【悲報】知らない間に幼馴染がジムリーダーになっていた件について【まさかの裏切り】   作:海と鐘と

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『まァだ終わってなぁァァァァァァアアアアアいっっ!!!!』

――エヴゲニー・ボリソヴィッチ・ヴォルギン



第十六話

 長い長い、長い長い、とてつもなく長いトンネルだった。

 真っ暗だ。

 

 ミカンさんのレアコイルが、長いトンネルの中をパチパチと照らしていた。

 

 一本道である。

 坑道のような、上が円形に掘られたトンネルがどこまでも続いていた。

 レアコイルが放つ『フラッシュ』の光が途中で途切れてしまうくらいに、このトンネルは長かった。

 

 ごつごつとした岩肌が露出している。

 全く整備されていないただ掘っただけのようなトンネル。

 しかし、露出した岩肌をよく見ると、どこかつるりとした光沢があるようにも見える。

 まるで何かが踏み固めていった後のような有様。上下左右、どちらを見渡しても同じような質感のトンネルだった。

 

「……長いな……」

 

 トンネルを歩き始めて数十分、言葉を発したのはマツバさんだった。

 

「どこまで続いているんだ、このトンネルは。一時間近く歩き続けても全く変わらないじゃないか。かれこれ数キロは歩いていると思うんだけれど」

 

「……まず、ですね」

 

と答えたのは、わが幼馴染だった。

 

「このトンネル、なにかのポケモンが掘った穴を再現しているものだと思うんですけど」

 

と言って、俺たちの方を見た。

 

 自然と皆の足が止まり、トンネルの中で立ち往生しているような格好になった。

 

「これだけ長く続くトンネルが自然にできるとも思えませんし、なにより歩き易過ぎます。自然に出来たものがこんなに平坦に歩きやすいものになるとは思えません」

 

「アンノーンがつくった空間が自然かどうかはともかく、ポケモンが掘った穴を再現してるってのは同意する」

 

と、俺は言った。足元の土を蹴り蹴り、言葉を続ける。

 

「このトンネル、何かにそっくりだとずっと思ってたんだが、あれだ。前にテレビかなんかの特集で見た、ディグダの穴に似てるんだ」

 

「ディグダの穴……。カントー地方の名所ですね。たまに子どもが入って、行方不明になったりする」

 

 ミカンさんがレアコイルを撫でながら言った。

 

「似てるけど、ちょっと違いますよ。ディグダじゃないと思います。ほら、これ」

 

 地面を指さして、ちょっと小首をかしげる。可愛い。

 

「足跡、あるじゃないですか?それも、いっぱい、いっぱいついてます。これだけ固い岩盤を掘りぬいて、しかも岩に足跡をつけられるような硬いポケモンで、かつ群れて生活してるような、そんなポケモン……」

 

 ミカンさんが指さす地面を見る。

 つるりとした硬い岩があるだけで、足跡なんぞ全く分からない。

 

 アイコンタクト。

 

 ――分かるか?

 

 ――分かんない。全く全然分かんない。

 

 ――だよな。分からんよな。

 

 ――ミカンさんしか分からないようなポケモンの跡ってことは……

 

 

「鋼タイプか」

 

 マツバさんが言った。

 

「鋼タイプのスペシャリストであるミカンちゃんしか分からないような足跡。岩盤につく微かな痕跡ってことなら、鋼タイプくらいしか考えられない」

 

「そんな、スペシャリストだなんて……。ふふ、ふへへへへ……」

 

 顔を赤らめて照れ笑いするミカンさん。可愛い。

 思わずほっこりしたような表情を引き締めて、マツバさんが続ける。

 

「鋼タイプで群れて行動するポケモン……?少なくとも僕の知っている中ではいないぞ。ジョウト地方のポケモンじゃないのか……?」

 

「あ、六本足!六本足ですよ!すごい!かっこいい!小さいけど硬くて重そうです!」

 

 ミカンさんがちょっとかがんで、地面を見ながらはしゃいでいた。

 改めて見てみるが、全く分からない。なにをもって六本足だと断定できたのか不思議である。

 

 スペシャリストってやばい。ほとんどファンタジー。

 

 俺が戦慄している隣で、ツクシは考え込んでいた。

 

「鋼タイプ……穴を掘る……集団行動……六本足……小柄……」

 

「なんか分かるか?」

 

「どっかで……聞いた……ことがある……どっかで……」

 

 驚いた。

 

 『歩く虫ポケ大百科』なんて呼ばれてるが、虫タイプのポケモンだけではない。

 こいつのポケモンに関する知識は凄まじいものがある。

 ライフワークにポケモンの生態調査が含まれるほどのポケモンオタクだ。

 

 『ジョウト地方にいるポケモンは?』という質問に、名前、生態、使う技から進化系統まで、全てのポケモンの全ての情報を滝登りするアズマオウのような勢いで答えて、TVのキャスターをドン引きさせた知識量は伊達ではないのである。

 

 そんなツクシが、答えられないポケモン。

 少なくとも俺達の身近にいるポケモンではない。

 

