真・怪人バッタ男 序章(プロローグ) 作:トライアルドーパント
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2018/10/13 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
2022/3/25 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
オールマイトと犬と一緒にジョギングしながら連想ゲームで遊び、サボテンを貰った翌々日。俺はオールマイトと待ち合わせをしていた。
場所は多古場海浜公園。海浜公園と名が付いているが、海流の問題で海岸には漂着物が多く、それにつけ込んだ不法投棄もまかり通っている為、地元住民でさえ寄り付かない実に辺鄙な場所だ。
「やあ! 待たせたな呉島少年!」
「おはようございます。それで、何故にこんな所で待ち合わせを?」
元気にマッチョルックでやってきたオールマイトによると、このゴミ捨て場と化した海浜公園内の三つの区画の内一つに出久がいるらしく、昨日から出久はそこでオールマイトの指導の元、ゴミ掃除を始めているとの事。
そして、今日から俺にもここで“個性”を使わずに、ゴミ掃除をして欲しいとオールマイトは言った。
「呼び出した理由は分かりましたが、何でこの海浜公園のゴミ掃除を?」
「ん? それはアレだよ。理由は色々あるけど、一番は君が死なない為さ」
HAHAHA……と笑いながら、割ととんでもない事をオールマイトは言った。
「君の“個性”について聞いてみたけど、君の“個性”って相当に強力だよね?」
「ええ。ただ父さんが言うには、生物の進化の結果みたいな所があるらしいです。同じバッタの“個性”を持っている父さんとは違う点もそれなりにありますし」
「その中でも私が注目したのは、君の『超回復能力』だ。自己回復、或いは自己再生する“個性”は私も幾つか知っているのだが、この手の“個性”は決まって怪我の治癒と同時に体力を大幅に消耗する。そうなると怪我を治す事によって、逆に死ぬ事だってあるんだ」
「……つまり、俺自身の“個性”によって逆に死なない為に、今の内に体力を付けておこうって事ですか?」
「YES! それに私の経験則から言わせて貰えば、君の“個性”は鍛えれば鍛えるほど鋼の様に強さを増すと見た。元になっている肉体の基礎能力を上げれば、必然的に“個性”を使った時の君の能力も上がる。これに同じ目標を持つ競争相手がいればお互いに張り合いが生まれる。正に一石三鳥って訳さ!」
「なるほど……って、ちょっと待って下さい? そう言えばどうして出久はゴミ掃除をやっているんですか?」
「ん? ああ、そうか、まだ説明していなかったね。実は先日、緑谷少年にも“個性”があることが判明したんだ」
なんと! “無個性”だと思っていた出久にも“個性”があったとは!
驚く俺に対するオールマイトの説明によると、今まで“無個性”だと思われていた人が、何らかの切っ掛けによって、実は“個性”がある事が判明するケースも有るらしく、それによって分かった出久の“個性”は、火事場の馬鹿力的な増強系の“個性”なのだとか。
しかし、出久の“個性”は現時点ではかなりピーキーな“個性”であり、今の出久では“個性”に肉体が追いつかないのだと言う。
「それはつまり“個性”を使えば肉体が傷つくと言う事ですか?」
「その通り! 今の緑谷少年が自分の“個性”を使えば、彼の四肢はそれに耐え切れずに爆散してしまうだろう! しかし、雄英高校はヒーロー科最難関! “個性”を使わずに合格できるほど甘くは無い。そこで! 残り10ヶ月で緑谷少年が“個性”が使える様に、体を鍛えあげようと言う訳さ!」
