―――――本当の『コドク』を耐えられる『ニンゲン』なんていないんだ
by.一誠
―――――『兵藤一誠』。
男の子みたいな、だけどそれは私の名前。
親しい人たちは皆私のことを『イッセー』と呼んでいる。
幼い時は散々男の子みたいだとからかわれた名前だけど、やっぱり大切なモノだ。
お父さんとお母さんが悩みに悩んで私にくれた一番最初のプレゼントだから―――――。
歳は17、つまり高校2年生。
―――――【私立駒王学園】に通っていて、部活は何処にも正式加入はしていない。
だけど、スポーツは好きだし、運動神経もそれなりに悪くないから色んな部活動の助っ人だったりをしている。
頭はそんなに良くはないけど、悪いってわけでもない。
所謂凡人という類なんだろうけど、私は別に気にしてなんていない。
―――――ただひとつだけ、私には悩みがある。
「―――――イッセー先輩!
私と付き合ってくださいっ!」
人気の少ない体育館裏、私はそこに呼び出されて告白されていた。
―――――女の子の後輩から。
「えっと……私、女だよ?」
私は苦笑いを浮かべつつ言った。
そう、コレが私の悩み。
―――――何故か女の子にモテるのだ。
「わ、わかってます!
だけどイッセー先輩がカッコよすぎて!」
カッコイイ……か……。
私は無造作に束ねた自分の髪の毛を触りながらその言葉を聴く。
「ごめんね?
告白は嬉しいけど……やっぱり付き合えない」
「……そ、そうですよね……」
後輩の女の子―――――確かバスケットボール部にいた娘だったはず―――――は何処か吹っ切れたような表情を浮かべた。
「困らせてしまってすみません!
それと返事をしてくださってありがとうございました!
私、行きますね!」
そう言い残して後輩の女の子は走り去っていった。
うーん……やっぱり罪悪感が……。
私は頬を掻きながら後輩の女の子が走り去っていった方向を見つめる。
「おーおー。
また告白されてたのかよイッセー!」
「お前ばっかりモテて羨ましいっ!!」
「松田、元浜……見てたの?」
突然現れた2人は私を偶然見つけたといった風に声をかけてくるが、こんな場所で偶然会うなんてことはないため隠れて見ていたのだとわかる。
「……私女の子なのになんで女の子から告白されるんだろう……」
髪だってポニーテールにできるくらい長いし、今はサラシを巻いて潰してるけど胸も日本人にしては大きいくらいにはある。
身長は平均より少し高いくらいだし、顔もどちらかといえば可愛いと言われるほうだと思う。
……なのに何故か女の子に告白される。
「ケッ!
その溢れんばかりのイケメンオーラのせいだろ。胸小さいし」
「そーだそーだ!
運動神経抜群でそこいらの男より男らしいお前が憎たらしいわ!胸小さいけど」
「……よし、松田、元浜、ちょっとオハナシしようか」
れっきとした女の子に何という言い分だろうか。
しかも言うに事欠いて私の胸を小さいとのたまうとは。
私は逃げ出す2人を追いかけた。
「ちょ!?
なんで俺だけ?!」
足が松田と比べると遅い元浜を速攻で捕まえた私はヘッドロックを掛ける。
「痛い痛い痛い!!!!
あ、でも胸柔らかい……でも痛い痛い痛いっ!!!」
「私の胸はサラシを巻いてるから小さいの!」
「ず、頭蓋骨が悲鳴を、悲鳴をぉぉぉぉお!!!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ元浜を容赦なく絞め落として、何処かへ逃げた松田を探し始める。
松田にはラリアットで許してあげよう。
うん、私すごく優しい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学校が終わり、その日は部活に行く予定もなかったので久しぶりに早めに帰ろうと校門をくぐった時、1人の見知らぬ男子生徒から声をかけられた。
「―――――兵藤一誠さんですか?」
何処の学校だろうか?
少なくとも私の記憶にはない制服に身を包んだ男子生徒が私の名前を尋ねてくる。
「一目惚れしました。
俺と付き合ってください」
「……はい?」
あまりにも珍しい事態に私の思考回路が一瞬停止する。
……男の子から……告白……?
