【悲報】知らない間に幼馴染がジムリーダーになっていた件について【まさかの裏切り】 作:海と鐘と
なんか、ロケット団の残党がヒワダタウンで騒動を起こしていたらしい。
それを知ったのは、ジュンサ―さんがガーディと一緒にロケット団らしき数人を拘束、逮捕している場面に出くわした時である。このままムショまで連行していく、ちょうどその時に立ち会ったようだった。
なんでも、ヤドンの井戸の中でヤドンのしっぽを切り落として、それを売り捌いていたらしい。
ヤドンは感覚は鈍いが、痛覚が無いわけではない。怪我を負ってから一日後くらいに、彼らは涙を流す。
ロケット団が事を起こしたのが一週間ほど前だというから、既に、泣いているヤドンを奴らは見ているはずだった。
ポケモンが泣いていようが苦しんでいようが、奴らにとってはどうでもいいんだろうか。
聞くと、切り落としてもまた生えてくるからいいじゃないか、という。
思わず拘束されているロケット団の頭にとび蹴りをぶち込んでしまった。
ジュンサーさんにとっ捕まる前に逃げたが。
願わくば悪がきの悪戯だと思ってほしいところである。そうじゃなければ傷害罪だ。
ロケット団を止めたのは、ボングリ頑固親父で有名なガンテツさんと、バッジを集める旅をしているワカバタウン出身の子供らしい。
何があったか詳しくは知らないが、ガンテツさんはぎっくり腰になってしまったという。
さぞや激しい戦闘が繰り広げられたのだろう。
ヤドン達にとっては、二人は救世主といったところだろうか。
気付けなかったことに悔しさは感じるが、同時に、義憤で動いてくれる人間がいたことに嬉しさを感じた。
ワカバタウンのトレーナーは事件解決後すぐにヒワダタウンのジムに行ったという。
そのアグレッシヴさは嫌いではなかった。
ヤドン達を救ったヒーローを一目見ようと、ジムまで直行した。
ジムのドアをくぐると、ちょうど挑戦者の後ろ姿が見えた。
今着いたところなのだろうか、入口のアドバイザーが声をかけようとしているところだった。
「よう、未来の……」
と、アドバイザーの人が言いかけたところで、彼は俺に気が付いたようだった。
何度もこのジムには出入りしているため、アドバイザーの彼も、俺と顔見知りだった。
「あれ!?クヌギ君、正式に入口から入ってくるなんて、とうとうヒワダジムのバッジを取ろうってことかい?」
「違います。ヤドンのヒーローがここに来てるっていうんで、見に来たんです」
「なんだそうか……」
なぜかホッとしたような顔をして、道を開けてくれた。
挑戦者の子の正面に回ってみると、同い年くらいの女の子だった。
「よう、未来のチャンピオン!君の名前を教えてもらっても?」
「えっ?あ、コトネと言います。ワカバタウン出身です」
ちょ、クヌギ君、それ、俺の仕事……、などと呟いているアドバイザーの人をしり目に、話を続けた。
「そうか、コトネちゃん。ヒワダの一員として、君にはお礼を言いたい。ヤドン達を助けてくれて、どうもありがとう」
頭を下げると、彼女は慌てたように、お礼なんていいです、といった。
アドバイザーの人は、あのクヌギ君が頭を下げるなんて……、と愕然としていた。無視した。
「ポケモンに酷いことするなんて許せなかったから止めただけです。
特別な事なんて、なにも……」
「そうか。でも、その君の在り方は、とっても特別なんだよ」
「ふぇっ!?」
顔を赤くするコトネちゃん。純真で可愛い女の子である。
後ろで、クヌギ君が、笑った……?なんだあのイケメンスマイルは。俺はあんな子は知らんぞ……。と言っているのが聞こえた。無視した。
「よし、じゃあジム戦だ。むしポケモンと戦ったことは?」
「あ、あります。キャタピーとか、トランセルとかですけど……」
「OK!なら、むしポケモンがどんな戦い方をするかは知ってるな?むしポケモンの弱点は、ほのお、ひこう、いわタイプの技だ。ストライクなんかはひこうタイプとの複合だから、その他にでんきタイプやこおりタイプなんかも弱点になる。こんなところかな。あとは実践あるのみ!ここのジムトレーナーも、それなりに手強いぞ?」
「が、頑張ります!」
ぐっと両手を握りしめるその仕草はやる気が満ち溢れていた。
ヒワダジムの内装は、光が射すウバメの森、とでも言えばいいような状態になっていた。