なるほど。つまり、俺は出久のカンフル剤の役割を期待されている訳か。そう言う事なら喜んで協力するが、何でオールマイトは出久や俺にこうまで親切にしてくれるのだろうか? 気になる所ではあるが、下手にその事を突っ込んでせっかくのチャンスを逃したくは無いので黙っていよう。
「それに最近の若いヒーローは“派手さ”ばかりを追い求めるけどね。ヒーローってのは本来奉仕活動! 地味だなんだと言われても! そこはブレちゃあいかんのさ……」
確かに。勝己なんかは最終的にトップヒーローになって長者番付に名を連ねるとか、富と名声を求めてヒーローを目指している事を公言しているが、それを目的にヒーローを目指す奴は結構多いと聞く。
「この区画一帯の海岸線を、君達二人の手で蘇らせる! それが君達のヒーローへの、第一歩だ!」
富や名声を目的としない、たった二人のヒーロー活動……か。なんだろう、不思議と胸が熱くなるな。
「それじゃあ、私はこれから緑谷少年の方を指導するので! 呉島少年も頑張ってね!」
ポーズを決めたオールマイトは嵐の様に去っていった。そして先日毒キノコ風にイメチェンし、ヴィランに間違われて逮捕されたシンリンカムイが、何故か大根ソードと風林火山フラッグを装着した奇妙な姿で涙を流していた。
彼の身に一体何があったのか非常に気になる所だが、俺も早速ゴミ掃除を始めよう。とりあえず近くにあったこの冷蔵庫からだ。
「うむっ!」
横たわっていた冷蔵庫を担ぎ上げ、俺は公園前に駐車してあると言うトラックの荷台を目指した。
それから一人で黙々と作業を続けていると、昼頃になってオールマイトが様子を見に来た。オールマイトはトラックに満載されたゴミの山を見てから、俺にこう尋ねてきた。
「……呉島少年。ちょっと、調べさせてもらってもいいかい?」
「? 構いませんが?」
そう言うと、オールマイトは俺の体をぺたぺたと触ってきた。一体なんだと言うのだろうか?
「……呉島少年、もしかして普段からかなり体を鍛えているのかい?」
「ええ、鍛えてますよ?」
俺の“個性”は見た目がアレだが、学校では原則“個性”の発動は禁止され、野球やサッカー等のスポーツで“個性”を使う事は出来ない。
ならば、体を鍛えてそれなりの結果を出せば、“個性”を使った姿が人並み外れている所為で、周囲からキモがられている状況も変わるかも知れない。そもそも学校と言う閉鎖環境では、スポーツが出来る奴は基本的にヒーローだ。
その事に思い至った当時中学一年生の俺は、猛特訓による肉体改造を開始した。週末は山に篭ったり、海に潜ったりした。山で偶然勝己に遭遇し、勝己の趣味が登山だと知った。そして、山にいる間の勝己は意外な事にとても大人しかった。
しかし、加減を知らない当時の俺は、ここで少しやりすぎてしまい、ふと気が付いた時には、俺の身体能力は常人のそれを遥かに凌駕していた。背中は鬼の貌の様な異様な状態になっており、“個性”を使わなくてもフツーに個性持ち相手に喧嘩で勝てる様になっていた。
そのお蔭で「やっぱり、アイツは人間じゃない」とか言われ、余計に避けられる様になってしまった。
「と、兎に角、このまま作業を続けてくれ給え。終わり次第、次の指示を出そう」
「はい」
その後、順調にゴミ掃除は進んでいき、中学生活最後の夏休みが始まる頃には、出久がいる区画以外の二箇所の区画の海岸線が復活した。
「予想以上にサクサク進んだが、何か変化は感じられるかい?」
「そうですね。10m位の高さまでジャンプできるようになって、鋼鉄のシャッターを素手で引き裂ける様になりました」
「そ、そうか……。ではこれから“個性”を使った特訓を開始するとしよう!」
その日以降、オールマイトの特訓は徐々にエスカレートしていった。
