真・怪人バッタ男 序章(プロローグ)   作:トライアルドーパント

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これは『真・怪人バッタ男 序章(プロローグ)』をお気に入り登録された読者さんへの感謝を込めて、本編と言うか続編の『怪人バッタ男 THE FIRST』の他に、投稿された感想から思いついたネタを元に派生した“もしもの『序章』”です。一話読みきりで、本来とは異なる怪人バッタ男の序章を、軽い気持ちでお楽しみ下さい。

2018/10/16 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


IF・怪人バッタ男 序章ーAnotherー
2/3話 この世で怪人なのは、俺だけでいい!(泣)


もしも『ワン・フォー・オール』を受け継いだのがシンさんだったら?

 

 

●●●

 

 

自分の目指すべき道が見えた、ヘドロマン事件の翌日。俺は学校で興奮状態の出久から、無個性のままでヒーローを目指す夢を改めて語られ、出久が考案したヒーローアイテムの意見を求められた。

出久は徹夜しましたって感じの血走った目で、俺に懇切丁寧にヒーローアイテムの概要を語っていたが、俺にはよく分からないので、今度出久に父さんを紹介してみようと思う。

 

そして学校から帰宅する俺の目の前に、オールマイトがサボテンを持ちながら犬を連れた状態で現れ、俺はオールマイトとジョギングをしながら連想ゲームで遊ぶと言う、なんとも不思議な時間を過ごしていたのだが……。

 

「ところで呉島少年。昨日は聞かなかったが、君にはプロヒーローと言うスタートラインから目指す、明確なゴールのヴィジョンはあるのかい?」

 

誰も居ない海岸に到着した所で、いきなり連想ゲームを中断したオールマイトの質問に対して、俺は昨日のMt.レディとの会話で定めた自分の目指すべきゴールを話した。

 

生まれ持った“個性”の所為で生き辛い思いをしている人達の“希望の象徴”を目指すのだと。

 

「そうか……。君なら、私の“力”を受け継ぐに値する……」

 

「はい?」

 

「これは提案だよ、呉島少年! この超人社会の“希望の象徴”を目指す君に、超人社会の“平和の象徴”を兼任してみないかと聞いているんだ! ……ガフッ!」

 

「本当にソレ、大丈夫なんですか!?」

 

テンション高めに吐血すると言う離れ業を見せつつ、ムキムキのマッスルフォームから、ガリガリのトゥルーフォームへと姿を変えたオールマイトの言葉に疑問が浮ぶ。「私の“力”を受け継ぐ」とは一体どう言う事なのだろうか?

 

「そんな事より、今は私の“個性”の話だよ、呉島少年。それは弱き者の助けを求める声と、強き者の義勇の心が紡いで来た『力の結晶』! 超人社会の影で営々と鍛えられ、脈々と受け継がれてきた、誰も知らない『正義の系譜』! その力に冠された名は……『ワン・フォー・オール』! まあ、この提案を受けるか受けないかは君次第なんだけど……」

 

夕暮れに染まった海岸で、俺は「世界七大不思議」の一つに数えられ、普段なら爆笑ジョークなんかでお茶を濁して終わる「オールマイトの“個性”」に関する事を、オールマイト本人から聞かされていた。

 

オールマイトの言葉はウソではないだろう。そして、俺はある疑問をぶつけてみた。

 

「……その前に、一つだけ聞かせて欲しい事があるんですが、良いですか?」

 

「何だい?」

 

「さっき『ワン・フォー・オール』は引き継がれる“個性”だって言いましたよね? それなら、オールマイトは受け継ぐ前から何らかの“個性”を持っていたんですか? それとも、“無個性”だったのですか?」

 

「! 中々鋭いな、呉島少年。察しているとは思うが、私が先代から『ワン・フォー・オール』を受け継ぐ前は、私は“無個性”だった。君達の世代程じゃないけど、珍しい部類の人間だったよ。

ただ、先代は『ワン・フォー・オール』の他にも“個性”を持っていたから、『ワン・フォー・オール』を受け継ぐのは“無個性”の人間じゃなきゃいけないって訳じゃない」

 

