少女はその身に魅惑の果実と赤き龍帝を宿す   作:夜叉猫

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―――――『ヒトリ』より『イッショ』に行こう


by.一誠


〜Episode Eight〜

 

 

 

その場にいる私、ドライグ、ふーくんは一言も喋らない、沈黙の一時を過ごす。

ほんの短い時間だったのだろうけど、緊張していたからだろうか?体感では何時間も経ったような、そんな疲労感を味わっていた。

 

 

 

「……そいつは―――――」

 

不意に、ふーくんが口を開く。

 

「そいつは俺が殺した」

 

無表情……いや、それすら通り越して能面のような顔を、ふーくんは浮かべていた。

それは先程まで無邪気に笑うふーくんとは全くの別人のように思えて―――――怖くなった。

 

「磔にしたのも、ボロボロにしたのも、腹を斬り裂いたのも……俺だ」

 

「……理由を、教えて……??」

 

私は吃りながらも、ふーくんに向かって言う。

やったのはふーくんでも、何か理由があるのではないか?

縋るような気持ちだった―――――。

 

 

 

 

 

「……半分私情、半分仕事……かな?」

 

そういうふーくんの顔は昔の、哀しみを背負ったものになっていた。

ふーくんの言葉を聞いたドライグの私を抱き寄せる腕の力が強くなる。

 

「お前は『仕事』というだけで一般人を殺すのか?」

 

険しい表情を浮かべながらドライグはふーくんに訊く。

 

「……そいつは『一般人』じゃねぇよ。

―――――ただの狂った『殺人鬼』だ」

 

反吐が出る、ふーくんはそう吐き出すように言った。

 

「それってどういう……??」

 

「……最近、ここいらで若い女の神隠し事件があってるのは知ってる?いーちゃん」

 

「えっと……最近そんな噂があるのは聞いたけど……本当の事だったの……??」

 

学校で聞いた作り話だろうと思っていた噂話。

ふーくんは私の言葉に首を縦に振って肯定する。

 

「―――――その犯人さ、そいつはね……」

 

私とドライグはその話に目を見開く。

ふーくんの顔は至極真面目で、嘘をついているようには見えない。嘘をついているような気配も、私は感じない。

 

「しかも、タチの悪いことに、そいつは犯行に神器(セイクリッド・ギア)を使っていやがった……。

終いには『悪魔への生贄に若い女を捧げる』なんつぅ意味のわからねぇ動機だ……」

 

ふーくんは拳を握りしめて壁を殴りつける。

 

「―――――俺は『仕事』で『一般人』は殺さねぇ……。

俺が殺すのは狂った野郎か悪魔に魅せられた糞野郎、そんで―――――『悪魔』だけだ……ッ!!」

 

―――――ギリリッ!

歯が砕けんばかりに歯軋りをするふーくん。

その瞳は憎悪に染められていた。

……おそらく、その憎悪の対象は―――――『悪魔』。

……胸が、じくりと痛む。

 

「……ふーくんは、悪魔が、嫌いなの……?」

 

私がそう聞くと、ふーくんは一瞬きょとんとした表情を浮かべて、笑った。

 

「『悪魔』は大嫌い。

でも―――――いーちゃんは大好きだよ?」

 

その言葉に私は笑顔を返せなかった。

『悪魔』は大嫌い。

―――――私はその『悪魔』になってしまったから。

私はドライグの服の袖をギュッと握った。

 

 

 

 

 

「―――――さーて……俺っちはそろそろ帰らせてもらうかねぇ〜。

そーそーいーちゃん!

ちょっくらシスターちゃんを匿ってあげてちょ。

俺には純粋過ぎて扱えんですたい!

―――――んじゃ、ばいちゃ♪」

 

「ちょ、ちょっと待っ―――――」

 

まくし立てるようにふーくんは言いたいことだけ言うと、懐から球体を取り出して地面に叩きつけた。

その球体は煙玉だったらしく、辺り一面を白い煙で覆ってしまう。

 

「ふーくん……っ!!」

 

白い煙でむせながら、私はふーくんを呼ぶ。呼び止めることなんて出来ないと分かっていても、呼ばずにはいれなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――またね……いーちゃん」

 

ふわりと、気配はなく、ふーくんの声だけが私の隣を駆け抜けていった。

煙がなくなり、視界を取り戻した私は、辺りを見回す。

やはり、ふーくんの姿は何処にもなかった。

その代わりに―――――

 

 

 

 

 

「―――――イッセーさん……??」

 

つい最近知り合ったシスターさん―――――アーシアがふーくんがいた所に立っていた。

一瞬、思考が止まっていたが、その姿、声を聞いた途端に、『マズイ』と感じる。

この場にはふーくんが殺してしまった男性の死体が……っ!

