考察材料:
・命令してもデスナイトの処分は拒否した
・裏切ったと思われたシャルティアに対する階層守護者の戦意は旺盛だった
・コキュートスはアインズ様とガチバトルによる鍛錬をしたいらしい
……基本的にはシモベ同士で戦うことは嫌がりそうなんだけど絶対ではない。強烈に脅しつければやむなく従う形には持って行けそうと言うのが素直に解釈した感じですが、あんまりプレアデスを苛めるとここまでの雰囲気が台無しなんで、このSSではガチバトル鍛錬券の話を最大限に拡大解釈して採用しています。
グレーターとアークなデーモンのレベルは、プレアデスの相手として幾つが相応しいかということから逆算して設定しています。
傾斜のついた滑り台を十数メートルも加速すれば、体感的にも結構な速度に達する。勢いのついたプレアデス達の体を、シュートの端に設置された柔らかい床が優しく受け止めた。
だが床に見えたそれは実際には弁であり、受け止めた者達の勢いを殺した後に飲み込んで下へと排出する。その先は地下十階の天井であり、弁の下には今度こそ本当に柔らかいクッションが吐き出された彼女達を受け止めるという親切設計である。尤も、そんなものは無くても十メートル程度の落下ごときでダメージを受けはしないのだが……
プレアデス達が落ち着いて体を起こすと、地下十階の威容が一行の前に姿を現した。岩盤をくりぬいたと思われる岩壁も、形だけは整えた地肌が剥き出しの床も、そこまでに目にしてきた地下迷宮とは一風変わった荒々しい自然の息吹を残している。底冷えのする空気の中、岩盤の奥から流れてくるのはこの先に潜む何者かの禍々しい気配であるかのようだった。
シュートを滑り落ちてくれば嫌でも目に入る位置に、額に飾られたメッセージと思しき落書きが立てかけられていた。
* 大魔導師アグノモンの領地を侵す哀れな侵入者に施しをくれてやろう *
“コントラ―デクストラ―アベニュー”
「……どういう意味っすか、これ?」
ルプスレギナの疑問に答えられる者は居なかった。何よりも現在の彼女達はまどろっこしい謎かけに付き合うような精神状態ではない。
彼女達が下りてきたのは二股に分かれた道の角であったが、右手の先は即座に行き止まりになる壁が見えており、そこに設置された物は彼女達にも馴染みのあるものである。
「転移門……よねあれ」
ユリが呟くと、一同は同意の頷きを返す。ナザリック地下大墳墓の階層間移動に使われるのと同じものが、通路の行き止まりに設置されている。十階に下りてきて早々、転移してどうぞでもないだろう。
『あれは地上に帰還するための転移門だ。左の通路を奥に進め』
プレアデスに右往左往させるつもりはないとばかりに、アインズの指示が降ってくる。一同はそれに従って奥に進むと、古めかしくも頑丈そうな樫の扉に突き当たり、指示に従って扉を開け中の部屋に入り込んだ。
部屋の中は大広間であった。縦は巨人でも
しかし、今その広大な空間に存在するのは唯の一体。爬虫類をベースにしたと思しき鱗に覆われた肉体に鋭い爪を生やした豪腕を持ち、蛇の尻尾と燃え上がる翼を持つ異形の悪魔である。
「
そう呟いたユリの声に反応し、
だが、ナザリック地下大墳墓のシモベにとって、自身の価値を示す指標は決して強さだけには留まらない。至高の御方々が直接創造し、設定と名を与えた。その事実は彼らにとって何より重い。極端に言えば、固有名を賜っていない
アインズではなくデミウルゴスの直轄であり、ギルドメンバーの創造に依らず、ユグドラシルのモンスターを配置した存在である
『さて、お前達……次の質問だが、そこの
顔を見合わせたプレアデス達が、アインズの命令を拒否し続けることに後ろめたさを感じながらも頭を振るその様子を見て、アインズはふむと納得する。アインズが生み出した
だがまあ、それも予想の範疇ではある。どのみち、
『さて……こちらが本命だ。この召喚モンスター達を相手にお前達の実力を見せて貰いたい。言わば演習だが……できるか?』
