機動六課と燃える街   作:真澄 十

6 / 18
Ep.5 とある朝

 9月30日 快晴 18℃/5℃

 アルフレッド・バトラー二等陸尉が機動六課にやって来た日。アルフレッドさんはインテリジェントデバイスであるインセイン・スーツを所有しています。アルフレッドさんはやや硬いものの普通の性格ですが、インセインは相当に捻くれていました。報告書によれば、システム根幹のバグなのか、どうやっても修理ができなかったそうです。バグがあるのは言語機能のみで、デバイスとしての使用には全く問題が無いため、現状のまま運用されています。正直、リインはインセインが苦手かもしれません。デバイスのAIに対して苦手意識を抱いたのは初めての経験でした。

 

 アルフレッドさんとインセインは第八技術部から出向してきました。パッケージシステムという、魔力を長期的に供給する装置の実地試験のためです。インセインの背部に装着されていて、見た目は箱状のものでした。パッケージシステムの構想自体はかなり前から存在しており、カートリッジシステムをミッド式のデバイスに搭載することを検討され始めた当初からありました。実際に現場に投入されたのはカートリッジシステムが圧倒的に早かったですが、これは排熱の問題によるものでした。瞬間的なカートリッジシステムに対し、長期的に駆動し続けるパッケージシステムはデバイスが加熱され、危険だったそうです。しかし技術の進歩により、現場に投入できるレベルまで改善。現在、技術部はパッケージシステムとは別のシステムの構築および試験に専念する必要が生じたため、もっと時間をかけるべきシミュレーション試験を半ば切り上げる形で実地試験に乗り出しました。

 

 パッケージシステムに対する印象としては、確かに強力なシステムだと思いました。アンチAMF(A-AMF)システムとしては勿論、その汎用性の高さも評価できました。単純な魔力バックアップであるため、どのような状況にも対応できそうです。しかし、強度と排熱の問題でカートリッジシステムとの併用は難しそうですが。アルフレッドさんみたいに、カートリッジシステムを搭載した別のデバイスを所有する必要があるでしょう。

 欠点として、まだまだサイズが大きいことが挙げられます。例えばなのはさんが装備するとなると、背中にバックパックを背負い、その上でバックパックとレインジングハートをケーブルか何かで接続しなければならないです。やはり、半ば研究が切り上げられた状況であるため、改善点は多いように思えるです。

 しかし、ティアナの半分程度の魔力量しか保有していないアルフレッドさんですが、パッケージシステムを起動した際にはティアナをゆうに超える魔力運用が可能になるため、デメリットを補ってあまりあるメリットがあることも事実かと思います。

 なんにせよ、アルフレッドさんとインセインさんが六課に早く馴染めると良いなと思いました。

 

「こんなものですかねー」

「んー? ああ、リインの個人的な勤務記録のことやね」

「はいです。お仕事も終わりましたので、忘れないうちに書いてしまおうと思いまして」

 

 はやてとリインフォースⅡの姿は部隊長室にあった。既に日も暮れており、そろそろ本日中に消化すべきタスクを終える頃であった。リインははやてに比べてタスクが少なかったため、少しだけ早めに仕事を終えていた。はやての仕事を手伝うと言ったものの、もうすぐだから大丈夫と断れてしまったため、個人的な勤務記録をつけることにしたのだ。勤務日記といっても、実際は日記に近いのだが。

 

「待たせてしもうてゴメンなぁ。本当にあとちょっとやから、ちょう待ってな」

「気にしないでください。それより、やっぱりリインも手伝うですよ」

「ええて。もう終わるから……よし、これで本日のお仕事は終了や」

 

 そう言うと彼女は机に投影されたキーボードを少しだけ強めに叩き、コンソールを閉じた。やや遅れてに投影されていた画面とキーボードも消える。はやては大きく伸びをしてから、自身の肩を軽く解した。どうやらかなり凝っているらしい。

 リインは自分が肩でも叩いてやれればと思ったが、どう考えても物理的に不可能だ。なにせボールペン程度の身長しかない。魔法を使えばそれも叶おうというものだが、あいにくと肩を解すのに使えそうな魔法は持ち合わせていなかった。怪我を治す魔法はあっても、単純な疲労を癒す魔法というものは未だかつてお目にかかったことがない。

 

「さて、じゃあ夕食でも取ろうか」

「はいです!」

 

