オーバーロード P+N シャルティアになったモモンガさん   作:まりぃ・F

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第4話 惨劇の村

 モモンガは地面に横たわったまま、動けないでいた。もっともケガをしたとかそういうことではない。さまざまなスキルなどで守られたシャルティアの身体には、この程度ではダメージなど一切入らないのだ。

 ダメージを受けたのは、モモンガの精神のほうである。

 

(ああ……やった……やらかした……)

 

 モモンガは、新たに加わってしまった黒歴史の一ページに悶絶していた。

 

 

 

 

 それから数日に渡って、モモンガは森の中をさまよった。初めて見る大自然をじっくり眺めながらの旅も楽しいものではあったが、この世界の概要についても調べないわけにはいかない。

 

「おっ、あれは……」

 

 モモンガは、飛行の魔法で少し高めに上がって周囲を見渡していた。その驚異的な視力が、遥か彼方にある森の切れ目を捉える。

 モモンガは高度を落として、森の上部ギリギリに隠れるように飛行した。速度を上げつつ、なるべく目立たないよう木々の間を抜けていく。やがて森の外周近辺へとたどり着くと、ゆっくりと着地しようとした。

 その時、たちのぼる煙が視界の隅に入り込んでくる。見たところ、それほど距離はないようだった。

 

(人がいるのか?)

 

 じっと目を凝らしてみると、小屋のようなものが見える。集落でもあるのかもしれない。動いていないはずの心臓が、ひとつ鼓動を高めたような気がした。

 モモンガは着地すると、慎重に歩きはじめる。現地人とのファーストコンタクトは、なるべく失敗させたくはなかった。姿を消して様子を見ることも考えたが、万が一見つかった場合敵対行動と取られかねない。いざという時の逃走手段を脳裏にリストアップしながら、集落らしき場所を目指した。

 少し歩いたところで、前方に森の終わりが見えてくる。そしてその向こうに、いくつもの建物があった。あまり立派とは言えない、正直みすぼらしいものだったが、確かに何者かが作ったものだ。ここからだと全体像は掴めなかったが、あまり大きくない村落のように見える。

 あたりを見渡していたモモンガの目が、集落の外れ近くに倒れている人影を捉えた。この世界に来てからはじめて見る人間らしき姿である。モモンガは興奮しつつも足を止めて木の陰に身を隠した。

 

(だけど、これは……血の匂い)

 

 モモンガは不穏な気配を感じ、しばらく人影と周囲を観察する。しかし他には注意を引くものは何も見あたらず、人影もピクリとも動かなかった。とりあえず大丈夫と判断し、ゆっくりと近づいていく。そのまま何事もなく、人影のもとにたどり着いた。

 倒れていたのは、素朴な身なりの少女たちだった。ふたりが折り重なるように横たわっている。その姿は、どう見ても普通の人間だった。これならこの世界のものとも意志の疎通も可能かと、安堵する。庇うように上になっているのがシャルティアより少し年上らしき少女で、下になっているのが年下の幼女だ。

 しかし、確認はしなくともわかる。あきらかにふたりは、息絶えていた。傷はいくつかあったがおそらく、とどめに剣のようなものでもろとも串刺しにされたのだろう。

 

(うん、動揺はないな)

 

 血塗れの死体を目の当たりにしても、モモンガの心は平静を保っていた。自身の精神が変異していることが、確かに感じられる。やはり自分はモンスターになってしまったのだろう。

 しかし同時に、それだけではなかった。ふたりの少女の固く握りあった小さな手を見ていると、同情、憐れみといった感情が湧いてくるのが感じ取れる。

 

(まだ、人の心は残ってるんだな)

 

 そのことに少しだけ安心した。

 

 

 

 

 少女たちの傍らで静かに黙祷していると、金属がこすれたりぶつかるような音が近づいてきた。建物の陰からそっと様子を伺うと、金属鎧をまとったふたりの男が剣を片手に歩いてくる。

 

(騎士……?)