ここに来るまでにナザリックで自動湧きするPOPモンスターを配置していたが、それとは問題なく戦闘し撃破している。自動湧きだからナザリック地下大墳墓に対する害にはならないというのであれば、スキルで召喚する眷族も似たような物であり、召喚主がアインズ自身でなければアインズお手製のシモベという遠慮も働かないのではないか。そして駄目押しに差し込んだ演習という言葉。かつて、コキュートスがアインズに対し「ガチバトルによる鍛錬」を希望したことが脳裏をよぎる。すなわち、訓練という名目があれば、アインズと直接矛を交えることさえも平気なのだ。果たして、プレアデス達は少しの間頭を付き合わせて逡巡した後、向き直って頷いた。
「かしこまりました、アインズ様。ご期待に添えるよう微力を尽くします」
各種の葛藤に対して
『うむ、期待しているぞ。では、
「
互いの距離が離れている以上、初手は遠距離からの魔法戦となる。口火を切ったのはナーベラルであった。得意とする雷系統の攻撃魔法、両の手から生み出された二頭の竜が中空を切り裂いて
二体の
だが、勿論ナーベラルが何も考えていなかったわけではない。
「ルプスレギナ、冷気防御! エントマ優先!」
「
ルプスレギナが素早く応答し、冷気属性への防御魔法を展開する。ユリがエントマを優先するよう指示したのは、
「
ルプスレギナが魔法を発動した直後、
ゲームであればプレアデス全員にまんべんなく、しかし乱数による不均一なダメージを与える攻撃魔法の処理は、現実となった世界では多少その働き方が異なっていた。すなわち、先頭に立って背後を庇い、氷の嵐の正面から直撃を引き受けたユリがその威力の大部分を引き受け、後方の妹達へのダメージを最低限に逸らしたのである。そして、アンデッドであるユリ・アルファは冷気属性に対する高い耐性を持ち、冷気に弱いエントマには防御魔法をかけて属性ダメージを無効化した。結果、
その間、集団から飛び出したソリュシャンが、攻撃呪文を放った
しかし、ガトリングガンを思わせる轟音を発して殺到した鋼弾蟲は、
残る一体、詠唱を中断させられた
「
甲高くひび割れた不快な声が死の呪文を紡ぐと、部屋の中央に魔法の力場が展開され、周囲の酸素を奪って消失した。直接攻撃を仕掛けた
「……!? 皆!」
ところでアンデッドのユリは、呼吸が不要なのでこの呪文の影響を一切受けない。眼前の
空中に発生した竜巻が部屋の中の空気を強引に攪拌し、魔法範囲外から酸素を持ってくると、三人の顔に赤みが差した。ホッとしかけるユリに、咳き込んだナーベラルの叱咤が飛んだ。
「姉様、前を!」
ハッとしたユリが拳を構えて向き直ると、炎の鞭を構えて近寄ってくる
「……ッ!」
『とりあえず、雑魚は片付けてボスのタゲは取れたか……
防御の上からでもがっつりと削られるユリの体力は、注意して管理しないと容易くゼロになるであろう。ルプスレギナが様子を見ながら回復魔法を飛ばす。ナーベラルとエントマが、バフを維持しつつ、
シズが不可視状態から不意を突いて狙撃する。その攻撃で、
ともあれ、基本的な戦闘の形は完成した。
『しかし、ヘイトという奴もこれでなかなか不思議なものだな。理性的に考えれば、がむしゃらにタンクを攻撃するのではなくヒーラーを集中攻撃して潰すべきだというのはAIでない人間には誰にだって分かる理屈なのに、そこはゲーム同様にスキルによってタゲ取りをされてしまう……私も
アインズは伝える気のない独り言を呟きつつ、冷静に戦闘の様子を観察する。
『ふむ、十分にやるではないか。腐っても姉妹ということか? いや腐ってもは言葉の綾だけど。ザイトル……なんだっけか、あのオバケトレント戦で守護者達が見せたのは、要するに順番に攻撃してるだけですとでも言うしかない連携と言うには拙いものであったが……結局は、個々でも圧倒できるだけの実力差があったのがいかんのかなやはり』