改装には、ちゃんとツクシの要望も入っていた。むしポケモンをジム内に放しても、彼らが心地よく暮らせるジムにしたのである。
だから、通路を進んでいる間も、時々むしポケモンが顔を出した。
キャタピーやらビードルやらにポケモンフーズをあげながらコトネちゃんと歩いていると、彼女が不思議そうにこっちを見ていた。
「えっと、ポケモンフーズ、持ち歩いているんですか……?」
「ここに来るときは大体持って来るよ。ポケモンと仲良くなるのに一番手っ取り早いからね」
「ほぇえ……」
そんな話をしていると、開けた場所に出た。
一人目のジムトレーナーがいる場所である。
「待ってたわよ、挑戦者!ツクシちゃんが出るまでもない、私が、たお、して……?」
勢いよく登場したお姉さんだったが、俺の顔を見た瞬間から声に張りが無くなった。
「どうも」
「挑戦者ってクヌギ君!?なんで今更正規のルートで挑戦してるわけ!?私が君に勝てるわけないんですけど!?」
「頑張ればワンチャンありますよ」
「遥かなる高みから!?」
突っ込みの激しいお姉さんだった。
コトネちゃんが困ったように俺とお姉さんを交互に見ていた。
もし俺がお姉さんとバトルするなら、自分は辞退しようと考えているような顔だった。
「挑戦者は俺じゃなくってこの子っす。コトネちゃん。ヤドンを救った正義のヒロインっす」
「ヤドンを救った……?ほほう、この子が噂の」
「せ、正義のヒロインじゃ、ないです……」
恥ずかしそうに言うコトネちゃんを見て、お姉さんはなにか考える仕草をすると、ちょいちょいと俺に向かって手招きした。
歩いていくと、内緒話の姿勢になった。
「クヌギ君、お姉さんはわりと寛容な方だけど、ツクシちゃんはどうか分からないよ……?」
「なんの話をしてんですか」
近くにあった顔を押しのけて、早くバトルをするように催促した。
◇
「……うん、普通だ」
コトネちゃんの二回目のバトルを見ながら呟いた。
基本に忠実、突飛なことはせず、堅実に相手を倒していくスタイルだった。
鳥ポケモンのポッポを軸に、弱点を狙って倒していくバトルである。
悪くはない。しかし、それではツクシのストライクには勝てない。
「……アドバイス、するべきなのかなぁ」
でも、自分で気付いた方が、トレーナーとして強くなるだろう。
悩ましいものだと思った。
「クヌギさん、勝ちましたよ!」
「いぇい、やったね。いよいよ最後のジムリーダー戦だ。ポケモンの体力が心配なら、一旦ポケセンで休んで明日また改めて挑戦するっていう手もあるけど……」
「調子がいいので、このままで行きます!」
「……そっか!頑張ってね!ツクシは、とにかくストライクの一撃が怖い。それに気を付ければ、行けるんじゃないかな」
「はい!行ってきます!」
そういって、コトネちゃんは走っていった。
◇
「……勝てませんでした」
膝の上のメリープをもふもふしながら、コトネちゃんは俯いていた。
メリープも悲しそうに鳴きながらコトネちゃんに寄り添っていた。
場所はポケモンセンター。
あのあとツクシに挑戦したコトネちゃんだが、初っ端のストライクのとんぼがえりでポッポが瀕死になった。
茫然としたまま繰り出したエースのベイリーフだが、トランセルを倒したところで再び出てきたストライクにこれまた一撃で倒され、残るメリープは育成不足が祟ってか、コクーンの毒針の猛攻撃に耐え切れずに戦闘不能。
結果として、3対3だったにもかかわらず、ツクシの手持ちは2体残り、コトネちゃんの方は全滅してしまった。
夜、暗くなってからようやく、比較的軽症だったメリープが返されたのだった。
「ポッポちゃんが一発で倒されちゃうなんて、思ってもいなかった……。速さも強さも思っていた以上で、結局ツクシさんのストライクの体力も全然削れませんでした。……どうやったら勝てるんでしょうか?」
「……ポッポで弱点を突こうとしても、スピードが足りなくて先に攻撃されてしまう。ベイリーフはそもそもむしタイプに弱く、メリープは根本的に育成不足だ」
「……勝てないんでしょうか」
ますます顔を暗くするコトネちゃんである。気分の上がり下がりが大きい性格をしているようだった。
メリープも心配そうに、コトネちゃんの頬を舐めていた。
