【悲報】知らない間に幼馴染がジムリーダーになっていた件について【まさかの裏切り】 作:海と鐘と
そういえば年少ジムリーダーの先達がいたじゃないかと、ふと思い出した。
ホウエン地方トクサネシティ、エスパータイプのスペシャリストのフウラン兄妹である。
もしかしたらフウラン姉弟かもしれない。
パッと見ではどちらが先に生まれたのか分からなかったし、おそらく本人たちもどちらが兄なのか姉なのかなんていうどうでもよいことには頓着していなかっただろう。
彼らは双子だった。
双子のエスパーである。
ポケモンのエスパータイプのことはよく知っている。
バトルで何度か対戦し、彼らの戦い方や利点弱点は把握していた。
カント―地方ではエスパー少女なるポケモントレーナーがこれまた異例の方法でジムリーダーになったというニュースを何年か前にやっていた。ジムリーダーをかけて全力でポケモンバトルして、相手の空手王を倒したからジムリーダーになったという。
ニュースで人間のエスパーがいるらしい、ということは知っていたが、実際に会ったことはなかった。
ジョウト地方で『自分はエスパーです』と公言している人は知り合いの中にはいなかったし、またそういう話をどこかで聞いたわけでもなかった。
フウとランの双子は、だからそういう意味では自分が初めて遭遇した人間のエスパーだということになる。
『やあやあ、君が『例のうわさのポケモントレーナーね。『フエンタウンから始まって『たった一月でバッジを6個取ったっていう』
『『君が来るのを楽しみにしてたんだ』』
『ステレオでしゃべんな。どっちに顔向けて話せばいいか分からんだろが』
分かりやすい形で超能力を見せてくれたことは一度もなかった。
物を触らずに動かすとか、一瞬で場所を移動するとか、手から火を出すだとか。
そういう目に分かる形の力は一切見たことがない。
以心伝心の喋り方だとかポケモンバトルの息の合い方だとかそういったものも、双子で共有する時間が長かったから同じような思考回路をしているんだと理屈づけてしまうこともできるだろう。
それでも、フウとランは本物だと思う。
ポケモンバトルをすれば分かる。
彼らは同い年くらいの外見をしていたと思う。
ジムリーダーになった時、ツクシのような苦労もしただろう。
しかし、自分がバッジを取りに行ったとき、トクサネジムのジムトレーナーは皆フウラン兄妹を尊重しているように見えた。
そこに、なにか解決策が無いだろうか。
ポケギアで電話してみた。
「もしもしもしもし、こちらフウラン兄妹。僕達のプライベートの電話にかけてきたのは両親を除けば君が初めてだ、クヌギ君。こいつはもう君を「私達のお友達認定するしかないと思うの。ゆっくりお話しできたのはクヌギ君がバッジを取りに来た後だけだったでしょう?フウも私もいついつ電話がくるか楽しみに待ってたの。なんていってほんとは「君が今日電話をかけてくるだろうなぁと予知はしていたんだけどね。おっと、ごめんよ。爆発音がうるさかったかな。実は今ジムに挑戦者が来ていてね。ほんとはゆっくり電話していると「お目付け役のジムトレーナーに怒られちゃうんだけど、お仕置きに玩具を取り上げられるのとクヌギ君と話せることを天秤に架けたらどっちが傾くかなんてわかりきってることじゃない?いやいや、別に「迷惑じゃないから電話を切ろうとしないでおくれよ。友達と電話できるなんて素敵体験はゆっくり味わいたいじゃないか。そうそう、君の「友達のツクシちゃんについて相談があって電話したのよね。友達の友達について相談してもらえるなんて素敵だわ。でもごめんなさい、私達、その件については「大した助言を送ることはできないと思うよ。そもそも僕達がジムリーダーになったのはお飾り前提で、僕達自身が仕事をしようとはちっとも思っていなかったんだから。口を出したのは「ジムの内装くらいかしら。それも、内装を決める人の頭の中でこんな風が良いなぁ、あんな風が良いなぁ、って思っていただけだったから、玩具のパズルの模様をぐちゃぐちゃに変えるくらいの労力しか使ってないの。後の仕事はバトルして「バッジを直接渡すだけ。他はみーんなジムの人たちに任せっきりだ。君の友達のツクシ君にアドバイスするとしたら、そうだねぇ。
『『やりたいことだけやったらいいんじゃない?』』
ってことくらいかしら。それじゃあ、話せて楽しかったわ。また電話してね?ばいばーい」
一言も話さないうちに、電話を切られた。
◇
「……なんなんあいつら。要件を言う前に答え返してくるとか、マジエスパーなんですけど」
つながりの洞窟最深部で、地底湖の水を採取しながらの独り言である。
ツクシの名前は出していない。いったいどこから知ったというのか。頭の中を覗かれたとかだったら文句を言うしかない。プライバシーは大事にするべきものなのです。
あと、フウラン兄妹特有のステレオ喋り。まさか電話でもステレオでしゃべってくるとは思わなかった。