「俺、天野夕麻って言います。
前にこの辺で貴女を見て目を奪われました」
私が混乱していると男子生徒は名前を名乗ってくれた。
天野夕麻くん……。
私は咳払いをして夕麻くんに向き合う。
「まだあなたのことを何にも知らないから返事はできないけど……まずはお友達からじゃ、ダメかな?」
私がそう言うと、夕麻くんは満足気に頷いた。
その日は連絡先を交換するだけで終わり、また後日デートをしようという話になった。
そんなこんなでデート当日。
私自身、あまりフリフリした女の子らしい服を持っていなかったというのもあり、その日はいつも通りの服装で夕麻くんを待っていた。
ボーイフレンドデニムとワイシャツを使ったコーディネートだが、悪くはないと私的には思う。
待ち合わせ場所に付くまでに何処か怪しげなチラシを手渡されたが、私はこういうものを捨てられない質なのでポケットに折りたたんで入れていた。
「早いね……一誠ちゃん」
「夕麻くんを待たせるわけにはいかないからね」
男の子とのデートの経験はないが、知識くらいなら本などから吸収できる。
私は吸収した知識を此処で発揮するべきだと思った。
「じゃぁ行こっか?夕麻くん。
一応プランは決めて来たから」
「え?……え??」
面食らったような表情の夕麻くん。
私はそんな彼の手を握って歩き始めた。
その後のデートの流れはありがちなもので、ウインドウショッピングを交えながらの買い物だったり、近くに出来た新しいゲームセンターに行ったり、お昼に丁度いいカフェを見つけて入ってみたりというものだった。
ただ、途中から夕麻くんが何としてでもお金を払おうとしていたけど……別に気にしなくていいのになぁ……。
どうせ欲しいものもないから貯まったお金を使う機会だし。
そうやって遊んでいればいつの間にか辺りは夕陽で赤く染まっており、デートの終わりも近くなっていた。
最後に私と夕麻くんは夕暮れの公園に足を運んでいた。
「今日は楽しかったね」
「……俺は男として情けなかったかな……」
顔に手を当てて何処か落ち込んだ雰囲気の夕麻くん。
「え?なんで??」
「一誠ちゃんの行動がどう考えても俺より男らしかったからだよ?!」
つい立ち上がってしまったと言わんばかりの夕麻くんに私は苦笑いを見せる。
「あ〜……ごめんね?
いつも通り行動してたらこうなっちゃって……」
「え?まさか食事代とかも……」
「うん。
私がいる時は基本的に私が全部払ってるよ?
皆と楽しい時間を過ごさせてもらってるんだから当然だよ」
私がそう言うと夕麻くんはため息を吐きながら再び腰を下ろしてしまう。
「何この娘すっごくイケメンなんだけど……」
呟くようにそう言う夕麻くん。
これくらい当たり前だと思うんだけど……。
「……ねぇ、一誠ちゃん」
「何?夕麻くん」
ワントーンほど低くなった声で私の名前を呼ぶ。
そして、私が隣を向いた時には―――――夕麻くんの姿はなかった。
「……動かないで」
その代わり、私の背後で夕麻くんの声が聞こえた。
背中に何か鋭いものを突きつけられている感覚を感じる。
「……君も運が悪い。
その身に【
夕麻くんは苦しそうによくわからないことを言う。
【神器】とは一体何なのだろう?
「危険分子となる、可能性がある、君は……処分、させて……もらう……」
その声はとても辛そうで、まるで壊れる寸前のヒトのようだ。
私は動くなと言われたけど、振り返った。
「ッ?!
う、動くなって言った―――――」
「―――――綺麗……」
「……え……?」
私の前にいたのは美しい一対の黒翼を背から生やした存在。
何処かで読んだ本の中にいた存在に似ている……確かその名前は―――――『堕天使』。
夕麻くんの構えていた光り輝く槍がその形を揺らがせる。
見開かれた双眸は私を見つめていた。
「……き、綺麗……?
俺の汚れたこの翼が……綺麗……?
