隠……絶の応用技。
オーラは光と同様に、粒子性と波動性を有している。それを超感覚で知覚することによって念能力者たちはオーラを感じている。オーラは光を反射しない。つまり、オーラを内側に閉じ込めることによって、オーラは知覚できなくなる。
それが絶の応用技である隠である。
オーラを完全に閉じ込めることは難しい。外に漏れ出した微量のオーラを知覚能力を増幅して感じられるようにした能力が凝である。敏感な能力者なら、凝も円も使わずに、オーラを感じることができる。
そして、これは大きなオーラに関して、隠が効きにくくなることを示唆している。
念(超感覚)能力者は光よりオーラのほうが知覚しやすい。オーラの刺激はそれほどに強い。
また特定の人間にしかみえない念があるが、これはオーラの粒子性と波動性をコントロールした技であり、隠とはまったく別の原理を利用した技で膨大なオーラを消費する。原理がちがうので、隠とはまったく別の才能が必要になる。
凡人の念能力者はこれらのメカニズムを理解することで念が修得しやすくなる。
天才は感覚で修得する。
◆
14人の悪魔はオート操作でありリモート操作ではない。14人の悪魔に凝のアビリティは装備させていない。アビリティを装備させることは容量(メモリ)を消費することでもあるから。無駄なアビリティを装備させないのはセオリー。
これはオート操作のデメリットである。リモートでは自分のアビリティをそのまま付加することができる。メモリを消費することなく。
グリードアイランドでは凝なんて必要なかった。黄泉はグリードアイランドで強くなったが、その方向性はグリードアイランドでしか通用しないものだった。
必要ならば俺の凝を14人の悪魔たちにうつそう。
修行を必要としない覚悟のみの強制的成長。
もちろん、その代償として、二度と念能力が使えなくなることもある。
ここで彼女に破れるわけにはいかない。必要ならば、強制的成長も必要。それも選択肢のひとつだ。ヒソカに破れた戦士のように。私怨もあるし。
代償は俺の寿命。
◆
戦闘中正しい判断をし続けるのは難しい。
シズクの四行詩
――捕まるなら鎖がいい
◆
まず、この影……悪魔たちを一掃する。
「鳥篭!」
マチはヒソカのフロアにいる14人の悪魔たちを念糸の監獄に閉じ込める。鳥篭のように。
鳥篭は小さく縮んでいく。
「なるほど」
14人の悪魔たちは次々に切断されていく。
手ごたえがない。あえて切断されているようにも思える。
悪魔が切断されて霧散されたオーラは黄泉の元に戻っていない。
ズズズ……14人の悪魔たちが復活する。
悪魔たちへの攻撃は意味がないみたいだね。ただのオーラを攻撃してもダメージにならない。
復活した悪魔は4体だけだった。2体は大型の悪魔。もう2体は小型の悪魔。さっきより強そうにみえる。少数精鋭にしたらしい。
これは……アタシの念糸の強度を見切られたかもしれない。
この悪魔たちの強度だと小型の悪魔も鳥篭で切断することはできない。
「14人の悪魔たちはいくら倒されても、いくらでも再生可能だ。攻撃してもダメージは通らない。そういう能力だから」
影分身ね。
「ふぅん……これじゃ、いくら倒しても意味ないね」
「おまえの糸では俺の堅は切れない」
「それは、まだわからないね」
「試してみればいい」
2体の大柄な念獣がそれぞれ2体の小柄な悪魔をハンマーを投げるように身体を回転させて、マチに投げてきた。マチにぶつかる瞬間、念獣2体が合体した。マチの背後に取りつく。マチは14人の悪魔に羽交い締めにされた。
動けないわけじゃないけど……これは……。
「捕獲完了だ」
「まだわからないね」
マチの念糸が柱をまわされて、合体念獣に絡まっていた。
