Hyskoa's garden   作:マネ

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幕間劇
No.053 レオリオを排除せよ


 天空闘技場……カジノ……劇場……遊ぶには事欠かない。

 

 眠らない娯楽都市アベルシティ――。

 

 世界でもっとも星の少ない街のひとつと言われている。

 

 そんな街に警察官僚のロックは配属された。

 

 ロック。

 

 それは伝説の秘宝ハンターの名前だった。秘宝ハンターになってほしいという両親の想いがその名前には込められていた。

 

 だが、ロックはハンターになることはなかった。

 

 ロックにとってロックという名前はただただむなしい名前となった。

 

 彼に出会うまで。

 

 

 ◆

 

 

 ――時間は少しだけ巻き戻る。

 

 

 ◆

 

 

 アベルシティにサイレンが鳴り響いている。天空闘技場にパトカーが集まってくる。いつも以上に今夜のアベルシティは明るく騒がしかった。

 

 なんで今日に限ってテロなんておきるんだよ。

 

 俺はプライベートの用事をキャンセルせざるを得なかった。相手は怒るでもなく、ただ「無事に帰ってきて」と言っていた。この惨状をみると、死も覚悟しなければならないような気になってくる。

 

 ロックは天空闘技場の真ん前で警備していた。

 

 俺はこんなところで死んでいい人間じゃない。

 

 俺は警察官僚だ。それも出世コースであるアベルシティに配属されている。俺は選ばれた人間なんだ。

 

 ……………………。

 

 そう思っていた時期があった。俺は挫折を経験している。

 

 幼少の頃から神童と呼ばれて、勉強もスポーツも誰にも負けたことがなかった。

 

 あのハンター試験を受けるまで。

 

 俺は世界の広さとその深さを知った。

 

 俺はもうあの場所に戻れない。ポンズというこどもに完膚無きまでに負けた。天性の才能というヤツだろう。彼女は将来まちがいなく誰もがその名を知るトップハンターになるだろう。

 

 ポンズ。あれはネテロクラスの才能の持ち主だった。

 

 あの挫折から俺は毎年みていたハンター試験の結果をみることがなくなった。だから彼女のその後も知らない。しかし、おそらく今頃プロハンターとして大活躍して星ひとつくらいもらっていることだろう。彼女にはそれほどの才能があった。ハンター試験なんて楽勝だっただろう。

 

 あんな才能をみせつけられたら、誰だってハンターになることをあきらめるよ。

 

 でも、もし、それでもあきらめず、ハンターになったると粋がるヤツがいたら、それは本当のバカやろうだ。

 

「こりゃ、とんでもねぇ騒ぎになってんな~」

 

 キョロキョロとしながら、その男はやってきた。

 

「こんなどえらい事件を解決しなきゃなんねぇのかよ」

 

 男はマヌケな声を出しながら、ポリポリと頭をかいた。

 

 事件現場にスーツ姿。なんてふざけた男だ。ドラマじゃねえんだ。動ける服装で来いよ。しかも、なんか解決するとか言ってなかったか? 逃げ腰のくせに。ふざけてんのか?

 

 こういうガキが一番ムカつくんだよ。身の程知らずが。天空闘技場の参加者だろう。腕っぷしに多少は自信があるんだろうが、それは俺も同じこと。追い返してやる。

 

「ちょっとキミ、近づかないで! ここは危険なんだから!」

 

 俺は調子に乗っている青年を制止する。青年のまわりに警官が集まってくる。他の警官もあやしいと思ったのだろう。当たり前だ。こんなガキが来たところで、テロ事件が解決するわけがない。

 

「なかん入らせてくんねえかな?」

 

 さいきんのガキは言葉づかいも知らねえのかよ。

 

「まわりをみろ。今、天空闘技場がどうなってんのか、犬っコロでもわかるだろ?」

 

 俺の後ろに立っていた大柄の警官が威圧する。

 

「あぁ。だから来たぜ。俺の仲間(ダチ)を助けによ」

 

 は?

 

 いま、コイツ、なんてった?

 

 助けにきた? 仲間(ダチ)を?

 

 俺はようやく理解した。

 

 コイツ、バカだ。正真正銘のバカだ。

 

 警官の一人が首をしゃくって、コイツを追い返せと合図を出した。

 

「ちょっ……待ってくれよ……放せよ!」と青年。

「はい」

 

「放すなよ」と上司。

「はい」

 

 俺の同期の警官がなぜか混乱している。まったく何をやってるんだ。放せと言われて放すバカがどこにいる。

 

 いや、そうじゃない?

 

 なんで言うことをきいた?

 

 ポイントはそこだ!

 

 青年は胸ポケットに手を入れて、ごそごそと何かをさぐっている。

 

「俺はレオリオ……こういう者だが」

 

 カードが出てきた。

 

 ハンターライセンスだ!

 

 まちがいない。ハンター協会のサイトで、何度も見本をみたことがある。でも、これって本物か?

 

 プロハンターには公務員の管理職クラスの権限が与えられている。ハンター実績によってはこの現場を仕切ることさえ可能だろう。ライセンスが本物ならこんなガキが俺の上官になるわけだ。

 

「本物か?」

 

 同僚が当然の疑問を口にする。こんなヤツがハンター試験に通ったとは思えない。

 

「ニセモンだろ?」

 

 レオリオは「ぷはぁ~~」と深い溜め息をついた。

 

「俺って、そんなにハンターにみえねえかな? ショックだわ。てかよ。ライセンスみせて俺はプロハンターですって、それってなんか……カッコ悪りぃよな?」

 

 レオリオは天空闘技場を見上げた。

 

「おい。貴様! こっちをみろ!」

 

 レオリオが一睨みした。

 

 

 

 ゾクゥウウウウウウウウウゥゥゥ――。

 

 

 

 一瞬だった。

 

 レオリオのプレッシャーが変わった。

 

 背筋が凍りつくように寒くなる。

 

 

 

 ヤバい。

 

 

 

 それは生まれて初めての感覚だった。

 

 これが本当の意味でのヤバいという感覚!

