Hyskoa's garden   作:マネ

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No.072 クラピカ×ダンスインザダーク

 ◆ part【修羅】

 

 

 天空闘技場コントロールルームにて。

 

 

 部屋の奥の壁には巨大なモニターがある。

 

 部屋の中央に簡易ベッドが置かれて、白いドレスを着たクラピカが寝かせられている。それを取り囲むように、天動、修羅、アスフィーユ、ダーク・クラピカ、黄泉がいる。すこし離れて、念獣2体。モーラがモニター前の椅子に座って、こちらをみている。

 

 

「ねぇ。コピィ君? キミならこの『14人の悪魔たち』を使って、どんな戦術を組み立てられるかな?」

 

 アスフィーユが黒いドレスを纏ったダーク・クラピカに問いかける。

 

「相手の能力と特徴は?」

「そうだよね。それがないと答えられないよね。能力は謎だよ」

 

 ダーク・クラピカは口許に人差し指を当てる。

 

 これだけの情報で考えることなどあるのだろうか?

 

「相手は幻影旅団の女の人だよ」

「…………」

 

 瞳を閉じていたダーク・クラピカの金色の髪がわずかにゆれる。

 

 動揺してる……?

 

「……隠を使う」

 

 ダーク・クラピカは小さくつぶやいた。

 

「あぁ、14人の悪魔たちをみえなくするんだ?」

 

「いや。その……逆なのだよ」

 

「ん? それは……どういうことかな?」

 

 皆、首を傾げる。

 

「黄泉(彼)に隠を使う」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 これがベイルン卿すら恐れた緋色の頭脳か。

 

 クラピカの真の恐ろしさは観察力だ。おそらく無意識下だろうが、必要な情報を常に収集しつづけている。それが洞察力、考察力につながっている。

 

 オレの完全模倣(シェイプシフター)は身体を構築する際に、その人物を解析する。しかし記憶まで完全に解析理解できるわけではない。あくまでも身体の情報だけ。

 

 この念能力でクラピカの奥底をのぞけたとしても理解はできまい。自分の能力以上を理解することなどできはしないのだから。

 

 

 

 黄泉がマチを倒すために外に出る。

 

 

 

「念能力ごと他者をコピーする能力か」

 

 ベッドに寝かされていた白いドレスを着た人物がつぶやいた。

 

「相応の代償が必要となるはず。きびしい制約が一つ二つあるだろう」

 

 秘色に輝く鋭い目がオレを射抜いた。凝を使っているのだろう。オレの能力をほぼ把握したはずだ。

 

 こいつは賢い。だからこそ覚える。この違和感。

 

 なぜ急に口を開いた?

 

「あぁ、その通り。コピィできるのは一体まで。その間、オレは念能力が一切使えない。しかし、ダーク・チェーンジェイルで拘束されているおまえは身動き一つ取ることもできまい。反撃は不可能だ」

 

 クラピカの視線が一瞬彷徨う。どこをみた? いや、どこをみようとした?

 

「システムコール……」

 

 クラピカは冗談でも話しだすようになめらかに唇を動かしはじめた。

 

「何だ?」

 

「偽りの冥府の鎖よ。我が手に戻れ」

 

 

 

 ダーク・チェーンがクラピカの『左手』におさまる。

 

 

 

 何が? どうなって? いる?

 

「チェーンジェイル!」

 

 狙いはオレだ。絶の状態では、かすっただけ、が致命傷になる。

 

 クラピカはダーク・チェーンジェイルを振りまわそうとした。

 

「万象天引!」

 

 ダーク・チェーンジェイルが天動のほうに向かう。ダーク・チェーンジェイルがそのまま天動に絡まる。

 

「ジャッジメントチェーン!」

 

 天動の胸に、オリジナルのジャッジメントチェーンが突き刺さっている。

 

「天動!!」とオレは叫ぶ。

 

「私を攻撃させるな。ジャッジメントチェーンは絶対順守の力。私に手を出せば天動(彼女)が死ぬ」

 

「この中の誰かがキミを攻撃するとキミの能力が発動し、私が死ぬ、ということかな?」と天動。「まさか、この状況から、ひっくり返されるとは思ってもみなかったよ。やはり、キミは危険だ」

 

「なになになに?」とアスフィーユ。

 

「音声パスワードを入力することによって、チェーンジェイルのコピィを封じることも、オリジナル(キミ)のコントロール下に置くこともできる。能力を盗まれたり、コピィされたりすることまで想定しているんだろう。これはキミの標的に念能力を盗む能力者がいるからだろう」

 

「……とてもルーキーの考えることじゃないわね」

 

「あぁ、ここまで想定するのは熟練の念能力者でもいない。想定外という言葉を知らないらしい。この年齢でここまで念能力というものを学習し、使いこなしているとは……まさに念能力の怪物といえるだろう」

 

「貴様、ずいぶんと余裕だな?」

 

「余裕だよ。まだ何も問題はおきていない」

 

 天動、そいつを煽るなよ。

 

 天動と目が合う。あぁ、わかっている。

 

「やれ!」

 

 オレはダーク・クラピカにクラピカを攻撃するように指示を出す。

 

 ダーク・クラピカはクラピカに殴りかかる。ジャッジメントチェーンが発動し、天動の心臓が潰れた。

 

「チェーンジェイル!」

 

 ダーク・クラピカは床に叩きつけられる。

 

 ダーク・チェーンジェルはオリジナルとちがって、誰にでも使用することが可能。その代わり、今夜しか使えないという重い制約がある。

 