「では何故、俺に?」

 

出久と同じく“無個性”ならば、出久が次の継承者として選んでも良かったのではないかと思うのだが……。

 

「……確かに、私は君の他にも緑谷少年を候補に入れていた。しかし、『ワン・フォー・オール』はあくまで“身体能力を付与する”ものであって、それを発揮する“肉体を形成する”訳では無い。下手な人間が受け継いでしまうと、その力を肉体が抑えきれず、四肢がもげて爆散してしまう! 『ワン・フォー・オール』を扱うには、それに相応しい器となる頑強な肉体が必要になるのさ」

 

「相応しい器となる肉体……」

 

「そうだ。だが、私が君を選んだのはそれだけじゃない。実は私は5年前から、ずっと『ワン・フォー・オール』の後継者を探していた。

そして、何度もヴィランだと間違われながらも、決してヒーローになる事を諦めなかった君になら。

賞賛を得るためではなく、ただ目の前で苦しみ、無力な友達を助ける為に、恐れずに“個性”を使って体を張った君になら。

自分と同じ境遇の人達の“希望の象徴”を目指す君になら。『ワン・フォー・オール』を渡してもいい。そう思ったのさ」

 

オールマイトの求める、『ワン・フォー・オール』を扱うに相応しい肉体と精神。その二つの条件を満たしていたからこそ、俺を次の継承者に選んだ。

オールマイトは言葉で語る以上に、その目でその心情を俺に語っていたような気がした。

 

「……俺がプロヒーローになったら、俺は“平和と希望の象徴”を目指します!」

 

「君ならそう言ってくれると思っていたぜ! 呉島少年!」

 

期待通りだと言わんばかりに、オールマイトは不敵に笑った。

 

 

●●●

 

 

翌日。俺は早速オールマイトから、ゴミ捨て場と化した海浜公園の美化活動を課題として与えられた。しかし、それはオールマイトの想像を超えてサクサク進み、俺は中学校の夏休み前日に『ワン・フォー・オール』を継承する事になった。

 

継承の儀式とあって、俺も少々緊張していたのだが、オールマイトはイキナリ髪の毛を一本引っこ抜いて、俺にそれを突き出した。

 

「喰え!」

 

「……はい?」

 

「DNAさえ摂取出来れば何でも良いんだけどね。髪の毛の他となると、爪に、フケに、鼻糞……流石に(自主規制)や(自主規制)や(自主規制)はなぁ……。後は……ディ、ディープキス……かな?」

 

「血じゃ駄目なんですか?」

 

「あ~~~。ほら、最近ちょっと貧血気味でね」

 

普段から血を吐いている手前、オールマイトはあまり血を出したく無いらしい。仕方ないので、髪の毛を飲み込む事にした。それにしても長いぞ、この髪の毛。

 

「しかし、想像していたのと全然違いますね。個人的には『オールマイトの体から光の玉が出てきて、それが俺の体に吸収される』……みたいな事を想像していたんですが」

 

「HAHAHA! 君は感性が中々スパイシーだな! まあ、“個性”はDNAと深く結びついているものだからね。前任者のDNAを摂取する事で、後継者のDNAに『ワン・フォー・オール』を浸透させる必要があるって事なんだろうな!」

 

「……なるほど」

 

「私の経験則から言えば、君に譲渡した『ワン・フォー・オール』は二~三時間で君の体に馴染むだろう。それまではとりあえず――」

 

オールマイトが『ワン・フォー・オール』について説明している中、これまでに体験した事が無いレベルの強烈な耳鳴りと頭痛が俺を襲った。

 

「うがぁあああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

「!? どうしたんだ! 呉島少年!」

 

その後の事は良く覚えていない。意識がハッキリとした時には既に病院に居て、入院の手続きが済んでいた。それからは断続的かつ不定期に発生する激しい耳鳴りや急な発熱、更には猛烈な痙攣に苦しめられる事になった。

 

とても人に会える様な状態ではなかったが、心配した父さんや出久がお見舞いに来てくれた。そして勝己も俺のお見舞いに来た……らしい。

ただ、ある日の俺がトイレから病室に戻った時に、ベッドの上に大量の「マイトビタミンZ」が置かれ、それらと一緒にこんなメッセージカードが残されていたのだ。

 

