機動六課と燃える街   作:真澄 十

2 / 18
Ep.1 アルフレッド・バトラー

 古代遺物管理部機動六課、その部隊長室で八神はやては渋い顔をしていた。その原因は、今まさに行なっている話し合いの内容である。はやての頭を悩ませるのは、本局第八技術部の部長であった。この男、優秀な男であるらしく、なかなか口が上手い。この部長とはやての話し合いは、男のペースであると言っても過言ではなかった。

 

「――と言うわけでして、そちらにもメリットが大きいと思われます。どうでしょうか、ウチのテスターを半年だけ引き取ってもらえませんか」

「……せやかて、うちも忙しい身やしなぁ」

 

 正直に言って、なんとか断りたいのが心情である。この多忙な時期、技術部の実地試験に付き合うほどの暇はない。ジェイル・スカリエッティ事件(通称JS事件)の爪痕は深く、その後始末のため奔走しているのが現状だ。機動六課は、主戦力の者を欠かさずに事件を乗り切ることが出来たが、全ての部署がそうという訳ではない。そのため、人手が足りないの部署への人員提供や事件の事後調査、データ整理および報告書の作成など、やらねばならないことが山積みだ。はやて自身も、JS事件における独断先行が職権の範疇であるか否について、査問委員会にたびたび召喚されている身である。

 いくら管理局の技術部からの申し出とはいえ、二つ返事で了承できる内容ではなかった。いくら本局きっての技術部からの要請であっても、これ以上の仕事を背負い込むわけにはいかない。それが例え、マリエル技官を技術部から借りている形であっても。

 何せ、第八技術部が行なう実地試験の対象を機動六課にしたいというのだ。噛み砕いた言い方をすれば、技術部の試作機を搭載したテスター魔導師が六課に出向するということになる。

 そうなれば、少なくない人員が試験の為に割かれることとなるだろう。これ以上、隊員の負担を増やすわけにはいかない。

 

「ご心配には及びません。そちらに第四技術部からマリエル技官が出向しているでしょう。データ採取については彼女が担当します。必要であれば、さらに人員を貸し出しましょう。

 八神部隊長を始め、六課の皆さまに負担をかけないように最大限の融通を利かせます」

「それでも、今はこれ以上のタスクに耐えられないと思いますわ」

「タスクを分散する意味でも、そちらに有利なお話だと思います。出向する予定の魔導師は有能な男です。存分に、かつ好きなように使ってください。単独での戦闘を得意とする男ですので、そういった意味でもフォワード陣への負担は少ないでしょう」

 

 その言葉に、はやては気分を損ねたようだった。少しだけ眉根の皺が深くなる。

 

「うちは、部下を使い捨てるような事はしません」

「存じています。貴方はそのような人物ではない。一切の誇張を含めず、尊敬します。

 私が言いたいのは、有事の際でも足を引っ張るような事はしないという事です。仮に、明日にでも緊急出動がかかったとしても、必ずやお役に立てるでしょう。デスクワークも大きなミスをしたことがありません」

「……ちょっと考えさせてください」

「どうぞ」

 

 はやては、逃げ道が少しずつ塞がれていることを実感した。

 先ほどから男の弁舌に載せられている。それを覆そうとしても、大きな矛盾点がある訳でもなく、確かにこちらに有利であるように思えてならなくなる。

 人手が足りないのは事実だ。有能な人材であるというならば、願ってもないことだ。しかし、それがテスターとなれば話が違ってくる。データ採取のために模擬戦を頻繁に行なう必要があるだろうし、何よりマリエル技官がフォワード陣のために使える時間が激減するだろう。

 しかし、それでもなお、好きに使って良いという申し出は魅力的だった。模擬戦が増えたとしても、そもそもフォワード陣の訓練は今もなお継続して行なっていることだ。仕事が急増するという訳ではない。フォワード陣の仕事を手伝えるのであれば、結果的に各人の仕事量を減らせる公算は高い。

 