「ここまで……出てきてる……ここまで……」

 

 悔しそうな顔で、喉に手を当てるツクシ。

 やがて、首を振って頭に手を当てた。

 

「だめだ。最近ソウタロニウムが不足していて頭が回らなくなってる。ソウタロウがなー、ジムトレーナーになってくれなかったからなー」

 

「さりげなく俺のせいにするの止めてくれませんかね……」

 

「なにかびっくりするようなことがあったら思いつくかもしれないんだけどなー」

 

「……びっくりすること……」

 

 ふむん、と考えてみた。

 なにか衝撃的な事実的なものを、この幼馴染に告げてやらねばならぬ。

 

「今まで言ってなかったけど、実は俺…………。女なんだ」

 

「あー、そういうのじゃないんだよなー。あー、君がくだらないこと言うせいで、完全に引っ込んじゃったじゃない」

 

「完全に俺のせいにするの、止めてくれませんかね……」

 

 がっかりである。

 せっかく人が、一生懸命考えてひねり出したびっくり衝撃の事実を、『そういうのじゃないんだよなー』の一言で終わらせる。

 こいつはそういうとこあるんだよなー。

 人の努力を評価しないというか、目に見える結果が全てなんだ、とか。

 なんともドライな10歳児である。

 

「……え、ええええええええっ!?」

 

 ミカンさんが叫ぶ。

 

「え、なんかありました?」

 

「なんかありました、じゃないです!?むしろ何かしかないです!?何かしかしか!?」

 

「なんか分かったんです?」

 

「クヌギ君女の子だったんですか!?」

 

 ………………。

 ピュアッピュア。

 純粋が山の下を通って地層に不純物を漉し取られながら最終的に深海に湧き出るくらいにピュア。

 

 こんな女の子いる?

 こんな純粋な十代女子いる?

 

「好きです」

 

「ふぇっ!?」

 

「失礼、つい本音が」

 

「ふぇええええ!?」

 

 ミカンさんが赤くなる隣で、マツバさんが大爆笑していた。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「さて、散々笑ったところで、状況を整理してみよう」

 

 笑ってたのはあんただけです、という突っ込みをなんとか堪えて、先を促した。

 マツバさんがトンネルの中にどっしりと腰を下ろして、携帯端末に情報を整理していく。

 

「現状僕たちが最優先で行わなくてはならないのが、護衛対象であるシュリー博士とアイン博士との合流、救出。特にアイン博士は、どうにもアンノーンに連れ去られて消えてしまっているようだ。これはアンノーン達の活動を止めてみないことにはどうしようもない」

 

 アンノーンを止めること。

 

 マツバさんが端末に書き込む。

 

「その過程で、今離れ離れになっているシュリー博士と合流する。恐らく、これまでの僕らと同じようにシュリー博士もアンノーンが作り出した空間に隔離されているはずだ。どんな状況になっているかはわからないけれど、こればっかりは動いてみないことにはどうしようもない」

 

 シュリー博士と合流すること。

 

「そして、シュリー博士と合流するために、このトンネルを脱出する。今まで作られていた空間も、何らかの手段で抜けることが出来た事を考えると、このトンネルを抜ければまた新しい空間にたどり着くことが出来ると考えられる。空間がどういう基準でつくられているのかわからない以上、抜けてみないことにはどうしようもない」

 

 トンネルを抜けること。

 

 携帯端末には、この三点が書かれた。

 

「なんだか、どうしようもないことばかりだし、行動原理も仮説ばかりだけれども、今はこんなところかな。なにかあるかい?」

 

 マツバさんが三人の顔を順番に見渡す。

 特に異論はなかった。

 強いて言えば、こんな真面目空間をつくることが出来るなら、初めからリーダーシップをとって真面目にやって貰いたかったということくらいか。

 どうにもこの人は、遊び心が度を越していて困る。

 しっかりやれば頼れる大人なのだから、初めからしっかりやっていてほしかった。

 笑ってばかりいないでちゃんとすればいいのだ。俺みたいに。

 

 俺みたいに。

 

「いや、クヌギ君。君には言われたくない」

 

「! ……こいつ、俺の心を……!?」

 

「君の呆れたような顔と、その後のどやっとした顔を見ればなんとなく分かるよ……」

 

 さいで。

 

「で、だ。とりあえず次の行動は、このトンネルを抜けることにしたいわけだが」

 

 三人がこくりと頷いた。

 

「クヌギ君方式で行きたいと思う」

 

 三人が首を傾げた。

 

「ツクシ君方式でもいい」

 

 さらに疑問が深まる。

 

「年少組方式の空間の抜け方を踏襲しようというわけだ。で、ミカンちゃん」

 

「はい……?」

 

「やって貰いたいことがあるわけなんだが」

 

 きょとんとした顔で、ミカンさんは首を傾げていた。




読了ありがとうございました。

感想、アドバイス、誤字脱字等ありましたら書き込んでくれると嬉しいです。



PS:帰ってきた気がします。
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