『コイツを飲んでパワーつけろ。そんで俺がお前を殺す』

 

差し入れにこんな物騒な事を書くのは、勝己しかいないだろう。そしてお見舞いの品として何かが激しく間違っている。

 

それと、お見舞いに来たトゥルーフォームのオールマイトは物凄くオロオロしていた。何でもオールマイトの先代が『ワン・フォー・オール』を譲渡された際に、こんな現象が起こったなんて事は、一切聞いていなかったらしいのだ。

 

「それは単純に話していなかったと言う事ですか? それとも想定されていないイレギュラーと言う事ですか?」

 

「分からない。先代の盟友だったグラントリノにも連絡を入れてみたが、そんな話は先代から聞いた事が無いとおっしゃっていたから、恐らく後者だろうとは思うが……」

 

「……あの、凄く震えてますけど……もしかして、この部屋の冷房効き過ぎてますか?」

 

「い、いや、そんな事は無い。私の脳内で封印していた恐怖の記憶が蘇っているってだけの話さ……」

 

№1ヒーローが封印する程の恐怖の記憶って一体どんな記憶なんだ? 気になる上に、色々と思う所はあるが、今はこの体の不調が治る事を願って、大人しくしている他はなさそうである。

 

 

●●●

 

 

オールマイトから『ワン・フォー・オール』を継承し、入院してから二週間の時間が過ぎ、昨日漸く退院となった。それはつまり、中学校生活最後の夏休みを、病院のベッドで二週間分も消費したと言う事。

とりあえず、出久と一緒に行く約束をしていた夏のヒロイックマーケットに間に合わせる為、これまで溜めていた夏休みの宿題を猛烈な勢いで消化していた俺に、オールマイトから連絡が入った。

 

何でも以前に話していたグラントリノなる人物に協力してもらい、『ワン・フォー・オール』の使い方や、元々持っていた“個性”との併用等を教えるのだとか。

 

「それで、一体いつ行くんですか?」

 

「明後日から約一週間だ。着替えと鯛焼きを忘れずにな」

 

「鯛焼き?」

 

「グラントリノの大好物だ」

 

翌々日。俺は待ち合わせ場所となった早朝の海浜公園の入り口で、グラントリノなる人物に対して色々と空想して、鯛焼きの紙袋を片手に時間を潰していた。

 

恐らくは老いを全く感じさせない筋骨隆々とした肉体を誇り、キング・オブ・トンガリと形容されそうな感じの髪形をしている老人に違いあるまい。

 

しかし、そんな容姿の人物は一向に現れなかった。これまで海浜公園の入り口に現れたのは、朝練に励む学生と、ウォーキングに励む老夫婦と、ヒーローコスチュームを着た小柄なおじいちゃんだけだ。そして、ヒーローコスチュームを着たおじいちゃんは、俺に普通に話しかけてきた。

 

「誰だ君は!?」

 

「あー……呉島新です」

 

「何て!?」

 

「呉島新です」

 

「誰だ君は!?」

 

「……呉島新です」

 

「お! 鯛焼きの匂いがするな。朝飯に丁度良い」

 

「朝飯に鯛焼きですか?」

 

「俺は甘いものが好きなんだ!」

 

「……欲しいんですか?」

 

「うむ、腹が空いたぞ……俊典!」

 

「俺は新です」

 

俊典って誰だよ。会話が成り立っているのか成り立っていないのか、よく分からないが鯛焼きが欲しかったみたいなので、自分の分に買っておいた鯛焼きとお茶をおじいちゃんに渡した。喉を詰まらせるといけないからだ。

 

「冷たい!」

 

「昨日お店で買って、それからずっと冷蔵庫に入れてたんで……」

 

「しょうがねぇなぁ。まあ、凍ってるよりかマシか。ところで……誰だ君は?」

 

「……新です」

 

このおじいちゃん、ちょっとヤバいかも知れない。しかし、このおじいちゃんからは何となく只者では無い雰囲気を感じるのは何故だろうか?