 魅力的だ。しかし、それだけに裏があるように思えてならない。

 はやては、自分の直感を信じ、そこを追求することにした。

 

「実地試験を少し遅らせるわけにはいかんのでしょうか」

「……こちらの都合になりますが、それは無理です。すぐにでも試験を始めなければ」

「そこまでして急ぐ理由は?」

「……良いでしょう、話せることを話します。現在、技術部は大きなプロジェクトを発動しています。それはJS事件を受けて急増したニーズに対応するためです。すなわち、AMFへの対抗策です。

 仮称ですが、AMFへの対抗手段はA-AMFシステムと呼ばれています」

「A-AMF?」

「アンチAMFの略称です。AMFはアンチ・マギリンク・フィールドの略なので、アンチが重複して私は好きではありませんが。

 いえ、私の好みなど良い。話を戻しましょう。これはつまるところ、高濃度AMF下でも戦闘可能なデバイス、もしくは補助システムの開発です」

「……そないなことが可能なんでしょうか」

「理論上では可能です。需要が少なかったため開発は後手に回っていましたが。企業名を現段階では明かせませんが、企業との共同研究も視野に入れています。場合によっては企業に完全に委託する可能性も。

 かいつまめば、二つの可能性があります。一つは、魔力ではなく電力を用いた装備の開発。バッテリーに電力を貯め、それによってデバイスを運用し、魔法をAMF下で行使するのです」

「なるほど。魔力ではなく電力を主とするんやったら、確かにAMF下でも戦闘が可能でしょう。質量兵器と化さないことを祈りますが。もう一つは?」

「はい、これは先ほどの理論の逆を行くものです。先ほど説明したものを、AMFの効果をすり抜けるものとすれば、今から説明するものはAMFを力押しで突破するというものです」

「……力押し、ですか」

「はい。大容量の魔力をあらかじめ容器に封じ込め、それを運用するというものです。ご存知の通り、AMFは魔力結合および魔法効果を無効化します。しかし、魔力消費さえ度外視すれば、よほどの高濃度AMF下でもない限り魔法の行使は可能です。乱暴に言えば、魔導師の魔力が増せばいい。しかし瞬間的な運用になってしまうカートリッジシステムでは、どうしても役者不足なのです」

「つまり、魔力を貯めたバッテリーみたいなもんを使い、強引にAMF下で戦うということですか」

「はい。私たちは『パッケージシステム』と呼んでいます。

実情を言えば、電力ベースの手法は確立するまであと数年はかかります。五年は堅いでしょう。それまでに提供できるシステムとして、いち早くこちらのパッケージシステムを実用段階まで持っていきたい。いつまでもシミュレーション試験を行なっている訳にはいかないのです。

 それに、八神部隊長も感じているでしょうが、電力ベースの手法のほうが理にかなっています。今後はそちらがメインとなるでしょう。今後、そちらの研究開発を行なうためにも、パッケージシステムの試験を早めに行ない、研究を収束させたいのです。

 その成果によっては、パッケージシステムと電力ベースシステムの合わせ技も考えられます。今後も辛い戦いを強いられるであろう魔導師のためにも、パッケージシステムの実地試験は可及的速やかに行なう必要があるのです」

 

 反則だ。今後の魔導師の為だと言われれば、簡単に断れなくなってしまう。

 さらにこの男が狡猾である点を挙げれば、わざと多弁に振る舞っていることだ。反論を挟む暇を与えず、持論をまくしたてることで強引に同意を求めようとしている。

 この男が悪い人ではないことは知っている。むしろ善人で有名な男だ。マリエルから事前に人物像を聞いて確認したため、おそらく間違いはない。

 それでも、AMFを引き合いに出したことは恨まざるを得ない。きっと、JS事件の際、「聖王のゆりかご」内になのはとヴィータが取り残されかけたことを知って、引き合いに出したのだ。AMF下でも魔法行使が可能な技術があれば、二人を危険な目に会わさないで済んだかも知れない。いや、さらに言えば、ヴィータが重傷を負うことすら無かったかも知れない。

