少女はその身に魅惑の果実と赤き龍帝を宿す   作:夜叉猫

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―――――『サイカイ』は突然で、意外で、考えられないものかもしれない


by.一誠


〜Episode Seven〜

 

 

 

『はぐれ悪魔』討伐から次の日。

私はいつも通り悪魔の仕事の一環として依頼者の居る一軒の家に訪れていた。

普通なら魔法陣を使って依頼者のもとに転送されるはずなんだけれど、私は魔力が極端に少ないため走って行くしかない。

魔力総量は赤子程度しかないらしく、その事実を知った時は流石に絶望しかけた。

……つまり私には肉弾戦しか残っていないと?

 

軽く絶望感を味わいつつ、依頼者の家のインターホンを押そうと腕を伸ばすのだが、そこでひとつ奇妙な事に気が付いた。

 

―――――玄関口が開いている。

 

『イッセー、気をつけておけ。

……嫌な気配だ』

 

ドライグも感じたのか、私に注意を促してくる。

 

「……うん。わかったよ」

 

『……何かあれば俺が出る』

 

「やっぱりドライグは心強いね」

 

こんなにも心強い味方がいるのなら少しは安心できる。

私は玄関から中を軽く覗いてみる。廊下に灯りはついておらず、二階へと続く階段も同様だ。

唯一、一階奥の部屋にだけは淡い光が灯っていた。

―――――人の気配がない。

私は出来るだけ足音を殺しながらゆっくりと奥の部屋へと向かう。

少しだけ開かれたドアから中へと視線を向けた。

……淡い光の正体は蝋燭。ゆらゆらと炎を揺らしていた。

私はドアを開いて中へと足を踏み入れる。

見たところ普通のリビング。

ソファーやテーブル、テレビなどのなんの変哲もない家具が揃っていた。

何処にでもあるリビングの風景―――――。

 

 

 

「ひっ……?!」

 

私はそこで息をつまらせた。視線がそこに釘付けになる。

―――――壁に、死体が、貼り付けられていた。

切り刻まれた体、臓物らしきものが裂かれた傷口からこぼれて……。

 

 

 

 

 

「お、おえぇ……っ」

 

私はその場でお腹からこみ上げてくるものを吐いてしまう。

人間の無残な姿に、反応してしまった。

 

「だ、大丈夫か?!イッセー!」

 

ドライグは私の様子に慌てた表情で現れる。

 

「だ、大丈夫……。

もう、大丈夫だから……」

 

私は口元を拭ってドライグに何とか笑顔を見せる。

本当に、見るに耐えない男性の遺体。

逆十字に壁に貼り付けられ、固定しているのは太くて大きな釘。

普通の思考回路を持つ者ならこんな殺し方はできないと思う。

臓物らしきものの方を見ないようにもう1度遺体の方を見る。

よく見れば壁に文字らしきものが血で書かれている。

 

「な、なに……これ……?」

 

文字として成り立っていないのか、それとも悪魔としての翻訳が及ばないものなのか、私にはそれを読み取ることは出来なかった。

 

 

 

「―――――『悪いことする人はおしおきよ!』って、聖なるお方の言葉を借りたものさ!」

 

突然、私の後方から若い男の声がする。

振り向くと、神父服のようなものに身を包んだ白髪の少年がいた。

目に付いたのは―――――とても、綺麗な白髪。

一瞬、考えるような素振りを見せた白髪の少年だったが、気のせいだと言わんばかりに頭を振って、嬉しそうに笑う。

 

「ん〜♪

これはこれは悪魔ちゃんではあーりませんかー」

 

私を見つめる目は笑っていない。

ドライグが私を護るように1歩前に出てくれる。

 

「んん〜??

アンタからは悪魔の臭いはしないなぁ……。

でも、『強者』の臭いはするねぇ……」

 

「ふん。

貴様からは『狂者』の臭いがするぞ?」

 

白髪の少年とドライグは睨み合いながらお互いを威嚇するように言葉を交わす。

 

「『狂者』??

褒め言葉でございマース!

俺の名前は―――――フリード・セルゼン。

片手間に悪魔祓い(エクソシスト)やっとりますですよ〜」

 

ニヤニヤとした笑みを浮かべながら優雅に礼をする白髪の少年。

……ちょっと待って?フリード・セルゼン??

私はその名前に引っ掛かりを覚える。

 

「ん?どうかしたか、イッセー?」

 

私の様子に気がついたのか、ドライグが声をかけてくる。

 

「ちょ、ちょっとね?」

 

「おーおー??

何かな?何かな?

悪魔ちゃんからのサプライズプレゼント??