 

この場を離れるわけにもいかないので、とりあえずオールマイトが来るまでおじいちゃんの話し相手をしていたのだが、待ち合わせ場所に車で現れたオールマイトが度肝を抜いていた。

何でもこのおじいちゃんこそが、オールマイトを鍛えたグラントリノであり、俊典とはオールマイトの事らしい。二つの意味でイメージが違った。

 

「それで、ここで今度は何をするんですか?」

 

「いや、我々はこれから山へ行くんだ!」

 

「山?」

 

オールマイトが言うには、とあるヒーローが管理しているある山を、一時的に有料で貸して貰ったらしい。私有地なので“個性”の使用については問題なく、また大規模な破壊が起こっても、そのヒーローの“個性”で直ぐに直せるのだとか。

 

「一ヶ月のプランを二週間で消化しなければならないのでな! 少々荒っぽくなるぞ!」

 

「しかし、今の俺って二つ“個性”がある訳ですけど、どうすればいいんですかね?」

 

「それを教える為に、俺が呼ばれたんだ。とりあえずは自分が持っていた“個性”を使ってからだ」

 

隣にいたグラントリノの雰囲気が一気に変わった。何というか、歴戦の兵士の様な、有無を言わせぬ気迫を纏った感じだ。

 

それからオールマイトの車に揺られて数時間。山に着いた途端に俺達は岩場に移動し、グラントリノの指示通り、俺は何時も通りにバッタの“個性”を発動させたその時、不思議な事が起こった。

 

「え!?」

 

「む!?」

 

「うん?」

 

本来なら、先ずバッタの触覚が皮膚を突き破る激痛に苛まれるのだが、俺の腰から何かベルトの様な器官が出現し、その中心部から放たれる緑色の光に包まれた事で、俺の体は一瞬で変化していた。

 

「……く、呉島少年?」

 

「何でしょう?」

 

「喋った!?」

 

喋れた。“個性”を使っている間は全く話せない筈なのに。

 

それから、自分の体の変化を見たり触ったりして確認した。二本の触覚は六本の角となり、口の部分には蓋の様な器官が備えられている。両手足にあった棘状の「スパイン・カッター」が消失し、その代わりに両手首と両足首にカッターの様な物が出現している。

また、肉体は全体的に筋肉質なものとなり、背中の肩甲骨辺りから布とも羽根ともつかない物が一枚ずつ生えていた。しかも引っ込める事が出来ない。

 

「一体何がどうなって……」

 

「……もしかしたら『ワン・フォー・オール』を継承した事で、お前さんが持っていた“個性”がそれに適応する形で進化したんじゃないか? 『ワン・フォー・オール』だって“個性”が混ざって生まれた、突然変異の“個性”だしな」

 

「突然変異の“個性”?」

 

「何だ、『ワン・フォー・オール』の歴史について聞いていないのか?」

 

グラントリノから語られたのは、『ワン・フォー・オール』のオリジン。無個性だと思われていた人間から生まれた突然変異の“個性”。そして、その“個性”が受け継がれた理由と言う名の悲願だった。

 

「……つまり『ワン・フォー・オール』は、オール・フォー・ワンを打倒する為に受け継がれてきた“個性”だと言う事ですか?」

 

「そうだ。人類が人間と超人に二極化され、法が意味を失い、文明が歩みを止めた暗黒の時代。絶対強者とされた一人の巨悪から生まれた、正義という名の小さな聖火の火種として『ワン・フォー・オール』は生まれた。たった一つの、目的の為に!」

 

「……ちょっと待って下さい。オール・フォー・ワンが倒されたのであれば、今後『ワン・フォー・オール』を継承する者って必要あるのですか?」

 

「おいおい。確かにオール・フォー・ワンは5年前に倒されたが、これから先の未来でオール・フォー・ワン以上の悪党や、オール・フォー・ワン以上の“個性”を持った人間が現れないとは限らないじゃねぇか」

 

「それにあの時確かに倒しはしたが、死んだかどうかは分からない。何せ相手は何でもありと言って良い“個性”を持った相手だ。流石にあの怪我で生きているとは思えないが……もしかしたらと言う事もある」