 聞けばパッケージシステムは問題点も多そうだが、話が単純であるだけに運用もそこまで難しいとは思えない。

 はやての心は、この要請を受ける方向に傾きつつあった。

 

「……とにかく、テスターの情報を提示してください」

「こちらです」

 

 そう言って、男は書類フォルダの中から一枚のディスクを取り出した。はやては自分の端末にそれを入れ、パーソナルデータに目を通した。

 名前はアルフレッド・バトラー。男性、23歳。出身は第97管理外世界、地球の英国。階級は二等陸尉。やや目を引いたのは、陸戦においてAAランクを有していたことだ。魔力量が少ないことが最大の欠点だが、短期決戦ならば六課の主力とも同等に渡りあえることを示している。保有資格は危険物取扱免許Ⅰ種、それに普通免許だった。危険物取扱免許Ⅰ種とはなんとも第八技術部らしい。これは爆薬や劇薬のみならず、研究目的かつ許可が下りた場合に限りロストロギアすら取り扱うことが出来る資格だ。古代遺物管理部であれば、この資格保有者は居てくれて損はない。

戦闘能力だけで言えば、六課ならば副隊長レベル。保有資格等を鑑みればロングアーチとしても十分活躍できる。

 たしかに有能な人物だった。

 

「優秀な人物でしょう?」

「……確かに優秀な人物のようですね。でも優秀すぎです。一部隊が保有できる戦力を超過しています」

「もちろん、彼は特例として別枠になっています。その点はご安心を」

「……そうですか」

 

 これははやてにとって最大の切り札であった。六課の保有戦力は規定のギリギリである。これを盾にして、これ以上の人員は引き受けられないと断るつもりだったのだが、あっさりとすり抜けられてしまった。

 

「さて、データに補足をしますと、彼はヘビースモーカーでして。彼の喫煙については、大目に見てやってくれると助かります。本人のストレスコントロールのために」

「お引き受けした訳ではありません」

「これは失敬。……さて、アルフレッド君は非常に優秀な人物です。しかし、指摘される前に白状しますと、デバイスのほうに少々問題を抱えていまして」

「デバイスに?」

 

 そう言われて、はやてはデバイスデータの項に目を走らせた。

 男は、その必要は無いとでも言いたげに言葉を続ける。

 

「彼はインテリジェントデバイスを保持しています。名をインセイン・スーツ。それとは別に、アームドデバイスを所持していますが、こちらには何の問題もありません。あくまで問題はインセインです。

 一言で表すならば、そうですね。言語機能が破損している、とでも言いましょうか」

「つまり、インテリジェントデバイスやけれども、話すことができないわけですか?」

「いえ、そうではありません。むしろインセインは多弁です。私ほどではないですが。

 何と言いましょうか……非常にガラが悪いのです。かつ好戦的。ヤンキーやチンピラと表現するのが良いかも知れません。言語コーパスや思考アルゴリズムのバグかと思ったのですが、何故か修復できませんで。一時的には直ったのですが、すぐに元に戻るのですよ、これが」

「……不安要素を受け入れるほど、うちは――」

「余裕がある訳ではない。おっしゃる事は分かります。

 しかし、解析の結果、インセインは言動と性格を除けば普通のデバイス……というには独特な形状なのですが、まあ問題ありません」

「独特というのは?」

「インセインは重装甲強化服型です。ざっくばらんに言えば、驚異的な防御性能を持つ、鎧のようなデバイスということです。いや、後で写真か映像をご覧になって欲しいのですが、鎧というより宇宙服や潜水服と言った方が近いかも知れません。少なくとも見た目は。

 しかし、ここまでの重装備でありながら、インセインはパワーアシスト機能を備えているため、移動速度もかなり早い。この辺りの詳細は資料を参照してください。

 おっと、つい熱が入ってしましました。つまり言いたいことは、少し問題があると言っても、それを補うほどの力があるということですよ」

 

