少女はその身に魅惑の果実と赤き龍帝を宿す   作:夜叉猫

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―――――その時が来るまでは……俺が……


by.ドライグ


〜Episode Six〜

 

 

 

「2度と教会に近づいてはダメよ」

 

アーシアと出会った日の夜。

私はグレモリー先輩に強く念を押されていた。その表情はいつになく険しい。

……というか正座で怒られています。

 

「教会は私たち悪魔にとって敵地。

踏み込めばそれだけで神側と悪魔側の間で問題になるわ。

今回はあちらもシスターを送ってあげたあなたの優しさに免じて何もしてこなかったみたいだけれど、天使たちは何時でも監視してるわ。

いつ、光の槍が降ってくるかも分からなかったのよ?」

 

「す、すみません……」

 

私は正座の姿勢のまま肩をすくめる。

正直行動が軽率だったのは否めない。

 

「そう責めてやるなグレモリーの娘」

 

言って、ドライグが私の頭を優しく撫でる。

 

「そうは言っても―――――」

 

()()()()()()()俺がイッセーをあんな所に行かせるものか」

 

グレモリー先輩の言葉に被せるように真面目な声音で言うドライグ。

 

「……どういう事かしら?」

 

ドライグの言葉に訝しげな表情を浮かべるグレモリー先輩。

『本当に危険なら』……??

一体どういう意味なのだろう……?

 

「……その程度にも気づけないか……。

まだ日の浅いイッセーならともかく、この町を領地とする悪魔が気づけないのでは話にならん……」

 

「な、なんですって?!!」

 

嘆息を吐くドライグと怒りを顕にするグレモリー先輩。

私はそんな2人を何とかしたいがあわあわと慌てることしか出来ない。

―――――足が痺れてしまったから。

 

 

 

 

 

「―――――お話は済みました?」

 

そんな時、突然姫島先輩の声が通る。何時ものニコニコ顔でその場に立っていた。

 

「……朱乃、どうかしたの?」

 

グレモリー先輩の問いに姫島先輩は少しだけ表情を曇らせて口を開く。

 

 

 

「『討伐』の依頼が『大公』から届きました」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

―――――『はぐれ悪魔』。

 

この世界にはそう呼ばれる存在がいるらしい。

眷属である悪魔が主を裏切り、または殺し、主無しとなる事件が極希に起こるのだとドライグに聞いた。

 

『はぐれ悪魔』―――――つまりは野良犬のようなモノ。

凶暴な野良犬は放っておけば『害』を出してしまう。

見つけしだい主人、もしくは他の悪魔が消滅させなければならない。それがルールであり絶対。

『はぐれ』と呼ばれるモノは他の存在でも危険視されていて、天使側、堕天使側も見つけしだい殺すようにしているようだ。

 

 

 

「……血の臭い」

 

町外れの廃屋近く、塔城さんはボソリと呟いて制服の袖で鼻を覆った。

私にはそんな臭いは感じないけれど、つまり塔城さんの嗅覚が凄いのだろう。

周囲はシーンと静まり返り、辺りは背の高い雑草が生い茂り暗い雰囲気を醸し出している。

―――――そして感じる『敵意』と『殺気』。

悪魔になってから、いや、あの時堕天使に殺されてから、私はこういった私に害を及ぼす可能性のあるモノに敏感になった。

 

ぶるり、と身体が震える。

『恐怖』……?―――――違う。

この感覚は……一体……??

 

「……落ち着けイッセー」

 

そんなことを考えているとドライグが私を抱き寄せて耳元で囁く。

 

「ひぅ……っ?!

ど、どらいぐ……っ!いきなり変なことしないで……!」

 

私からの非難を受けたドライグはしかし何処か嬉しそうだった。

 

「落ち着いただろう?

……あまり気を張るな。

今は俺がついているから大丈夫だ。

何人たりともお前を傷つけさせはしないさ」

 

「……ありがとう」

 

私はぷいっとそっぽを向いてお礼を述べる。

……全く、恥ずかしいことを何ともなしに言うんだから……。

頬が熱くなるのを感じた。

 

「イッセー、いい機会だから悪魔としての戦いを学びなさい」

 

私とドライグの会話が終わるのを待っていたのか、グレモリー先輩が言う。

 

「悪魔としての戦いですか?」

 

「えぇ。今回は眷属に与えられた『駒の特性』について教えてあげるわ」

 

「『駒の特性』……たしか『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』でしたよね?」

 

