新人浮遊霊の受難   作:rosetta08

1 / 2


あなたのうしろに▼


一話 私のお墓のまえで

 

 

 

強い雨だった。

 

僕はただ、胸の鋭い痛みに倒れ伏している。

 

声も出せなければ、上手く息も吸えない。

 

昔みたパラノイアの映像のような、

紫、赤、緑、黒い稲妻。

 

目の前はただチカチカと明滅し、ノイズのような雨音も、だんだんと遠くなっていく。

 

なんとも情けない。

 

全身が痺れているかのように、感覚が遠ざかる。

 

思い出が駆け巡るように流れてゆき、そして一つ一つ消えていく。

 

そのまま意識も、どんどん、しびれて━━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

覚えているのはそれだけだった。

 

気付けば僕は真新しい墓の前に立っていた。

 

辺りを見渡せば、几帳面に区切られ、綺麗に整理された墓がいくつも並んでいる。

 

(…ここは)

 

広がる青空と、見渡す限りの墓石。

 

雨は降っていない。

 

ここは、どこかの霊園のようだ。

 

白昼夢か、あるいは夢の中か。

 

状況に対して理解が追いついていないはずなのに、自分でも驚くほどに冷静で、それがなんとも言えない気持ち悪さを抱かせた。

 

もう一度、正面の墓石を見る。

 

(なんで、こんな場所━━━)

 

目の前にある墓石にも、今僕がいる場所自体にも、心当たりがあった。

 

というよりも、間違いなく知っている。

 

━━新藤家。

 

目の前にあるそう刻まれている墓石は、母の眠る僕の家の墓であり、ここは、それを管理している霊園。

 

隣の墓や、敷地の外に広がる藪にも見覚えがあった。

 

間違いない。

 

 

 

 

なんでこんな場所に、などと僕が考えこんでいると。

 

「あのぅ、すみません」

 

と、背後から声が聞こえた。

 

その声に慌てて向き直り、なぜか反射的に頭を下げようとする。

 

「す、すみません、すぐどきますから」

 

自分の家の墓前に立っているということも失念し、なんとも情けなく場所を移ろうとする僕を、声の主もまた慌ててそれを制し、頭を下げた。

 

見たところ若い印象のスーツを着た女性だった。

 

「いやいや、大丈夫です!急に声をかけてごめんなさい!」

 

「いえ、こちらこそ勝手に慌ててしまって…」

 

お互いが恐縮です、と言わんばかりの情けないやり取りをしてペコペコと頭を下げる。

 

そんな不毛なやり取りを交わしたところで、スーツの女性はこほん、と一つ咳払いをして仕切り直す。

 

「━━失礼しました。ええっと…シンドウハルカさん、で間違いありませんか?」

 

「あ、はい。確かに僕は新藤遥ですが…」

 

どうして、

名前を。この場所にいることを。

 

そう続けようとするが、言葉が繋がらない。

 

そんな様子をみたその女性は、慌てた様子で懐から名刺を取りだし、再び頭を下げる。

 

「ああ!?す、すみません!申し遅れました!

私、転生支援課のイサナトモミです!」

 

「これはどうもご丁寧に…」

 

差し出された名刺には、

 

リンネコンサルタントグループ

転生支援課 伊佐名 智美

 

と書かれていた。

よく見るとフリーダイヤルの電話番号も記載されている。

 

「リンネ、コンサルタントグループ…?」

 

怪しさ満点だ。聞いたこともない会社、それに転生支援…?とかなんとか。

 

試しに読み上げながら彼女の顔色を伺うが、人懐こそうな笑顔を浮かべ、ただニコニコとこちらをみているだけだった。

 

どうリアクションするのが正解なのだろう。

 

というよりこれは関わらないほうがいいのでは…?

 

僕がそんな疑念を抱いているとも知ってか知らずか、笑顔を崩さないまま彼女は話し始めた。

 

「新藤さんが次の輪廻に乗るまで、私がキチンとサポートさせていただきますからね!」

 

安心してください!と彼女。

 

僕は今まさに不安でいっぱいである。

 

多分僕は今、

なんの話をされているのかもよくわからないけれど、電波的なアレか宗教的なアレに絡まれている!

それも、母の墓前で!

 

「では、とりあえずこの携帯電話と、浮遊霊証明書をお渡ししますね!これは絶対になくさないで下さいね!」

 

内心でドン引きしている僕を余所に、彼女は肩から下げた鞄から何かを取り出す。

 

首から下げられるような紐のついた名札のようなもの

(浮遊霊証明書 新藤遥 と書いてある。)と、白いスマートフォンのようなものが差し出される。

 

そろそろツッコミを入れないとマズイ。

 

「あの…?」

 

「はい?どうしました?」

 

相変わらずニコニコとしたままである。

 

「先ほどから何を…」

 

言っているんですか?といいきる前に、彼女は再び慌てはじめた。

 

「す、すみません!まだ思い出してなかったんですね!ごめんなさい!」

 

「いや、謝らなくても大丈夫ですけど」

 

思い出す?何を?

 

チクリ、と胸の辺り痛んだような━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは、先日亡くなったんです」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。