簡単に言えば「“個性”を使った状態で、あらゆる負荷に耐える特訓」なのだが、オールマイトの手加減した殴る蹴るの暴行から始まり、山に行っていきなり断崖絶壁から叩き落されたり、鎖付きの巨大な鉄球をブンブン振り回して「さあ~、次はコレを受けてみろ~!」と言いながら巨大鉄球をぶつけられたり、オールマイトのパワーで物凄い勢いで回転させられたり、海に行ってオールマイトが起こした巨大な渦潮に放り込まれたりした。
最も辛かったのは、徐々に出力が上がっていくオールマイトの必殺技のオンパレードを真正面から受けた事。俺は“個性”を使うと全身が甲殻細胞に覆われ、その強度はセラミックの5倍を誇り、皮膚は攻撃に対する衝撃の75%を吸収する為、打撃・斬撃に関わらず肉体本来の25%以上のダメージを与えることは不可能らしいのだが、それでもかなりキツかった。
受験勉強の合間に行なわれたそれらは実に過酷で壮絶だったが、俺は全ての特訓を見事に耐え切った。
ちなみにオールマイトは「マイトビタミンZ」と言うドリンク剤を差し入れに持ってきたり、出久のトレーニングよりも水着ギャル達とのパーティーを優先させたりと、割りとイイ性格をしている事が分かった。そしてネカフェに行くと言う割と庶民的な一面も垣間見えた。
そんな長い様で短い様な、実に濃密な10ヶ月があっと言う間に過ぎて、いよいよ『雄英高校 一般入試実技試験』が明日に迫っていた。
出久はちゃんと“個性”に耐えられる体へと、無事に仕上がったのだろうか? いずれにせよ、俺達の運命は明日の成果で決まるのだ。
●●●
「いよいよだなぁ……」
「う、うん。いよいよだね……」
「シン! デク! 俺の前に立つな、殺すぞ!」
「勝己」
「かっちゃん!」
出久と二人で雄英高校の校門付近で緊張していると、後ろから勝己が話しかけてきた。ヘドロマンの事件以降、勝己は俺と出久に全く話しかけてこなかった為、これが実に10ヶ月振りの会話となる。
「はいはい、受験生は並んで。適当でいいから早くな。時間の無駄だ」
何だか小汚い風貌の男性が並ぶように指示を出したので、俺と出久は一瞬の内に勝己の前へと移動し、しれっと列に並んだ。
「前に立つなって言っただろうが!」
「はい、お前五月蝿い。帰らせるぞ」
「ぐっ……」
「「♪~」」
うむ。この10ヶ月の間に、出久も中々にイイ性格になったようだ。
それから会場に向かう途中で出久がこけそうになった時、出久は物を浮かせる“個性”を持った、のんびりと言うかほんわかと言うか、そんな柔らかい印象の女の子に助けられた。
「お互い頑張ろう。じゃー」
「………あっちゃん」
「何だ?」
「僕、女子と喋っちゃった!」
「……そうだな」
出久の気持ちはよく分かる。“無個性”と言う事で女子からは恋愛対象として除外され、更にヒーローオタクである部分も好意的に受け入れられず、出久は小学校も中学校も殆ど女子と接点が無かった。
かく言う俺も、ある意味で女子から(男子からも)キャーキャー言われる存在であり、女子とは碌に話したことがない。“個性”を使った俺の姿をみた女子は、誰も彼もが俺を怪物と呼び避けていくからだ。
かくして、意図せず非モテの道を邁進してきた俺達にとって、女子に話しかけられること自体が激レアイベントと化していた。
「縁起良いな」
「うん!」
とりあえず出久の緊張はほぐれ、やる気が漲っていた。予期せぬ出来事で出久は絶好調だったが、実技試験を説明する会場で試験官を見た俺は、栄光の未来を掴む為に必死になった。
「今日は俺のライヴにようこそーー! エヴェイバディセイヘイ!」
「Yokoso―――――――!!」
「あっちゃん……」
「うるせぇ……」
試験官のプレゼント・マイクに反応したのは俺だけだった。我ながら完全にキャラ崩壊していると思うが、俺はプレゼント・マイクに好印象を持たれた方が良いと判断した。
何故なら、俺はバッタ人間になる“個性”を持っており、プレゼント・マイクは虫が大の苦手だ。それも気絶するレベルで。つまりは……そう言う事だ。