 はやては素早くデータに目を通す。確かに優秀なデバイスだ。独特でもある。

 きっと、フォワード陣の訓練に参加させれば、彼女らにとって良い刺激になるだろう。添えられた写真データを開いてみると、インセイン・スーツは相当に物々しいデバイスであるが、殺傷性の高い武具に身を包んでいるわけではない。インセイン・スーツが防御を前提として設計されていることは、一目見ればわかる。攻撃は、別に所有しているというアームドデバイスで行なうか、格闘戦によるものだと推測される。まだ分からないが、スバルと似た戦闘スタイルかも知れない。

 

 だが、フォワード陣は多感な時期にいる者が多い。言動に難ありというのは、やはり不安だ。

 だが同時に、彼女らの今後の進路を考えれば、そういう者に慣れるのも大事だとも思った。管理局は、機動六課の者たちのように気の良いものばかりではない。また、所属する部によっては犯罪者と面と向かって闘うこともあるだろう。自分たちの行く先に居るのが善人ばかりではないということを、早い段階で知らせることも大事かも知れなかった。

 言うまでも無く、劇薬であるが。

 

「少し、考えさせてください」

「勿論。今すぐ返事を貰おうとは思っていません。

 では、今日はこれで失礼します。……ああ、そうそう。もしも今回の実地試験で良いデータが取れたのであれば、A-AMF搭載装備は六課に優先的に回したいと考えています。六課はあと半年で解体となってしまいますが、元六課メンバーを優先的に配備いたします。

 金銭報酬も用意しておきますが、無理を言うお詫びです。ただ、今後は企業に開発を任せてしまう可能性があることと、装備を回すと言ってもテスターとしてということ。この二点はご留意して頂きたい。ああ、企業に任せることになっても、約束を反故には致しませんので、ご安心を。企業から装備を買うことになっても試験は必要ですし、テスターの選出は第八の権限です。

 では、ご連絡をお待ちしています」

 

 これが最後の一押しだった。

 A-AMF装備が出来るまで数年かかるというが、数年越しにあの子たちを守れるというのであれば、それは願っても無い申し出なのだ。むしろ、自分の手を離れたとき、彼女らの死を知るのが怖い。それならば、少し先の未来であっても、彼女らを守るために最大限の努力をしたいのだ。

 

 アルフレッド・バトラーとインセイン・スーツ。不安要素は少なくないが、デメリットとメリットを天秤にかけ、メリットのほうが大きいと判断した。

 多少の不安要素ならば、自分の六課ならば乗り越えてくれる。きっと解消してくれる。

 八神はやてはそう信じた。

 

◇◆◇◆◇

 

 はやては、A-AMFシステムの概要と、それに伴う実地テスターの引き取りを了承した件を、若手メンバーを除いた関係の強いであろう人物に報告した。つまり、リインフォースⅡ、なのは、フェイト、シグナム、ヴィータ、シャマル、マリエル、シャリオの九人である。はやても含めた十人は、修復された機動六課の会議室に集まっていた。

 

 はやては事の概要を説明し終えようとしていた。特に、第八技術部のテスターであるアルフレッドを受け入れるメリットを重点的に説明していた。反対意見が出るであろうことは重々承知している。

 もしここで反対多数のようであれば、この件は白紙となる。第八技術部の部長には、会議にて反対意見が占めるようであれば断ると伝えていた。そうでなければ、是非お引き受けするとも伝えてあるのだった。

 

「知ってのとおり、先のJS事件でAMF兵器の有効性は立証されることになってもうた。今後、テロ組織や犯罪組織はAMFを基点とした編成になってくる。それにいち早く対抗でき、今後も技術提供をしてくれる言質も取ってある。六課や、六課メンバーの今後のためにも実地試験に協力する意味はあると考えた訳や。……私からは、こんなもんや。何か質問等あるか?」

 

 皆、さてどうしたものかと黙りこんだ。手元の資料を睨み、本当にこの試験が大丈夫かどうか悩む。

 だがその顔は、十人十色の様相を呈していた。肯定的に捉えるもの、否定的に捉えるもの、達観しているもの、顔色は様々である。

 最初に口を開いたのはシグナムであった。

 