 

 バタバタと何人かの警官が倒れた。大柄の警官が尻もちをついている。青ざめている。バケモノをみるような目をしている。人間がこんな表情をしているところを生まれて初めてみた。

 

 俺も同じような顔をしているのかもしれない。

 

「アンタとは話ができそうだな」

 

 レオリオは俺に話しかけてくる。

 

 なんだ? 何をした? 何が起きてる?

 

 いま、俺の眼前でとんでもないことが起きている。それだけはわかる。

 

「通してもらえるかい?」

 

 その声は穏やかだった。まるで聖職者のように。神父のように。

 

「た、たたた大変失礼いたしましたぁ」

 

 俺は無意識にレオリオに向かって敬礼していた。

 

「悪りぃな」

 

 レオリオは悠然と通っていく。神々しくさえみえる。

 

 このテロ事件は解決するかもしれない。解決に導くのはこのレオリオという青年だ。囚われのネテロ会長も彼が助けだしてくれるにちがいない。

 

 そういう確信がある。

 

「すげえな。これが本物のプロハンターか」

 

 となりで同僚が独り言を漏らす。

 

「組織に所属していないのに上官扱いされるとか、その意味がようやくわかった気がするぜ。ハンターライセンスとか、そんなの関係ない。俺たちと比べることすらおこがましい。そもそものモノがちがうよ。コレがトップハンターってヤツか」

 

 レオリオの足が止まった。

 

「そいつァ、ちがうぜ。オレは才能ゼロのただのルーキー。期待ゼロの三下ハンターだよ。プロハンターってのはバケモンばっかだよ。オレは合格ラインぎりぎりだった。オレが合格できたのは奇跡みたいなもんさ。オマケで合格させてもらったようなもんだよ。仲間に恵まれたのさ」

 

 嘘だろ。

 

 レオリオはポンズ以上だ。ポンズより遥かに才能がある。ネテロ以上だとすら思う。

 

 それなのに、これで三下……!?

 

 彼ほどのハンターが合格できたのが奇跡……!?

 

 じゃあ、彼がバケモンって称するハンターってのはいったいどんなんなんだ!?

 

 俺がハンター試験を落ちた理由がわかった。合格できるわけがない。底辺ハンターすら雲の上の存在すぎる。

 

 少年の頃、俺は誰にも負けたことがなかった。勉強でもスポーツでも。それも本気を出さずにだ。世界は俺を中心にまわっていると思っていた。

 

 けど、ちがった。

 

 

「世界って……」

 

 

 ロック……この名前はそんな凄い人からもらっているのか……このレオリオという青年よりも有名なハンターから……。

 

 

「すげえなぁ……」

 

 

 レオリオは自分を三下だと言い切った。それなのに、立ち向かおうとしている。震えながらも。強大な敵を相手に。

 

 胸が熱くなった。なぜか目がしらが熱くなった。

 

「レオリオさん!」

 

 俺はレオリオに呼びかけていた。

 

「頑張ってくだ……」

 

「うぎゃっ」

 

 そんな悲鳴を上げて、レオリオは忽然と消えた。

 

「彼、どこに行った?」

「さぁ」

 

 ロックは天空闘技場を見上げる。

 

「ロック?」

「ハンターって凄いな。俺もあの場所をめざしていた時があるんだ」

「ハンターを……?」

「あぁ」

 

 誰にも話したことはなかった。破れた夢の話なんて、好き好んでするもんじゃないから。

 

 でも……。

 

「レオリオさん! 頑張れ!」

 

 もしも、このテロ事件が解決したら、俺はロックという名前を好きになれそうな気がするよ。

 

 

 ◆

 

 

「やぁ◆」

「ヒ、ヒソカぁ~~~!?」

 

 レオリオはヒソカのバンジーガムで釣られていた。

 

「おい、はなせぇ~~っ!」

「放していいのかい?」

 

 レオリオは下界をみる。レオリオは地上100メートルくらいのところで宙吊りにされていた。

 

「うぉおおお、ダメだぁ! 放さすなぁ~~~っ!」

「くっくっく……放しちゃおうかなぁ~♣」

 

 ヒソカはバンジーガムで吊ったレオリオを上下させて遊ぶ。

 

「なんなんだよ? おまえは何がしたいんだよ!?」

「キミの成長した姿をヒミツの部分まで確かめておきたい……かな❤」

「確かめさせる義理も義務もねえよ」

「そうかな?」

 

 ゴンが言ってたっけ。試験官ごっこで、ヒソカが俺に合格を出したって。

 

「キミにもちゃんと動いてもらうよ♣ ボクだけが動くより二人で動いたほうが気持ちよくなれるから……二人息を合わせてね❤」

 

「おまえが言うとヘンな意味にしかきこえねえな」

「それってどんな意味だい?」

 

 ヒソカは笑う。

 

「チッ……ヘンタイが」

「さぁ、一緒にイこうか」

 

「どこにバンジーガムつけてんだよ……このヘンタイピエロやろう! ちょっ、待って……待ってください……ヒソカさん? お願い! お願いします! うぉおおおおおおおっ!! この……ヒソカのヘンタイバカやろぉおおおおお~~っ!!」

 

 ヒソカとレオリオは上層へと飛んでいく。

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