 

「なるほど……」

 

想定外の事態は必ず起こる。世界を震撼させる巨悪が倒れたとしても、それに連なるような異端が現れた時の対抗手段として、『ワン・フォー・オール』を準備しておきたいと……言う事か。

 

「それよりも今はお前だ。何か自慢の必殺技とかあるか? あるんなら……とりあえず、あの岩を俺が転がすから、ソレに向かって使ってみな」

 

グラントリノが指差したのは、都合よく崖の上に置かれている2mはある大岩。アレを崖から転がすと言うあたり、グラントリノはまだまだ現役バリバリらしい。

 

しかし、俺の自慢の必殺技か。それなら間違いなく、バッタの脚力を利用した強力な蹴りだ。決して「相手の頭を脊髄ごと引っこ抜く」と言うような、グロい見た目にぴったりなエグい必殺技は持っていない。

 

「ハァアアア……ッ!」

 

とりあえず気合を入れると、口の蓋をしていた部分が上へスライドし、俺の足元の地面に六本の角が印象的な不思議なマークが現れた。

 

「よぉーーし! 行くぞッ!」

 

「スゥゥゥゥ……」

 

グラントリノの蹴りによって大岩が此方に向かって転がってきた。しかし、俺は焦らずに空手の型をイメージしたポーズを取りながら、ゆっくりと深く腰を落した。足元のマークが両脚に吸収・収束していくのが感覚として実感出来、それが完全になったと感じたその瞬間、俺は大岩に向けて高く跳躍した。

 

「トォオウッ!!」

 

「!! 何か知らんがヤバい!!」

 

「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

渾身の蹴りを叩き込んだ大岩はクッキーの様に脆く、粉々に砕け散ったと同時に、崖が完全に消滅し、周囲は巨大なクレーターと化した。

 

この日、世間ではこの山を震源とした謎の地震が観測され、破壊された崖は山の管理者である『ワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツ』の一人のピクシーボブによって、瞬く間に直された。

 

 

●●●

 

 

その後、オールマイトとグラントリノの特訓は熾烈と苛烈を極めた。何せ体は出来上がっている上に、並大抵の攻撃ではまず死なない。お蔭で手合わせは全く容赦が無い。

 

三日ほどそれが続いた後に、グラントリノ曰く「フェーズ2」へと移行し、この山の管理者である『ワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツ』の皆さんが協力してくれる事になった。

 

オールマイトやグラントリノに比べれば楽だろうと思っていたのだが、俺はそこで全く対応する事ができない、所謂『天敵』と言っていい相手と遭遇した。それは……。

 

『きゃあ、カッコイイ。すっごく鍛えこんでて、結構好みのタイプ♪』

 

『ぐわぁああああああああああああああああああああああッッ!!(歓喜)』

 

「隙ありっ!」

 

「ぐわぁああああああああああああああああああああああッッ!!(激痛)」

 

そう。テレパスの“個性”を持つマンダレイさんだ。彼女の“個性”は正に強力無比。避ける事も防ぐ事も出来ず、全ての攻撃が容赦なく俺の心に浸透し、隙だらけの俺の体に引っかき傷を次々と刻んでいく。まあ、即効で治るんだけど。

 

「おい小僧! さっきから何をやってる! 面白い様にポンポンやられやがって! やる気があるのか!?」

 

「……しょ」

 

「しょ?」

 

「しょうがないじゃないかぁーーーーーッ! 俺だってカッコイイとか、好みのタイプとか言われたら、嬉しいんだよぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「はぁ?」

 

ガミガミと説教をしてくるグラントリノに対し、俺は号泣しながら自分の思いの丈をコレでもかと叫んだ。こんななりだが、俺だって中学三年生のピュアボーイなのだ。何だかんだ言っても「“個性”を使った状態でカッコイイと言われる」と言う、完全に諦めていた事が現実のものとなり、嬉しくない訳がない。

 

「辛いことや苦しい事は人生のスパイスだとか言うけどさぁ! それなら俺の人生ずっとスパイスまみれだよ! オードブルも、スープも、メインディッシュも、デザートも、ドリンクも、全部カレーしか出てこねえっつーの!」