『とりあえずは満足するに足るものを見せて貰ったが……せっかくの機会だ、アクシデントへの対応も見るとしよう。
「む、みんな気をつけ……!?」
「
右手の鞭でユリと打ち合いながら、左手に魔力を蓄積させた
瞬間、
「ユリ姉様!?」
「く、この……爆散符ぅ!!」
時間を稼ぐべく、エントマが投げつけた符が
「か……は……!」
「ユリ姉様!?」
ユリの口から苦悶が零れる。それを耳にした妹達から悲鳴が上がった。
『さて、これで均衡が崩れたわけだが……事故でタンクが落ちることはよくあること、このまま崩れるようではいただけないな』
戦況を眺めるアインズが呟く。
「いけない……ルプス、ユリ姉様を!」
ソリュシャンが両手に短刀を閃かせて
『ルプスレギナは当然ユリの回復にまわるから、残る前衛はソリュシャンだけだ。
「
「助かるわ、ナーベ! 挟み込んで時間稼ぎお願い!」
一人では務まらないが、二人でなら話は別だ。ソリュシャンとナーベラルは
「ソーちゃん、ナーちゃん、お待たせっす!」
「ナーベラルご苦労、下がって!」
「姉様! よかった……!」
そして決定打を与えられぬままに、全身の火傷を治療されたユリがルプスレギナと戦線に復帰した。
『ふむ。
アインズの言葉を受けた
『さてと。本来十階層には“大魔導師アグノモン”の親衛隊として、六つのチームを六つの玄室に配置する予定だったが……今回は止めにしておこう。試したかったことは今の戦闘で確認できたし、繰り返すだけプレアデスの精神を無駄にすり減らすことになりそうだ』
別に私はプレアデスを苛めたいわけじゃないからな。
続く玄室が無人であることを訝しみつつも、おっかなびっくりプレアデス達が最後の扉に辿り着く。扉の上部には額縁にこんな言葉が書かれていた。
*** 邪悪な魔導師アグノモンの事務所 ***
*** 営業時間09:00~15:00 ***
「……シズ、今何時か分かる?」
胡散臭そうな目つきで看板の文字を読み取ったユリが、目を外さずにシズに尋ねると、
「…………現在十六時二十七分。部屋の主は不在と推定」
その声を聞いて、ルプスレギナが不審そうにノブに下がった札をつまみ上げる。形状としてはホテルの“Don'tDisturb”カードである。
「……でも、この札は“在室中”になってるっすよ? 裏が“不在”なんだから居るってことじゃないっすか?」
「まあ、とにかく……主が居ようが居まいが、入ってみるしかないでしょうね」
ソリュシャンがまとめると、一同は頷いた。
なんとなく蹴り開けるのは躊躇われたが、さりとてノックするのも何か違う。中途半端な気分で恐る恐るノブを回し、扉を押し開ける。
部屋の中は事務所という感じはしない。一言で言うと、謁見の間というのが相応しく思えるその広間は、扉をくぐった正面から奥まで、石造りの広間を縦断する絨毯が延びている。その奥の際には二段の段差による高低差がつけられており、三十センチ高いその上座には大理石の玉座が据え付けられていた。広間の左右端には
「――我が地下迷宮の最深部へようこそ、冒険者諸君。私がこのダンジョンの主、“大魔導師アグノモン”である」
泣いているとも笑っているとも窺い知れぬ不気味な仮面で素顔を隠し、漆黒のローブに身を包む
大魔導師アグノモンと名乗ったその人影は、全体的に、その昔どこかの開拓村に現れた謎の
《コントラ―デクストラ―アベニュー》
迷宮の主から投げかけられた、地下10階を攻略するためのヒント(※1)。
結論から言ってしまえば、「左が正解」という程度の意味であり、各玄室に必ず二つある(※2)ワープゾーンの先に進む方を教えてくれるアドバイスである。
より詳細に解説するなら、
※1:謎かけを解くよりマッピングする方が遙かに早い。というか当時作者は唐突に出てきた横文字の意味が分からず、フレーバーテキストの類と見なして完全に無視したという逸話がある。まさかあれがリドルの類だったなんて思わなかったよ……
