【悲報】知らない間に幼馴染がジムリーダーになっていた件について【まさかの裏切り】   作:海と鐘と

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第十二話

「エンテイ、って言って分かるかな。おとぎ話の中に出てくるような、伝説のポケモンなんだけど」

 

「……知ってますよ。火山が噴火する度に生まれる、だとか、そうじゃなくて、エンテイが激怒すると火山が噴火するんだ、とか、いろいろ伝承が残っているポケモンです。恐らくほのおタイプのポケモンでしょう。エンテイの他に共通点がある獣型のポケモンが二匹いて、水を司るスイクンと、そしてもう一体……」

 

「雷雲を従えるライコウ。よく知ってるね。学者とか、伝説ポケモンオタクとかじゃないと、知っている人は少ないと思っていたんだが」

 

「調べたんで」

 

 

 料理を食べながら答えた。

 

 なるほどなるほど、と頷きながら器をつっつくマツバさんと、神妙な顔で上品に食べながらも、すごい勢いで皿の中身が無くなっていくミカンさん。面白い対比だった。

 

 

「ミナキ君が気に入るわけだ。同じような匂いを感じたのかもしれないな」

 

 

 知らない名前が出てきた。

 どうでもよかったので聞き流した。

 

 

「それで?グリーンフィールドのスノードン邸にエンテイが出たからなんだって言うんです?ジムリーダーがこぞって対処するような案件でもないでしょうが。エンテイが火山でも作り出そうとしてるってんなら一大事ですが、そんな話聞いたこともない。エンテイだって好き好んで人を傷つけるようなポケモンというわけでもないでしょう」

 

 

 ライコウなら別だけどな。

 名前も分からん料理を口に放り込んだ。

 

 マツバさんを見ると、荷物をごそごそと探っているところだった。

 リュックから一冊のファイルとノートパソコンを出すと、机の上の皿をミカンさんの方に寄せてスペースを作り、それらを開いて見せた。

 

 

「これはまだ、ポケモンリーグ協会の方でストップ掛けてニュースにしてない事件なんだけど」

 

 

 そう言って、話し始めた。

 

 

「テレビの生放送でちらっとだけ流れちゃったんだけど、君は見たかな。グリーンフィールドの事件。え?見てない?それじゃあ、ちょうど良かった。見て欲しい映像が二点程あるんだ。ミカンちゃんは……」

 

 

 美しい姿勢で上品に、かつ掃除機のような勢いで料理を口に運んでいくミカンさん。

 

 

「……忙しそうだから置いておくとして、今から流すのは、その、テレビでちらっと流れちゃった部分だ」

 

 

 パソコンを操作して映像のプレイヤーを起動させた。

 

 後ろに映っているのはポケモンセンターの建物だろうか。屋根が赤く、壁は白い。

 ざわざわという人の声が聞こえる。数人が叫んでいるようだった。

 

 不意に、画面の中央部を大きなものが駆け抜けた。

 カメラが回転して、それを追う。

 離れていく後ろ姿は、体高で2m、体長では3~4mほどもありそうな四足歩行のポケモンだった。

 背中に人を乗せていた。乗っている人はぐったりと倒れ伏して、ポケモンの背中の上で腹這いになっていた。気絶しているようだった。

 

 

「……戻してください。……止めて」

 

 

 俺の言った通りに映像を巻き戻して、ある場面で止めてくれたマツバさん。

 カメラの映り始めの一瞬、ポケモンの全体像がよく分かる絵だった。

 

 

「……あー、こりゃあ確かにエンテイですね。文献通りの姿です。体高2m程、四足歩行。濃い茶色の体毛と、たなびく白い鬣。顔は赤い仮面状の毛と王冠のような突起物。こんだけはっきり見えてれば同定も簡単です。気になるのは、連れ去られている人とエンテイとの関わりと、それから、エンテイが地面を蹴るたびに、その部分が青く光る鉱物に変化してますね。結晶化ですか?そんな伝承は聞いたこともない。新しい力を持ったエンテイか、あるいはその皮を被った偽物か、ってところですね。分かりました、次の映像を見せてください」

 

 

 催促したが、マツバさんの手は動かなかった。

 なにやってんだと思って見てみると、目を見開いてこっちを凝視していた。あれだけ料理に夢中だったミカンさんも、ぽっかり口を開けていた。

 

 

「……なんすか?」

 

「……クヌギ君、学者さんみたいですね……?」

 

「……いや、驚いた。我ながら、いい人材が確保できたようでラッキーだよ」

 

 

 どうでも良かったので次を催促した。

 

