Hyskoa's garden   作:マネ

58 / 72
ウソツキには意味のある嘘しかつかないタイプと意味のない嘘もつくタイプ。その二通りいるの。あんたとあたしは前者。あいつは後者。深く考えると泥沼にはまるわよ。


No.060 制約×ゲーム

 念能力バトルには念能力そのものを倒すというジャンルが存在する。

 

 刃のトランプが相手の身体にふれた瞬間に具現化して攻撃するような念能力にはきびしい制約が存在する。その制約を見破ることができれば容易く念能力を無効化することができるほどの。それが念能力というものの本質だ。

 

 密室念魚インドアフィッシュ、神字を書いた場所でしか使えない瞬間移動パンチなどがまさにそれに当たる。

 

 この二つの能力は強力だが、制約を見抜かれればたちまち無効化させられてしまうという決定的な弱点がある。

 

 制約を見抜けば勝ち。見抜けなければ負け。

 

 昔からある念能力の戦い方だが、これが主流になることはない。常勝が期待できないからだ。操作系や具現化系はハマれば強い。だが常勝はありえない。制約が見抜かれた時点で、その使い手の念能力者としての人生が終わるのだから。

 

 具現化系能力の中には凝で見破ることのできない不可視の具現化が存在する。もちろん、そのためには膨大なオーラを消費することになる。能力の発動を悟られてはならない念能力においては必須の要素。凝は万能ではない。常にあらゆる可能性に思考をめぐらせることができなければ常勝はない。

 

 念能力のバトルは精神の戦い。

 

 ゆえに念能力は奥が深い。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 傍生の腕にヒソカのトランプが突き刺さる。

 

 ヒソカのこのトランプの攻撃はやはり具現化系能力なのか? 変化系と具現化系は相性が良い。十中八九、このトランプ攻撃は具現化系の能力だ。そして、瞬間移動……不可避の一撃ということは誓約と制約があるはず。発動条件。それを見抜けば俺の勝ち。見抜けなければ俺の負け。これはそういうバトル。

 

 これまでのヒソカの戦い方から考えるに、ヒソカは相手の能力を攻略していくバトルスタイルのように思える。そして、ヒソカは自分の能力を攻略の対象にするようなタイプには思えない。ヒソカ自身を攻略の対象にするタイプのように思う。

 

 だからこそ、このシチュエーションに違和感を覚える。

 

 具現化系の不可避の一撃はヒソカらしくない能力だ。

 

 念能力はその人物の個性そのもの。これほどの使い手の能力が自分の個性とミスマッチなんてことがあるだろうか?

 

 …………。…………。…………。

 

 俺は何を考えているんだ? バトル中にこんなに頭を使ったことはない。チカラとチカラじゃない。技と技でもない。これが現代の念能力バトル。ハンター同士の戦い。精神の削り合い。

 

 この時代に生まれていれば俺はもっと強くなれたのかもしれない。

 

 もっと早く、おまえに会いたかったよ。破面に飲まれる前に。

 

「ハァハァハァ……」

 

 なぜ息が切れるんだ? アンデッドの身体なのに……。

 

 武空術を覚えてから、こうなることが多くなった。アンデッドの身体は変化を受け入れられないのかもしれない。変化。それは生きているということ。この身体は日の出までは持たないだろう。

 

 変化している俺はもはやアンデッドではない。言うなればスーパーアンデッド。

 

 武空術を覚えて、スーパーアンデッド。

 

 オーラが傍生の身体から放電(放霊)している。

 

 破面に飲まれて、スーパーアンデッドツー。

 

 俺はもう一段階の変身スーパーアンデッドスリーを残している。その変身をすれば数分も持たず、この身体は朽ち果てるだろう。

 

 生命エネルギー(生きる)とは、アンデッドモードとは、どういうことなのだろう?

 

 傍生は刺さったトランプを払う。もちろん、血は出ない。

 

 

 

 ヒソカには決定的な弱点がある。

 

 

 

「くっくっく……◆」

 

 ヒソカがどんなトリックを使ったかわからないが、このトラップ攻撃を見切ってやる。それで俺の勝ちだ。すべての決着がつく。

 

 攻撃の瞬間、かならずヒソカのオーラ量は増すはず。能力の正体を見極めてやる。

 

「おや? 攻撃は仕掛けて来ないのかな? 攻め手がないのかな?」

 

「攻め手? あるよ。その前に、おまえのそのトランプを攻略する」

 

「やってごらんよ♠」

 

 

 

 ――ダークセイバー2

 

 

 

 傍生の左手にもう一本のダークセイバーが現れる。

 

