【悲報】知らない間に幼馴染がジムリーダーになっていた件について【まさかの裏切り】 作:海と鐘と
本編とは関係のないお話ですので、イメージを崩したくないという方は読まない方がいいかも……?
やっぱりね、作者もね、クソガキ書いてるより可愛い女の子書いてる方が楽しいんですよ。
そんな感じの番外編です。
もしつくっ! ~もしツクシが明確に女の子だったら~
Part1 始まり
「ほらほらそーたろー!見てよこれ!わたしジムリーダーになったんだよ!」
少女が一人、とある家の玄関で、とある少年に紙切れ一枚を見せびらかしていた。
夏の暑さが続く中、炎天下の太陽の下を走ってきたのだろうか、滝のような汗を流していた。
太陽の熱を跳ね返しているかのように焼けることを知らない白い肌。
その肌の上を大粒の汗が流れおち、胸元から滑り落ちて、洒落た白いワンピースの中に消えていった。
麦わら帽子を片手で抑え、もう片方の手を突き出して少年に紙を突き出していた。
これを読めというのだろう。
少年は胡乱げなまなざしで紙を眺めた。
鋭く吊り上った瞳にほっそりと尖った細面。
すっと伸びた鼻梁と、しかめられた形の良い眉が、将来の容貌を保証している様な少年だった。
「……よくできた贋作だけど、偽造は重罪だぞ。友達のよしみで通報しないでおくからさっさと燃やして証拠隠滅してこい」
「ばか!本物だよ!君じゃないんだから任命書偽造なんかしないよ!」
「信じられるかボケ。旅行から帰ってきたら幼馴染がジムリーダーでした、って、意味が分からんわ」
「わたしに何にも言わずに旅行行っちゃう君の方が意味分からんわだよ!悔しかったので資格試験受けて来ちゃった!」
「受けて来ちゃった、で受かる辺りお前らしいが。え、いやいや。ないわ。さすがに冗談だろ?」
少年は全く信じようとしなかった。
俺がそんなものに騙されるわけないだろうと言わんばかりに、両手を顔の横に広げて、やれやれという仕草をした。
「……ばか。ほんとだもん。信じてくれたって、いいじゃん……」
「分かった。ホントだな。信じる。信じます。だから泣くのはやめてください!」
少女の目が涙でうるうるし始めると、途端に態度を変えた。
女性の涙は強いのである。
Part2 海にて
「えぇっ!?そーたろー、バッジ8個集めちゃったの!?」
「おうよ。旅行中に回るだけで余裕でした」
キキョウシティとヒワダタウンをつなぐ32番道路。
海の上を通る桟橋の上で足をぶらぶらさせながら、少年が自慢げに言った。
ホウエン地方に旅行していた二ヶ月の間に、ジムバッジを8個集めてきてしまったのである。
実際は、主にジム以外の場所でのトラブルが多く、とてもではないが余裕な旅路ではなかったわけだが、バッジを集めた事実は事実。都合の悪いことは言わなければよかろうなのだった。
少女はびっくりしたように目をまあるくした後、不満げにぐっと眉根を寄せた。
「なんで一人で集めちゃうの!?一緒に回るって約束したじゃん!」
「別にジョウトのバッジを集めたわけじゃないからいいじゃんか。それに、旅の云々を分かってるやつが一人いた方が楽になるだろ?」
「むぅううっ!そうだけど!そうなんだけれどさぁっ……!」
不満げに歩き回った後、どすんと勢いよく少年の隣に腰かけた。
相棒のような少年が自分に言わずに抜け駆けしたような気持ちになって、納得できないようだった。
唇を尖らせて少年を睨みつけた。
「一緒に旅したかったもん!ずるいずるいずるいよぉー!」
「アヒル口になってんぞツクシ。別に、これから一緒に旅に出ればいいだろ。スクール卒業してさ、その後ゆっくりバッジ集めてさ。旅先でやりたいこと見つけたり、リーグトレーナーになったり、いろいろ出来るさ」
「そりゃあ、いろいろ出来るだろうけどさっ!そうじゃなくてさぁっ……!」
「あ、分かったぞ。もしかしてツクシお前」
にやり、と意地悪そうな顔で笑って、少年が言った。
「俺に面倒見てもらうのが嫌だから、そんな風に言うんだろ?」