 

「あぁ、次ね、次。次はなかなかインパクトのある映像だよ。スノードン邸だ。さっきのを見て一発で結晶化に気付いた君が見れば、また何か新しい発見があるかもしれない」

 

 

 次の映像は短かった。五秒程の映像だろうか。

 

 空からの映像だった。

 グリーンフィールド全域が、青く結晶化していた。

 結晶の波が押し寄せてきて、そのまま固まったかのような光景だった。

 中心には、これまた青い結晶で出来た建造物。空高くまでそびえ立つそれは、結晶塔、といったところだろうか。

 

 

「……なるほど。少なくとも俺の知ってるエンテイはこんなことは出来ないですんで、何か他の存在が関わってますね。この結晶、氷ではないんですよね?結晶の実物はあるんですか?」

 

 

 あるんですか?と聞いておきながら、手で催促する俺である。つまり、出すならとっとと出せ、ということだが。

 マツバさんは首を横に振った。結晶は無いようだった。残念。

 

 

「ないんならしょうがない。映像を見る限り、現地に行けば腐るほどあるようですし、そっちで我慢します」

 

「いや、現地にもないんだ。もうこの世のどこにも、この結晶と同じものは残ってないよ」

 

「……は?えっと、じゃあ、この結晶の塔はどうなってんですか?」

 

「消えたんだ。出来た時も一瞬だったらしいが、消えるときはもっと一瞬だったらしい。一夜城、というとちょっとニュアンスが変わっちゃうけど、そんな感じだよ」

 

「……幻覚かなんかか?でも、映像記録に残ってるってことは、人の頭だけに作用するものじゃなさそうだし……。その、連れ去られた人はどうなったんですか?」

 

「無事に救助されたらしい。その人の証言も現地に行けば見られると思うよ」

 

「……そうっすか」

 

 

 難題である。面白かった。

 

 

「興味を持ってくれたようで何より。それで、君に頼みたい仕事の話なんだけど」

 

「……ああ、そういえばそんな話でしたね。そうか、俺は別に検証とか考察とかしなくていいんか」

 

「あははは……。出来るんならしてくれてもいいけど、それが本題じゃない。君には、ポケモンを使った護衛をしてもらいたいんだ」

 

「……護衛?」

 

「今既に現地にいるのは、研究班なんだよ。シュリー博士を中心に据えて、この現象の再現性を検証しているらしい。俺には細かいことは、よく分からないんだけどね。エンテイが出たって聞いてから居ても立ってもいられなくなって」

 

 

 聞くと、マツバさんは映像を見てから仕事を全て投げ出してグリーンフィールドに急行したらしい。

 しかしマツバさんが着くころには事態は収束していて、結晶塔も、エンテイも、消えていたという。

 

 

「つまり、だ。あれを再現できれば、またエンテイが現れる可能性があるだろう?僕は、そのために動き回っているわけさ。僕たちは、研究班の護衛。研究班は、現象の解明と、再現性の検証。もし再現できたなら、また人がさらわれる可能性があるからね。僕たちの仕事は、研究班の人たちと、自分自身を守ること」

 

「……俺みたいなガキが『あなたを守ります』、とか言っても信用されなさそうですけどね」

 

「だーいじょうぶだいしょうぶ!実力はあるんだから問題なし!当然、報酬もあるよ」

 

「……ちなみに、おいくらで?」

 

 

 マツバさんはそっと、俺に耳打ちしてきた。

 俺は引き受けることにした。

 

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

 

 次の日の早朝、マツバさんが運転する車に乗って、三人でグリーンフィールドに来ていた。

 相変わらず草原と花畑だけのなにもないド田舎だったが、景色は美しい。

 ミカンさんはきゃーきゃー言って喜んでいた。

 

 

「うわー、うわー!綺麗ですね!見渡す限りお花畑ですよ!まるで絵本の中みたい!あっ、クヌギ君、見える?風車が回ってますよ!わぁ、おっきい風車!風情がありますねぇ。素敵ですねぇ!」

 

 

 外の景色を見ているよりも、ミカンさんの喜ぶ姿を見ている方が癒される気がする。

 これがグリーンフィールドが人気な理由か。

 女の子は景色を見て喜び、野郎どもは喜ぶ女の子を見て喜ぶのである。

 

 

 しばらくして、目的地に近づくと、だんだんと様子が変わってきた。

 ところどころに奇妙な跡があった。

 

 ダンプカーでガラスを踏みつぶした後のような荒れ方をした花畑。

 鋭利な刃物で切られたような断面の木の幹。

 何かが飛び出した後のような円形の空白。

 