 

 そんな表現が当てはまる、完全武装の男たちだった。あたりを警戒しているようでもなく、だらけた態度で会話している。

 

(さてと……どうするか)

 

 あの騎士たちがこの凶行の犯人、もしくはその仲間である可能性は高い。となるとこのまま出会えば、まず間違いなくトラブルへと発展するだろう。ならば正しいのはこの場からすぐに立ち去ることだ。交渉するならば、もっと平和的な相手のほうがいい。

 だがそれでいいのかと、心のどこかが訴えていた。こと切れた少女たちの顔を見ていると、別にトラブルになってもかまわない、というよりなれとすら思える。それに――

 

(もしここで逃げちゃうと、次もなんか理屈つけて逃げちゃいそうなんだよな)

 

 情報は確かに足りない。別の機会を待つほうが賢明なのは明確だ。それでも。

 

(わがままになるって、決めたんだし)

 

 かつての自分であれば、決して採らなかったであろう選択。あるいは、力を得て気が大きくなっているだけなのかもしれなかったが。

 

(いや、そうでもないな。あの時だって)

 

 アインズ・ウール・ゴウンが発足した時の大胆な決定、ギルドのその後を決定づけたともいえるあのような行動が今こそ必要なのかもしれない。かかっているのは自分の命であるし、頼もしい仲間たちはひとりもいないけれど。

 

(みんなが遺してくれた力は、ここにあるんだから)

 

 胸に手をあて、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに意識を集中する。敗北などあり得ない。自分こそがアインズ・ウール・ゴウンなのだ。

 ただ鎧を装備できないことが不安材料ではある。森で試した結果、シャルティアの鎧を着るとモモンガの魔法はほとんど使えなくなった。モモンガは純粋な魔法詠唱者として作られているため、当然ではあったが。

 結局、鎧の防御力と魔法の状況対応力とを天秤にかけたモモンガは、後者を選んだ。これも当然だったが。

 モモンガは不安を振り切って前をまっすぐ見据え、背筋を伸ばして堂々と歩き出した。

 

 

 

 

 

 村の中央にある広場に、この村を襲撃した騎士たちがたむろしていた。集められた村人たちは、すでにほとんど殺されている。生きているのは、逃がす予定の数人だけだ。

 そんな村人たちを横目で見ながら、騎士のひとりロンデス・ディ・クランプは小さく舌打ちした。原因はこの部隊の指揮官であるベリュースである。

 箔づけのためだけに今回の作戦に参加したこの男は、とかくトラブルの種だった。襲撃が順調に終わったこともあってか、調子にのって部隊の足をあれこれ引っ張っている。今も部下に怒鳴り散らしていた。

 

(まったく、腹立ち紛れにボヤ騒ぎとか、勘弁してくれ)

 

 最終的には焼き払うとはいえ、物事には順番や手順といったものがある。それ以外にも色々あって、作戦はだいぶ遅延していた。

 

(エリオンたち、遅いな)

 

 見廻りに出たまま帰ってこない騎士がいる。さらなる遅れにロンデスは顔をしかめ、わめくベリュースを見てため息をついた。 

 

 

 

 

 

 

 見廻りをしていた騎士たちは、村のほぼ外れにある家の陰から現れた少女を見て絶句した。

 絶世としか表現のしようがない美貌、漆黒の見事なボールガウン。そして貴族、というよりも王族の、いや最早女王とでも言ったほうが適切な威厳をまとい歩く姿。この世ならざるものといった神秘的な雰囲気。辺境の開拓村にはあまりにそぐわない、場違いが過ぎる存在だ。

 騎士たちは誰何することも忘れ、その美し過ぎる姿に心を奪われている。ついでに大き過ぎる胸にも。

 

「お尋ねしたいことがあります」

 

 美しい少女の口が動いた。柔らかな声が男たちの耳に届く。

 

「あれはあなた方が行ったことでしょうか?」

 

 赤い瞳が傍らに倒れている少女たちに向けられた。男たちも釣られるようにそちらを見る。

 

「あ、ああ……そうさ」

 

 少し我に返った騎士が頷いた。そして気づく。自分たちでは絶対に手が届かないはずの、間近で見ることすら難しい女神のごとき美少女が、まさに手の届く範囲に立っていることに。

 

「ああはなりたくないだろう、おとなしくしてろよ」

「殺しゃしないからさ」

 

 騎士たちは下卑た笑みを浮かべ、剣をちらつかせながら迫ってくる。広場に連れていっても、隊長に取り上げられるだけだろう。ならここで楽しんだほうがいい。

 

