いつもの通学。いつもの学校生活を送り、いつものように帰宅して、いつも通り1日を終える。
それが青年、神崎鷹人(かんざきたかと)の日常だった。某有名大学に進学した鷹人は平均的な成績を維持し、そこら辺の学生となんら変わりなく過ごしていただけの普通の青年だ
また、今日もいつも通りの日常が始まる。はずだった
電車を待ちながら、眠気を堪え目を擦り欠伸を一つ。そう、いつも通りの朝だった
背中を押されるような衝撃と共に青年の体は前のめりに傾いていく。横を向けば電車はもう目の前まで来ていた、死ぬ瞬間は走馬灯を見ると言うがその時の鷹人は目の前に迫ってくる絶対の死をただスローモーションに捉えていた
現実に頭が追いつかない。何故、自分は今電車の前にまるで飛び降りるように出ているのか。押されたのか、誰に?
何故、どうして。自分が
そこまで考えてから彼の思考は止まり、20年という短い人生に幕を下ろした
暗闇に落ちていく感覚の中、鷹人は思う。やり残した事がまだあった、努力して有名な大学に進学し良い企業に就職して運命の出会いというやつを果たして家庭を持ちたい。平凡でも幸せな生活を送りたい。そんな事を考えていた
しかし、それも終わってしまった。暗闇の中、最後に映った景色が目に浮かぶ
あぁ、自分は死んだのだと。これまでの事を振り返り、友人や家族の事を思い出し涙を流した
これがきっと、走馬灯なのだろうか
受け入れ難くとも受け入れなくてはならない絶対の真実。それが死だ
一度死ねば二度とやり直しはきかない。それが、人生だ
「何もしてねェ・・・俺はまだ何も。死にたく・・ない」
嗚咽を漏らしながら。ただ、静かに暗闇へと深く深く落ちていく
「何か成し得たい事でもあったのか」
幻聴か。声が響く
「俺は、ただ。生きていたかった、こんな納得のいかない死に方があって・・・たまるかよ!!」
やりきれない思いを涙と共に吐き出していく
「ただ、生きていたかった。か」
声の主が誰なのか。何故語りかけてきているのか、それを考えている余裕などあるはずもない
何故なら既に全て終わった事なのだから
「その言葉に嘘偽りが無いのなら。今一度、お前に命を与えよう」
これもまた妄想。受け入れたく無い現実を必死に振り払うための妄想なのだ、生きていた頃は感じなかった様々な事が思い浮かぶ。何気無い日々、その1日1日が大切なものだったのだと実感する。何気ない人との触れ合いや取るに足らないやり取り。その全てがかけがえのないものだった。失ってから初めて気がつくとは良く言ったものだ
「だが、それは生命の環から外れることを意味する。本来、あってはならない事だ。次にお前を待つものは死ではない。無、そのものだ。それでもお前は生きたいか」
鷹人は精一杯叫ぶ
「生きたい!!」
「ならば、お前に全知全能の加護を与え使徒として、ある世界に送ろう。生命の環を乱すことはあってはならない。だが、その世界では生命の流れに乱れが生じている。何者かが命の流れを遡っているのだ。星の数ほどある運命をその者が操作しているのやもしれん。お前はその世界に降り立ち調整を施すのだ。我は生ける者全ての祈りにより顕現するもの。本来なら我が調整を施すべきだが、あの世界には我の力を阻む何かがある。お前の判断で構わない、その世界をその眼で見極めるのだ」
「調整?全知全能?ど、どういうことだよ」
「お前に与えられしは崩壊の力。使うも使わぬもお前次第だ。いずれ向こう側で自覚の兆しも現れることだろう。だが、忘れるな。生命の環を外れたお前に死はない。あるのは無だ」
「待ってくれ!ようやく少し冷静になってきたんだ!話を・・・!!」
ようやく我に返った鷹人はただならぬ言葉や雰囲気を感じ取り必死に声を上げる
「使徒は与えられた運命に背くことはできぬ。ただ、生きたいというその願い。それは、確かに聞き遂げた」
声の主が遠のく感覚。それと同時にまるで海の中に沈むように自分の感覚が鈍くなっていく
妄想だと思っていたものは現実だったのか、それとも本当にただの妄想だったのか
再び混乱する頭が停止していく
一度きりのやり直し。いや、正確にはやり直しではない
言葉を額縁通りに捉えられ、叶えられた祈り。決して交わるはずのない二人が出会う事で本来なぞられる筈だった運命は変わり始める。二人の変革者がもたらすのは幸せか不幸か
これは。運命に抗う者と。運命から逃れる事のできない者の物語
拙い文になりますが、よろしくお願いします