 既にかなり遅い時間であったが、あいにくと二人はまだ夕食を食べていない。仕事をこなしていると、どうしても食事が後に回されてしまう。それが疲労の一因になろうことも理解しているが、現実がそれをなかなか許さないのだから仕方が無い。なまじ、寮生活なのがいけないのだとリインはつくづく思った。なにせいつでも帰宅できるし、場所も近い。だから帰宅の優先順位が暴落してしまっている。

 これを改善するには、もういっそ嫁いでしまって退職するのが良いのだろうが、あいにくとその予定も相手も存在しない。そもそも当人に退職の意思がないからどうしようもない。はやての意思を覆すほど魅力的な人物であり、かつ強引な人でなければ無理だろう。この条件の時点で既に希少種だ。少なくとも今までそんな人物に出会ったことはない。もちろんアルフレッドも除外されてしまっている。顔は悪くないが、はやての気を引くほどかと言われれば疑問である。あくまで平均的だ。

 

 一体、誰がはやての婚期を遠ざけているのですか。責任者を問いたださねばなりません。責任者はどこなのですか。

 

 リインはそう思ったが、よくよく考えたら完全に本人の責である。仕事に専念しすぎというものだろう。もう少し、仕事以外に打ち込めるものを探すべきなのだ。そうだ、何か新たな趣味を作ればいい。人との交流があるような趣味がいいかも知れない。例えば、そう、何かスポーツをするとか。

 食堂に行く道すがら、リインはそんな事を考えていた。善は急げという言葉もある。

 

「はやてちゃん、テニスとか興味ありません?」

「ないなあ。どしたん?」

 

 リインはあたふたと手足をバタつかせた。焦りを隠そうとして、余計に焦りを表に出してしまっている。理由までは用意していなかったのだ。

 

「あ、いえっ。えっと……ちょっと私がやってみたいなー……なんて」

「リインが? それは体格的にちょうムリやないか?」

「あう……」

 

 取りつく島すらない。これは難航不落である。

 まずは自分と一緒に何かを始めさせる作戦だったが、そもそも自分の体格でテニスは不自然であった。いや、一応は子供程度のサイズにはなれるのだが、それでもやはり体格に難があるだろう。魔力効率もよろしくない。やはり、自分が始めても不自然ではないものにしないといけない。ならば何があるかと、リインは文字通り頭を抱えて悩んだ。

 

「何かスポーツでも始めたいんか? リインやったら……水泳とかどうやろ」

「水泳ですか。水泳……いいですねそれ! はやてちゃんも一緒に始めましょう!」

 

 塩を送られる形になったが、素晴らしい案であった。はやては管理局の部隊長という事もあって訓練を重ねている。必然的に、プロポーションは維持されていることになる。女性らしい柔らかなラインからは離れてしまったかも知れないが、引きしまったラインは保障される。

 

「水着で男性諸君を悩殺するです!」

「はあ?」

「いっそ際どいビキニとか買いましょうよ!」

「ななな、何言うとるんや!?」

「はやてちゃん、明日にでもプールに行きましょう! ええ、それが良いです!」

「いや、私は仕事あるし、リイン一人で行ってきいな」

「それじゃあ意味がないじゃないですか!」

「はあ?」

 

 リインは全身で怒りを表現するが、はやてにはその意図が分からなかった。しかし、リインが両手を振り上げて可愛らしく怒っている事実は眼前にある訳で、その理由を推し測ろうとする。

 そして出した一つの結論が、「リインは男性とお近づきになりたいに違いない」という壮絶な勘違いであった。なるほどなるほど、リインも人格を持ったユニゾン機なのだから、そういう感情を持ってもおかしくはない、とはやては一人で納得する。

 自然と、何か企むような笑みをはやては浮かべていた。

 

「……何ですかはやてちゃん、その顔は。はやてちゃんがそんな顔をする時は、何か企んでいる時なのです」

「ふふ、秘密や。まあ楽しみにしとき」

「……はあ」

 

 数日後、はやてはリインの好みそうな男性を無理やり紹介して、リインが不機嫌になるという事件が勃発したのだが、それはまた別の話である。

 

◇◆◇◆◇

 

夜も深まった頃合い、アルフレッドの姿は自室にあった。持ち込んだ酒をグラスに注ぎ、少しずつ飲んで喉を潤わす。決して酒に溺れているわけではないのだが、多少のアルコールを摂取しないと寝付けないようになってしまっていた。ストレスのせいなのか、あるいは別の要因なのか本人すらよく分からない。だが次の日に持ち越すほど飲まねばならない訳でもないため、本人はさほど問題にしていなかった。ちゃんと成人した大人だ、その程度の自己管理はできている。