「……っ!」
かぁっ、と少女の顔が赤く染まった。
少年はそんな少女を見ながら、にやにやと笑いを深くする。
「顔真っ赤にしちゃって、可愛いねぇツクシちゃん。そうだよなぁ、完璧主義のお前なら、全部自分でやりたがるよなぁ。旅のイロハを知ってる俺と一緒に行くと、ぜーんぶ俺に仕事を取られそうで嫌なんだろ?」
「……ち、違うしっ!そんな風に思ってないしっ!むしろ、雑用全部君に押し付けようと思ってたしっ!?」
「照れるな照れるな」
「炊事洗濯事務手続き、お金稼ぎに露払い、全部やらせようと思ってたしっ!?」
「お姫様かお前は」
「ほらそーたろー!わたしのモンスターボールを持ってきなさい!わたしのリュックも持ってきなさい!」
「女王様かお前は」
「コイキングがいなければギャラドスで戦えばいいじゃない!」
「マリーさんか。しまいにゃ反逆かますぞ」
笑いながら、少年は少女の頭を撫でた。
憎まれ口も顔を真っ赤にしながらでは、可愛くしか思えない。
思わずなでりこなでりこ、手が動いていた。
少女は羞恥が限界を超えたのか、俯いたまま動かなくなった。
少女は思う。
旅の楽しさや感動だけじゃなく、苦しさも、辛さも、少年と一緒に分かち合いたかったのに、と。
そんなことは恥ずかしくて、とても言えなかった。
「あれ、そういえばツクシ、お前ジムリーダーになったんだから、旅とか無理じゃん」
「……はっ!?」
少女は一転、顔を真っ青にした。
もししるっ! ~もしシルバーが女の子だったら~
Part1 バトル後
「……うそ、だろ……」
つながりの洞窟で、二人のポケモントレーナーが対峙していた。
片方は余裕を持って相手を見据える少年。傍らには砂漠の精霊、ドラゴンタイプのフライゴンが悠々とその巨躯を浮かせていた。
もう片方は少女である。
赤い髪を腰まですらりと伸ばし、黒い衣装に身を包んでいた。
普段は厳しく相手を睨む切れ長の瞳は、動揺のためかショックを受けたように揺らいでいた。
彼女の前には、戦闘不能になったマグマラシが力なく横たわっていた。
「……おれが、負けた……?」
鈍重で弱そうな丸いポケモンと腑抜けた様子で座っていた少年を見て激しい苛々を覚え、バトルを突っかけた少女である。自分が敗北することなど考えてもおらず、まだ、状況を受け止めきれていないようだった。
いや、ただの敗北ならば、彼女もそれほどショックを受けずにいたのかもしれない。
しかし、ただの敗北ではなかった。
惨敗である。
完膚なきまでに。
手加減すらされた、屈辱的な敗北だった。
『……ゴース?あれだけ啖呵きっといてゴースか……。本当に新米だったんだな。ステロ撒く必要もない。それ以前に本気で相手したら殺しかねないぞ。手加減とか苦手なんだけどなぁ……』
手加減が苦手。それは嘘ではなかったのだろう。
少年は、ポケモンが出せる最小限の力で、少女のポケモンに与えるダメージを極力小さくした上で、じわりじわりと体力を削っていった。
本人にそういう意図はなかったのであろうが、それはまるっきり、熟練者が初心者を嬲って遊ぶ光景だった。
少女のポケモンもただやられていたわけではない。
必死に食らいついて、反撃もした。少女の自慢のポケモンたちだった。
しかし、少年の鍛え上げられたポケモンには程遠かった。
そもそも反撃が当たらない。
素の能力値に差がありすぎたし、バトルの技術でも差がありすぎた。
時には単純にスピードで振り切られ、時には技を受け流すようにされて、まったくダメージが入らなかった。
加えて、少年の得意とするサイクル戦と呼ばれる戦い方。
ポケモンの技に、直接モンスターボールに戻る類の技がある。
それを駆使して、次々と新しいポケモンを繰り出し、少女に一瞬の判断を何度も強要した。
勝てなかった。程遠い。
少女は少年を見る。
今の少女は、彼がこの世界の頂点に立っていて、自分を遥か上から見下ろしているように感じていた。
今まで自分がやってきたことはなんだったのだろうか。
