今度こそ嫦娥を抹殺するために月の都へ乗り込んだ純狐達…

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怨ミ向カウ先ハ

 ぽたん、ぽたんと、水滴の落ちる音が静寂の中聞こえる。

 ばこん、ばこんと、鈍い打撃音が宮殿内に響き渡る。

 ここは月の都。

 純狐は、嫦娥の下へと辿り着いた。

 壁面には宮殿の兵たちの血しぶきが飛び散り、赤黒く染まりきっている。宮殿の兵士は皆殺しにした。

 玉兎は手にかけていないが、宮殿の上層部の奴らを警護していた兵士、上層部の月人ども。

 綿月の姉妹と白鷺は、私が地上へと送り飛ばした。

 敵とはいえ、今ではちょっとした知り合いだ。巻き込みたくはなかった。

「や、やめっ……あぁ!」

「……」

 もう、純狐に発する言葉などなかった。

 ただただ、拳に今ある怨みを乗せ、彼女にぶつけるだけ。

 もう、何度目だろう。鈍い音が響くのは。聞こえていた悲鳴が鳴りやみ、静寂が訪れるのは。

 嫦娥は蓬莱人。いくらいたぶったところで、殺せはしないのは分かっているはだ。

 だが、彼女は。純狐は殴り続けた。嫦娥が息を吹き返すたびに、何も言わずに。

「も、もういいでしょ。助けぶぇ」

 開いた口に、思いっきり拳を叩き込んだ。

 純狐の拳からは、歯で付いた傷と血が滲んでいる。

 ここまでいくと、流石の私でも見るに堪えない。

「ねえ純狐。そろそろ止めてやりなよ」

「貴方は黙ってて」

「え⁉」

 恐ろしいほど鋭い眼光が、私を睨みつけた。

 あまりの恐怖に、背筋が凍った。

 今の彼女には、神である私の力も及ばないのか。

「ぐっ……」

 またしても、痛々しい悲鳴が鳴りやんだ。でも、再生が始まっていない。

「気絶……したのかしら」

「……」

 気絶し、虚空を見ている嫦娥に手の平を突きつけた。

「眠らせはせぬぞ。苦しめ」

 手の平から悍ましい力を感じると共に、気絶していた嫦娥が、突然物凄い量の吐血をし苦しみだした。

「ガハッ……! あああ……」

 純狐の能力、純化の力だ。

 これは穢れの多い相手ほど効果は大きいのだが、蓬莱人にこれほどの効果があるとは……。

 能力の加減が良く、殺さない程度に苦しませている。

 もう、嫦娥は出す物を出し切った顔をしきっている。これ以上いたぶったところで、血の一滴たりとも……

「……終わらせてあげる」

 その純狐が突然胸倉を掴み、溝辺りに手を付け、能力を発動する。

 すると、嫦娥の体に黒い靄が纏わりついた。

「ごはぁああ……」

 もう、声すら出ないようだ。身悶えする事すらやめ、苦しみを受け入れている。でも、こいつもしかして……

「純狐、こいつもしかして……」

「分かってる」

「え?」

「こいつはもう……、死んでるわ」

 蓬莱人が死ぬはずはない。

 でも、嫦娥は確かに死んだ。

「私の能力が、こいつの魂にまで行き届いた。もう、復活することは無い」

 復讐を果たしたはずなのに、どこか悲し気な顔をしていた。ねえ純狐。このまま貴方を放っておくと、消えてしまうんじゃないのかしら? そんなの嫌だよ?

「ヘカーティア……。帰りましょう。私たちの復讐は終わったわ」

 

 月の都を出て、静かの海まで歩いてきた。

 襲撃するまで放っていた禍々しい気は、今では微塵も感じられない。鬼気迫る純狐は、もう何処にもいないのだ。

 全てが終わったせいか、あらゆる物が鮮明に見える。

 生命のいない静かな海。浜辺に打ち付ける波の音。

 そして、誰もいなくなった月。

「ねえ純狐、これからどうする?」

 何処へ往くでもなく、ただ放浪しているだけの彼女に、今後を問う。

だが、その答えは何となく分かっていた。その答えを聞きたくなかった。でも、何か聞かなないとそのまま消えてしまいそうな気がした。

 答えを返さない純狐に、さらに問い詰める。

「もう……、私達終わりなの?」

「……ごめん」

「え?」

「もう、怨みを晴らした私に存在意義なんて無い。何に生を見出せばいいか分からないの」

 本当に、終わってしまうのだろう。

「……なら、私の計画もお終いね」

 これは、最後の賭けだ。

「私も、月の奴らはムカついたからね。ちょっと懲らしめてやろうと思っていたときに貴方が現れた。だから利用した」

 本当は逆だ。ムカついていたのは本当だが、大きく懲らしめる気は無かった。でも、同じ目標を持った貴方に近づきたくて復讐という大義を利用し貴方に接触した。

「じゃあ……、私と貴方、クラピちゃんとの思い出は全て利用するための形でしかなかったっていう事?」

「そうゆう事」

 そんなわけない。あの思い出たちは嘘じゃない。私にとっては、かけがえのない輝かしい思い出なんだ。

「そう……」

 瞬間、純狐が私の目の前に瞬間移動してきた。それと同時に首を掴まれ地へと押し倒された。

「殺すッ!」

 血の滲んだ拳を握りしめ、一直線に私へと向け放たれた。

(純狐は私への怨みで輝き続けれる。私は、愛した純狐に消されるなら本望)

 覚悟を決め、目を閉じた。

 

「……純狐?」

「……」

「私のこと、怨めしくないの?」

「なら、ヘカーティア。その涙は何なの?」

 何かと思い、頬に手を当てる。

 人肌くらいの暖かい水滴が、私の頬を伝っていた。

「言葉ではさっきの様に言いつつも、本心は隠しきれてないじゃない。それに、私、貴方を怨むことなんてできないわ」

「でもそれじゃあ純狐は……」

「だから、怨みじゃなくて愛を存在意義として生きていくわ。貴方とのね」

 満面の笑みをし、私へと抱きついてきた。

 私の中で、ある種の感情が芽生えた。

 温かい。

 これが、愛ってやつなのね。

 


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