俺、キミの命がいーなーなんつって?」

 

そう言って無邪気に笑う白髪の少年―――――フリードにある姿が重なる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――……ふーくん……?」

 

私の記憶の中の、白髪の少年に何故か彼が重なったのだ。

その名前を呼んだ途端、フリードは憤怒の表情を浮かべた。

 

「あ、悪魔がその呼び方をしてんじゃねぇぇぇぇぇぇえっ!!!!」

 

懐から刀身が光の剣を取り出したフリードは私に向かって切りかかってくる。

しかし、それは左腕に赤い籠手を出現させたドライグによって阻まれた。

 

「どきやがれこの糞野郎ッ!!!

俺はそこのクソアマをぶった斬るんだよ……ッ!!」

 

「させるわけがないだろう?」

 

涼しい顔で剣を受け止めるドライグは剣を受け止めていない右腕でフリードの腹部をボディーブロー気味にパンチを放つ。

 

「かふ……っ?!」

 

後方に吹き飛ばされるフリードだったが、体制を整えて着地するも、ダメージがあったらしく肩膝を着く。

 

「……俺を……その名で呼んでいいのは……いーちゃん、だけだァ……ッ!!!」

 

ギラギラと瞳を光らせながら、フリードは言う―――――『いーちゃん』と。

それは私がふーくんに呼ばれていたニックネーム。

 

「わ、私だよふーくんっ!イッセーだよ!!」

 

彼は、フリードは『ふーくん』なんだと確信を得た。

私がイッセーだと名乗れば、ギラギラとした瞳でこちらを睨んでいたふーくんが目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。

 

「……いー……ちゃん……??」

 

「そう!そうだよ!!」

 

私はふーくんの傍に駆け寄る。

ドライグは慌てた表情を浮かべたが、ふーくんから敵意が無くなったのを感じたのか私を止める事はしなかった。

 

「久し振りだね……ふーくん」

 

ふーくんの視線に合わせてしゃがむと柔らかく微笑みながら言う。

すると、突然ふーくんが私の事を抱きしめた。

 

「いーちゃん……いーちゃんだ……。

やっと、やっと会えた……」

 

小さく震える体。

先程までのフリード・セルゼンとしての面影は消え去って、幼い頃に出会ったふーくんのような雰囲気を出している。

私はその体を優しく抱きしめ返した。

 

 

 

 

 

―――――閑話休題。

 

 

 

 

 

「落ち着いた?ふーくん」

 

「大丈夫だよいーちゃん。

これでも俺っち元・最強の悪魔祓いだから!」

 

にししと笑うふーくんは柔らかな表情を浮かべていた。

 

「ところで……」

 

ふーくんはドライグの方を見つめると無表情に言い放つ。

 

「―――――このオッサン誰??」

 

「……俺に喧嘩を売っているなら買うぞ?小僧?」

 

ドライグは笑いながら額に血管を浮かべていた。

どうやらオッサン呼びが駄目だったみたいだ。

 

「お、落ち着いてドライグっ!」

 

今にもふーくんを攻撃しそうなドライグの前に立ちふさがるようにしてふーくんを守る。

 

「……大丈夫だイッセー。

別に気にしてなどいないさ……」

 

深呼吸をしながら言うドライグはどう見ても落ち着こうとしているようにしか見えない。

 

「あのね?ふーくん。

この人は私が宿している神器の中に封印されているドラゴンさんでね?

名前はドライグ。

私の―――――大切な人、かな?」

 

「へぇ……」

 

ふーくんはドライグを品定めするようにジロジロと見る。

ドライグは腕を組んでその視線をなんともないように無視していた。

……この2人は仲良くなれそうにないなぁ……。

私はついつい苦笑を浮かべてしまう。

 

「何はともあれ……いーちゃん可愛くなったねぇ〜!」

 

「ふぁっ?!!

ど、どーしたのふーくん!?」

 

突然ふーくんが私を背後から抱きしめてくる。

 

「なっ!?この……何をしている小僧っ!」

 

「何って……いーちゃん抱きしめてんの。

ん〜♪いーちゃんいい匂いするねぇ……」

 

「ふ、ふーくんっ!

くすぐったいからやめてぇ〜……」

 

耳元で話すふーくんの吐息がくすぐったくて、私は身じろぎしてしまう。

 

「止めんか小僧ッ!!

イッセーが嫌がっているだろうが!」

 

「おっと……危ないなぁ……」

 

ドライグがふーくんを私から引き離そうとするが、それを躱して逃げるふーくん。

 

「ごめんね〜いーちゃん。

久しぶりに会えてテンション上がっちゃってさ〜。

こんなにも可愛くなってるとは思わなかったしね」

 

無邪気に笑うふーくんは何処か憑き物が落ちたようだった。

ドライグはため息を吐き出すと、私を抱き寄せる。

 

「……ひとつ言っておくが……俺はまだ貴様を安全な奴だとは思っていない。

……そこの死体、貴様がやったんだろう?

並の神経を持っている人間ならやれるものじゃない」

 

「…………」

 

ドライグも、ふーくんも無表情で視線を合わせていた。

……確かに、今まで見て見ぬふりをしていたけれど、その問題がある。

私はふーくんを見つめた。

―――――何かの間違いであって欲しいと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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