「私は主の決定に従うまでだ。悪い案件ではなさそうだし、口を挟むことはない」

 

 それに反応したのはヴィータだった。ヴィータの顔色はこの件について否定的であるように思えた。

 

「だけどシグナム、六課が今忙しいのは知っているだろ。他部署との連携、それも実地試験だ。タスクは急増するんじゃねーのか」

「ヴィータ、主がその程度の事も考えていないと思っているのか」

「……そうじゃねーですけど。本当に対応できるのか確認してーんだよ、私は」

「そうやな、ヴィータの言う通りや。今以上に忙しくなるかも知れへん。でも、そうじゃないかも知れへん。手元のパーソナルデータを見てみ、アルフレッドは優秀な人や。技術部所属というだけあって事務仕事もできるやろうし、戦闘能力でも問題ないように見える。私は、一人当たりの仕事量を減らせるんちゃうかと思っているんや」

「私もそう思います」

 

 はやてに同意したのはマリエルだった。マリエルは技術部からの出向扱いであるため、その伝手からある程度の情報は前もって知っているのだろう。はやてが知らない情報も知っているかも知れない。

 

「アルフレッドさんは私も知っています。事務仕事も特に問題なく、フォワード陣に加えれば戦力になると思います。

 それに、パッケージシステムは構想が単純なだけにトラブルも少なく、仮にトラブルが起きても私で十分に対応できます」

 

 その言葉に反応したのはシャマルであった。皆の健康と安全を管理する身としては、思うところがあるのだろう。

 

「じゃあ、今になってようやく実地試験というのは何故なのでしょう。構想が単純ならば、カートリッジシステムが普及するのと同時期に開発されていても良いと思いますが」

「それは、デバイスの耐久性の問題です。正確には排熱の問題というべきでしょうか」

 

 そう言うとマリエルは端末を操作し、プロジェクターにデータを投影した。それは一般的なデバイスの熱分布グラフのようであった。

 

「カートリッジシステムもデバイスを加熱してしまうものですが、これは瞬間的なものですので、排熱もそこまで気を使わなくても大丈夫でした。しかしパッケージシステムは断続的に冷却し続けないと、デバイスを破損する恐れがあります。そのため大型の冷却装置が必要なり、実用性に欠けるとして研究は半ば頓挫していたのです」

 

 いま投影されているのはパッケージシステム試作一号機である。熱分布グラフにそう書かれていた。確かに、試作一号機の熱分布は時間経過と共に赤く染まっていき、危険な水準にまで達してしまうことが明らかだった。

それに、同時に投影されている試作一号機の写真は、たしかに大きなものであった。小ぶりなリュックサックを背負っているようなものだ。重量も相当なものだろう。

 確かに、実戦に投入できるレベルのものではなかった。

 

「ですが、その問題は大幅に改善され、実用に足るレベルまで小型化することに成功しました。本来は長期無補給戦闘行動を支援する目的でしたが、A-AMFとしての機能を期待されるシステムです」

「期待されると言ったって、ゴリ押しじゃねーか」

「ゴリ押しでも何でも、私は六課の皆の為になるなら、良いと思うよ」

 

 ここでようやく口を開いたのは、なのはであった。

 エース・オブ・エースの発言力はこの場では強い。皆が真剣になのはの言葉に耳を傾けた。

 

「私とヴィータちゃんが、揺り篭の中でピンチだったのは皆が知ってのとおり。AMFのせいで力を上手く発揮できなくなって、ヴィータちゃんは重傷を負った。

 もしそれを防げるなら、私は協力してあげるのも良いと思うの。この実地試験で開発が進めば、あんな酷い怪我を負う人も少なくなるかも知れない。

 それに、AMFに対抗できる人材が六課に来ること事態は歓迎するべきじゃないかな。JS事件が終わっても、六課が解散になるまで半年ある。その間に緊急出動がかからない保障はどこにもないもの。フォワード陣の皆がより安全にあるなら、私はこの件に賛成するよ」

