あなたのうしろに▼
強い雨だった。
僕はただ、胸の鋭い痛みに倒れ伏している。
声も出せなければ、上手く息も吸えない。
昔みたパラノイアの映像のような、
紫、赤、緑、黒い稲妻。
目の前はただチカチカと明滅し、ノイズのような雨音も、だんだんと遠くなっていく。
なんとも情けない。
全身が痺れているかのように、感覚が遠ざかる。
思い出が駆け巡るように流れてゆき、そして一つ一つ消えていく。
そのまま意識も、どんどん、しびれて━━━━━━。
覚えているのはそれだけだった。
気付けば僕は真新しい墓の前に立っていた。
辺りを見渡せば、几帳面に区切られ、綺麗に整理された墓がいくつも並んでいる。
(…ここは)
広がる青空と、見渡す限りの墓石。
雨は降っていない。
ここは、どこかの霊園のようだ。
白昼夢か、あるいは夢の中か。
状況に対して理解が追いついていないはずなのに、自分でも驚くほどに冷静で、それがなんとも言えない気持ち悪さを抱かせた。
もう一度、正面の墓石を見る。
(なんで、こんな場所━━━)
目の前にある墓石にも、今僕がいる場所自体にも、心当たりがあった。
というよりも、間違いなく知っている。
━━新藤家。
目の前にあるそう刻まれている墓石は、母の眠る僕の家の墓であり、ここは、それを管理している霊園。
隣の墓や、敷地の外に広がる藪にも見覚えがあった。
間違いない。
なんでこんな場所に、などと僕が考えこんでいると。
「あのぅ、すみません」
と、背後から声が聞こえた。
その声に慌てて向き直り、なぜか反射的に頭を下げようとする。
「す、すみません、すぐどきますから」
自分の家の墓前に立っているということも失念し、なんとも情けなく場所を移ろうとする僕を、声の主もまた慌ててそれを制し、頭を下げた。
見たところ若い印象のスーツを着た女性だった。
「いやいや、大丈夫です!急に声をかけてごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ勝手に慌ててしまって…」
お互いが恐縮です、と言わんばかりの情けないやり取りをしてペコペコと頭を下げる。
そんな不毛なやり取りを交わしたところで、スーツの女性はこほん、と一つ咳払いをして仕切り直す。
「━━失礼しました。ええっと…シンドウハルカさん、で間違いありませんか?」
「あ、はい。確かに僕は新藤遥ですが…」
どうして、
名前を。この場所にいることを。
そう続けようとするが、言葉が繋がらない。
そんな様子をみたその女性は、慌てた様子で懐から名刺を取りだし、再び頭を下げる。
「ああ!?す、すみません!申し遅れました!
私、転生支援課のイサナトモミです!」
「これはどうもご丁寧に…」
差し出された名刺には、
リンネコンサルタントグループ
転生支援課 伊佐名 智美
と書かれていた。
よく見るとフリーダイヤルの電話番号も記載されている。
「リンネ、コンサルタントグループ…?」
怪しさ満点だ。聞いたこともない会社、それに転生支援…?とかなんとか。
試しに読み上げながら彼女の顔色を伺うが、人懐こそうな笑顔を浮かべ、ただニコニコとこちらをみているだけだった。
どうリアクションするのが正解なのだろう。
というよりこれは関わらないほうがいいのでは…?
僕がそんな疑念を抱いているとも知ってか知らずか、笑顔を崩さないまま彼女は話し始めた。
「新藤さんが次の輪廻に乗るまで、私がキチンとサポートさせていただきますからね!」
安心してください!と彼女。
僕は今まさに不安でいっぱいである。
多分僕は今、
なんの話をされているのかもよくわからないけれど、電波的なアレか宗教的なアレに絡まれている!
それも、母の墓前で!
「では、とりあえずこの携帯電話と、浮遊霊証明書をお渡ししますね!これは絶対になくさないで下さいね!」
内心でドン引きしている僕を余所に、彼女は肩から下げた鞄から何かを取り出す。
首から下げられるような紐のついた名札のようなもの
(浮遊霊証明書 新藤遥 と書いてある。)と、白いスマートフォンのようなものが差し出される。
そろそろツッコミを入れないとマズイ。
「あの…?」
「はい?どうしました?」
相変わらずニコニコとしたままである。
「先ほどから何を…」
言っているんですか?といいきる前に、彼女は再び慌てはじめた。
「す、すみません!まだ思い出してなかったんですね!ごめんなさい!」
「いや、謝らなくても大丈夫ですけど」
思い出す?何を?
チクリ、と胸の辺り痛んだような━━━
「あなたは、先日亡くなったんです」