地に堕とされたこの翼を……君は綺麗って……言うのか……?」
動揺、そして驚愕の表情を浮かべる夕麻くん。
「『天使』だった頃のあの白い翼がこんなにも汚れてしまったのに……君はそれでも……綺麗だと……?」
すがりつき、問いかけるような弱々しい夕麻くんの声に私は答える。
「……うん。
紫黒色の宝石みたい……。
私は……白い翼より……好きだよ……?」
「……ッ!!」
その言葉を聞いた夕麻くんは手に持っていた光り輝く槍を霧散させて顔を覆った。
「……なんで、なんでそんなことを……言うんだ……。
殺すって……決めてたのに……揺らいじゃうじゃないか……ッ!」
泣き出してしまいそうな夕麻くんの叫び。
私は立ち上がって、震える夕麻くんの身体を優しく抱きしめる。
「……私を殺しに来たの?」
「……そうだ」
短く吐き出すように言う夕麻くん。
「君には【神器】の反応があったから……暴走されるよりも先に殺してしまえという命令だった……」
「……その【神器】って何なの?」
聞きなれない言葉に疑問を持った私は夕麻くんに尋ねる。
「……神様が創った不完全な代物……かな……」
「……よくわからないけど、私にはそれがあるの……?」
私はあんまり頭が良くないから詳しくはわからないけど、危険なナニカが私の中にはあるらしいというのだけはわかった。
「……そういうこと……」
「……そっか……」
そんなものがあるだなんて知らなかった。
それに何より、夕麻くんのような存在がいるのですら知らなかった。
私は自分の知っている世界はあまりにも狭かったのだと、そう認識する。
「―――――ッッ!!!」
―――――刹那、私の身を嫌な予感が襲う。
無意識のうちに、抱きしめていた夕麻くんの身体を全力で押し退けた。
―――――ザクッッ!!!!!
「い、いきなり何―――――えっ……??」
私に押しのけられて尻餅をついてしまった夕麻くんが批難の声をあげようとして、目を見開く。
「……ッッ?!」
腹部に激痛が走る。
視界に入ったのは夕麻くんの光り輝く槍をどす黒くしたような汚い槍。
そして―――――貫かれた私のお腹。
槍を抜こうとしたけど、ふっと槍は消えてしまう。
残ったのはポッカリ空いた、私のお腹。
「……ぁ……ぇ……??」
吹き出す赤い、紅い、朱い―――――血。
それを自覚した時には私の視界がボヤけ始める。
気がつけば私は地面に倒れ込んでいた。
「ドー■シ■■!!!
■前、■ん■■と■……ッ!!!」
「■ん……お■が■■もた■ている■■だろ■?」
夕麻くんと誰かが言い合う声が掠れつつも聞こえて来る。
(……あぁ……痛い……なぁ……)
命が自分の器から零れていく感覚がする。
いつの間にか夕麻くんと誰かの言い合う声もなくなり、私は一人になっていた。
(……1人は……嫌だなぁ……)
私の目からとめどなく涙が溢れてくる。
誰も知らないところで、1人逝くなんて……そんなの嫌だ。
―――――涙が止まらなかった。
―――――『泣くな、俺のイッセー』
懐かしい、 安心する声が聞こえる。
―――――『お前は死なせない。絶対に』
あなたはだれ……?
わたしはあなたをしらな……い?
―――――『今は安心して眠れ』
―――――『次に起きた時には全て終わっている』
―――――『だから、泣かないでくれ』
……わかったよ……。
あなたのこえをきいたら……ねむたくなってきちゃった……。
―――――『あぁ……ゆっくり眠れ』
うん……。
おやすみ―――――わたしのどらごんさん……。
―――――私の意識は暗闇に沈んだ。
Side Out
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
Side 三人称
一誠が倒れ、血の海に沈んだ公園に、ひとつの魔法陣が展開される。
光を発しながら魔法陣が消えた後、その場に居たのは紅髪の少女だった。
「―――――あなたね、私を呼んだのは」
紅髪の少女は目の前に倒れる一誠の姿を見て目を見開いた。
まさに死に体の一誠が自分を呼んだということに驚いているようだ。
―――――『紅髪の悪魔の娘よ』
「……ッ?!!」
突然響く威厳のある声に、紅髪の少女は身を固くし、構える。
―――――『そう固くなるな』
「……あなたは誰……?
一体何処いるというの……?」
警戒の色が消えない紅髪の少女。
―――――『目の前の少女の中だ』
―――――『俺は【神器】に封じられた龍なのさ』
「なっ……?!」
まさに―――――驚愕。
目の前の死に体の少女が【神器】を持ち、更には所有者の意志がないにも関わらず、声を届けるレベルの意思を持った龍が宿っているということに。
―――――『早速だが取引だ紅髪の悪魔の娘』
―――――『このままではイッセーが死んでしまう』
―――――『お前の持つ【
紅髪の少女は一瞬考えるような素振りを見せたが、クスクスと興味ありげに笑った。
「いいわ。
面白そうだし、何より興味が出てきたわ。
対価は―――――」
―――――『対価は俺が宿るイッセーが眷属になることだ』
―――――『それでは不満か?』
何処か威嚇も混じったような言葉に紅髪の少女は更に笑う。
「いいえ。それでいいわ」
―――――『……感謝する』
そうして、紅髪の少女と自らを龍と名乗る者の会話は終わったのだった―――――。