「OK! こいつぁ、シヴィー! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!? YEAHHHHH!!」
「YEAHHHHH!!」
「イエス、アイムレディ!」
ムムッ。俺以外にも一人反応している奴が居る。反応したのはクソが付くほど真面目そうな、メガネの似合う男子生徒だ。こうしたノリに反応する様なキャラではなさそうなのだが……。
一方のプレゼント・マイクは、反応した受験生が二人だけでもハイテンションを維持し、実技試験の内容を説明していった。実技試験の内容は10分間の模擬市街地演習で、装備品の持ち込みは自由との事だ。もっとも、俺の場合は全身が武器と言うか凶器と化すので、装備品等は必要無い。この肉体があればそれでいい。
「今気がついたんだが、俺達三人とも試験会場が違うな」
「同校のダチ同士で協力させねぇって事か」
「ホントだ。受験番号連番なのにね」
「チッ。五月蝿いテメェらを潰せねぇとはな……」
「「………」」
相変わらず勝己は物騒だった。仮に俺や出久が同じ試験会場だったら、迷わず真っ先に俺達へ引導を渡すつもりだったに違いない。
それにしても気になるのはあのメガネ男子だ。今の彼は見た目通りと言うか、予想通りにクソ真面目な質問をプレゼント・マイクにしていた。だとするなら、何故彼は俺と同じ様にプレゼント・マイクのノリに反応していたのだろうか?
……まさか、俺の考えに気付いたのか? いずれにせよあのメガネ男子は只者では無さそうだ。
「かの英雄、ナポレオン=ボナパルドは言った! 『真の英雄とは、自身の不幸を乗り越えて行く者』と!! “Plus Ultra【更に向こうへ】”!! それでは皆、良い受難を!!」
この後、プレゼント・マイクのこの言葉が示す様に、人生最大にして最悪の受難が俺を待ち構えていた。
●●●
実技試験が開始された直後。俺は出遅れたフリをして集団から離れ、建物の影に入って服を全部脱ぎ捨て、誰も見ていない所で“個性”を発動させた。俺は基本的に怒りの感情で“個性”を発動させているが、別に“個性”の発動に怒りの感情が必要不可欠という訳では無いが、その場合は少し時間が掛かる。
(ちなみに、この時の両目が赤黒く染まった上に髪の毛が全て無くなり、眉の部分からバッタの触覚が生えて下顎が二つに割れ、額から第三の眼が発生して全身の筋肉が隆起しながら徐々に緑色の皮膚に覆われる光景は監視カメラでしっかりと見られており、プロヒーローたる先生方は悲鳴こそ上げなかったものの、グロテスクなバッタ人間への変身には流石に絶句していた)
何とかバッタ男への変身を完了した俺は、100mを3.34秒で走破する脚力を使って激戦区に突撃し、仮想ヴィランとの戦闘に入ろうとした所で……。
俺は受験生に攻撃された。
初めの方は確かに恐怖や驚愕から来る攻撃だった。しかし受験生の一人が『実はゲームの隠しボスの様な仮想ヴィランなのではないか?』と馬鹿な事を言い出した事がきっかけとなり、今の俺は半数近い受験生に包囲・攻撃され、仮想ヴィランに全く手を出す事が出来ない状況に追い込まれていた。
恐らく試験前に見た俺の姿と、“個性”を使った今の俺の姿が余りにもかけ離れている上に、俺が服を脱いで全裸になっている事で受験生だと思われなかったのだろう。そして試験がゲーム性の高い内容だったが為に、こんな勘違いが起きてしまったのだろう。
これで会話が出来るなら問題は解決したかも知れないが、俺は“個性”を使用している間は声帯がまともに機能しておらず、会話をする事が出来ない。こんな時を想定して手話を体得しているのだが、それを理解出来る受験生がこの場には居ない。
チクショウ! これが見た目を気にして姑息な手段を取った報いか!?