「万象天引!」

 

 クラピカは天動に引き寄せられて、後ろから抱きしめられる。

 

「なぜだ?」

 

 クラピカが天動がなぜ生きているのかという疑問を口にする。

 

「アンデッドは心臓が潰されても動けるんだよ」

 

 天動は左手で、クラピカの左手を掴む。クラピカの左手から、偽りの鎖が消える。天動のもうひとつの能力。左手で触れたものを強制的に絶の状態にする。

 

 幻想殺し。イマジンブレイカー。

 

「攻撃に使える鎖はチェーンジェイルのみ。捕獲完了!」

 

 

 

 ◆  ◆  ◆ part【クラピカ】

 

 

 

「1つは残しておけ」

 

「残す? なぜだ?」

 

「どうも、おまえはその鎖を一人で戦い抜くためだけに使いそうな気がする」

 

「そうだ。何が悪い?」

 

「念の戦闘は相手がチームならこっちもチームってのが大原則だ。それほどにチームでの攻撃は個人の力を凌駕しやすい。戦ってみればわかる……といいたいところだが、それだと手遅れになるから、今こうして忠告しているわけだが。ま、おまえは納得しないよな。だから、折衷案だ。実際に戦ってみて何が足りないか実感したら、それを補う能力を加えることをすすめる」

 

「…………」

 

「目的を誤るなよ。おまえは気のすむようにやれれば失敗しても満足ってタマじゃない。目的達成のためなら、あらゆるものを二の次にしたい類いの人間だろ? A級首の集団と戦争する気なら、私情を捨てて仲間を募れ」

 

「仲間といいながら、都合のいい使い捨ての駒を集めろというのか?」

 

「そうはならないさ。それも仲間とともに戦えばわかる」

 

 

 

 そして、それがおまえを最後に救ってくれる。

 

 おまえの命じゃない。

 

 おまえの心を、だ。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 たしかに、おまえの言う通りだったよ。シンプルに事が運ぶほど簡単ではなかった。現実はそう単純じゃない。だが、だからこそ、一人で戦い抜く力がほしい。

 

 これ以上、誰かを私の都合で傷つけたくない。

 

 

 センリツ……。

 

 

 

 ――『右手』の人差し指、スチールチェーン!!

 

 

 

 発現! 解放!

 

 

 

 この能力を使用している間は強制的にエンペラータイムが発動する。

 

 しかも、具現化したものを自分の意思で消せない。

 

 エンペラータイムは1秒について、1000秒の寿命を削り取られる。

 

 このレベルの使い手にはリスクが高すぎるが。

 

 

 

 スチールチェーンを天動に刺した。

 

「神羅天征!」と天動。

 

 クラピカは天動に巨大モニターまで吹き飛ばされた。モニターが破壊されて、モニターが消える。

 

 ダーク・クラピカがクラピカに蹴りを入れる。

 

「神羅天征!」とクラピカ。

 

 ダーク・クラピカが吹き飛ばされて、クラピカとは逆側の壁に叩きつけられる。

 

「秘色の悪魔」とアスフィーユが呟く。アスフィーユのひたいに汗が浮かぶ。形勢は完全に逆転している。

 

 クラピカはアスフィーユにスチールチェーンを刺そうとしたが、突如消えた。

 

「バカな」

 

「チェーンジェイル! ダーク!」

 

 クラピカにダーク・クラピカのチェーンジェイルが絡んでいた。

 

「なぜ、貴様がチェーンジェイルを持っている?」

 

 チェーンジェイルは2本ともクラピカが装備している。

 

「さすがの貴様も理解が追いついていないようだな」

 

 

 

「これは3本目の人差し指の鎖(チェーンジェイル)だ」

 

 

 

「神羅天征で壁に叩きつけられたとき、すでに貴様のまわりを取り囲んでいたのだよ。このチェーンジェイルに貴様の声は届かない。捕獲完了!」

 

 

 

 ◆ part【修羅】

 

 

 

「ごくまれに危機的状況で新たな能力が発現することがある。たいていが失敗に終わるが」

 

「全滅されられていたかもしれないね。さっきまで完全拘束状態だったのに……」

 

「こんなガキ、オレの敵じゃない。オレのシェイプシフターが最強だ」

 

 オレはダーク・クラピカに触れる。ダーク・クラピカが消えた。

 

「どうして?」

 

「我ながら、この能力はチートだと思う。だからこそ、この能力は24時間に1度しか使えない。さらに、同じ人間にも1回しか使えない。2回使用すると……」

 

「どうなるの?」

 

「死ぬ。アスフィーユ、あとのことは頼んだ」

 

「え?」

 

「オレはここまでだ。最後まで見届けられないのは悔しいが」

 

 オレはクラピカに再度ふれる。

 

 ダーク・クラピカ2号が出現する。

 

「クラピカ、オリジナルの鎖を奪え!」

 

 ダーク・クラピカの左手にオリジナル・チェーンが装備される。

 

「修羅くん?」

 

「シェイプシフター(コピィ)の今後の命令はアスフィーユが出せ。彼女の指示に従え」

 

「アタシでいいの?」

 

「おまえにしかできない。生きてるおまえにしか。リーダーを救ってくれ」

 

 オレの指先が灰に変わっていく。

 

 クラピカの記憶がオレの中に雪崩れ込んできた。ここで能力覚醒か。まるで走馬灯だ。

 

 ゴンとキルアとレオリオ、そして、ヒソカ。

 

 最後まで見届けられないのは本当に惜し――。


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