(わかりやすいゲスでいいな)

 

 これなら遠慮はいらないだろうと、モモンガはむしろ喜んだ。シャルティアの腕が前に突き出され、細い指が何かを握りしめるかのように閉じられる。

 

「〈心臓掌握(グラスプ・ハート)〉」

 

 騎士のひとりが突然その場に崩れ落ちた。もうひとりがあわててしゃがみ込んで、様子を確かめる。しかしすでに男は絶命していた。何が起こったのかまったく理解出来ず、男は怯えた様子で後ずさる。

 

(うん、人を殺したのになんにも感じない)

 

 モモンガが使用したのは、全部で十ある内の第九位階という高位に属する即死魔法だ。自分が持っている常識など遥かに超えた領域の力に、男は震え上がる。

 

「うわあああ!」

 

 恐慌状態に陥った男は、きびすを返して逃げ出そうとした。むろんモモンガはそれを許さない。背中から雷撃の魔法に撃ち抜かれて、男は地に伏した。

 

「え?」

 

 使用したのは、第三位階の魔法である。第九位階では威力があり過ぎるとみて、弱い魔法に切り替え何発耐えられるのか試すつもりだった。それが一撃で終了。

 

(弱すぎるだろう……これ)

 

 モモンガは呆れつつ肩を落とした。念のためトコトコと歩み寄り、しゃがみ込んで指先で突っついてみる。むろんピクリとも動かなかった。

 

(さっきの俺の決意っていったい……)

 

 空回りしてしまったような恥ずかしさに、モモンガはうなだれた。しかしすぐに顔を上げる。

 

(いやいいんだ!始めないと始まらないし!それに、案ずるより生むが安しっていうしな!あれ、何で安いんだっけ?)

 

 その想いを現すように、シャルティアの小さなこぶしはキュッと握り込まれ、天を仰いだ可憐な顔はキリリと引き締められていた。

 

 

 

 

 この後さらに遭遇した騎士を、今度は殺さずに捕らえた。情報収集のためである。下っぱゆえに詳しいことまではわからなかったが、部隊の概要は掴めた。

 

(でも、バハルス帝国を装ったスレイン法国の人間って……それにここ、リ・エスティーゼ王国?)

 

 まったく聞いたことがない名前ばかりだ。やはりここはユグドラシルではないのだろう。

 

(もっと情報を集めないと)

 

 そのためには、部隊長クラスを尋問する必要がある。逃がさないよう準備しておくべきだ。幸い敵の力は大したことがないと大体わかっている。

 すでに事切れている騎士を残して、モモンガは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「まだ帰ってこないのか」

 

 ロンデスは苛立った声を上げた。見廻りに出た騎士たちが、ことごとく帰ってこない。さして広くもない村でこれは、あきらかに異常だ。

 

「何をやってる!役立たずめが!」

 

 ベリュースが怒鳴り散らしているが、周りの目は冷たい。おまえが一番役立たずだろうと、その視線は雄弁に語っていた。しかし、このままにしておくわけにもいかない。捜索の指示をロンデスが出そうとした時、広場に近づいてくる人影があった。

 それに気づいたものたちの身体が、石化でもしたかのように次々と硬直していく。シャルティア・ブラッドフォールンの美の前に。

 美しき令嬢はまるで宮廷の舞踏会にでも入場してくるかのように、優雅に広場へと足を踏み入れる。辺境のさびれたような村には、あまりに不釣り合いな姿だ。しかし場違いとは決して笑われない、場のほうをねじ伏せてしまうほどの美がそこには存在している。

 漆黒のボールガウンをまとった美姫は、広場の中央あたりで足を止め、小さくそして優雅に会釈した。

 

「こんにちは、皆さん」

 

 その姿にふさわしい美しく柔らかな声が、静まり切った広場の隅々まで届く。催眠術にでもかかったように見とれていたものたちの中で、真っ先に我に返ったのは意外な人物であった。

 

「そ、その女を捕らえろおお!」

 

 ベリュースの声が響く。もちろん、突然隊長としての使命感に目覚めたなどというはずもない。わかり易い欲望が爆発しただけだ。

 その声に押されるように、シャルティアに近いところにいた騎士がふたりほど前に出る。

 