ぶっちゃけ、オールマイトの特訓のお蔭でこの程度の攻撃は屁でもないが痛いことに変わりは無い。そしてこのままでは不合格が確定してしまう。様々な“個性”の攻撃を避けたり耐えたりする中、どうやってこの状況を打破するか考えていると、遂にお邪魔虫な0Pの仮想ヴィランが現れた。
デカイ。兎に角デカイ。しかし、お蔭で受験生の誰も彼もが逃げ出し、その場を一目散に立ち去っていく。
チャンスだ! お前をお邪魔虫だってプレゼント・マイクは言っていたが、俺にとってお前は救いの神だ!
この千載一遇の機会を逃してなるものかと、早速一番ポイントの高い3Pの仮想ヴィランを探していると、どこからか助けを呼ぶ声が聞こえていた。パッと見た感じ声のする方には誰もいないのだが、よく見ると砂埃が人間らしい奇妙な形に歪んでいる。
そう言えば試験の前に、自分の体を透明化する“個性”を持った受験生がいた。しかし確かその受験生は女子だった筈。俺と同じ様に全裸になる事でその“個性”は真価を発揮するようだが、それは女子としてはどうなのだろう?
いずれにせよ、助けを求めているなら助けない道理は無い。例え、助けた相手に高確率で逃げられる様な容姿をしているとしてもだ。
悲鳴を上げられるのを覚悟して行動しようとした矢先、透明女子に何かが巻きついた。見てみるとカエルの様な女子が舌を20m位伸ばしている。彼女もまた透明女子のピンチに気付き、彼女を救出しようとしているのだ。うむむ、肝の据わった大した奴だ。
これで一件落着かと安堵し、再び3Pの仮想ヴィランを探そうと思った次の瞬間、カエル女子の舌の上に街灯の柱が倒れこみ、カエル女子の舌が挟まれた上に透明女子が地面に叩きつけられた。
「きゃあっ!」
「ゲロォオッ!!」
な、何ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!?
まさかの「誰かがピンチで助けに行ったら自分がピンチ」状態ッ!? 透明女子は叩きつけられた衝撃の所為か動けない! カエル女子は舌を街灯に舌を挟まれて縮める事ができない! 周りを見たが近くには俺以外に誰も居ない! 身動きが取れない二人に巨大な0Pの仮想ヴィランが迫ってくる!
どうする!? 透明女子を助けに行くか!? それとも、街灯を起こしてカエル女子を助けるか!?
透明女子を助けに行けば、カエル女子が間に合わない! 街灯を起こせば透明女子の方が間に合わない! 仮に0Pの仮想ヴィランが助けなかった方を避けたとしても、身動きが取れない以上、今の様に破壊されたビルの瓦礫の餌食にならないとは限らない!
……ならば、二人を同時に助ける為に、俺がとるべき手段は一つ!
0Pの仮想ヴィランの進行を止め、その上で二人とも救出する! もう、コレしかあるまい! 俺は0Pの仮想ヴィランに向かって、雄叫びを上げながら猛然と駆け出した!