「なのは……でも、一番忙しくなるのは、きっとなのはなんだよ? フォワード陣に加えるなら、今いる子たちとの連携も考えないといけないし……」

【その通りです。ご自愛ください、マスター】

「ありがとう、フェイトちゃん、レイジングハート。でも私は大丈夫だよ」

「なのはだけに負担をかける訳にはいかねー。私も手伝う。

 ……ま、一番キツくなるヤツが賛成しているんじゃ仕方ないな。私から言うことは何もねーよ」

「ありがとう、ヴィータちゃん」

 

 ここで発言は止まった。どうやら意見の一致をみたようである。

 はやては確認のため、柏手を一つ打ってから発言した。

 

「これ以上の意見はないか? ……ないな。じゃあ多数決や、賛成の人は手を挙げてな」

 

 その場に居た全員が手を挙げ、この件は採決となった。

 皆、程度の差ことあれ不安な色を顔に残している。だがそれでも、今後のことを考えれば不利な話ではないと皆が判断した結果だった。

 

「よし、じゃあ私は第八技術部にさっそく連絡する。

 なのはちゃんとフェイトちゃんは、今後のことを詳しく話し合いたいから、一時間後に私の部屋に来てや」

「了解」

「うん、了解」

「では、ひとまず解散や。お疲れさま」

 

 はやてとのミーティングの前に、なのはとフェイトはフォワード陣を集めて報告をした。みんな驚いていたが、新たな仲間が加わることを喜んでいた。

 正式に機動六課に出向となるのは来月。あと五日である。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 天高く馬肥ゆる秋、というのはこういう日を言うのだろうか。汗ばむほど暑くもなく、決して寒くも無い、快適な天気。雲ひとつない空は、呆れかえるほど青く澄んでいた。

 これで休日ならば、ゆっくりとハンモックにでも揺られながら読書といきたいものだ。何かスポーツに打ち込むのも面白い。だが、社会で働く者にそんな優雅な時間はそうそう許されないのも実情である。忙殺される身にあっては、せいぜい服装が秋物に変わったくらいのものだ。後は、食事のメニューが若干変わる程度だろうか。

 

 ご多分にもれず、アルフレッド・バトラーもまた激務に忙殺されている身だった。

 第八技術部に正式決定の通知が来てから四日後、アルフレッドは機動六課の敷地内にいた。明日が着任の日とはいえ、当日に押しかけるわけにはいかない。明日からは勤務なのだから、最低でも前日に挨拶をすませる必要があるだろう。本当はもう少し余裕を持っておきたかったが、仕方がないことだった。

 

 なにせこの四日というもの、怒涛の忙しさだった。通常の業務をこなしながら出向の準備を進める必要があるためだ。唯一の救いは、私物が少ないことだった。それでも服や下着、必要と思われるデータの整理などに奔走することになった。もちろん、出向する間は第八技術部の仕事は他人に引き継ぐこととなる。その引き継ぎも、かなり骨であった。機器の操作手順をマニュアル化するだけでも一日がかりの仕事だったのだ。

 

 一応はアポイントメントも取ってはいるが、ちゃんとしたものかと問われれば否と答えざるを得ない。今日の昼ごろに窺うと、昨日に電話で伝えただけだ。他の者にちゃんと連絡が行き届いているか不安である。

 

 いや、不安なのはそれだけではない。アルフレッドは方向音痴だった。とは言っても軽度の方向音痴で、一度行った道を間違えるようなことは滅多にないのだが、初めての場所は地図がなければ大抵迷う。残念なことに、今は地図がない。施設の案内図のようなものすら見つけることができない有様だった。

 戦闘時には不利に働いてしまう欠点だが、大抵の場合は問題ない。事前にマップデータを共有することが殆どであるし、そうでないにしてもインセインがナビゲーションを担当してくれる。

 しかし、平時に限ってはそうではない。インセインはこの事に関して手助けはしてくれなのだった。

 