「いいか!傷つけるんじゃないぞ!」

 

 腕を振り回しながら、ベリュースはわめいた。その顔は興奮しきっている。それもそうだろう、国でもそれなりの地位にある自分が見たことすらないほどの美姫が手に入るのだから。

 一方ロンデスは迷っていた。どうすべきかを。これがただの村娘などということはあり得ず、どこかの貴族令嬢なのは間違いないだろう。

 しかし何処の誰か見当もつかなかった。この王国で美姫といえば"黄金の姫"と渾名される王女が有名だが、あれはその名の通り金髪だ。他に比肩するような姫君の話は聞いたことがない。

 

(あるいは他国の……? まさかうちの国とは関係ないよな)

 

 だがいずれにせよ、供も連れずに行動することはないはずだ。いったいどうなっているのか。正直ベリュースの行為は止めたかったが、代案がない。こちらが身分を偽っている以上、まともな交渉は無理だ。

 

(捕らえて放置、ぐらいか?危害を加えるのはまずいな)

 

 ロンデスは取り敢えず進言しようと踏み出すが、それはすでに遅かった。もともと手遅れではあったのだが。

 

「〈魔法二重化(ツインマジック)魔法の矢(マジックアロー)〉」

 

 少女の周囲にいくつもの光点が浮かび、前方へ撃ち出される。光の軌跡を糸のように引きながら飛ぶ魔法の矢は、近づいてきた騎士たちを次々に撃ち抜いた。

 わずかな断末魔の悲鳴を残し、ふたり揃って大地に転がる。金属鎧のたてる音が、やけ大きく広場に響いた。

 

「あ……」

「ひっ!」

「魔法詠唱者?!」

 

 何名かの騎士があわてて剣を抜いて構える。それを見て他のものたちも後に続いた。

 しかしこれは、正しい行動とは言えない。相手が魔法詠唱者ならば、一気に距離を詰めるべきだったろう。だが真っ先に動けば、当然真っ先に的になる。それを恐れて誰も動くことが出来なかった。

 

「な、何をしてる!早く捕らえんか!」

 

 こそこそと部下を盾にして、ベリュースがまだわめきたてている。その声に興味を引かれたように、シャルティアの真紅の瞳が向けられた。

 

「ひ、ひいっ」

 

 ベリュースはますます身体を縮め、部下を前に押し出す。そんなことをしても意味はないのに。

 

「と、捕らえたやつには、金貨100、いや200だ!」

 

 その声を受け、欲望に負けた者たちが互いに目配せしながら動き出した。しかし、一歩動いたところでひとりが雷撃の魔法に貫かれる。あえなく倒れる仲間を見て、全員が恐怖で足を凍りつかせた。

 

「さあ、次はどなたですか?」

 

 漆黒の死神が優しく問いかける。前に出れば死、逃げようとしても背中から撃たれるだろう。もはやベリュースすら口をつぐんでただ震えていた。

 この状況をどうにかするには、全員で一斉に襲いかかるか逃げ出すかのどちらかを選ぶしかない。しかしどちらにせよ、動きを揃えるのは不可能だろう。

 騎士たちはどうすることも出来ずに、震えながら立ち尽くしていた。

 そんな騎士たちを見ても、村の様子を見てまわったモモンガは欠片も同情する気はない。

 

(少しは、殺された人たちの気持ちを味わってから死んでいけ)

 

 自分はここまで過激な人間だったかなあ、という疑問もないこともなかったが。

 

 

 

 

 

 さらに数名の騎士が屍を晒したころ、モモンガは近づいてくる音に気づいた。大勢が勢い良く駆けてくるような轟音だ。

 

(援軍かな?)