私が悪魔に転生する時に使われた物の名前を口にする。

 

「そうよ。

『悪魔の駒』はボードゲームである『チェス』の特性を取り入れたの。

主となる悪魔が『(キング)』。

そしてそこから『女王(クイーン)』、『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士(ポーン)』と5つの特性を作り出したわ」

 

「確か悪魔同士で戦うゲーム……たしか『レーティングゲーム』っていうものがありましたよね?」

 

「その通りよイッセー。

でも、私はまだ成熟した悪魔ではないから公式な大会にはまだ出場できないの」

 

簡単な説明を聞いて、私は一体どの駒なのかが気になりグレモリー先輩に問う。

 

「グレモリー先輩、私の駒は一体何なんですか?」

 

「そうね、イッセーは―――――」

 

そこまで言って、グレモリー先輩は言葉を止めた。

その理由なら私にでも分かる。

先程よりも濃密な敵意や殺意……。

間違いなく『ナニカ』がこちらに近づいてきている。

 

―――――ぞくぞくぞくっ。

 

今度はさらに強い、『恐怖』とはまた違った感覚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――不味そうな臭いがするぞ?でも美味そうな臭いもするぞ?

甘いのかな?苦いのかな?」

 

気色の悪い声が廃屋に響く。

 

「はぐれ悪魔バイザー。

あなたを消滅しに来たわ」

 

グレモリー先輩がただ淡々と述べる。

 

―――――ケタケタケタケタケタケタケタケタケタ……。

 

返ってきたのは異様な笑い声。

そして、暗闇からその声の主が姿を現しした。

上半身は女性の裸体。しかし、下半身は巨大なケモノの物で、形容し難い醜い姿がそこにはあった。

両の手には槍らしき得物を1本ずつ握りしめており、赤黒い―――――血のようなものがベットリと付着している。

 

「はぐれ悪魔バイザー。

主のもとを逃げ、己の欲望を満たす為だけに暴れ回るのは万死に値するわ。

グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

「小賢しいぃぃぃぃ!小娘の分際でぇぇぇ!!

その紅の髪のように、お前の身体を鮮血で染め上げてやるわぁぁぁぁ!!!」

 

吠えるバケモノだが、グレモリー先輩は鼻で笑うだけだ。

 

「雑魚ほど洒落の効いたセリフを吐くものね……―――――祐斗」

 

「はい!」

 

近くにいた木場くんがグレモリー先輩の命を受けて飛び出す。

木場くんは『速い』。とてつもなく速かった。

 

「イッセー、きっきの続きよ」

 

「『悪魔の駒』の特性ですか?」

 

私が首をかしげてみると、グレモリー先輩は頷く。

 

「祐斗の役割は『騎士(ナイト)』。

その特性は『スピード』。つまり速度が大幅に上がるのよ」

 

グレモリー先輩の言う通り、木場くんの動きは徐々に速度を増していき、ついには私の目では追えなくなってしまった。

 

「そして、祐斗の最大の武器は剣」

 

1度足を止めた木場くんはいつの間にか手に西洋剣らしきものを握っていた。

それを鞘から抜き放つと同時に、抜き身となった長剣が銀光を放ちながら振るわれる。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!?」

 

見ればバケモノの両腕が胴体から斬り離されていた。

 

「これが祐斗の力。

あの子は磨きつづけてきた剣の腕前と持ち前のスピードを活かすことで私の自慢の『騎士(ナイト)』になったの」

 

悲鳴をあげるバケモノの足元には小柄な人影。それはよく見れば塔城さんだった。

 

「次は小猫ね。

あの子は『戦車(ルーク)』。

その特性は―――――」

 

「小虫めぇぇぇぇぇえええっっ!!!」

 

バケモノの巨大な足が塔城さんを踏みつぶす。

だけれど、塔城さんは潰されることなく、その足を受け止めていた。

 

「『戦車(ルーク)』の特性はとてもシンプル。

馬鹿げた力、そして屈強なまでの防御力」

 

塔城さんは受け止めていたバケモノの足を軽く払い除けると、跳躍し、バケモノの腹部に拳を鋭くねじ込んだ。

 

「……吹っ飛べ」

 

「かは…………っ!!?」

 

小柄な塔城さんのパンチにも関わらず、巨大な身体のバケモノは後方へと大きく吹き飛ばされる。

 

「最後は朱乃ね」

 

「はい、部長。

……あらあら、どうしようかしら?」

 

姫島先輩はうふふと笑いながら、塔城さんの一撃で倒れ込んでいるバケモノのもとへと近づいていく。

 

「朱乃は『女王(クイーン)』。

私の次に強い者よ。

兵士(ポーン)』、『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、すべての力を兼ね備えているわ」

 

「ぐぅぅぅ……」

 

姫島先輩を睨みつけるバケモノ。

姫島先輩はそれを見て、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「あらあら!まだ元気みたいですわね?