「……そのメリープ、ちょっと触らせてもらっていい?」
「……? はい、どうぞ……」
抱えていたメリープを渡してくれるコトネちゃん。暗い顔をして、不思議そうにしながらも手渡してくれるあたり、とてもいい子だった。
メリープ。四足歩行の羊型。
進化すると、二足歩行になるんだけどなぁと思いつつ、もふもふした綿毛を撫でて。
ぐっと、首根っこを掴んだ。
びっくりしたメリープが、痛そうな鳴き声をあげた。
途端に綿毛から放電現象が起こり、周囲に電気が飛び散った。
思わず手を放す。床に落ちたメリープは、俺を警戒しながらコトネちゃんを盾にするように後ろに回った。
「……えっ?な、なにをしたんですか!?体は大丈夫ですか!?こら、ダメでしょ、メリープ!」
「いやいやコトネちゃん。今のは俺が悪いんだ。メリープの首根っこ、思いっきり掴んだからね」
「……なんでそんなことしたんですか!?」
「四足歩行の獣型、好きじゃないんだよねぇ」
「……え?そんな理由で……?」
コトネちゃんは後ろに回ったメリープを抱えて、困惑したような表情でこっちを見ていた。
「でんきタイプの特性は、パッと見じゃ分からないからさ。どうもその子は、『せいでんき』の特性を持っているみたいだね」
「パッと見じゃ分からないからこんなことしたんですか……?」
「『せいでんき』はいい特性だから、その子大事に育てるといいよ。あと、特性についてもちゃんと調べたらいいんじゃないかな」
言ってから、ばいばいと手を振ってポケモンセンターを離れた。
メリープに放電された右手と、背中に突き刺さる視線が痛かった。
自分に分かってることを、人に分からせるのは難しい。相手に自分で気付いてもらうようにするとなったら、なおさら難易度は上がるのだった。
相手がツクシだったら、こんな面倒なことはしないで済んだのになぁと思いながら、帰り道を歩いていた。
◇
「そーたろー。君がお気に入りだったコトネちゃん、ジムバッジゲットしたよ」
「……うぅん?そりゃ何よりだが、なんでお前がそんなこと伝えに来るの?」
「気になってるだろうなぁと思ったからさ。幼馴染の考えることくらい、天才ジムリーダーのぼくにはお見通しなのですよ?」
「……さいで」
家の屋上に作った秘密基地に横になっていると、ツクシが昇ってきた。
ここに来るには家の中に入って、二階の窓から出る必要があるのだが、例によって例のごとく、母が素通りさせたに違いなかった。
暑い日差しを遮るための屋根と、ポケモンに作ってもらった大きな氷柱が、ここの主要な避暑設備だった。
「なかなか強くなっててねー。戦術らしきものも使うようになってたよ。まだまだ未熟だったけど、あのまま成長できればいいところまで行くんじゃないのかな」
「いくだろうよ。元々ポケモンたちには随分慕われてたみたいだったし。ああいうのを才能っていうんだろな」
「君が言うと大体の人には嫌味に聞こえると思うよ、それ」
「いやいや。俺のはまた違う方向だから。俺の場合は最初にポケモンに有能さを見せつけて信頼を勝ち取る感じだが、コトネちゃんのは最初に信頼ありきで後から強さが付いてくるタイプだ」
「ポケモンと一緒に強くなっていくトレーナーの典型だね」
「そういうこと」
そういうトレーナーは、ある程度知識が増えたり戦術が使えるようになったりすると、途端に
自分がどんどん強くなっていく実感が得られるというのは、どんな気分なのだろうか。
「……羨ましいねぇ、コトネちゃんは」
「コトネちゃんは君を羨ましがってたけどね」
「隣の芝、ってやつだ。でも、他人事みたいに言ってるけどツクシ。お前だって俺と同じタイプだろーよ。信頼を勝ち取っていかなきゃ、どんなポケモンもついてこないタイプ。っていうか、世の中そっちの方がはるかに多いと思うんだが。お前はコトネちゃん、羨ましくないのか?」
「そりゃあ、ちょっとはそういう気持ちもあるかな。でも、正直そんな感傷に浸ってる暇は、ぼくにはないけどね」
「……うん?どゆこと?」
寝っ転がったまま、ツクシの方に視線を向けた。
ツクシと目があった。ずっとこっちを見ていたようだった。
「ぼくの隣には君がいるから。頑張って強くならないと、すぐ置いていかれちゃうでしょ?」
くすくす笑って、そう言った。
熱かったので、顔を背けた。