なんだろう、会話中変わりばんこにポケギアを手渡したりしているのだろうか。もしそうならかなり忙しい電話になると思うんだが。あるいはポケギアを改造して二個一対の通信機にしていたりだとか。一方に電話がかかってくると自動的にもう一方につながる仕様になっているとか。
考えると疑問は尽きない。
つながりの洞窟内部は明るい。
地下2階相当の深さだというのにどこから光が入ってくるのか、不思議と真っ暗にはならず辺りを見渡せる。
洞窟の天井からは氷柱のような鍾乳石が何本も降りてきている。
大きい鍾乳石は地底湖の表面まで届き、まるで洞窟を支える柱のようにがっしりとそびえ立っていた。
洞窟の中、風がないためにまるで鏡面のようにさざ波一つ立たない地底湖は、何度見ても美しく見える。
つながりの洞窟。
32番道路と33番道路をつなぐ大きな洞窟である。
その名の通り、道路と道路をつなぐ大事な通路となっている洞窟だが、それだけではない。
この洞窟は海ともつながっているのだ。
地下二階の地底湖には、ヒトデマンやらサニーゴやらクラブやら、海でよく見られるポケモンたちが生息し、水には塩分が含まれている。地底湖のどこかに海につながる通路が出来ていて、海のどこかへつながっているのである。
地底湖には、定期的に歌が響く。
ラプラスの歌声である。
生存個体数が少なく、大海原を群れで回遊するラプラスは生態の研究があまり進んでいない。
野生のラプラスが単独で現れるこのつながりの洞窟は、ラプラスの研究をするうえで重要なスポットなのである。
この地底湖の水質を調査し、ここの水質に似た水を持つ海域を特定できれば、その海域につながりの洞窟への入り口がある可能性は極めて高い。
「趣味レベルの研究にしてはそこそこいい
そしてツクシに自慢するのである。
なお学会には発表しない。
馬鹿な学者が寄ってたかって集まってここの環境を破壊されてもつまらない。
あくまで子供同士のお遊びのための研究である。
地底湖の水の資料をいくつか集め、ちゃぽちゃぽ揺らす。
温度で成分組成が変わってしまわないうちに持って帰ろうと思う。
ご満悦で地上への道を歩いた。
途中、エリートトレーナーやらやまおとこやらが手を振ってくれた。
行きにポケモンバトルをした面々であった。
洞窟内部でポケモンと訓練をしていたり、趣味で洞窟に潜っていたりする奇特な連中だが、みんな気のいいトレーナーだった。
変人同士尊重し合えるのが連中のいいところである、と自分のことを棚に上げておく。
道の途中、石ころが動いていたり岩の塊が連なって通せん坊をしていたりする。ポケモンである。
イシツブテやイワークといったいわタイプのポケモンは、顔を見ないと天然自然のただの岩と間違えることがある。とくにイワークに間違えて登ってしまい、動き出して転けて下敷きになってしまったりすると命に関わるので、道中は彼らより強いポケモンを出しておく必要があった。フォレトスさん、出番ですよ。
前に実験的に野生のイワークにメタルコートを持たせたことがあったな、なんてことを考えながら歩いていると、洞窟の地上階にたどり着いた。
すこし休憩、と座り込んで壁に背中を預けたとき、正面の曲がり角から少年が現れた。目があった。
モンスターボールを構えた。
「……トレーナー同士、目があったらバトルの合図!って、俺嫌いなんだけれども」
「だまれ。うすのろで弱そうなポケモン出しやがって、俺はお前みたいな弱いポケモンと一緒にいる奴が嫌いなんだ」
「……あん?」
赤い髪の目つきの悪い少年だった。
ついでに口もべらぼうに悪い。
立ち上がって言った。
「お前フォレトスさんを知らんのか。確かにうすのろだが、遅いポケモン=弱いって考えは間違ってんぞ」
「知るか。俺は強いポケモンしか興味ない。俺が興味がなかったってことは、そのポケモンは弱いってことだ」
「……さいで」
フォレトスが前に出た。
ずぶとい性格のこいつにしては珍しく、ちょっと怒っているようだった。鋼の甲殻が、高温で熱したように赤くなっていた。
「洞窟のなかで何人かとバトルしたが、どいつもこいつも弱くて話にならない。弱っちいやつは目障りだ。負けてさっさと消えればいい」
「……言うほどお前が強いとは思えんね。どっかのロリショタほどやばい感じもしないし、初っ端ちょっとうまくいって調子乗っちゃったルーキーってとこか」
「……なんだと?」
「よーし。フォレトスさんもやる気満々だし、俺もやる気出てきたし。バトルしよっか」
「……ふん!最初からそう言えばいい。叩き潰してやる」
フォレトスを一度モンスターボールの中に戻した。
そして、フォレトスの入ったそのボールを構える。
「……いけ、フォレトス!ステルスロック!」
「でてこい、ゴース!のろい攻撃!」
◇
「一発目『のろい』とか、ねぇわ、って思いましたね」
