―――――この汚れきった両腕に君の笑顔は綺麗すぎるから……
by.フリード
―――――人気の無い廃教会。
ただ静寂に包まれ、虫の合唱だけが響いていた。
そんな廃教会の入口に1人、少年が座っている。
「……いーちゃん可愛かったなぁ……」
少年の名前は『フリード・セルゼン』。
彼は自分をこう言い表した。
―――――『
「片付け……しないとな……」
ため息を吐き出すと面倒くさそうに立ち上がる。
そこに、月明かりが差し込んだ。
まず見えたのは彼の姿。
美しい白髪は赤黒く染まり、固まっていた。
次に見えたのはフリードの周り。
闇夜に包まれ今まで見えなかったものの、月明かりに照らされた地面には―――――
―――――無数の死体が広がっていた。
赤黒く染まった彼の白髪。
その正体はこの場に広がる死体の返り血だろう。
フリードはゆっくりと立ち上がると、空を見上げて口角を上げて薄く笑ったかと思えばすぐに口を開いた。
「遅かったじゃないっすか〜……旦那たち?」
フリードが声を向けた方には4つの人影。
彼らにも月明かりが当たり姿があらわになる。
―――――男性2人に女性2人。
性別の違いがあるものの、1つ、共通していることがあった。
その背には黒い翼が生えていたのだ。
「……何の真似だ?フリード。
私の目が確かなら神父たちが皆殺しにされているようだが?」
スーツを着た男性はフリードを睨みつけて言う。
「あぁ、正解正解大正解っすわ〜。
ちょいと邪魔だったんで始末しちまいました」
言ってフリードは自らのそばに置いてあった何の変哲もないただの少しばかり細身の剣を持って立ち上がる。
「ついでに旦那たちも斬らせてもらいますかねぇ……」
剣を上空の4人に向けて、座った目で言い放つフリード。
それに対して3人は心底可笑しそうに笑った。
「何を言うかと思えば……たかが人間がいきがるな?」
「そぉーっすよ!
その辺の神父よりすこーし強いからってチョーシに乗りすぎっ!」
「痛い目に合わせないと分からないようだな」
「…………」
3人は馬鹿にした様な口調で、しかし1人は黙っている。
「あ〜……そーいうのいらないっすわァ〜。
知ってますかい旦那たち?
今の発言、『フラグ』ってやつですぜ?」
ニヤリとフリードは笑うと、剣を持つ方の腕に変化が現れた。
今までは生身の腕だったはずなのに、一瞬にして白銀の精巧な機械の様な腕に変化する。
「―――――全てを断ち斬る剣を此処へ。
斬り裂け、斬り崩せ、斬り倒せ。
全ての敵を斬り払う、絶対の力を今求める」
それはただの言葉遊びではない。
全てに意味があり、全てに役割がある。
―――――『言霊』。
フリードはそれを今唱えたのだ。
「貴様も
スーツの男性は眉をひそめて不機嫌そうに言う。
「あんれぇ〜??
気が付かなかった感じですかぁ〜??
うわ、無能じゃん!」
明らかに馬鹿にした、挑発するような言葉に青筋を浮かべるスーツの男と女性2人。
そしてその手にはどす黒い光の槍を出現させていた。
「「「死ねッ!!!」」」
3人は一斉にその槍をフリードに向けて投擲する。
しかし、フリードはものともせず、その槍を剣をたった一振りするだけで破壊してしまう。
見ればその剣も腕と同じく白銀に輝いていた。
目の前の光景が信じられないのか、3人は驚愕の表情を浮かべている。
「……弱っ……。
ハァ〜……アーシアちゃん逃がして本当に良かった……旦那たちみたいな雑魚に手を出されなくて良かったですわぁ〜」
ヘラヘラと笑うフリードだったが、それとは対照的に、3人は怒りを顕に表情を歪めていた。
「……けるな……ざけるな……ふざけるなッ!!!」
スーツを着た男性は怒号を上げると、両手にどす黒い光の槍を出現させてフリードに突撃していく。
「―――――1名様ごあんなーい☆」
しかし、フリードは口角を吊り上げて余裕そうに笑う。
2本の槍の攻撃を完全に見切り、躱したフリードはスーツを着た男性をその手に持つ剣で両断した。
「「なっ……?!」」
女性2人はまさかスーツを着た男性が殺されるとは思ってもいなかったようで目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。
「あぁ〜……汚れちまった……」
返り血を顔に浴びてしまったフリードは不機嫌そう呟き、手のひらで血を拭う。
「……時間かけるのも勿体ないし、もう終わらせてもらいますわ」
溜息とともにそう吐き出したフリードは
「「ひっ……!!?」」
情けなくも悲鳴を上げる女性2人。
今日のこの時まで自分の優位を信じて疑わなかった、それが仇となったのだろう。
目の前に迫る少年は、そこらの神父とは違い、『
「―――――死ね」
―――――白銀一閃。
横薙ぎの一撃に少しの反応もできなかった2人の女性は一瞬で絶命した。
痛みを感じる間も無かっただろう。
その後、フリードは地面へとゆっくり降り立ち、残った1人の男性へと視線を向ける。
唯一、何の反応も示さなかった男性だ。
「……
「……まぁね」
レイナーレと呼ばれた男性はフリードと同じく地面へと降りると自傷気味に笑った。
「……アーシアを逃がしてくれたんだって?」
「そうですぜ?
……とは言っても俺が出来るのは逃がすだけ。
きったなく汚れた俺が人助けなんてちゃんちゃらおかしいっすわ」
肩をすくめてそういうフリードにレイナーレは苦笑いを浮かべる。
「十分な人助けだと俺は思うよ」
「……旦那も逃がすつもりだったんしょ?」
フリードは溜息と共にそう吐き出した。
その目に既に戦う意志など無かった。
「……さぁ?何のことかな?」
「白々しい……まぁ、イイっすけど。
……さて、俺は行かせてもらいますわ」
白銀の機械のような腕から元の生身の腕に戻したフリードはその場に剣を突き立てて背伸びをする。
「俺の勘じゃ、そろそろ来ちゃうと思うんで……流石に未練タラタラだなぁ……」
会いたい……一緒にいたい……、フリードは悲しそうにそう呟くと一筋だけ涙を流して姿を消した。
まるで闇夜に溶け込むように―――――
その後、しばらく呆然と立ち尽くしていたレイナーレは空を見上げて呟いた。
「俺は、やり直せるかな……
傍に落ちていた3枚の羽根を拾い上げてレイナーレはその場を後にした。