ハンター協会の会長秘書官室。
「首謀者からの通信です」
「ついに来たか。つないでください」
ビーンズは秘書官の秘書に指示する。
「はい」
天空闘技場を監視していたハンターから、ネテロ会長が捕えられたという報告が上がってきた。
ネテロ会長とこんな状況になったときの事前の打ち合わせはしておいた。しかし、ネテロ会長が捕まってしまうシチュエーションまではしてなかった。ここまで追い詰められるとは思ってもみなかった。
主にネテロ会長と通信用に使っているメインモニターに首謀者の映像が映し出される。
「ハンター協会の諸君、我々はアランカルだ」
モニターに映し出された人物は赤と黒の仮面を被っていた。その後ろで、ネテロ会長が磔にされている。
「ネテロを捕え、天空闘技場を占拠した。夜明けとともに、ネテロと人質を処刑する」
処刑。簡単に言ってくれますね。各界の要人がいるというのに。
アランカル。
破面流道場の門下生のハンターの通称。アンダーグラウンドのものをハントすることから、彼らをダークサイドハンターと呼んでいる。かつて、ドン=フリークスという第1期ハンターによって、滅ぼされたはずの組織。
彼らはいったい……。
「要求はなんですか?」
「ハンター協会が取得しているダークレコード(コピー)の公表だ」
「なっ!?」
ダークレコードはファーストハンターであるそのドン=フリークスの遺産。ネテロ会長をして、ふれてはならない宝の地図と言わしめる人類最大のアンタッチャブル。
暗黒大陸と暗黒世界(ダークワールド)の未完の地図。
ダークレコードはダークサイド最高峰の宝の地図といえる。
ネテロ会長曰く。これが公表されれば人類は滅亡の危機にさらされることとなる。かといって、ウイルスに対するワクチンの役目もあるために、廃棄することもできないという厄介な代物だった。
「あなたは何者なのですか?」
「公表の期限は夜明けまで。あと10時間だ。それまで私はここにいる。ネテロと一緒にな」
通信が切られた。
公表は絶対にできない。公表するにしても、V5の許可が必要になる。テロに屈することはできない。許可は絶対に降りないだろう。
どうすれば……? ネテロ会長が捕まったのは痛い。想定外だ。
「大変そうですね」
のんきな声がきこえた。パリストン副会長。
「ネテロ会長に会長の仕事ができないなら、僕が会長代理ということで良いですよね? 副会長なんだし。ダークレコード、公表しましょうよ。いいじゃないですか。それでネテロ会長も人質の要人たちも助かるのでしょう。僕の大事な取引相手も人質にとられてしまっていて困ってるんですよ」
困ったようすはまったくみられない。むしろこの人のことだ。助けて、貸しをつくるチャンスだとでも思っているのだろう。
「まったくあなたってひとは! それは会長の意志に反します!」
「そうでしょうね」
パリストンは冷たい笑みでビーンズを見下ろす。
「僕も漁夫の利は好みじゃありません。ネテロ会長は僕の手で倒したい」
パリストンの顔には笑顔が貼りついている。
電話が鳴る。
「ビーンズさん。僕が出ます」
パリストンはV5とのホットラインの電話に出る。
「副会長のパリストンです。えぇ。いま連絡が入りました。それより、今頃僕らに連絡をよこすなんて遅いですね?」
電話元で怒りの声がきこえた。パリストンは笑っている。
「問題ありません。こちらで対処します。えぇ。全責任は僕が負います。はい。会長にも負わせますよ」
パリストンは電話を切った。
「また勝手な約束を」
「だいじょうぶ。すでにネテロ会長と僕とで手はいくつか打ってあります。それに天空闘技場は僕のフィールドですから。バトルは段取りで決まるんです。僕たちの勝ちは揺るがない」
これが一流ハンターの自信。なんというおそろしい人だ。
その才能を純粋にハンター協会のために使うなら、ネテロ会長も安心して勇退できるものを。
ネテロ会長、私は今でも、彼を副会長にしたことは失敗だと思っています。
◆ 回想
「今回、フロアマスターになったヒソカ選手を特例でバトルオリンピアに参加させていただくことはできますか?」
「なぜだい?」
天空闘技場最高責任者の桜髪のルーラはパリストンにきいた。
「保険ですよ」
「保険ねぇ。ヒソカなら、バトルオリンピアへの参加はもう決定しておるよ」
「え?」
「アンタの知らないところで、べつの物語も動いているのさ」
「なるほど。可能性は高くありませんが、僕らはその物語の余波を受けているのかもしれません。そんな特例を要求するほうもそうですが、承諾するほうも尋常ではありません。伝統あるバトルオリンピアの大会ルールをねじまげているわけですから。特例の要求と承諾。そして、保険をかけなければならない状況、同じ時期に同じ場所で、これほど大きなことがおきている。僕らはヒソカ(彼)の物語を読み解く必要があるわけだ」
頭の回転が早いね。ネテロに気に入られるわけだ。
「彼を掌握してみせますよ」
◆ 回想終了
アランカルの戦闘員はダース・ベイルンも含めて7人いる。
すべてベイルン卿が遠隔操作している死体人形類だ。実質、ベイルン卿ひとり。煉獄を含めて、七つの死体等を同時操作する能力。ベイルン卿は桁違いのスペックを持っている。能力容量も桁違いだ。
すでに、虚空はフロアマスターによって倒されている。フロアマスターの中に、手強い相手もいるらしい。
ネテロはベイルン卿が抑えている。そこをスタングともう一人が防衛戦を張って守っている。残りは各所に放たれて、刺客の排除につとめている。
「モーラちゃんに修羅くん、そして、あたしの三人でコントロールルームの防衛をします! 三人もいるし、戦力は十分だね」とアスフィーユ。
修羅くんはベイルン卿の死体人形のひとり。
「えっ!? わたしも戦うの? デスクワークしかやったことなくて、現場経験は今回が初めてで、ケンカなんてムリだよ。機械に強いからって無理やり連れて来られただけだし」
モーラは言った。
「じゃあ、モーラちゃんは後衛ってことで」
「…………」
「ここを攻略されると一気に頂上まで行かれちゃうからね。なるべく死守しましょう。最後は無敵のベイルン卿がなんとかしてくれるから。それにいざとなったら、彼もいるし。修羅くんはもう死んでるしね」
「中身はアランカル最高幹部のベイルン卿なんだから、修羅くん呼びはよくないんじゃないかな?」
「…………」
「そお? いいよね?」
「…………」
「ベイルン卿の年齢はずっとあたしより上だけど、実年齢はあたしより下だよね? って女の子に年齢の話フラないように!」
「フッてないけど……」
「じゃ、天空闘技場メインコントロールルーム防衛線、はじめましょうか」
アスフィーユが何事もなかったかのように宣言した。
「あれ!? 年齢と実年齢って何がちがうの?」
「ごめん。修羅くん、あれってキ・ミ・ツだったっけ?」
「おまえら、すこしは緊張感を持て」
「はぁい♪」
「…………」
◆
「天空闘技場、電子制御室攻略戦、開始♠」
死神はぺろりと自分の唇を舐めた。
◆
「アイツらはここにいる。ヒソカとスタングの暗殺計画を実行にうつそう」
エンジンが言った。
「了解」とフージン。
「シンファのカタキをとるぜ」とライジン。
ライジンの手から電気がほとばしった。
元クート盗賊団の死刑囚の三人は監獄グリードアイランドを脱走し、反撃に転じたのだった。
◆
夜明け。それは天にもっとも近い場所から訪れる。