―――――『キミ』はどうしてそんなに……
by.祐斗
「イッセーさん大丈夫かい?」
「うん、これくらい何ともないよ」
私を心配してくれる木場くんの声に笑顔を返す。
―――――現在私たちは山登りをしていた。
フェニックスさんたちへの宣戦布告から次の日。
グレモリー先輩が修行に行くという旨の報告をしてきたので、朝から山登りをしているのだ。
「それにしても修行場所に山にある別荘を用意するなんて流石はグレモリー先輩だね……」
背中にある尋常じゃない量の荷物を背負い直しながら、私は額の汗を服の袖で拭う。
―――――山登りの末にたどり着いた山頂には、木造の別荘が建っていた。
山登りの途中に聞いたところによると、この別荘はグレモリー家の所有物らしく、普段は魔力でその姿を風景に溶け込ませることで一般人には見つからないようにしているらしい。
中に入ると木造独特の木のいい香りが鼻に香る。
リビングに一旦荷物を下ろすと、息を深く吐き出す。
「ふぅ〜……」
流石に大量の荷物を背負っての山登りは疲労を感じる。
……そもそも女の子が持っていい荷物の量じゃなかった気がするなぁ……。
「さて、それじゃぁ着替えに行きましょう?」
グレモリー先輩は私の方を向いてそう言ってくる。
「分かりましたグレモリー先輩」
「それじゃぁ、僕は浴室で着替えてきますね」
木場くんは青色のジャージを持って1階の浴室があるらしい部屋の方へと向かっていく。
「私たちは2階で着替えるわ」
私を含める女性陣は着替えを持って2階へと向かうのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よっはっ……!」
「おっと……ふっ!」
着替え終わった私はグレモリー先輩の指示で木場くんと木刀で打ち合っていた。
「やっぱりイッセーさんは強いね」
私の攻撃をいなしていた木場くんは間合いを取って口を開く。
「木場くんには負けるよ」
剣道部で軽く打ち合ったことはあったけれど、今の木場くんと比べると別人のようだ。
悪魔としての木場くんとこうして打ち合っていると負ける気はしないけど勝てる気もしない。
悪魔としての身体能力をまだ十全に使いこなせないからか、まだ違和感を感じる。
「―――――これは僕も負けてられないな」
水分補給をしながら木場くんは言う。
「悪魔になったばかりのイッセーさんに追い抜かれたくないからね。
それに、僕も男だ。
イッセーさんみたいな女の子より弱いなんて嫌なんだ」
「……私を普通に女の子扱いするのなんて木場くんくらいだよ」
私は苦笑混じりに呟いた。
日頃からの行動のせいか、それとも性格のせいか、私はどちらかと言うと男の子のような扱いを受けていたから。
「イッセーさんは魅力的な女の子だよ」
木場くんは微笑みながら私に向かって恥ずかしげもなく言う。
「そんな冗談言わなくて良いよ??
……さて、次は姫島先輩のところに行かないと行けないからそろそろ行くね?」
そう言って立ち上がった私は木場くんに手を振って、姫島先輩のいる場所へと駆け足で向かった。
「―――――冗談じゃないんだけどなぁ……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「イッセーちゃんは魔力総量が少ないものね……」
黒いジャージに身を包んだ姫島先輩は苦笑いを浮かべて呟いた。
姫島先輩のもとでは魔力の扱いについてレクチャーしてもらっているのだけれど、私には魔力がほとんど無いようで、流石の姫島先輩もお手上げのようだ。
「出来ました!」
隣では白いジャージに身を包んだアーシアが魔力の塊を手のひらに作り出していた。
淡緑色の魔力の塊はとても綺麗で、その光景を見るとやはり羨ましく感じる。
「あらあら、やっぱりアーシアちゃんは魔力を扱う才能があるかもしれませんわね」
姫島先輩に褒められて頬を赤く染めるアーシア。
「ではその魔力を炎や水、雷に変化させます。
これはイメージから生み出すことも出来ますが、初心者は実際の火や水を魔力で操作する方が上手くいくでしょう」
そう説明した姫島先輩は水の入ったペットボトルを取り出し、それに魔力を流し込んだ。
すると、魔力を得た水が鋭い棘と化して、ペットボトルを内側から破ってしまった。
「アーシアちゃんは次にこれを真似してくださいね。
イッセーちゃんは精神統一をして、少ない魔力の効率的な運用を考えましょう?」