 

「にゃあ……」

 

その言葉にラグドールは困惑した。今晩の夕食にカレーを作るつもりだったからだ。ここはカレーから肉じゃがに変更したい所だが、冷蔵庫に糸こんにゃくがあったかどうか思い出せない。

 

「ま、まあ、落ち着きなよ。アタシだって、この年になるまで全然結婚できてない独身だしさ……」

 

「……嘘だッッ!!!」

 

「え?!」

 

「本当の事を言え! 自慢じゃないが俺には甘い思い出話なんて、一つもねぇ! それに比べてアンタの場合、そのチャンスは幾らでもあった筈だ! ところがあんたは、『もっと良い条件の相手が出てくるんじゃないか』とえり好みしていた所為で、何時の間にか『貰ってくれるなら誰でもOK』な状態になったと違うか!?」

 

「ぐはぁっ!!」

 

恋愛面でコンプレックスがあると言う点では二人は共通していたが、様々な理由から非モテ街道を驀進する新と、単純に婚期を逃して気にしだしたピクシーボブでは、その根幹も本質も全く違う事を、新は完全に見抜いていた。いや、同族かどうかを嗅ぎ分けたと言うべきか。

 

そして、余りにも心当たりが有り過ぎる上に、余りにも鋭過ぎる指摘が胸に深々と突き刺さり、ピクシーボブは血を吐いて倒れた。

 

「……まあ、確かにオールマイトとは違った意味で画風が違うって言うか、避けられるのも無理は無いって言うか……」

 

「ま、マンダレイ!」

 

「え? あ……」

 

巨漢の虎さんが注意していたが、もう遅い。結構大きな声で言っていたマンダレイさんの独り言は、しっかりと俺の耳に届いていた。

 

「うああああああああああああああああああああッッ!! 女なんて皆デーモンじゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

「え!? あ、あちきも!?」

 

「く、呉島少年! アレだ! ドンマイだぁああああああああああああああッッ!!!」

 

何もしていないラグドールが困惑している事など知らんとばかりに、怪人は絶叫と共に涙を流しながら木々をなぎ倒し森の奥へと消えていった。しかし、木がなぎ倒されているお蔭で怪人の通り道は一目瞭然。「ヘンゼルとグレーテル」ならぬ「マッスルでグレート」と言った感じの、実に豪快な目印である。

 

「……アイツの今後の課題は精神面だな」

 

カオスが極まった現場を他所に、グラントリノは森の奥へ消えた怪人を探しに行った。そこでグラントリノが見たものは……。

 

「き、聞いてくれ。俺は味か――」

 

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああッッ!! く、来るなぁあああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

「………」

 

お菓子の家ならぬ、秘密基地の洞窟を前にして、子供に絶叫と共に逃げられた事で両手と両膝をつき、深く項垂れている怪人の姿だった。

 

 

●●●

 

 

中学校生活最後の夏休みは色々な意味で最悪だったが、冬休みはそれなりに楽しめた。

 

今年のクリスマスは「クリスマイト・プレゼント」の手伝いで、オールマイトと二人でしんしんと雪が降る冬の山でひたすら間伐をした。手伝いが終わった後で食べた、天界一筋肉質な天使が作ったシチューはやたら旨かった。

そして、出久がヒロイックマーケットで三時間並んでやっと手に入れたと言うオールマイトのグッズを、俺はオールマイト本人からクリスマスプレゼントとして一通り貰った事は言わないでおいた。

 

そして時間は瞬く間に通り過ぎ、遂に雄英高校の入学試験の日が、入学の為の実技試験の開始時刻が迫っていた。今頃別の試験会場に居る出久は、緊張しながらも様々な装備を身につけているに違いない。ちなみに装備品はメイド・イン・父さん。

 

『スタート!』

 

プレゼント・マイクによる試験開始の掛け声と同時に、俺は戦場に向かって猛然と掛けだした。

 

戸惑う他の受験生を他所に、俺は父さんから受け継いだ“個性”と、オールマイトから引き継いだ“個性”の二つによって生まれた、新しい姿と新しい力を発動させる為のキーワードを、独特のポーズを決めながら宣言するように言い放つ。

 

「変身!」

 

二つの“個性”の完全なる調和は、演習場に所狭しと配置されている仮想ヴィランを捉えた。

 

 

――完――

 

Q:もしも『ワン・フォー・オール』を受け継いだのがシンさんだったら?