「もう一度言おう。試してみればいい」
「言われなくても」
マチは念糸を弾く。
――ぷつん
マチの念糸が切れた。
「どうやら、おまえの糸の強度では俺の念獣を切れないようだな」
強度限界。
黄泉は14人の悪魔たちの強度をマチの念糸では切れないレベルまで押し上げた。完全完璧にマチの念糸の強度を読み切っている。
その精度は高いとはいえないけれど、彼なりにという意味で……ちょっと硬すぎる。もうちょっと軟くてもいいのに。雑。
この念獣はアタシの念糸じゃどうにもならないね。
「いい女だな。盗賊をやらせておくにはもったいない」
黄泉は笑みを浮かべる。
「ゲス」
14人の悪魔たちの手に念弾が浮かび上がる。黄泉の手からも。
14人の悪魔は複数人を同時に相手にするような能力だ。黄泉は大勢を相手にするバトルに特化している。この念弾はアタシ一人で逃げ切れるものじゃない。
しかし、今の黄泉は悪魔が三体という防御重視のフォーメーションをとっている。回避は不可能じゃない。自由に動ければ。
この黄泉の攻撃を受ければアタシは死ぬ。
シズクの占いに、マチの死の暗示があった。それを回避する方法も載っていた。
――捕まるなら鎖がいい。
逆にいえば黄泉に負けることはないということでもある。そういえば黄泉との戦いは占いでもふれられていなかった。黄泉との戦いはあえて語るほどのこともないバトルということ。
「おまえが俺の手に堕ちれば命だけは助けてやってもいい」
「もう勝ったつもりかい? 気が早すぎるんじゃない?」
「おまえの能力じゃ、羽交い締めにされたその状況から抜け出すことはできない。そして、この念弾を直接食らえば、おまえの堅程度では防ぎ切れない。確実に致命傷になる」
「やってみればいいよ。アタシはそう簡単じゃないよ」
「残念だよ」
ドッジボールのような念弾が三つ、黄泉と悪魔二体によって、上空に放り投げられた。
同時多発型の攻撃。
黄泉と二体の悪魔が跳ぶ。バレーのスパイクのように放つのだろう。
あれを食らったら、アタシは死ぬ。
ヒソカから黄泉の生前のことはきいていた。
黄泉は賢くない。
グリードアイランドの「一坪の海岸線」のドッジボールバトルのラスト、黄泉はヒソカのバンジーガムを見抜けず、マヌケにもコートの外に出されて、アウトになって敗北した。
試合中、あれだけバンジーガムをみせられたのに。これは擁護できないレベルのマヌケだ。
黄泉は、アタシの敵じゃない。
――凝ッ!
マチは細い念糸を絡めていく。束ねた念糸はワイヤーのようになる。念糸の強度が飛躍的に上昇し頑丈になる。
――天女の組紐(フェアリーテイル)!!
マチを羽交い締めにしていた悪魔に天女の組紐(フェアリーテイル)が絡まる。
マチは天女の組紐を弾く。悪魔が切断された。
マチに黄泉と二体の悪魔から念弾のスパイクが放たれる。マチはそれらをひらりひらりと交わす。
黄泉に驚きの表情が浮かぶ。
「これが幻影旅団の発想(レベル)なのか……」
念弾のスパイクを放った二体の悪魔が細切れになる。
黄泉は言葉を失う。
「アンタに、しゃべってる余裕なんてないよ」
練を行うときの念能力者の呼吸は吐くか、止めるかの二種類になる。吸い込みながら、練を行う念能力者はいない。できなくはないがそういう念能力者はいない。
ブレスをみることで、次の攻撃を想定することができる。
念能力を使用するとき、どんなに隠そうとしても、なんらかの不自然さが出てくる。
マチはそういうところを観察している。
相手の呼吸を読んでいる。
マチのカンの良さはそういうところから生まれている。
「その能力、遠距離タイプか……騙したな」
「念のバトルは騙し合いが基本だよ」
黄泉のオーラ量が跳ね上がった。