少女はその身に魅惑の果実と赤き龍帝を宿す   作:夜叉猫

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―――――私は『ヨワイ』ままではいられないから


by.一誠


〜Episode Ⅲ〜

 

 

 

―――――深く深く。

 

 

 

―――――海の底へ沈んで行くように。

 

 

 

―――――そこにはきっとある。

 

 

 

―――――『ワタシ』が『モトメル』モノが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――来れた」

 

目を開けばそこには目指していた場所。

―――――『禁忌の果実』の実る場所に立っていた。

私の傍らにはドライグが、暗い表情を浮かべて居る。

 

「……どうしてもやるのか?」

 

「……うん。

弱いままの私じゃ何にも出来ないから」

 

私がそう言えばドライグは拳を握りしめ歯がギリギリと鳴るまでに噛み締めていた。

そんなドライグの頭を爪先立ちしながら乱雑に撫でる。

 

「大丈夫。

―――――私は『私』なんだから。

誰も、それを変えることなんて出来ないよ」

 

初めてこの場所に来た時に聞かされた事を思い出しながら口にする。

曰く、あの果実にはひとつひとつにとてつもない力を宿しているのと同時に―――――()()()()()()()()宿()()()()()のだと。

 

―――――つまり、私がそれに触れ、あまつさえ口にしてしまったら。

私の人格は()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

まさにハイリスクハイリターンな話だと思う。

もし、話通りになってしまうのなら……考えるだけでも手が震えてくる。

私は自分の頬をパンッ!と叩き深く息を一つ吐き出す。

 

「行こうか、ドライグ」

 

「……あぁ。分かった……」

 

ドライグの手を握り歩み出す。

 

―――――あの場所は近くて遠い。

 

木の周りを囲うようにある湖に足を踏み出し、段々と近づいていく。

 

心臓がバクバクと破裂しそうなほど鳴っている。

 

ギュッとドライグの手を握って、私とドライグは樹木の前に立つ。

 

樹木に近づいたからだろう。

先程から私の身体が、無意識的に果実に手を伸ばそうとしている。

―――――果実から、目が離せなかった。

 

 

 

 

 

「―――――イッセー、落ち着け。

そして決して間違えるな。

お前は()()()()()()()のではなく()()()()()()()

 

私の耳に届いたのはドライグの声。

果実から、ドライグに視線を移す。

 

「……うん。ありがとうドライグ」

 

そうして、私は再び果実に目を移した。

冷静になった今だから感じる果実からの声。

どの果実からも『自分を選べ』と伝わってくる。

 

―――――しかし、その中でもひとつだけ違う果実があった。

『自分を選べ』所かまるで私から隠れるかのようにひっそりと存在する『漆黒』の果実。

 

私はその果実に手を伸ばす。

引き寄せられたわけじゃない、ただ、その果実に興味が湧いたから。

私は『私の意思』でその果実を選んだ。

 

果実に手が触れた瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――世界が、停まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何の音も無い。

此処は私の心象世界の筈なのに、全ての動きが停まっていた。

動けているのは私だけで、先程まで聞こえていた果実の声もない。

あのドライグですら停まっていた。

 

 

 

 

 

『―――――(わたくし)を選んだのね……』

 

突然静寂の世界に聞こえてきたのは優しく澄んだ女性の声。その姿は何処にも見えない。

 

「……あなたは、誰……?」

 

姿も見えない相手に私はそう問う。

 

『私は■■■■』

 

「……え?」

 

ノイズ混じりで聞き取れなかった言葉に私は顔を顰める。

 

『やっぱり聞こえないのね……。

いいわ、私のことは【ビナー】と呼んでちょうだい』

 

その名乗りとともに、漆黒の果実が輝きだした。

輝きは少しづつ形を成していって、私の前に現れる。

 

 

 

 

 

「―――――お母さん……??」

 

左右の瞳の色が違うものの、その姿は私のお母さんそのものだった。金色の左目が優しく光る。

 

『あなたは恵まれてるのね。

この姿は本来の私じゃないの。

この姿は―――――あなたの()()()()()()姿()

それがあなたの本当の母親の姿だなんて本当に恵まれているわ』

 

優しく笑うお母さん。

その姿は偽物だとは思えないほどに優しかった。

 

『うふふふふ……。あなたが気に入ったわ。

―――――力を求めているのでしょう?

良いわ、貸してあげる』

 

そう言ったお母さん……ではなく、ビナーと名乗った女性は私の頬に両手を添えておでことおでこをくっつける。

 

『だけど、今私がしてあげれるのは【きっかけ】をあげることと【少しの肩代わり】だけ』

 

「きっかけと肩代わり……?」

 

『えぇ。

あなたに宿る【赤龍帝】の力にきっかけをあげるわ』

 

ビナーが触れている部分から暖かな熱が流れ込んでくるのが分かる。

何とも不思議な感覚で、心地がよかった。

 

『【力を求める】のなら、このきっかけは大きなものとなる。

だけどこれだけは覚えておいて?

あなたはただの【人間の女の子】だった。

そんなあなたが【力を得る】にはそれ相応の―――――【対価】が必要になるわ』

 

「それは、わかってる」

 

もう覚悟はとっくに出来た。

この場所に来た時点で後戻りする気なんてないんだから。

 

『……いい顔ね。

―――――大サービス、してあげる』

 

ニコリと微笑んだビナーは私の頬から手を離し、その手に漆黒の果実を出現させる。

 

『1度だけ、あなたが本当に必要とした時にだけ、この果実を一口だけ齧りなさい?

その1度だけは、何の対価もなく私の本当の力を使わせてあげる』

 

そう言ってビナーは漆黒の果実に口づけをして私の手に果実を握らせた。

 

『後はあなたと赤龍帝くんの問題よ。

私のあげた【きっかけ】をどうするかはあなたたち次第。

それと―――――少なくとも私はあなたを乗っとるつもりは今のところないわ』

 

ビナーはそれを言い残して姿を消してしまう。それと同時に停まっていたモノは動き出し、つまり先程までの現象はビナーによるものだったのだと改めて思わせられる。

 

 

 

 

 

「どうした?イッセー―――――」

 

動きだしたドライグは私の手に握られる果実を見ると、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「……なるほど。

イッセーはあの女を宿す果実を選んだんだな……」

 

どうやらドライグはビナーのことを知っているらしく、複雑そうな心境のようだ。

私はそんなドライグに向かって口を開く。

 

「ねぇ、ドライグ―――――」

 

ビナーがくれた【きっかけ】というものが【赤龍帝】の力に関係するのなら、私の思っていることは間違えではないはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――どんな『対価』を払えば『禁手(バランス・ブレイカー)』に至れる?」

 

 

 

私とドライグは互いを見つめあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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