アーシアが死体があった方を向いてしまう。

なんとかそれを防ごうとしたけれど、遅かった……。

アーシアの視線は既にそちらに向けられていたから。

 

「…………?」

 

しかし、アーシアは何でもないかのように首を傾げていた。

 

「どうかしたんですか?イッセーさん」

 

「ど、どうかって……アーシアは平気なの……?」

 

まさか、死体を見慣れているとでも言うのだろうか?こんなにも純粋で優しい娘が。

 

「えっと……」

 

困ったような表情を浮かべてアーシアはニコリと微笑んだ。

 

「―――――イッセー1度見てみろ。

そこには何がある……??」

 

意味深なドライグの言葉に私はアーシアが見ているであろう場所を見てみる。

そこには逆十字に貼り付けられている死体が―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、何も……ない……??」

 

綺麗さっぱり、そこには、何も、無かった。

男性の遺体も、こぼれ落ちていた臓物も、飛び散っていた血痕すらも。

 

「……おそらく神器(セイクリッド・ギア)だろう」

 

「ふーくんが……?」

 

「そうだろうな。

それ以外考えられまい」

 

私とドライグの話にハテナマークを頭に浮かべるアーシア。

何にせよ、あんな悲惨なモノをアーシアが目にすることがなくて良かった。

 

「ひとまずは此処から移動だ。

イッセー、その娘を連れて部室に戻ろう」

 

ドライグはアーシアを指さして言う。

 

「そ、そうだね。

アーシア、私たちと一緒に行こう?」

 

突然の事で頭は混乱しているだろうけれど、ふーくんから頼まれたのだからやり遂げたい。

 

「は、はい……。

フリード神父から話はうかがってます」

 

アーシアは悲しそうに言う。

ふーくんから何を言われたのだろうか?

そして、しばらくの静寂の後、胸の前で手を合わせて祈るようにし、苦しそうに口を開いた。

 

 

 

 

「―――――堕天使の皆さんは私の神器(セイクリッド・ギア)を狙っているのだと……」

 

「……なるほど、そういう事だったか……」

 

ドライグは眉間にシワを寄せて腕を組む。

神器(セイクリッド・ギア)を狙っている。

つまりはアーシアから神器を抜き取ろうとしていたということだろう。

ドライグに聞いた話によれば、神器を抜き取られた者は―――――死んでしまう。

 

「……酷い……」

 

無意識のうちに言葉を漏らしてしまう私。

 

「本当はフリード神父も一緒に来てくださるはずだったんですけど……此処に堕天使の皆さんが向かって来ているからと言って……行ってしまわれました……」

 

アーシアの続けた話に私は一瞬頭が真っ白になるのを感じた。

 

「助けに―――――「それは駄目よイッセー」」

 

私の言葉に被せるように聞いたことのある声が響く。

声の方を見てみると、そこに居たのはグレモリー先輩を初めとしたオカルト研究部の皆。おそらく、魔法陣でここまで来たんだろう。

 

「行くことは認められないわ」

 

「どうしてですかっ!!」

 

私はグレモリー先輩に近づいて言う。ほぼ怒号に近い、荒々しいものだっただろう。

 

「貴方だけで行けば確実に殺されるわ。

もう生き返ることは出来ないのよ?」

 

グレモリー先輩は冷静に、私を諭すように言った。

 

「そんなの―――――「イッセーッ!」っ!?

……ど、ドライグまで……!」

 

今度はドライグの大きな声が響く。

私は悔しくて唇を噛み、拳を握りしめる。

 

「違うぞイッセー。

俺はお前に行くなとは言わん。

だがな―――――冷静になれ」

 

優しい声音でドライグは私の頭を撫でた。

 

「グレモリーの娘は何と言った?」

 

「……私だけで行ったら確実に殺される……」

 

自分の力不足なんて言われなくても理解している。だけど、何もしないというわけには行かない……から……。

私はその言葉を自分でいってみて、何処か違和感を感じた。

……『私だけ』で行ったら確実に殺される……?

 

「―――――あ……」

 

「分かったようだな……。

こういう時こそ冷静になるのも大切だぞ?」

 

ドライグはそう言うと、私の背中を軽く押した、グレモリー先輩の方に。

 

「……ぐ、グレモリー先輩」

 

「何かしら?」

 

グレモリー先輩は穏やかな表情で私を見つめ返してくる。

 

 

 

 

 

「―――――一緒に、ふーくんを助けてください……っ!!」

 

私だけで駄目ならば、一緒に。

これは私のワガママだ。

でも、グレモリー先輩はそれでも私にチャンスをくれたんだ。

だったら、それを掴むべきだろう。

 

 

 

 

 

「えぇ。可愛い眷属の頼みだもの。

―――――皆も聞いてくれるかしら?」

 

「「「はい!」」」

 

初めから、みんなを、仲間を頼るべきだったんだ……。

私ひとりで出来ることなんて、限られているんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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