 斬新なガーデニングでないとすれば、やはりここで何かが起きたことは間違いないようだった。

 

 

「もうすぐスノードン邸だよ」

 

 

 マツバさんの声に促されて前を見た。

 なだらかな丘の上に、お屋敷が立っていた。スノードン『邸』と言われるのも納得できるような、デカいお屋敷だった。

 屋敷の前には何台か車が止まっていて、数人がなにがしかの作業をしていた。

 彼らの横を通り、屋敷の門を潜り抜けて中に入っていく。

 門の中から建物まで続く庭を車で移動する。もはや庭園だった。シュリー博士は娘さんとの二人暮らしだというから、このくそ広い屋敷を二人で使っているわけだ。スペースの無駄遣いである。

 

 建物の前に車を止めて、門の中に入っていった。

 

 玄関ホール。

 玄関ホールであった。

 吹き抜けは二階まで続き、無駄に高い天井が頭の上にある。

 

 ミカンさんが、ほぇー、と感嘆の息を吐いた。

 屋敷の中を、マツバさんについて歩いていく。高い天井を支える太い柱が何本もそびえ立っていた。

 

 歩いていると、先の扉が開いて、よろよろと人が出てきた。

 女の人のようであったが、よく分からない。顔まで届く高さに重なった書類を抱えていたからだ。

 向こうはこっちに気付いたようで、声をかけてくる。

 

 

「あっ、マツバさん、ですよね?そっか、もうそんな時間なんですね。いつの間にか朝になっちゃってましたか。えっと、どうしようかな。シュリー博士に御用ですよね。えっと、うーんと」

 

 

 重なった書類を抱えたまま右往左往する。

 動くたびに紙の塔が左右に揺れるので、ミカンさんは心配そうに、紙の塔と同じように左右に揺れていた。可愛い。

 

 不安定なのは紙の重なりだけが理由では無いようだった。

 研究者らしい白衣を着ていたが、白衣を押し上げるようにして双丘が突き出していた。とても豊かな母性をお持ちのようで、それが紙の塔につっかえてさらに不安定になっているようだった。

 

 

「そうですね、私もこれからシュリー博士のところに行きますので、一緒に行きましょう。そうしましょう!」

 

 

 そうしましょう!と言ってぐるりと方向を変えた瞬間、決壊した。

 ゆらゆらと揺れていた紙束が耐え切れなくなったように、ぐいーと傾き、どさどさどさ、と床に落ちた。

 紙が床に落ちる度、ミカンさんが、あっ、あっ、あっ、と声を上げた。可愛い。

 

 紙の束が全部床に落ちて、彼女の姿がよく見えるようになった。

 黒い髪は邪魔にならないようにかき上げて、後ろで結んでいた。丸い眼鏡に、よく見えるおでこ。しゅっと顔が細いので、メガネが大きく見えた。

 

 床に落ちた紙束を見て呟いた。

 

 

「……あー、またやっちゃいました……」

 

 

 紙束が落ちる音を聞いてか、部屋の中からどたばたと足音が聞こえてきた。

 ばんっ、と荒々しく扉を開けて出てきたのは、我が幼馴染であった。

 

 

「あーっ!遅かったーっ!もうっ!アイン博士!書類はぼくが持っていくからいいですって言ったじゃないですかっ!」

 

「ご、ごめんねツクシちゃん?でもね、私も大人としてね、ツクシちゃんみたいな子供に任せるのもどうかと思ってね……?」

 

「もっと手間がかかっちゃうじゃないですかっ!博士は度を越した運動音痴なんですから、動かなくていいんです!その頭を一番効率よく働かせられるパソコンの前にいてくれればいいんですっ!」

 

「ふぇ、ごめんなさい……」

 

 

 おお、珍しくお怒りだぞ。

 随分強い口調で責めていらっしゃる。こりゃあ、あの女の人、書類ぶちまけるの一度目や二度目じゃないな。

 

 ツクシはそばに立つ俺たちのことも気が付かない様子で、辺りに散らばった書類を集め始めた。

 アイン博士、と呼ばれた人も、半泣きになりながら紙を集めて回る。

 

 ちょうど俺の足元にも一枚落ちていたので、拾って読んでみた。

 

 遺跡の写真である。

 不可解な模様のような、文字のようなものが写されており、それについての分析が行われているようだった。

 

 

「なーるほど。アンノーン文字。そりゃあ、お前が呼び出されるわけだ。なぁ、ツクシ?」

 

 