 

 無論これは規則違反だ。だがこの程度はどこの隊でもやっていることである。ここは若い隊員ばかりだから無いだろうが、酷いところでは部隊長が公然と酒瓶を自室に陳列している事すらあるのだ。有事にアルコールの所為で出動が出来なければ問題となるが、管理局員も人間である。特に寮で生活していると娯楽が非常に少ないため、多少のアルコールの持ち込みや摂取は大目に見る風潮があった。アルフレッドにとっては有難い限りである。

 

【まったく、酒がねェと寝付けないなんてなァ。ヴェルディのクソ野郎みてェで良い気分じゃないぜ】

 

 その言葉にアルフレッドは沈黙で返す。しかし無視をしたわけではない。溢れる苛立ちを抑え込んだだけであった。その証拠に眉間には皺が寄り、目つきは鋭くインセインを睨んでいた。

 その様子に気付いたインセインは、おっと済まねェと言ったが、その謝罪が形だけなのは明らかであった。

 この二人は、当然ながら敵対しているわけではない。むしろ協力関係にある筈であり、インセインの言うように相棒である筈だ。しかしながら、アルフレッドはインセインの口のきき方を不快に思うことも珍しくはない。いや、これを快く思う者のほうが稀有な存在であろう。インセインは人の神経を逆なでする事に関しては天才的である。単に思慮が足りないだけなのかも知れないが、意図的にやっているのではないかと思うことすらあった。

 その度に打ち砕いてやろうか、あるいは海にでも捨ててやろうかと思うのだが、現実がそれを許さない。アルフレッドとインセインは、もはや互いに離れることができない存在なのだ。アルフレッドはインセインが居ないと困るし、インセインはアルフレッドが居ないと困る。

 だから、いくらインセインの言動で自分が不利に置かれたとしても、インセインを手放すことができなかった。なんだかんだと言って、十年も一緒に居れば愛嬌の一つとして見ることもできる。要は深く考えないことが大事だ。

 また一口、酒で喉を潤わす。度数の強い酒が喉を通り、芳醇な香りと熱さが後に残った。

 

「あれから十年か」

【そうだ。……十年経っても、気持ちに変化はないのかィ?】

「ああ。俺には、ヴェルディを……あいつらを許せそうにない」

【……そうかィ。ま、好きにしときな。俺ァもう言葉を尽くしたからよ、これ以上言うことはねェ】

「すまないな。……さあ、一服したら今日はもう寝ようか。明日の朝も早いからな」

【あいよ】

「はあ……初日から大変なことをしでかしてしまったな。早朝訓練、どんな顔して参加したらいいものか」

【気にすんなってェ】

「……ったく」

 

 そう言うとアルフレッドはグラスに残った酒を一気に呷った。そして部屋を出て、喫煙所まで歩き、満天の星空を眺めながら煙を吸い込んだ。

 初日から大変な日であった。新人メンバーとなのはとの模擬戦がハードだったこともあるが、その後の始末書と反省文が大変だった。明日はそんな事にならないように祈りつつ、吸い終わった煙草の火を揉み消すのであった。

 

 次の日の朝、アルフレッドはかなり早めに目覚めてしまった。というのも、昨日の出来事の所為で、どんな顔をして訓練に参加したものかと考えていたら、ストレスのせいで腹の調子を崩してしまったのだ。腹痛と便意で目覚めてしまったため、熟睡したとは言い難かった。

 とりあえずトイレで用を済ませ、整腸剤を飲む。ストレスが胃腸に直撃する性分をどうにかしたいものだが、生まれつきだから仕方が無い。ストレスをどう付き合うかが生涯の課題となるだろう。

 

【さっさとそのクセ直しなよ】

「ストレスの大半はお前のせいだけどな……!」

【ゴメンネー】

 

 コンクリートで固めて海に捨ててやろうかと思ったが、どうにか思いとどまった。その代わり思いっきり壁に投げつけてやった。硬い壁に当ったせいで、勢いよく跳ねかえり、何度か床を跳ねて止まった。

 

【痛ってェ! オイコラ、この俺様に向かってなにしやがる!】

「次何か言ったら、海に叩き落とすからな!」

【知っているくせにィ。海に落とした程度じゃ俺は何ともねェよ】

 