※2:もう1個は最初に戻るだけなので、ゲーム的に言えば多少の手間がかかるだけであり、マッピングした方が(ry)
※3:敢えて右手に盾を持つ、某世界でモンスターを狩るハンター達は謎解きを真に受けると永遠に奥に辿り着けないことになるが……あの連中ならこんな文言は無視してめくらめっぽうに奥まで突撃するだろうから逆に問題はないのかもしれない。
《
【建前】
初期Wizの顔と言っても過言ではないWizardryを代表する凶悪モンスター。
名前の通り、
【本音】
一方で、頭のおかしい廃人達にとっては全く別の意味でWizを代表するモンスターである。
クリティカルヒットやエナジードレインなどの、致命的な効果を持たない通常攻撃。
ここで重要になるのは、呪文の封印効果は敵グループ間で共有されるというシステムである。つまり、呪文を封じられたグレーターデーモンが呼ぶ仲間は、出てきた瞬間から呪文が封じられているのである。ここまで言えばお分かりだろうか。このモンスター、「養殖」と呼ばれる経験値稼ぎに最適であるとして、廃人級冒険者により積極的な狩りの対象に選ばれる
※4:四匹で現れた
※5:撃破数で上回る可能性があるのは、Aボタンを物理固定して放置するという後のBOTの走りみたいな稼ぎ方ができるマーフィーズゴースト先生くらいである。
《
……初見がLOLだったプレイヤーなら、なんか弱っちくて影薄いんだよなあという作者の素直なイメージに共感して貰えると思います。
《
魔力系第五位階魔法(様式美)。
位階が上がる毎に順調に強くなってきた攻撃魔法であり、次の位階では普通の攻撃魔法が存在しないことも合わせて、最大の攻撃魔法である
《
魔力系第六位階魔法(ry)。
効果範囲中の酸素を消滅させ範囲内の敵を窒息させる即死魔法であり、通常のダメージを与える攻撃魔法とは処理が異なる。酸素を奪うという説と空気を奪うという説があるが、真空状態の処理が入ると考えるのが面倒なので酸素説を採用。
言ってしまえばザラキなのだが、ザラキよりはあてになるのでそんな言い方は失礼か。この呪文の大きな特徴として、この呪文を覚える頃にはそれを持ったモンスターがぽこじゃか沸いてくる、呪文無効化能力を無視できるという特性がある。要するに通常の攻撃呪文を無効化する敵にも即死判定が入る。ただ、即死系呪文というのは敵が使うと厄介極まりないが、味方が撃っても無傷で残る数体が必ず出るために、決定力に欠ける印象があって不憫である。
《
魔力系第七位階魔法(ry)。
Wizardry作中最強の攻撃力を誇る全体攻撃呪文。
敵の中心で核融合爆発を引き起こして全体に大ダメージを与えるという物騒な設定があったりするが、放射線による二次災害などが起こったりする心配はない。爆発なのだから火属性かと思いきゃ、立派な無属性攻撃である。前述したようにWizに属性の概念は薄いので意味はないが……このSSではルプーがユリに当然の如くかけていた、
ともあれ、呪文による攻撃の威力は作中最強のこの魔法を覚えた時点で打ち止めである。以降はレベルを上げて物理で殴る前衛職にぐいぐいと追いつかれ追い抜かれ引き離されていく運命にあるが、前衛職の攻撃はあくまで単体対象なのでまあそこまで悲嘆に暮れる必要はないだろう。
《
魔力系第二位階魔法(ry)。
使用者の体を透明にすることでACを4下げる防御呪文。
ただし、他人にかけられない為、後衛の魔法使いが自分のACを下げることに意味はなく、戦士でもある侍が前衛で唱えたところで、元々防具で十分なACを稼いでいるのにわざわざ行動を消費するほどの価値があるかというと……
《ワードナの事務所》
AM9:00~PM3:00という一見ホワイトな労働環境に見えて、その実態は二十四時間態勢でワンオペ在室中であるという、ブラック極まりない引き籠もりの巣。
実際には時間ではなく「ワードナを倒した証」(魔除けor階級章)の所持を判定しているだけであり、二度は謁見できないシナリオボス感を演出している。