(この時、カエル女子こと蛙吹梅雨と、透明女子こと葉隠透の二人は、後ろから巨大な機械仕掛けの仮想ヴィラン、前から怪物にしか見えないリアルヴィランが迫る「どう足掻いても絶望」な挟み撃ち状態を認識し、人生初の走馬灯を体験していた)
「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
助走を付けて地面を蹴り込み、驚異的なジャンプ力で一足飛びに接近した俺は、両脚で0Pの仮想ヴィランの鼻っ柱を思いっきり蹴りこんだ。そして更に上昇すると、背中からバッタの翅を生やして位置を調整し、仮想ヴィランの真上に位置取った。
大きく突き出した右腕の「スパイン・カッター」の一つ一つが伸びて大型化し、巨大な一枚のブレードと化したソレを、渾身の力と圧倒的な速度で振り下ろした。
「SHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
更に「スパイン・カッター」で入れた切込みに、巨大なカッターをイメージした超強力念力を叩き込む。地面に着地すると同時に仮想ヴィランは縦に両断され、その場に沈黙した。
「GRRRRRRR……」
「な、何だよアレ……」
「あ、あんな奴に、敵う訳がねぇ……」
まだ俺を仮想ヴィランと思っているのか。とりあえず倒れた街灯を起こし、カエル女子の舌を解放する。挟まれた箇所が痛々しいが、適切な処置をすればちゃんと治るだろう。透明女子の方も何とか無事なようだ。
それにしても3Pの仮想ヴィランは何処にいる? キョロキョロと探していると離れた所に3Pの仮想ヴィランを発見した。
『残り一分ッ!』
!! 不味い、残り時間はかなり少ない! 俺は手にしていた街灯を手早く切断し、巨大な一本の槍へと加工した。そしていざ、3Pの仮想ヴィランの元へと行こうとすると、何十人もの受験生達が此方に殺到してきたのだ。
「こうなりゃヤケだ! 攻撃するだけ損はねぇ!」
「そうだ! 諦めるのはやるだけやってからだ!」
俺をまだ仮想ヴィランとして扱うのかコイツ等は。この場に居れば下手をするとカエル女子と透明女子に流れ弾が当たると思った俺は、槍を抱えて高く跳んだ。
「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「うおおッ!? な、何だあの動きはぁああああああああああああッッ!!」
「撃て撃て! 撃ちまくれぇえええええええええええええええええッッ!!」
ビルを足場にした三次元的な跳躍で移動し、次々に放たれる“個性”の攻撃をかわしていく。そして上空約10mの地点から、地表にいる3Pの仮想ヴィランに向けて全力で槍を投擲し、3Pシュートを狙った。
「DRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
『終~~~了~~~~~~~!!』
試験終了のアナウンスと同時に、3Pの仮想ヴィランは轟音と共に串刺しにされた。果たしてコレは得点になったのか? 微妙な所だが、やれる事は全部やった。ぶっちゃけ、たったの3Pじゃ焼け石に水っぽいが、無いよりはマシだろう。
そして試験終了の余韻に浸っている場合では無い、大急ぎでこの場を立ち去り、服を着なければならないからだ。
「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」
絶叫と共に無数のビルを跳び越え、瞬く間に先程着替えた場所まで戻ると、“個性”を解除して試験前と同じ格好になった俺は、何食わぬ顔で受験生達の後ろに続いたが、誰かが俺を呼び止めた。
振り向くとそこには、雄英高校の屋台骨と称される一人のおばあちゃんが立っていた。
「よく頑張ったね。ほら、グミお食べ。グミだよ」
「あ、ありがとうございま……す?」
とりあえず右手を差し出すと、何故か山盛りのグミを盛られてしまった。明らかに他の受験生が貰っているお菓子よりも量が多いのだが、何故だろう?
「あたしの“個性”は治癒力を高めるだけで、治ってしまった傷や体力はどうにも出来ないからね。ちゃんとよく噛んでお食べ」
どうやら俺の行動は、彼女に全て見られていたらしい。とりあえず貰ったグミを口いっぱいに頬張った。
……ジューシー! ジュジュジュジュジュ、ジューシィイイイイイイイイイイイッ!!
リカバリーガール・グゥミィイッ!!