 声をかける。自分の名前が呼ばれたからか、頭を上げてこっちを見てきた。

 不機嫌そうな表情が一転、不思議そうな顔になる。

 

 

「あれ、そーたろー、君なんでこんなところにいるのさ。もしかして、追っかけてきたの?全くもう、ぼくのこと好き過ぎるんだからなぁ、君は」

 

「あほう、お仕事だ。研究者チームを護衛するのが俺のお役目」

 

「ええっ!?君が!?お仕事!?ぼく、なんだかとんでもないことが起きるような気がしてきたよ」

 

「そりゃあ一体どういう意味なんですかね……」

 

「ちょうどいいや。ほらほら、突っ立ってないで、書類集めるの手伝ってよ」

 

「……うぇー……?」

 

 

 見れば、マツバさんもミカンさんも床に手を付けて散らばった書類を片付けていた。

 しょうがないので紙を集めて回った。

 

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

 

「本当にありがとうございました。私、よく資料ぶちまけちゃうんですよね……」

 

 

 力なく笑うのは、アイン博士と呼ばれた女性だ。

 俺とマツバさん、ミカンさんは、アイン博士とツクシの後ろについて歩いているところだった。

 自分が拾った分の書類を持って、全員で分担して運んでいた。

 

 ミカンさんはどっさり重く、俺との対比が明らかである。真面目に一生懸命拾ったのだろうと思うと、なんだか申し訳なくなってくる。その辺マツバさんはちゃっかりしていて、丁度五分の一くらいの量を拾っていたのだが、ミカンさんのどっさり具合を見るに見かねて、いくらかを自分の方に移していた。マツバさんは出来る男だった。

 

 

「自己紹介、してませんよね?私、アイン・アントヒルと言います。シュリー博士の助手を務めさせていただいています」

 

「アイン博士は、ポケモンの起こす現象についての研究をしている人だよ。ポケモンの技とか、特性とか、そういうもの。量子力学の一分野で、携帯獣事象力学、っていうらしいんだけど、分かる?」

 

「破壊光線がどういうメカニズムでポケモンからでて、どういう過程を辿って対象にダメージを与えるのか、っていうようなことを研究する分野だろ。ちょっとかじったけど、つまらなくなって止めた。既にそこにある現象を理由付けて説明する学問で、答えが最初に用意されていてそこに至る道筋を紐解くだけのつまらん学問だ」

 

「こら、そーたろー!研究してる人が君の隣で歩いてるんだよ!」

 

「うぇーい。すんません」

 

 

 頭を下げると、アイン博士はふるふると首を振って笑ってくれた。

 

 

「まだ小さいのに、よく知ってるね?ツクシちゃんとも、仲が良さそうだけど……」

 

「はいはい!私も、それ気になってました。クヌギ君は、ツクシちゃんとは初対面じゃないんですか?」

 

 

 ミカンさんが聞いてくるので、ツクシと顔を見合わせた。

 アイコンタクト。

 

 

「初対面です」

 

「幼馴染ですっ!……えっ」

 

「わー、ジムリーダーのツクシさんだー。あとでサイン貰えますか?」

 

「なんの小芝居だよっ!?意味もなく嘘つく君にびっくりだよっ!」

 

「ばかおめー、個人情報はそう簡単に人に渡しちゃいけないんだぞ?」

 

「建前だよね、それ?君はただ人を騙したいだけだよね?」

 

「おい、まるで俺が詐欺師みたいな言い方はよせよ。とんだ風評被害だよ」

 

「詐欺師より質悪いよっ!君の二つ名もなるべくしてああなったんだよ!」

 

「俺は知ってるんだぞツクシ。あれ、考えたのお前だよな?」

 

 

 横を向いてひゅーひゅー、と吹けていない口笛を披露するツクシ。こいつは実に綺麗に口笛を吹くのを知っているので、これはただのポーズである。やっぱりこいつだった。むしろ、俺がいつ気付くか楽しみに待っていた感じさえあった。

 

 

「お前の二つ名、今日から『歩くロリショタ製造機』な」

 

「意味が分からないよっ!ただの蔑称だよそれ!」

 

「『鬼畜ショタ』だって事実無根の蔑称だろーが!」

 

「……え?事実無根?本気で言ってるの?」

 

「急にマジになんなよ……」

 

 

 言い合っていると、マツバさんが噴き出した。そのまま大笑いを始めた。

 ミカンさんを見ると、微笑ましそうな顔で言った。

 

 

「仲良いんだね、二人とも」

 

 