「参ったな」

【このアホ。駐車場に車を置いただけで、さっそく迷子かよ】

「違う。駐車して、煙草を吸おうと喫煙所を探していたら迷子になったんだ」

【その喫煙所が見つかってねェんだから、結局のところ車を置いただけじゃねェか。無事に施設内に入れただけマシだがよォ】

「む……」

【ホラ、諦めてその辺の人に聞けや】

「面倒だが、仕方ないか」

 

 そう言ってアルフレッドは周囲を見渡した。クリップボードを手にした女性が歩いているのが目にとまり、どうやら機動六課の職員のようだった。成人しているかどうか、という程の若くて活発そうな人であった。

 アルフレッドはその人に声をかけてみることにした。その人物を選んだのは、目に止まっただけでなく、なんとなく親切そうな気がするという理由である。

 

「あの、すみません」

「はい? あ、外来の方ですか?」

「ええ、まあ。申し訳ないのですが、喫煙所の場所を教えてくれませんか。あと、部隊長室の場所も教えて頂けると嬉しいのですが」

「あ! もしかして、第八技術部から出向してきたアルフレッド二等陸尉ですか?」

「え、私を知っているのですか?」

 

 アルフレッドが答えると、その女性は花が咲いたような笑みを浮かべた。女性、というよりは少女と表現したほうが良いかもしれない。

 青いショートヘアの子で、実に張りのある良い声だった。

 

「初めまして、スバル・ナカジマ二等陸士です! こっちは私のデバイス、マッハキャリバーです」

【初めまして】

 

 そう言うと、スバルの首に下がっていたデバイスが挨拶をした。どうやらインテリジェントデバイスであるらしい。

 そしてデバイス持ちであるということは、この少女も魔導師であるということだ。おそらく前線メンバーであろう。まだパーソナルデータを貰っていなかったため、完全に偶然となってしまったが、前線メンバーとここで知りあうことになるとは思っていなかった。

 こんな少女がとも思ったが、特に珍しいことでも無いと思い直した。技術部の年齢層が高いだけで、他の部署ならば若い隊員も多い。未成年の隊員だって珍しい話ではないのだ。

 ようは実力があれば良い。その理論でいけば、この少女も高いポテンシャルを秘めていることは想像に難くないのだった。

 

「初めまして、アルフレッド・バトラー二等陸尉です。こちらはデバイスのインセイン・スーツ」

【宜しくなァ、嬢ちゃん。バカそうなのが難点だが、今後ともよろしくしてくれや】

「あ、あはは……」

「おい、インセイン! すみません、あとで注意しておきますので」

「いえ、良いんですよ。それよりも喫煙所ですよね? 案内しますよ」

「あ、場所だけ教えてもらえれば結構です」

「気にしないでください、アルフレッドさん。今は私も時間に余裕があるし、はやてさんの部屋まで行くなら私も用がありますから。道中で施設の案内もしますよ」

「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」

【そうしとけ、相棒。テメェは方向音痴なんだから、案内してもらっとけって。俺ァ面倒だから、マッピングなんかしねェからな】

「決まりですね! じゃ、付いて来てください!」

 

 喫煙所までの道中、アルフレッドはスバルと少しだけ雑談を交わした。主に仕事に関わる話だ。八神はやて部隊長から話があるだろうが、事前に聞けるならば聞いておいたほうが良い。とは言っても、雑談混じりのものなので、他愛のない事だといえばそうだろう。普段のタスクはどのようなもので、どのような流れで処理しているのか。働きやすい場所なのか、インセインは独特なデバイスだが馴染めるだろうか。このような事を道すがら話した。スバルはその間、笑顔を崩さなかった。

 きっと、この職場が好きなのだろう。

 雑談のついでのように、施設の説明もしてもらった。トイレの場所だけは忘れないようにしておく。ストレスが貯まるとすぐに腹を壊す癖があるのだ。

 