 アルフレッドは舌打ちした。全く反省の色が見えない。実に腹立たしいことである。おかげで胃腸の調子がまた悪くなってきた気がする。

 しかし、インセインの言うことも事実である。海に落とされたとしても、インセイン自体はきっと涼しい顔をして戻ってくるだろう。深海まで突き落とせば話は違うだろうが、それでも何とかしそうと思えてしまうからなお腹立たしい。

 いや、気にするなと自分に言い聞かせ、身支度をすることにする。その最中にも何かインセインが喚いていたが、全て無視した。いちいち真に受けるから腹が立つのだ、聞き流してしまえばただのお調子者である。いちいち気にかけるからインセインも調子に乗るのだ、適当に流しておけばただの愉快なバカである。

 それに、これはこれで信頼できる相棒なのだ。

 

 訓練用の服に着替える。昨日と同じような、通気性の優れたシャツにカーゴパンツとコンバットブーツ。短めに切りそろえた髪の寝ぐせを直し、髭を剃り、歯を磨く。その頃には眠気も大半は消えてくれていた。

 一通りの身支度を終えたところで時計を確認したが、訓練の時間までまだ大分あった。とはいっても、今からテレビを点けたところでロクな番組はない。ニュースの時間にすらやや早い時間だ。部屋に居てもすることが皆無であるため、いっそのこと早めに訓練シミュレータに行っておこうかと考えた。

 首に待機状態のインセイン・スーツを提げ、パンツのポケットに煙草の箱とライターを入れる。訓練前に一服するのも悪くない。

 だから訓練シミュレータに行く前に、食堂の屋外に設置されている喫煙所に歩を進めた。腹の調子が悪いため、負担になりそうなコーヒーは外して紅茶を買う。一応とはいえ、地球の英国出身なのだ。紅茶は嫌いではなかった。

 缶の紅茶は思いのほか甘ったるかったが、それはそれで不味くはない。だが次は無糖のものを選ぼうと思いつつ、煙草に火を点けた。白みかけた空を眺めながら煙を燻らせる。すると、丁度朝日が顔を覗かせ始めた。やや寝不足の目に、朝日が少し沁みた。だが、決して不快ではなかった。

 

【良い朝じゃねェか】

「ああ。……ん、今通ったのは犬か?」

【ああ、何でこんな所にあんなデケェ犬がいるんだァ?】

 

 建物と建物の通路を通る犬が二人には確かに見えた。角度的に、見えたのはほんの僅かな間だけだったが、確かにイヌ科の動物であった。とは言っても鋭い牙と爪が見えたため、狼の類かも知れない。いずれにせよ、野放しにして良い存在とは思えなかった。迷い込んだのが狂犬の類であれば、職員を傷つけないとも限らない。早めに保護する必要があるだろう。

 

「行くぞ」

【アイアイサー!】

 

 アルフレッドはまだ半分ほど残っている煙草を揉み消し、その大きな犬が消えた方向に駈け出した。アルフレッドはこの隊に来て一日しか経っていないため、どこに向かっているのかは検討もつかなかったが、とにかく犬を追うことにした。

 

【ワンちゃーん! たっぷり可愛がってやるから出ておいでェー! 観念しろオラァーッ!】

「なんかその良い方だと完全にこっちが悪者だな!」

【ヒャッハー喧嘩上等―ッ!】

「ああもう、本当に口の減らないヤツだな!」

 

 犬を追って走るが、建物の中に入ったらしく、すぐには姿を確認できなかった。建物の中に入ったが、やはりどこに行ったかは分からなかった。 インセインの周囲の探索能力に優れていればすぐに分かったのだろうが、あいにくとインセインの探索能力は低い。どこに行ったのかと周囲を見回したが、やはり分からなかった。

 ややその場で考えあぐねていると、奥から物音が聞こえた。慌ててその方向に向かうと、ある一室に電気が点いていた。

 まだ他の職員が起きてくるような時間ではない。夜間勤務の職員も当然いるが、それはごく一部の施設に常駐しているだけであり、アルフレッドの記憶ではこの建物は夜間は使用されない筈だった。

 なのに電気が点いている。まさか先ほどの犬が点けたのか。ありえない、とは言い切れなかった。今のが使い魔の類であれば、そのような事は当たり前にできてしまうだろう。

 とすれば、想像以上に由々しき状況なのかも知れない。こんな早朝に使い魔を管理局の施設に送りこんだとすれば、何か悪意があると見て良いだろう。一刻も早く保護しなければならない。