「ぼくとしてはバトル開始早々の『ステルスロック』とか、本気すぎて若干引くんだけどね」
「初っ端のストライクで『とんぼがえり』やるジムリーダーに言われたくない。前の挑戦者なんか、エースが一発で戦闘不能で呆然としてたし」
「それで、結果はどうだったの?」
「もち、ぼこぼこにしてやりましたね。キメ台詞は、『ポケモンが弱いんじゃねェ、お前が弱いんだ』」
「うわぁ、『ぽけころ』の主人公のセリフじゃない。アニメのセリフを現実で言うって恥ずかしくないの?」
「かっこよければなんでもいい」
つながりの洞窟を抜けた先、32番道路は海に面した街道である。
海の上にかかった桟橋の上で海水の資料を取りながら、先日あったことをツクシに話していた。
ツクシは隣でつりざおを垂らしている。
桟橋の上では釣り人が何人かツクシと同じように釣りをしているのが見えた。
快晴である。
たまに背後の草むらががさごそと揺れたかと思うと、ふわふわもこもこの綿の塊のような電気羊、メリープが、気持ちよさそうに伸びをしていたり、こねずみポケモンのコラッタが群れで顔を出したりした。
連れていたポケモンたちをモンスターボールから出してやると、海を泳ぎ始めたり日向ぼっこをしたり野生のポケモンにちょっかい出しに行ったり、思い思いの行動を取っている。
ホウエン地方に行ってから向こうで仲間になった連中もいて、そういうやつらが気になるのだろうか、ツクシはいろいろ質問を投げかけてくる。
「このこ、タイプはなに?パッと見、むしタイプにみえるんだけど……。えっ、ドラゴン!?」
「この子とってもきれいだね。すらっと長くて、うろこが光ってるように見える。海棲性のポケモンではないのかな?きれいなギャラドスみたいだね!」
「四足歩行型!君、四足歩行の獣型のポケモン嫌いじゃなかったっけ?この子は別?まぁいいけど……。えっと、あのね。背中に乗せてもらってもいいかなぁ?」
乗っても良いというと、声を上げて喜び嬉々としてポケモンの背中に飛び乗った。
ポケモンの背中に乗って嬉しそうにはしゃいでいるツクシを見ていると、ちょいちょいと背中をつつかれた。
振り返ると、大きさ1.5m程のポケモンが覆いかぶさるようにしてこちらを見てた。
「うぉっ!びっくりした!食われるかと思った!近いし怖えよ!」
「ちょっと、怖がるのやめてあげてよ。君が連れてきたんでしょ。プカマルがかわいそうじゃないか」
「プカマル……」
ポケモンから降りて寄ってきたツクシが、抗議するように言った。
後ずさって離れてから全体像を見渡した。
化石ポケモンのカブトプスのような体形に、岩のような茶褐色の体色、鎌の代わりに鋭利な一本の爪が生えている。
背中にはカメックスのような砲台が一機だけ生えていた。
驚き怖がられたのがショックだったのか、背中をつついた体勢のままぷるぷる震えていた。
控えめに言っても、プカマル、という可愛らしい名前を付けられるようなポケモンには見えない。
「……プカマル?」
「なんで不思議そうに言うの!?ニックネームだよ!ぷかぷか泳いでるのが可愛いからプカマルだよ!」
「どう見たってそんな可愛らしいポケモンじゃないだろが!明らかに上位の捕食者でジェノサイダーって感じじゃん!」
「ジェノサイダーとかいうな!プカマルはひかえめなんだから、そんなこと言ったら傷ついちゃうでしょ!」
「ひかえめぇ!?この見た目で!?」
控えめな捕食者とか、ちょっと意味が分からなかった。
かつ、ツクシの感想もよく分からなかった。
かっこいい!とか、強そう!とかなら分かったし、また、そういう反応を期待してこいつをツクシに渡したわけだが、斜め上の反応を返されてしまった。
この『プカマル』は、ホウエンから帰ってきたときにツクシに渡したポケモンである。
ホウエンの砂漠で化石を見つけて、ポケモンとして復元してもらったのだ。
だから、顔を合わせる前にモンスターボールに入っていたし、親登録も曖昧だった。
「全くもう。ぼくにくれたのは大正解だよ。君のポケモンになってたらプカマルが傷つきまくりだよ!」
「いや、見た目と性格のギャップが……。そうかぁ、ひかえめだったかぁ……」
「ほーらプカマル。デリカシー皆無野郎のことはほっといて、あっちでみんなと遊んどいで」
ぎぎゅう、と鳴き声らしきものをあげてのしのしと草むらで遊んでいるポケモンたちに近づいていくプカマル。
その姿はまさに。
「……絶対強者の狩りのシーン」
「もう!怒るよ!?」
「うおっ、ぽこぽこ殴るなっ!悪かったから!」
「……プカマルいいこなんだからね」
イメージとは違ったが、気に入ってくれたようで何より。
新種でも虫ポケモンである。ツクシならうまく育ててくれるだろうと思った。
UAが早くも3000を突破しまして、驚きつつも喜んでおります。
読んでいただいてありがとうございます。
感想、誤字脱等ありましたら書きこんでいただけると嬉しいです。