「二刀流か♣ まずは防御力をあげるわけだ。でも、たった二本で、ボクの攻撃を防げるのかな?」

 

 傍生は二本のダークセイバーを構える。

 

 ヒソカはデッキからカードを一枚取り出す。ヒソカのオーラの増減を見極めるんだ。ヒソカが手にしたカードが消える。傍生の左腕にトランプが刺さった。

 

 

「!?」

 

 

「♣」

 

 ありえない。

 

 変態的な笑みがヒソカの顔から浮かび上がった。

 

 ヒソカにオーラの増減はみられなかった。それはつまり練も(強力な)発もしていないということを示唆している。

 

 念能力の常識からはありえない。どうなっていやがる。

 

 生きていたら、背中に汗をかいていたかもしれない。心と身体が一致しなくなってきている。

 

 キッドはアンデッドの身体こそ最強だと言っていたが、心と身体が一致せずに、念能力は100%引き出せない。心が……身体が……制御できなくなってきている。これがアンデッドというものなのか。

 

 ヒソカと戦うと自分がアンデッドであるということを否が応でも自覚させられる。

 

「さぁ、ボクの攻撃の攻略法はみつかったかな? みつからなかったら、死ぬよ?」

 

 ヒソカは両手を広げる。トランプが扇状に広げられる。それが消える。傍生の全身にトランプが突き刺さる。オーラの薄いところをピンポイントで刺してくる。

 

 だから、ありえないんだよ。念能力の法則(物理)的に。

 

 ヒソカのオーラ量に変化はほとんどない。どうやって、念能力を発動しているんだ??

 

 瞬間移動だぞ? 単なる発じゃないんだ。かならずオーラに揺らぎが出てくるはずなんだ。理屈に合わない。

 

 ヒソカのトランプ攻撃で身体が崩れてきている。これ以上の攻撃を受けると動けなくなる。

 

「常識にとらわれているね♣」

 

 そもそも、瞬間移動攻撃なんて、相当の制約が必要になる技だ。こんな簡単に発動できる技じゃない。

 

「それじゃ本質は見抜けない♠」

 

 そうだ。まずは制約だ。制約を見抜く。

 

 円ッ!

 

 背中にバッジ!?

 

 傍生は反射的にバッジを剥がした。いつ、つけたんだ? バッジにはヒソカ似のジョーカーが描かれていた。

 

 これが制約か?

 

 バッジをつけた相手に瞬間移動攻撃ができる……?? これがオーラ量の増減がみられなかった理由か?

 

「へぇ♣ 意外と早かったね」

 

「この俺を舐めないことだ!」

 

 ヒソカは自分の唇をぺろりと舐めて、笑う。

 

 傍生はダークセイバーでバッジを蒸発させる。バレやすい制約ほど強力な念能力が発現しやすい。相手にバッジをつけて発動する念能力なんて、初見殺し(こども騙し)もいいところだ。こんな能力で倒せるのはこどもだけ。こんな能力に踊らされるなんて、どうやら、俺は冷静さをかいていたようだ。

 

 こどもにしか通用しない能力。

 

 なのに、なぜ、ヒソカほどの使い手がこんな能力を身につけた?

 

 幼いときに身につけたのか? いや、幼くともヒソカはヒソカだ。

 

 こんな能力は幼稚なこどもの発想。ヒソカは幼稚ではない。制約を見抜いたはずなのに、何か読み切れない。何かを見落としているような違和感が胸に刺さっている。

 

「ヒソカ、これでおまえを倒す準備はできた!」

 

「なにをそんなに怯えているんだい? ボクを倒す準備ができたんだろう?」

 

 制約を見抜かれて、なぜこんなにも余裕でいられるんだ?

 

「おまえにひとつだけ言っておく」

「なんだい?」

 

「俺の意識は俺を生き返らせた術者……つまり、この作戦のリーダーにつながっている。おまえの(瞬間移動)能力はもう通じない!」

 

「くっくっく♣」

 

 ヒソカはおかしそうに笑っている。予想外の反応だ。「あっそ♠ そんなの取るに足りないことだよ」という強がりなリアクションをとると思っていた。まるで、これも自分の手のひらの上だとでも言わんばかりのリアクションだ。

 

 ヒソカの強がりなのか? ヒソカの手のひらの上なのか?

 

 俺は現状の戦況を整理しなおしてみる。最後の変身を使えばヒソカを倒せる。俺の負けはない。

 

 それにヒソカには決定的な弱点がある。

 

 それは……。

 

 ヒソカは両腕を広げて、再び両手にトランプカードを扇状に展開した。

 

「ヒソカ、いったい、どういうつもりだ?」

「♣」

 

 まさか……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。