 

A:おめでとう! シンさんはアナザーシンさんに進化した!




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 この後に起こる数々のイベントは身体能力のみで大抵何とかなってしまうが、遭遇する受難もまた半端なものではない。とりあえず「俺がモテないのはどう考えても俺(の見た目)が悪い!」と自覚はしている。

緑谷出久
 この世界では「“無個性”のままヒーローを目指す」少年。設定的には読みきり作品の『僕のヒーロー』や、コミックスの表紙裏で描かれていた初期設定に近い。作者の想像としては、『仮面ライダーSPIRITS』の「滝ライダー」みたいな感じになる……と思う。

オールマイト
 9代目の『ワン・フォー・オール』後継者として、デク君ではなくシンさんを選んだ場合の世界の№1ヒーロー。でも色々と苦労する事は変わらない。主に精神面で。まあ、何とかなるだろうと思うけど。

グラントリノ
 その言動が天然なのかマジのボケなのか、はたまたハイセンスなギャグなのか判断に困るファンキーなおじいちゃん。しかし、その実力は老いて尚健在。作者のイメージとしては、『スターウォーズ』シリーズに登場するヨーダ。

ワイルド・ワイルド・プッシー・キャッツ
 四人一組のヒーローユニット。最終的にシンさんはマンダレイ以外の連中は何とかなったが、マンダレイだけはどうしても攻略出来なかった。ついでに、勝己によく似たマセガキに関しても、シンさんではどうする事も出来なかったとか。



アナザーシンさん
 オールマイトから継承した『ワン・フォー・オール』に、シンさんの肉体が適応する形で進化した強化形態。元ネタは『アギト』に登場する「アナザーアギト」。変身が怒りによって左右されない上に、“個性”発動時の激痛が完全に消失し、更に喋れるようになったのは大きいが、怪人にカテゴライズされる呪いは健在。
 触覚が変化した六本の角は『ワン・フォー・オール』による余剰エネルギーを放出して肉体の自壊を防ぐ素敵仕様。更に全力を出す場合は口のクラッシャーが全開となり、元々持っていた超能力が「光の紋章」として可視化された。更に自前の超回復能力をもってすれば負傷が直ぐに治る為、ある意味では『半冷半熱』の“個性”を持った轟以上に「先代の上位互換」と化している。エンデヴァーは泣いてもいい。
 設定的には『アギト』のギルス強化イベントを彷彿とさせるが、全身から棘を生やした『エクシードシンさん』は見た目が余りにも邪悪過ぎて、どこからどう見てもラスボスヴィランに認定されると思ってコッチにした。

ステイン「ハァ……この世でヒーローは、オールマイトだけでいい……」
シンさん「………」

ワン・フォー・オール
 対オール・フォー・ワンを目的として、受け継がれてきた“個性”。所有者達が磨き上げてきた「身体能力」が継承者に加算され、“個性”の継承を重ねる毎に強大になっていくと言う“個性”。この世界ではシンさんの画風が、悪い方向に超☆進☆化してしまった元凶。
 しかし、考えてみれば「身体能力」を付与するだけであって、それを発揮させる「肉体」を形成する“個性”ではない事から、最終的には「巨大化や怪物化等の『ワン・フォー・オール』に耐えられる肉体を形成するタイプの“個性”を持っている事」が継承者の条件となり、“無個性”の人間には扱えない“個性”となってしまう気もしないではない。

脊髄引っこ抜き
 言わずと知れたシンさんの必殺技……なんだけど、ヒロアカ世界でやるには無理があり過ぎる気がする。



これにて、IFのお話は終了です。でもアナザーシンさんは、本編にも出すかも知れません。アナザーアギトがV3を意識した設定を踏まえて、「4つの死の弱点」を加えてみたりとか……。
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