「カイガン!」
美味いッ!! 何だか筆記も頑張れそうだ。
●●●
実技試験の後の筆記試験が終了し、俺と出久は二人で帰路に就きながら、それぞれの試験の出来を話し合っていた。それによると、出久は実技試験で思うように力を発揮できず、0Pの仮想ヴィランを破壊しただけで実技試験は終わってしまったらしい。
「そうか、お前もなのか……」
「え!? あっちゃんもなの!?」
「ああ。『隠しボスみたいな仮想ヴィラン』だと間違われて、会場に居た半分位の数の受験生に袋叩きにされた」
「そ、そうなんだ……」
「一応、最後に3Pシュートをかましてやったけど、雀の涙みたいなもんだよなぁ……20とか30とか普通に聞こえたし……」
「……僕達、不合格かなぁ?」
「そうだな……筆記は手ごたえあったけど、実技が0Pじゃ無理っぽいよな。良くても『来年の筆記が免除』ってトコか?」
「……リアルな措置だね」
「そうだな。我ながらマジでそうかもな、ははは……」
「ははは……」
「「ははははははははははははははははははははははは……」」
俺達は意味も無く笑った。乾いた笑いだった。
それから不安な気持ちのままで時間だけが経過し、試験の結果発表の通知が間近に迫っていた。そして試験の結果もさることながら、この間に分かった事が俺達に暗い影を齎していた。
実技試験の時に0Pの仮想ヴィランとして投入された巨大ロボットだが、あれは「3微小振動感知」と「サーミスタ式熱感知」を併用した『高性能索敵機能』が搭載されており、非運用時は各国家機関に貸し出され、有事の際の可動型シェルター等としても使用される物なのだとか。その総工費は、一機につき2400億円。これは軍事費の5%を占め、我が国日本の国防設備の要と言える代物なのだ。
つまり俺と出久は、二人で軍事費の10%をスクラップに変換してしまったのだ。正直、雄英高校の入学試験に合格して、その後でプロヒーローになれたとしても、誰も体験した事の無い未曾有の借金地獄に苦しむのかも知れない。
フフフ、借金ヒーロー「ホッパーキング」ってか? 全く洒落になら無いぜ。
将来への不安を、体を動かす事で何とか紛らわしていたが、遂に我が家の郵便ポストに雄英高校から試験の結果を知らせる封筒が届いた。封を開けると立体映像が展開され、スーツ姿のオールマイトが投影された。
映像の中のオールマイトが語ったのは、筆記と実技の試験結果。筆記の方はクリアし、実技の方は3P。何でもあの実技試験は、市井の平和を守る為に必要となる、情報力、機動力、判断力、そして戦闘力を『敵P』と言う形で数値化して見ていたらしい。最後の一発はちゃんとカウントされていたが、それでも合格ラインには到底届かない。
しかし、雄英が密かに審査制で見ていた、市井の平和を守る為に必要なもう一つの基礎能力があった。それは『救助活動P』と言う形で数値化され、『敵P』と『救助活動P』の二つの合計点で、実技試験の総合成績を決めていたのだと言う。
『合格だ、呉島少年。君はこのヒーローアカデミアで、自分の“個性”で苦しむ人達の“希望の象徴”を目指すんだ!』
「ッッ!!」
俺の心を満たしたのは、言葉にならない歓喜。そして出久と勝己の事が頭に浮んだ。実技試験が『敵P』と『救助活動P』の二つから判断されるのなら、二人はどうなったのだろうか……と。
先ず俺は出久に電話をした。受話器をとった出久と出久のお母さんは、二人とも凄い涙声で聞き取り辛かったのだが、出久も見事に合格していた。良かった。
しかし、そうなると勝己が心配だ。正直な話、勝己が誰かを助ける姿が、俺にはまるで想像する事ができない。下手すれば勝己は『敵P』しか獲得していない可能性がある。そこで試しに電話を掛けてみると、勝己のお母さんが電話に出たのだが……。
『ウチにも通知が来たんだけど、あの子「分からない」って。どう言うことかしら?』
……?
