな化け物が生まれるのか。
そんな中、彼は更なるマイナス要素に直面する羽目となる。
「舞弥、其方からバーサーカーのマスターを視認出来るか?」
そう投げ掛けた言葉に応答はない。それはつまり。
「……くそっ、舞弥に何かあったか。……最悪だ」
実のところ、切嗣は既にランサーのマスターを発見していた。サーモカメラ。映像化した温度を見る装置であり、体温を偽装していなかったランサーのマスターはあっさりこれで見つかっている。だが、切嗣には狙撃できない理由があった。
「アサシンさえいなければッ……!」
切嗣がチラリと見たのは倉庫街を一望出来るデリッククレーンの上。其処に、『脱落したはずのアサシン』がいる。
切嗣はとびきりの苦い顔をして唇を噛み、爆笑するライダーへと視線を向ける。
今夜はキリの良いところで撤退しよう。
そう判断した切嗣はまだ知らない。この後、戦場がよりカオスに近づく事を。
煤けた背中の切嗣の背後で『今日の運勢最下位は蠍座のアナタ!今日は夜中になれば成る程ろくな事がありません。ラッキーアイテムは枕です』などと書いた新聞が風に巻かれて飛んで行った。