ごめんよハム助……
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
この時私は確信していた。間違いなくこの戦争の勝者は私であると。
他でもないこの私が完璧な準備をして最高のコンディションでこの儀式に挑むのだ。むしろ何故負けることなどあろうか。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。 繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する」
この時の為に昔から魔力を少しずつ込めてきた虎の子の宝石の魔力からぐんっと魔力が吸い上げられる。かつて経験したことの無い程の魔力消費量が逆に私をさらに引き上げていく。
暗闇に浮かび上がる魔法陣が静かに赤い輝きを強めていく。
「Anfang 告げる 告げる 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
ついに宝石の魔力が空になったのを感じる。
やばい、予想以上の魔力消費だ。それでも足りないのか私自身の魔力まで根こそぎ奪っていく。
いったいどれだけの大英雄を引き当てたのだろうか? 思わずにやついてしまうのを抑えられそうにない。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
間違いなく最強を引き当てた自信がある。ならば引き当てたのは最優と名高いセイバー。剣の英霊その人であるのは間違いがない。
それもこれほどの手ごたえ、大当たりに決まっている。
私の目の前で輝きを増していく赤い光はどんどん収束していくが、少し収束しすぎではなかろうか?
既に人間では有り得ないほどのサイズまで縮んでいるように見える。
それに、赤い光が色を変えその光を黒い光。自然界では有り得ない光へと変えていくではないか。
やがて眼を開く事すら出来ないほどのすべてを吸い込む漆黒の光に目を閉じ。
――それが現れる――
厳重に鎖で縛られ不気味な脈動を放つこげ茶色の書物。それが私の描いた魔方陣を打ち消し、見覚えの無い三角形の魔方陣を描き出す。
その大きさは私の書いた魔方陣の大きさををはるかに超え、複雑さもかなりのものだ。
これだけの物になるといったいどれだけの大掛かりな儀式になるのだろうか?
私の頬を一滴の汗がつたう。
これだけの儀式だ。召喚されたのは間違いなくキャスターそれ以外の何かであってたまるものか。
つまり、私の狙っていたセイバーではないのだ。何たる不覚私としたことが……
いや待て、魔導書だけ? 肝心のキャスターは何処に居るの?
「キャスター何処に居るの私の前に姿を現しなさい!!」
内心の不安を押し隠すように多少強めの口調で呼びかけるも反応は無し。
ただ魔導書がその脈動を強めていくのみ。
やがて鎖が壊れ魔導書が私の前にページを開く。
『Ich entferne eine Versiegelung.』
これはドイツ語か。ならばキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグを祖とあがめる私との相性は悪くはないのかもしれないが。
しかし、封印を解除とは穏やかではないわね。
「Anfang」
ここまで来たら悩んでいても仕方がない。
例え鬼が出ようが蛇が出ようが。この私遠坂凛がすべて跪かせてあげるわ。
やがて現れる穏やかそうな緑の女性。一見邪悪な力は感じないが。油断は出来ない。
そして、彼女は現れた。ショートカットなのがもったいないほどの美しい金の髪。
緑で統一された見事な魔道衣。
恐らく魔術触媒だろう立派な指輪。
穏やかな笑みを浮かべたその顔はあの邪悪そうな魔導書に封印されていたとは思えないほど。
そして、むかつくほどの巨乳……
きっと彼女は影が薄いに違いない。戦隊的に考えても緑と言うだけで影が薄いのはお約束だ。
けっして巨乳にむかついたわけでは無い。
そんな彼女はその美貌にたがわぬ声で第一声を上げる。
「風の癒し手 湖の騎士……あれ私の名前何だったかしら?」
油断でき……油断しても大丈夫そうね。この女性からは何となく親近感を覚えるというか。
うっかり属性を感じる――うっかり!?
そう言えば時計の時間を直し忘れていたような。
何たるうかつ。これほどの儀式でそんなうっかりミスをするとは。
だとするとこのポンコツは召喚事故のたまものか。
「助けてはやてちゃーん」
「はやてちゃんって誰よ。名前からして日本人だけど」
「誰ですかそれ? でも、何となくあったかい名前です」
無意識で叫んだのか。よほど関わりが深い名前と見えるが。
それはいったん置いておいて。湖の騎士と言うことはかの有名なサー・ランスロットであろうか?