……それなら、これは、どうでしょうか?」

 

姫島先輩が天に向かって手をかざす。

その刹那、天空が光り輝き、バケモノに雷が落ちる。

 

「ガガガガガッガガガッガガガガガガッ!?」

 

感電してしまったバケモノは煙を上げて全身を丸焦げにされていた。

 

「あらあらあら。まだ元気そうね?

まだまだいけそうですわねぇ……」

 

そういって、姫島先輩は再び雷をバケモノに放つ。

 

「ギャァァァァァァアアアッ!!?」

 

既に断末魔となりつつあるバケモノの声。

それにもかかわらず、姫島先輩は何のためらいもなく次の雷を放った。

 

「グァァァァァァァア!!??」

 

雷を放つ姫島先輩先輩の表情は恍惚の色を浮かべていた。

……た、楽しんでる……??

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。

そしてなによりも彼女は『究極のS』よ」

 

「え、Sって……そんな生易しいものですか……??」

 

引き攣り気味の顔を隠すわけもなく言う。

 

「普段はあんなに優しいけれど、一旦戦闘になってスイッチが入ったら、相手が敗北を認めても自分が満足するまでけっして手を止めないの」

 

「……ドライグ……今日で一番怖いのは姫島先輩かもしれないよぅ……」

 

「敵よりも味方を怖がるとは……いや、仕方がない……のか?」

 

ドライグも微妙な表情を浮かべていたものの、私の頭を優しく撫でてくれた。

姫島先輩が一息ついた頃、グレモリー先輩がそれを確認して頷く。

 

「最後に言い残すことはあるかしら?」

 

「……殺せ」

 

「……そう、なら消し飛びなさい」

 

冷徹な一言。

グレモリー先輩はそれだけいうと手のひらから黒に近い紅色の魔力を放出させる。

それは巨大な身体を持つバケモノをいとも簡単に飲み込み、その姿を跡形もなく消し去ってしまった。

 

「終わりね。

みんな、ご苦労さま」

 

こうして、『はぐれ悪魔』討伐も終了。

みんなも、いつもの陽気な雰囲気を生んでいた。

 

「グレモリー先輩。

さっきは聞きそびれてしまったんですけど、私の駒は……役割はどんなものなんですか?」

 

先程は『はぐれ悪魔』の登場で最後まで聞けなかったが、終わった今ならしっかりと聞ける。私はグレモリー先輩を見つめて問う。

 

「―――――『兵士(ポーン)』。

イッセーは『兵士(ポーン)』なの」

 

「『兵士(ポーン)』……ですか?」

 

「えぇ。

でもガッカリしないで頂戴ね?

なにせ―――――あなたは私の持っていた『兵士(ポーン)』の駒を全て注ぎ込んで、さらに『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』であるドライグの手助けがあってやっと、本当にギリギリ転生することが出来たのだから」

 

グレモリー先輩は困り顔で言った。

私はそれがどういう事なのかが分からずに首を傾げる。

 

「簡単に言えばあなたの潜在能力はこの場にいる誰よりも凄いわ。

もしかしたら、誰よりも強い最強の『兵士(ポーン)』になることも夢ではないわよ?」

 

「最強の……『兵士(ポーン)』……」

 

私はその言葉を呟く。

私なんかがそんなものになれるのだろうか?

心配で表情を曇らせていると、ドライグが私の頭をぽんぽんと撫でてくれる。

 

「心配するな。

イッセーの強さは他でも無いこの俺が保証してやる。

やるならとことん上を目指すのがイッセーだろう?」

 

ドライグに向けられた優しい微笑みの中に、私を鼓舞してくれる力強さを感じた。

私はそんなドライグに満面の笑みを返す。

 

「うん!

頑張ろうね、ドライグ!!」

 

「あぁ、それでこそイッセーだ!」

 

 

 

―――――目指す場所は遠い。

だけれど、ドライグとなら、ドラゴンさんとなら何処までも行ける気がした。

 

 

 

「―――――何時か必ず、最強の『兵士(ポーン)』に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――『ウズキ』ハトマラナイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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