 

 そうも考えたが、違うような気もする。取り敢えず待つことしばし、馬に騎乗した戦士の一団が姿を現した。広場にいる騎士たちに比べるとやや軽装だが、訓練は行き届いているようで統制のとれた動きを見せている。

 彼らは足を緩めずに勢いもそのまま、広場に突っ込んできた。

 

「突撃!」

 

 隊長らしき屈強な男が簡潔に号令する。剣を抜いた戦士たちは、一直線に騎士たちへと襲いかかった。モモンガから目を離せなかった騎士たちに対応出来るはずもなく、次々と討ち取られていく。

 

(これは王国の軍かな)

 

 見たところ、王国側のほうが数も練度も、そして何より士気が段違いに高かった。

 

「くっ、見張りは何をしていた!」

 

 実のところ、騎士側の見張りはすべてモモンガに排除されていた。態勢を立て直すべくロンデスは必死に声を張り上げるが、まともな反撃など出来ない。

 それでも矢継ぎ早に指示を出して抵抗するロンデスに、迫る影があった。

 

(ガゼフ・ストロノーフ!)

 

 王国最強の、いや周辺国家最強の戦士にして王国戦士長。自分たちが囮となって誘き出したはずが、こうして食いつかれることになるとは。

 ロンデスはすべての力を込めて剣を振り下ろす。しかしその一撃は軽々と弾かれ、次の瞬間頭部に強い衝撃を受けたロンデスは意識を失った。

 

(あれが指揮官?なかなか強いかな)

 

 モモンガの見たところ、というよりは誰が見てもあの人物がこの場で段違いにもっとも強い。シャルティアの力を得たモモンガには遠く及ばないが。

 

「終わりだ!投降せよ!」

 

 ガゼフが一喝する。生き残りの騎士たちは一瞬顔を見合わせた後、一斉に剣を捨て投降の意を表した。

 

「よし、全員捕縛せよ!」

 

 ガゼフの命に従って王国兵が一斉に動き、いささか乱暴に、生き残った騎士たちに縄をかけてゆく。怪我をしているものにも容赦はない。

 いくつか指示を出してから副長にあとを任せ、ガゼフは歩き出した。むろん向かう先は、広場の中央に立つ少女のもとである。

 広場に突入した時の様子から、少女と騎士たちが敵対していたことはガゼフにもわかった。騎士が倒れていたのはあの少女の仕業だろうし、おそらく魔法によるものだろう。

 

(騎士に囲まれていても、まったく動じていなかった。かなりの実力者のようだな)

 

 それがわかるからこそ副長たちは、今なお警戒を完全には解けずにいた。もっとも、だからこそガゼフはひとりで来ている。万が一にも衝突など起こらないように。

 村を襲ったものたちと戦い、おそらくそのおかげで彼らを捕捉出来たことに、ガゼフは深く感謝していた。故になるべく友好的に話をしたいと考えている。

 

(それにしても、これは美しい……)

 

 ガゼフは王国戦士長の地位に就いているため、"黄金の姫"ラナー王女とも面識があった。それ故によくわかる。この世に並ぶものなどいない、との評が間違っていたことが。

 しかも、武装した男が近づいて来ているというのに、少女にはまったく警戒する様子がない。自然体で待ち受けている。

 

(本当に、大したものだ)

 

 一方モモンガも、歩いて来るガゼフの姿を見つめていた。脳裏に先程の勇姿がよみがえる。あの勇猛果敢な指揮および戦いぶりは、称賛に値した。棚ぼたに得てしまった自分の力と違い、自ら積み上げたであろう力である。

 

(カッコいいなあ、渋すぎるよ)

 

 威風堂々、とでも表現したくなる姿を見ていると、かつて憧れた人物を思い出した。あんな風になってみたいと思わせた人を。

 

「お初にお目にかかる。自分はリ・エスティーゼ王国にて王国戦士長の任を拝命したるガゼフ・ストロノーフと申すもの。よろしければ御名をお聞かせ願いたい」

 

 堂々たる態度ながら決して相手を侮らず、礼節をもって相対する姿勢。おそらく要職にありながらも、きちんと先に名のる行動。これらを合わせて、モモンガのガゼフに対する好感度はうなぎ登りだ。

 そして今度は自分の番である。美しきシャルティア・ブラッドフォールンの姿にかけて、誇り高きアインズ・ウール・ゴウンの名にかけて、無様な真似は許されない。

 自分が名のるべき名前については、ずっと考え続けていた。今こそそれを決める時。

 自身の誇りと相手への敬意を精一杯込めて、モモンガはまさに一世一代の礼を敢行した。

 

「これは丁重なるご挨拶、恐縮でございます。わたくし、しがない旅のものにて、名をシャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウンと申します」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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