いやいや、彼女からは武芸者特有の気配を感じない。そもそもランスロット卿ならば魔導書から呼ばれるのはおかしい。
癒し手を名乗るからにはむしろアーサー王の姉であるモーガン・ル・フェイの方が近い気がする。
医者と言う伝説が残っているし、アーサー王の最後を魔導書を使って助けようとする逸話もある。その上ランスロット卿との間には浅からぬいくつかの因縁もあったはずだし。まさか二人は同一の存在であった?
ふっ流石に発想が飛躍しすぎね。
彼女ともランスロット卿のどちらともドイツ語の魔導書では接点はないだろうし。それに日本人名を呼ぶのもおかしい。
「皆―どこ行ったの―」
「ええい、うるさい!!」
私が真剣に悩んでるときに騒ぐんじゃないわよ。全く馬鹿らしくなってきたわね。
もう、全部明日に丸投げしてもう今日は寝てしまおう。うん、それがいいわ。でも、最後にこれだけは。
「貴女は私が呼び出したサーヴァントでいいのよね? で、私はマスターの遠坂凛」
「はい、凛ちゃんですね」
「凛ちゃんって……まあ良いか。それじゃあ私は寝るからこの部屋を片付けておいてくれないかしら? 最低限で構わないから。キャスターの貴女なら私が触ってほしくないものもわかるだろうしね」
本来なら儀式の跡片付け等他人に任せるべきではないのだが。まあこいつなら構わないだろう。
明らかに人畜無害が服を着て歩いてるような奴だし。
「あ、私キャスター適性はありますけどキャスターじゃないですよ」
は、魔導書を小脇に抱えてゆったりとした魔道服らしきものを着た貴女がキャスター以外の何だって言うのよ。
ポンコツではあるけど明らかに理性はあるからバーサーカーの筈も無いし。
武術の匂いはしないから三騎士はない。アサシンには人畜無害すぎる。となれば
「あら、ライダーだったの貴女? それにしては邪魔そうな服を着ているけど」
「いえ、私はアサシンですよ」
アサシン? 仮にも癒し手を名乗っておいてアサシン?
あ、わかった。きっとこの子うっかりで医療事故を起こしまくった反英霊とかだわ。
「うん、片づけはいいわ。私はもう寝るからおやすみなさい」
「え、ちょっと待ってくださいよう。私は何処で寝れば良いんですか?」
英『霊』の癖に寝るつもりかこいつ。まあそれくらい構わないけど。
なんかもう馬鹿らしくなってきた。こんなので聖杯戦争を勝てるわけもないし。
「私の部屋に布団ひいてあげるからそこで寝なさい」
「あっ危ないですよ!!」
踵を返し部屋に帰ろうとしたが、その時足に違和感を感じて一瞬ふらついてしまう。
あわてて駆け寄ってきたアサシンが私を支えて無詠唱で回復魔術をかけてくれる。
腐っても英霊ってことね。私では逆立ちしたって出来そうも無いほどの大魔術をあっさり使ってくれちゃって。
今のは間違いなく神話級に届きうる魔術。彼女がしっかりと詠唱をすれば神話級なのは間違いが無い。
だからこそ惜しい、何故キャスターのクラスでは無いのだ。私の召喚事故が原因なのはわかっているがそれでも惜しい。
キャスターで呼ばれていたら魔法使いにも手が届きうる化け物ではなかろうか?
まあ良い。無詠唱で神話級に近い魔術を放つアサシンと言う時点で十分すぎる規格外。
しかも、そのレベルでも記憶を失っているという。
調子に乗りそうだし、何か悔しいから誉めてやったりはしないが。
「大丈夫ですか凛ちゃん」
「平気よ。貴女を召喚するのに魔力を使いすぎただけだから。全くポンコツの癖に燃費が悪すぎるのよ」
「ポンコツってひどいですよ凛ちゃん」
そう、こんなやつポンコツ扱いで十分だ。
ブタだと思っていた手札が実は強力な役だったことを喜んでいた私はこの時気が付くことが出来なかった。
私と彼女の間に直接的なつながりが無いことに。そして、彼女が抱えるあの魔導書が不気味な脈動を放っていたことに――気が付くことが出来なかった。
のりといきおいとパスタもとい突っ込みどころで書き上げました。
とりあえずお昼も過ぎたしパスタでもゆでてこよう