 しかし、果たして簡単に捕まってくれるのか。悪意を持ってここに居るのならば、敵対するであろうことは想像に難くない。

 相応の覚悟を以て望むべきだ。

 

「……行くぞ」

Storm!(突入)

「I copy!」

 

 アルフレッドは勢いよくドアを開けて乗りこむ。管理局規約により、先制攻撃は相手に明らかに相手に敵意があるときのみにしか認められない。現状では先生攻撃は認められないため、まずはインセインを展開せずに対峙することとする。

 だが、それなりの警告と威嚇はするが。

 

Freeze!(動くな)

「大人しく――」

 

 その場に飛び込んだアルフレッドが見たのは、筋トレに勤しむ逞しい男の姿であった。

 

「……何だ、騒々しい」

「投降、しろ……?」

 

 ◇

 

【マジすまねェ】

「あなたがザフィーラとは露しらず、とんだ無礼を……」

「構わん。パーソナルデータに狼形態の写真が無かったのであれば、仕方がないだろう」

 

 その場所はトレーニングルームであった。屋外の訓練用シミュレーションとは別に、屋内にも訓練施設はある。オフィスワーカーの為の体育館に始まり、本格的なトレーニングルームも設えられている。

 当然のようにアルフレッドはこの場所のことを覚えていなかった。昨日、確かにスバルとティアナに道案内をしてもらった筈なのだが、完全に忘れていた。方向音痴の本領発揮である。

 ついでに、ザフィーラのことも完全に忘れていた。せめてパーソナルデータに狼形態時の写真があれば良かったのだが、不備なのか抜けていたらしい。パーソナルデータにザフィーラが狼を元にした守護獣であることは分かっていたし、よく考えたら察することも出来たのだろうが、つい慌てて失念してしまった。不覚である。

 

【しかし、なんだって狼形態で居たんだよ。紛らわしいぜ、ありゃあ】

「何かと都合が良くてな。主と我ら守護騎士は同じ部屋で寝泊まりしている故、我らの部屋には我以外には女性しかおらぬ。主に気を使わせまいとしているまでだ」

【あァ? 男子寮と女子寮は分かれているだろが。それとも何か、テメェ女子寮に出入りしてんのかィ?】

「そうなるな」

【お前俺と変われ】

「……おい、インセイン」

 

 ザフィーラはアルフレッド達と会話をしつつ、筋トレの手を休めることはなかった。狼形態から人型になっているのは、当然のことながら狼形態のままで出来るトレーニング機器が存在しないからだ。

 既に顔には薄らと汗をかいている。シャツから覗く筋肉は、アルフレッドよりも発達していた。アルフレッドもかなり鍛えているが、彼には負ける。もうムッキムキであった。

 しかしただ筋肉が発達しているだけではない。必要な筋肉を必要なだけ鍛える、実に実用的な筋肉であった。まさしく、戦士の体というべきか。

 

【だってよォ相棒。そんなハーレム、羨ま……いや、けしからんじゃねえか。これは俺が潜入して査察をだな】

「主に害なすつもりなら、容赦はせんぞ」

【そんなんじゃねェってー本当にただ職務を全うしようとしているだけだよー】

「貴様、デバイスのくせにそういう欲求があるのか?」

【あるさァ。メッチャあるさァ】

「……そういうものなのか?」

 

 アルフレッドは眉間に寄った皺をどうにか解そうとしたが、いくら指で揉んでも解れる気配がなかった。せっかく整腸剤を服用したのに、これでは全くの無意味で終わるかも知れない。今のところ、ザフィーラが気分を害していないらしいことだけが救いであった。

 

「中々愉快なデバイスだな」

【だろォ? でも中々理解してくれなくてなァ】

「お前の場合、言っちゃいけないことまで言うから問題なんだよ」

【ホラ、我慢って体に悪いじゃん?】

 

 その「体」とやらは一体どこにあるのかと言ってやろうかと思ったが、もう面倒なのでアルフレッドは言葉を引っ込めた。これ以上漫才を続けるつもりはない。

 ザフィーラは軽く笑ったが、それが本心からなのか呆れから来るものなのかは何とも判断つかなかった。

 

「お前たちの防御力、話には聞いている。大したものだ」

「……ある意味、貴方のお株を奪うことになってしまったが」

「構わん。我は主たちの帰る場所を守るのだ。我の居ないところで主を守ってくれるのであれば、何でも構わん」

 