目の前が真っ白になった。
「ふふふ、いいか!ポケモンが弱かったんじゃねェ、お前が弱かったんだ!……って、おいっ!?ちょ、大丈夫か!?倒れた!?え、なに、貧血かなんかか?……トレーナーの中には負けるとショックで倒れる奴がいると聞いてはいたが……。しゃあねぇな、ちくしょう……」
少女が目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。
どこかの民家だろうか、パソコンやゲーム機が散乱しているのが見えた。
子供の部屋のようにも思ったが、壁に貼られた何かの表やグラフが、研究室のような雰囲気を出していた。
少女はベッドに寝かされているようだった。
体にタオルケットがかけられていた。
いいにおいだな、と少女は思った。
どこか安心するようなにおいだった。
放心していると、部屋のドアがガチャリと開いた。
入ってきたのは、あの少年だった。お盆に乗せたコップが二つに、紙パックの飲み物を持っていた。
「……お、起きたか。おはようさん、この寝坊助め」
「……あ、え、あ……?」
状況が呑み込めなくて、少女は混乱しているようだった。
少年は言った。
「お前のポケモン、ポケモンセンターに預けてきたところだったんだ。出来るだけ軽症にしたつもりだったけど、回復には明日の朝までかかるってさ。今日はここに泊まってけ」
「……ここに?」
「そう、俺ん家。いやー、母さんがなんか張り切っちゃってさ。多分、俺みたいなガキしか家にいなかったから、女の子が新鮮なんだと思うんだよな。だから悪いんだけど、母さんと話すときはおしとやかにしてやってくれな」
「……意味が分からない。泊めてもらう理由がない。おれは宿に行く」
「まぁ待て。やり過ぎちゃった詫びだと思って、な?」
体にかかったタオルケットを跳ね除けて立ち上がろうとすると、少年が肩を押さえるようにして止めた。
「……詫び」
「そう。なんかいじめるみたいなバトルになっちゃって、すまんかった」
そういう少年に、少女は怒りを感じた。
少女には、『お前が弱すぎたせいでまともなバトルにならなくてごめん』という風に聞こえた。
弱かった自分が悪い。強いこいつは、悪くない。
悪くないのに謝る奴は嫌いだった。
「でも、バトルしてて思ったけど」
「……なんだよ」
「お前、きっといいトレーナーになるよ」
少年はそういって笑った。
少女はなぜだか、気恥ずかしい気持ちになった。
Part2 ゲート前にて
ヒワダタウンとウバメの森をつなぐゲート。
そのヒワダタウン側で、ポケモントレーナーが二人、バトルをしていた。
どちらも背は小さいが、ヒワダタウンのジムバッジを手に入れられるくらいには実力者だった。
戦っているのは、マグマラシとモココである。
進化段階も、レベルも、能力値も、今の時点では大差はない。
大きな差になるのは、トレーナーの能力と、ポケモンの士気だった。
先ほどバトル中に進化したばかりのモココは、進化後の能力上昇の恩恵もあり、やる気十分。
マグマラシも気持ちは強かったが、今のモココは実力以上の力を発揮していた。
押され気味のマグマラシを支えようと、シルバーの声が飛ぶ。
「マグマラシ!まもるだ!」
「モココ!じゅうでん!」
体力がないマグマラシに防御姿勢を取らせたシルバーだったが、それを相手は読んでいたのだろうか。
充電され、モココの体表から強烈な電気が飛び散った。
気合十分、モココは貯めた電気を開放する。
普通なら弱い電気が飛ぶだけの電気ショックが、気を抜いたマグマラシに紫電となって襲い掛かった。
「よし!やったよモココちゃん!」
マグマラシを倒したモココが尻尾をふりふり、トレーナーのもとに駆け寄った。
電気を押さえて、主人に抱き着く。
「……頑張ったな、マグマラシ」
そういって、シルバーはマグマラシをボールに戻した。
マグマラシが負けたのは、自分の戦い方が悪かったから。ベイリーフを倒した後、疲れている時に連戦させたから。