「ところで、機動六課はずいぶん若い人が多いですね。さっきからすれ違う人全員、20代かそれ以下かと思いますが」

「あ、そうなんです。うちはちょっと特殊なので、若い人を中心に集めているんです」

「はあ、なるほど」

 

 アルフレッドはすぐ察しがついた。そもそも機動六課は実験部隊の扱いの筈だ。そのため一年間だけの運用で、あと半年で解散となる。何か問題があっても上は尻尾を切りやすくするために、このような部隊編成になっているのだろう。もしくは、部隊長に何か思惑があるかのどちらかだ。

 いずれにしても、深く詮索する意味は無いだろう。この件はここで切り上げることにした。

 

「若い人が多いと、喫煙者は少なそうですね。私だけだったりします?」

「そうですねえ、吸っている人は少ないと思います。少なくとも私は知らないですね。外来の人は吸っていることもありますが。

 あ、着きましたよ。喫煙所は屋内には無いんですよ。今はまだ大丈夫ですが、冬は寒いかもしれませんね」

「気にしませんよ。喫煙所があるだけマシというものです。

 案内ありがとうございます、助かりました。あと、部隊長室へはどう行けばいいのでしょう。教えてもらえれば後は自力で行きますので」

「部隊長室まで案内しますよ」

「いや、それは悪いですよ。スバルさんも仕事があるでしょう」

「スバルで良いですよ、私のほうが年下なんですから。敬語も要りません」

「この部隊では俺が後輩です」

「良いんですよ、スバルで」

「……そうかい。俺は言葉使いとかは気にしないから、好きに呼んでくれ、スバル」

「はい!」

「じゃあ、部隊長室の場所を……」

「いえいえ、案内しますから」

「……分かったよ、じゃあお願いする」

 

 アルフレッドがそう言うと、スバルははにかんだ。この子、意外と頑固だ。人懐っこいとも言える。

 アルフレッドは喫煙所にあった自動販売機にコインを入れ、缶コーヒーを二つ買った。言わずもがな、一つはスバルの為だ。ブラックと砂糖入りの両方を買った。

 

「ブラックと甘いの、どっちが良い?」

「え、悪いですって」

【良いから受け取っておけって嬢ちゃん。すでに買ったんだから、受け取らねェと無駄になっちまうぜ】

「そういうこと。さ、どっちが良い?」

「じゃあ、甘いので」

 

 アルフレッドはスバルに砂糖入りの缶コーヒーを手渡した。そろそろ寒くなってくる時期のため、ホットを選んでおいた。

 アルフレッドはポケットから煙草を取り出し、ライターで火を付ける。彼女の服に匂いが移らないよう、風下に立った。そしてブラックコーヒーを開け、一口飲む。アルフレッドとしてはブラックコーヒーのほうが好みであった。スバルが砂糖入りのほうを受け取ってくれて、少しだけ良かったと思う。

 

「煙草、いつから吸っているんですか?」

「もう五年くらいになるかな」

「あれ、アルフレッドさん23歳ですよね」

「……まあね。皆には内緒にしといてくれよ」

【今はもう成人しているから問題ねェさ】

「ふふ、じゃあ秘密にしておきます。でも未成年に煙草を勧めちゃダメですよ? この部隊は未成年も多いんですから」

「そんな事したら部隊長に大目玉だろうな」

 

 そう言って二人は笑った。

 アルフレッドは時間をかけて一本吸った後、再びスバルの案内で部隊長室に向かうのだった。

この部隊で上手くやっていけるかどうか分からないが、少なくとも、この子たちとは上手くやっていけそうな気がした。

 機動六課の独特な空気を味わいながら、アルフレッドはスバルに連れられて部隊長室に向かった。




 とりあえずアルフレッドが六課に合流するところまでです。
 今後はもう少し動きがでてくると思います。

 さて、既に第三話まで書き貯めており、二話と三話は二日~三日のペースで投稿したいと思います。
 それ以降は書きあがったら順次、という形になりますね。
 どうか今後もお付き合いください。

 twitter:mugennkai
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。