 盾の守護獣、ザフィーラ。その名の通り、防御を得意とする守護騎士である。広域防御はシャマルのほうが得意とするが、局所的な防御はザフィーラの最も得意とするところだ。その戦闘スタイルは近接戦が多いが、魔法戦となれば防御に徹することが多い。

 ある意味で、スバルよりもザフィーラのほうがアルフレッドに戦闘スタイルが近いかもしれない。ただ、その防御がより攻撃的に特化している点では、スバルに近いと言えなくもない。スバルとアルフレッドを足して二で割ったようなものだ。

 だから決してザフィーラの役目を奪うような事は無いし、そもそも隊も任務も違うのだが、アルフレッドは気にしていたのだろう。ザフィーラの言葉に安堵の表情を浮かべた。

 

「ところで、ザフィーラはこんな早くから訓練かい?」

「ああ。我の仕事は、主とその帰る場所を守ること。なかなか訓練の時間が確保できなくてな、こうやって早朝にやるしかないのだ」

「……俺も、もう少し鍛えようと思ってたんだ。毎日は無理だけど、たまには一緒に筋トレしてもいいかな」

「好きにしろ」

【そうだ相棒、とりあえずもう少し筋力をつけなァ。お前の筋力が増せば、それだけアシストに割く魔力量が減るんだ。僅かな差だが、その僅かな差が大事だぜェ?】

「そうだな。だが……今日はもう無理だな」

 

 時計を見れば、集合時間は間近に迫っていた。多少の余裕はあるが、今から筋トレをしている暇はない。そろそろシミュレータ前に行って、ストレッチをしておいた方が良いだろう。

 アルフレッドにとって、ザフィーラとの会話は楽しいものだった。この人物の性格は評価できる。どこまでも真面目で、誠実である。無闇にこちらに干渉しようとしないことも、アルフレッドにとっては嬉しいものだった。アルフレッドにとって、過去は後ろめたいことが多すぎるのだ。根掘り葉掘り聞かれるより、ずっと嬉しい態度であった。

 六課のメンバーになら、いずれ打ち明けても良いかも知れないと思った。一日ここに居て、なんと温かい人たちだろうと思えたのだ。インセインはそれが気にくわない様子だが、アルフレッドにとっては心地のよいものだったのだ。六課の人たちは信頼できる。なのはは勿論、他の人たちも素晴らしい才能と人格を備えている。

 

「また来るよ、ザフィーラ。いずれ魔法の指導をしてくれ」

「お前に教えることなど」

「百人居れば百通りの魔法がある。問題はそこから何を学びとるのかだと思うよ」

「ふん、そうかも知れないな。ほら、訓練の時間なのだろう。さっさと行くといい」

「ああ、じゃあまたな」

【See you again!】

 

 アルフレッドは訓練シミュレータに走った。まだ時間には余裕があるが、一応は訓練を受ける側では年長者なのである。一番乗りで到着しておいて、先輩らしいところを見せて格好つけたいのだ。

 訓練シミュレータに着いたときには、まだ誰の姿も無かった。どうにか一番乗りであるらしい。さもずっと前から居た風を装って、ゆっくりとストレッチを始めた。

 それから数分したとき、新人メンバーが顔を見せた。朝から元気よく、走りながらのご到着である。アルフレッドも走ったが、彼のそれとは若々しさが違った。

 アルフレッドの姿に気付いたスバルが元気よく手を振り上げ、よく通る声で挨拶をした。

 

「アルフレッドさん、おはようございまーす!」

「おはよう」

【グッモーニン、ガキどもォ】

 

 それから新人メンバーもまたストレッチを始めた。ややあってから、なのはも姿を現した。どうやら、既に怒ってはいないようだった。アルフレッドは胸をなでおろす。昨日のことをまだ怒っていたらどうしたものかと思っていたのだ。

 その心配がないのであれば、何も気にすることはない。ならば、今は真剣に訓練に打ち込むだけである。

 

「さあ、今日も張りきっていくよ!」

「はい!」

「おう!」

 

 今日も一日が始まる。どんな一日になるかは分からないものの、きっと良い日になるとアルフレッドは思うのであった。

 




 今回は少しだけ短めですが、ここがキリが良いと判断してこの量にしました。
 少し投降が遅れてすみません。次も一週間を目標にしていますが、どうなるかちょっと分からないです。

 感想やご指摘等、お待ちしております!

 twitter:mugennkai
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。