これで、残る手持ちはお互いに一体ずつ。
しかしシルバーは、この一体には絶対の自信があった。
ある少年が、自分のために交換を繰り返してくれた、そして一緒に鍛えたポケモンだった。
「最後だ、ゲンガー!」
現れたのは、黒い影のような大きなポケモン。
くっきり見える口元は、不敵に笑っていた。
「モココちゃん!後一体で勝ちだよ!頑張ろうね!」
後一体。この一体がシルバーの切り札であることを、相手は知らない。
◇
「……お?シルバーとコトネちゃんか?」
バトル後、軽く話していた二人を見て、少年が歩いてきた。
バトルを見ていたわけではないようだったが、それでもいい。
シルバーは報告したくてたまらなくなっていた。
あなたのおかげで勝てたのだと、声を大にして言いたかった。
「あ、クヌギさん。こんにち……」
「ソウタロウ!」
横にいた少女の声を遮るようにしてシルバーは駆け出した。
勢い余って少年に抱き着くような格好になったシルバーは、そのまま話しかける。
「ソウタロウ!勝ったよ!おれが勝った!ゲンガーが圧倒するところ、お前にも見せたかった!」
「おうおう。そいつは良かった。『ふいうち』はうまく使えたか?あれの読みがうまいかどうかでトレーナーとしての格が一枚上がるぞ」
「使えたよ!ソウタロウが教えてくれた通りにできた!技マシンをくれた『シャドーボール』も、すっごく強かった!」
いぇい、と少年が手を挙げたので、シルバーは嬉しくなって、ぱちぱちぱち、と勢いよく連続してお互いの手を打ち合わせた。少年が教えてくれた、友達と喜び合う仕草だった。
「……あれ、クヌギさん。シルバーちゃんと、随分仲がいいんですね……?」
「やぁ、コトネちゃん。いや、ちょっと前に知り合ったんだけど、呑み込みが早かったからいろいろ一緒に練習したんだ」
目が暗くなったような表情のコトネが気になったが、今が幸せなシルバーには些細な事だった。
今が幸せなシルバーは気が付かない。少年のモンスターボールホルスターの、その裏地に。
小さな盗聴器が仕掛けられていることに。
◆舞台裏◆ ~飛ばしていいです~
小さな部屋があった。
窓はあるが、外は見えない。白い空間が広がっていた。
何もない小さな部屋の真ん中に、ミカン箱と、それに乗ったパソコンがあった。
パソコンの前に、白い人影が座っていた。
充足したような雰囲気を醸し出しながら、何か言っていた。
「どや、ツクシもシルバーも可愛かったやろが。可愛い女の子を書ける俺はホモじゃない。まだ大丈夫、大丈夫」
ホモじゃないー、ホモじゃない―、と調子っぱずれの歌を歌いながら寝転がった。
「いやー。やっぱり可愛い女の子を描写するのは楽しいな。手が進みまくるね。主人公書いてる時の3倍速くらいのスピードだったわ。量産型ザ○とシャア専用ザ○、みたいな」
書き終わった後の充足感で、たいして面白くもないたとえ話を呟く。
「最後なんかコトネちゃんがアレだったけどまあ、概ね可愛かったよな。これでシルバーもヤンホモ扱いはされんで済むだろうか。あとは本編で主人公かっこよく書けるようになれればいいんだけどなー。俺もなー」
ごろりと寝転がった人影は、うだうだと無い物ねだりするナマケモノのようであった。
「……あれ、でもちょっと待てよ?ツクシが明確に女の子で、シルバーが女の子になった世界線だと、クヌギ君の周り、男の子供がおらんよな?男女比が崩れすぎて俺が嫌いなハーレムものみたいになっとる。そうなると書く気が失せるのでやっぱりこの番外編はここで終わりにしたい。だけど可愛い子を書いてると筆が進むし楽しい。……つまり、可愛いツクシをもっと書いて、出る回数を増やす!これだ!やはり原点回帰が二次創作における士気の保ち方に必須の要素で……」
終われ。
早くも十話到達しまして、驚きつつも喜んでおります。
今後も楽しく書いていけるといいなぁと思っています。
読了ありがとうございます。
感想、誤字脱字等ありましたら書き込んでいただけると嬉しいです。