その言葉に頷いて、私は姫島先輩と話し合いながら自分の少ない魔力の扱いを練習するのだった―――――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「えい……っ!」
気合の入った塔城さんのボディーブロー。
私はそれを絡めとるように受け流して、そのまま地面に投げる。
まさかこんな所で気まぐれに齧った格闘技の知識が役に立つとは……。
「……イッセー先輩も格闘技するんですか?」
「私の場合は少し齧った程度だよ」
塔城さんの言葉にそう返す。
だけど、今後のことを考えるならもっと真剣に格闘技を磨くのも悪くないかもしれない。
どの道、近接格闘が私の武器になっていくのは確定しているから。
私は自分の身体を改めて見てみる。
「……筋肉欲しいなぁ……」
こんな細腕細足では近接格闘は出来そうもないから。
「塔城さん、もっとやろうか!」
「……望むところです」
互いにファイティングポーズを取って再び戦い始める。
近接格闘をするのは塔城さんしかいないからこれからはお世話になりそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「イッセー!気張るのよ!」
「……了解です……っ!」
グレモリー先輩との修行は基礎能力の向上。
山登りの道を往復したり、獣道を駆け抜けたり、崖を登って行ったり。
筋肉トレーニングも勿論あり、上半身、下半身満遍なく鍛えるものだった。
『
所有者の能力を倍にしていく能力でも、もとの力が『1』より『2』の方がいいから。
「まだ行けるかしらイッセー?」
「……よゆーです」
汗でびしょびしょを通り越してびちゃびちゃになったジャージを脱ぎ捨てたいという気持ちに駆られるも、流石に上半身裸でトレーニングをするほど女は捨てていないのでそれは諦める。
「それじゃぁ筋トレをもう一巡しようかしら?
まずは腕立て伏せからね」
グレモリー先輩のその言葉を聞くやいなや私は腕立て伏せの格好を取り、素早く腕立て伏せを始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――――夕方。
最早日も完全に落ちかけているので夜と言っても過言ではない時間に、私たちは別荘の前に集合していた。
全員が全員汗や泥で汚れており、木場くんや塔城さん、私は服までボロボロである。
「この様子だと先にお風呂にした方がいいみたいね……」
グレモリー先輩は私たちの姿を見てそう言う。
「此処には温泉があるのよ?
いい機会だから今日の疲れを落としながら親睦を深めましょう?」
言ってにこりと笑ったグレモリー先輩。
……親睦と言っても木場くんが一緒に入れないと思うんだけれど……。
チラリと木場くんの方へ視線を向ける。
「僕のことは気にしないで?イッセーさん」
視線に気がついた木場くんは土を払いながらそう口にした。
「あら、別に一緒に入っても良いのよ?祐斗」
「ご冗談を部長。
部長が良くても皆が駄目ですよ」
苦笑いを浮かべながら木場くんは何とも言えない表情を浮かべる。
「朱乃はどうかしら?」
「私はいいですわよ?
祐斗くんは弟みたいなものですから」
うふふと姫島先輩は微笑む。
「アーシアは嫌かしら?」
「ゆ、祐斗さんが大丈夫なら……大丈夫ですっ!
日本には裸の付き合いという友情を芽生えさせる行為があるんですもんねっ!」
アーシアは顔を赤くしつつも意気込んで言う。
……誰だろうそんな間違った知識を与えたのは……。
「小猫は?どう?」
「……仕方が無いですね」
無表情で仕方がなさそうに呟く。
「最後にイッセー。
祐斗も一緒に入ったら駄目かしら?」
グレモリー先輩は最後に私の方を向いて聞いてくる。
「えっと……」
チラリと木場くんの方を向けば引き攣った笑みを浮かべながら私に向かって首を小さく横に振っているのが見えた。
……あ、木場くんは入りたくないみたい……。
「さ、流石に恥ずかしいのでパス……じゃ駄目ですかね……?」
「い、イッセーさんもそう言ってることですし、僕は男湯の方でのんびりしますね!」
私の言葉をフォローする木場くん。
その様子に何か感じるところがあったのかグレモリー先輩は仕方ないという表情を浮かべて木場くんとの混浴状態は止めにしたようだ。
「……イッセーさん、本当にありがとう」
「そんなに入りたくなかったの?」
「……ちょっと諸事情でね?」
「私も別に良かったんだけどなぁ……」
「……イッセーさんはもっと危機感を持とうね……」
「恥ずかしくない訳じゃないけどタオルを巻けば良いし。
それに木場くんは不埒な事はしないでしょ?」
「………………そうだね」