 隣でツクシが笑って大きく頷いた。

 認めるのも癪だったので、俺は顔を背けた。

 

 

 そうこうしているうちに、一際大きい扉の前にたどり着いた。

 扉が開かれると、黴臭いような、独特の臭いが中から流れ出てきた。図書館の臭い、大量の本の臭いだった。

 

 部屋の中にはたくさんの本棚があり、扉から右手の方に机が一つ置かれていた。

 まるっきり大きな図書館のような、かなり大きな一室だった。

 

 部屋の床には紙が並べられており、最低限の足場の他は紙に埋め尽くされていた。

 真ん中には壮年の男性が一人いて、書類の群れを凝視していた。

 

 

「シュリー博士、マツバさんがいらっしゃいましたよ。それと、追加の資料です」

 

 

 アイン博士が声をかけると、紙を凝視していた顔のままこっちを向いた。

 鬣のように広がった髪に、しかめられた眉根。体格がよく、学者とは思えない体つきをしていて、総じて獅子のような印象を受ける男だった。

 

 こっちを見ると、表情を和らげて笑みを作った。

 

 

「マツバ君、来てくれてありがとう。後ろにいるのが、護衛チームかな。資料も持ってきてくれたのかい?助かるよ」

 

 

 資料を部屋の隅に置いておくように指示されたので、ばらけないように積んでおく。

 ちらっと部屋中の紙を見ると。どれもこれも、アンノーン文字についての表記だった。

 

 

「ツクシ君、ちょっと来てくれないか。文字の解読で、分からないところがあってね」

 

 

 シュリー博士に呼ばれて小走りで寄っていくツクシをしり目に、机に沿っておかれた椅子に腰かけた。

 マツバさんも同じようにどっかりと腰を下ろし、少ししてミカンさんが恐る恐ると言った雰囲気で椅子を引いてちょこんと座った。

 

 

「……文字の解読、って、ツクシちゃん、アンノーン文字が読めるんですか……?」

 

「読めるも何も、解読方法を発見したのがツクシ君さ。だからまぁ今回ツクシ君は、ジムリーダー、というよりは研究者としてここに来てるって感じかな」

 

「……ほぇえ、すごいんですね」

 

「まぁ、昔から頭のいい奴でしたし。でも、そうか。だからツクシが呼ばれてたんですね。ほのおタイプであろうエンテイと相対するには、あいつは不利かなと思ってたんですけど」

 

 

 むしタイプはほのおタイプとは相性が悪い。相性的には、あいつは呼ばれなさそうである。それでも、ツクシならなんとかしそうではあるが。

 

 

「タイプ相性なら、ミカンちゃんだって不利だけど?」

 

「はぅう……」

 

「ミカンさんは、もともといわタイプ使いじゃないですか。ハガネールがエースでも、本来の手持ちにゴローニャやらバンギラスやらいたって不思議はないでしょう」

 

「はは、さすがに分かってるね」

 

 

 笑うマツバさんである。

 自分が招集したメンバーである。彼が分かっていないわけがない。それでも聞く辺り、底意地が悪いというかなんというか。俺と似た匂いを感じる。

 

 

「……で、俺は確かエンテイ対策でここに呼ばれているはずなんすけど、シュリー博士が見ているのはエンテイの文献ではなくてアンノーンの研究報告ですよね。どーなってんです?」

 

「そこら辺は、ご本人に説明してもらおうじゃないか」

 

 

 顎で指し示す方を向くと、シュリー博士がこちらに歩いてきているところだった。

 机の近くまで来て改めて俺たちを見渡したところで、メンバーの中に一際小さい者がいることに気が付いたようだった。言わずもがな俺である。

 

 

「……マツバ君を疑うわけではないが、この子も護衛チームのメンバーなのか?随分と、その、幼いようだが」

 

 

 ほら来た。

 どうするんだとマツバさんの方を見ても、笑っているだけである。

 しゃあないから自分で対応するかと思ったところでツクシが言った。

 

 

「彼はぼくより強いから大丈夫です」

 

 

 にっこり笑顔で言うツクシを見て言葉を失うシュリー博士。

 何事かを言おうとするが言葉にならなかった。そのまま流すことにしたのか、話を続けた。

 

 

「……それじゃあ、今回の仕事の話を始めようか。結論から言うと、先日起きた事件に、エンテイは一切関係がない。全ては、アンノーン達が起こした現象だと考えている」

 

 

 エンテイは関係がない、と言われた瞬間、マツバさんが真顔になったのが印象的だった。

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。

感想、誤字脱字等ありましたら書き込んでくれると嬉しいです。

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