随分と勝己らしくない台詞だ。もしかして落ちたのかとも思ったが、勝己の性格からして、隠したり誤魔化したりするような事はしないだろう。だからこそ「分からない」と言う理由が余計に分からなかったが、その後学校で「三人とも合格した」と担任が言っていた事で、俺達全員が雄英高校に合格した事を知った。
俺達三人の腐れ縁は、まだまだ続きそうである。
キャラクタァ~紹介&解説
オールマイト
正統派アメリカン・ヒーローなヒロアカ世界の頂点。作者にはどうしてもスーパーマンに見える御方。流石に『ワン・フォー・オール』の事を継承者のデク君以外には話したりしないだろうと思い、主人公にはちょっと嘘をつくような感じに。
主人公に関しては、自分が教師としての第一歩を踏み出すために色々とやっていた筈なのに、何時の間にか学生時代に体験したグラントリノの特訓の様相を呈していたと言うジレンマに陥る。人間は他人に何かを教える時は、自分が体験してきた事を元にするらしいので、仕方が無いっちゃ仕方が無い。
もっとも傍から見ればその光景は「スーパーヒーローが手を変え品を変えで、怪人バッタ男を退治している」様にしか見えないのだが。
麗日お茶子
ヒロアカ世界のゲロイン。アニメでは中の人が『IS』のクロエと同じだが、この世界では特に関係無い。『すまっしゅ!!』の世界では、ある意味でかなりはっちゃけている。天然と言えば聞こえはいいが、デク君は所々で精神的に大ダメージ。
葉隠透
透明マジカルレディ。本気になる時は全裸になるので、恐らく自分の体以外を透明化する事は出来ない。透明化していない彼女の容姿は、もはや勝手に想像する他にないのかも知れない。作者のイメージとしてはハリケンブルー……じゃなくて、『仮面ライダーW』のリリィ白銀。
リカバリーガール
ヒロアカ世界の数少ない回復役。彼女の“個性”は治癒力の活性化させるモノなので、恐らく四肢切断レベルの大怪我は治せないと思われる。『ハイスクールD×D』のアーシアがおばあちゃんになったら多分こんな感じ。
アニメでは渡すお菓子がハリボーじゃなくてグミだったので、仮面ライダーグミのネタを出してみた。主人公の餌付けに成功しているが、『ジョジョ』のチョコラータとセッコの様な関係にはならない。多分。
主人公の身体能力
詳しい数値が分からないので曖昧だが「素手で鋼鉄のシャッターを引き裂く」と「10m程度までジャンプする」のは、原作『真・仮面ライダー序章』の風祭真から。ちなみに主人公は13歳の時に肉体改造と称して、幼少期編の範馬刃牙並みの修行を敢行し、心身を鍛える修行の果てに、鬼の音撃戦士ではなく範馬的なオーガになってしまった。明日夢君は泣いてもいい。
オールマイトの特訓
元ネタはスカイライダーが栄光の7人ライダーから受けた集団リンチ……もとい「友情の大特訓」。スカイライダーはこれによって新たな力を得た訳だが、これに限らず昭和ライダーの特訓は常軌を逸するものばかりであり、正直おやっさんこと立花籐兵衛の正気を疑う。もっとも「改造人間を普通の人間と同じに考えるのが間違いだ」と言われれば、ぐうの音も出ない事も確かではある。
勘違いされて攻撃されるシンさん
最近では客演によって出番がそれなりにあるシンさんだが、『仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦』の様なクロスオーバーの場合、「シンさんの事を何も知らない戦隊側に敵だと勘違いされて攻撃されなかったのか?」と言う作者の疑問を元にしたネタ。実際に『ディケイド』のモモタロスだって、事情を知らない小野寺クウガのマイティキックを喰らっている訳だし、説明しなきゃ善玉怪人とは分からないと思う。
実技試験の二択
元ネタはスピンオフ作品『すまっしゅ!!』にある、お茶子と謎の男の二択。ちなみに作者はお茶子を選ぶ。
とりあえず、梅雨ちゃんは次の話の伏線に必要なのでピンチになってもらった。そして梅雨ちゃんが助けようとした相手として、透明マジカルレディの葉隠、どこか弦太朗的な切島、『ぶどうぅー!』頭の峰田、スタンド使いの常闇に絞ったのだが、葉隠以外はそれぞれの“個性”が強力で、少なくとも実技試験は何とか出来そうだった為、消去法で助ける相手が葉隠になった。
強化スパイン・カッター
元ネタとしてはアマゾンライダーのスーパー大切断(『SPIRITS』バージョン)。シンさんの腕の棘の向きはアマゾンのそれとは逆なので、『からくりサーカス』の「あるるかん」に装備されている「聖(セント)・ジョージの剣」みたいになる。
当初は『PROJECT G4』のギルスみたいに、右腕を切断されてから再生・強化する予定だったが、流石にそれはグロいと思って止めた。