―――――『ヒトリ』より『イッショ』に行こう
by.一誠
その場にいる私、ドライグ、ふーくんは一言も喋らない、沈黙の一時を過ごす。
ほんの短い時間だったのだろうけど、緊張していたからだろうか?体感では何時間も経ったような、そんな疲労感を味わっていた。
「……そいつは―――――」
不意に、ふーくんが口を開く。
「そいつは俺が殺した」
無表情……いや、それすら通り越して能面のような顔を、ふーくんは浮かべていた。
それは先程まで無邪気に笑うふーくんとは全くの別人のように思えて―――――怖くなった。
「磔にしたのも、ボロボロにしたのも、腹を斬り裂いたのも……俺だ」
「……理由を、教えて……??」
私は吃りながらも、ふーくんに向かって言う。
やったのはふーくんでも、何か理由があるのではないか?
縋るような気持ちだった―――――。
「……半分私情、半分仕事……かな?」
そういうふーくんの顔は昔の、哀しみを背負ったものになっていた。
ふーくんの言葉を聞いたドライグの私を抱き寄せる腕の力が強くなる。
「お前は『仕事』というだけで一般人を殺すのか?」
険しい表情を浮かべながらドライグはふーくんに訊く。
「……そいつは『一般人』じゃねぇよ。
―――――ただの狂った『殺人鬼』だ」
反吐が出る、ふーくんはそう吐き出すように言った。
「それってどういう……??」
「……最近、ここいらで若い女の神隠し事件があってるのは知ってる?いーちゃん」
「えっと……最近そんな噂があるのは聞いたけど……本当の事だったの……??」
学校で聞いた作り話だろうと思っていた噂話。
ふーくんは私の言葉に首を縦に振って肯定する。
「―――――その犯人さ、そいつはね……」
私とドライグはその話に目を見開く。
ふーくんの顔は至極真面目で、嘘をついているようには見えない。嘘をついているような気配も、私は感じない。
「しかも、タチの悪いことに、そいつは犯行に
終いには『悪魔への生贄に若い女を捧げる』なんつぅ意味のわからねぇ動機だ……」
ふーくんは拳を握りしめて壁を殴りつける。
「―――――俺は『仕事』で『一般人』は殺さねぇ……。
俺が殺すのは狂った野郎か悪魔に魅せられた糞野郎、そんで―――――『悪魔』だけだ……ッ!!」
―――――ギリリッ!
歯が砕けんばかりに歯軋りをするふーくん。
その瞳は憎悪に染められていた。
……おそらく、その憎悪の対象は―――――『悪魔』。
……胸が、じくりと痛む。
「……ふーくんは、悪魔が、嫌いなの……?」
私がそう聞くと、ふーくんは一瞬きょとんとした表情を浮かべて、笑った。
「『悪魔』は大嫌い。
でも―――――いーちゃんは大好きだよ?」
その言葉に私は笑顔を返せなかった。
『悪魔』は大嫌い。
―――――私はその『悪魔』になってしまったから。
私はドライグの服の袖をギュッと握った。
「―――――さーて……俺っちはそろそろ帰らせてもらうかねぇ〜。
そーそーいーちゃん!
ちょっくらシスターちゃんを匿ってあげてちょ。
俺には純粋過ぎて扱えんですたい!
―――――んじゃ、ばいちゃ♪」
「ちょ、ちょっと待っ―――――」
まくし立てるようにふーくんは言いたいことだけ言うと、懐から球体を取り出して地面に叩きつけた。
その球体は煙玉だったらしく、辺り一面を白い煙で覆ってしまう。
「ふーくん……っ!!」
白い煙でむせながら、私はふーくんを呼ぶ。呼び止めることなんて出来ないと分かっていても、呼ばずにはいれなかったから。
「―――――またね……いーちゃん」
ふわりと、気配はなく、ふーくんの声だけが私の隣を駆け抜けていった。
煙がなくなり、視界を取り戻した私は、辺りを見回す。
やはり、ふーくんの姿は何処にもなかった。
その代わりに―――――
「―――――イッセーさん……??」
つい最近知り合ったシスターさん―――――アーシアがふーくんがいた所に立っていた。
一瞬、思考が止まっていたが、その姿、声を聞いた途端に、『マズイ』と感じる。
この場にはふーくんが殺してしまった男性の死体が……っ!
アーシアが死体があった方を向いてしまう。
なんとかそれを防ごうとしたけれど、遅かった……。
アーシアの視線は既にそちらに向けられていたから。
「…………?」
しかし、アーシアは何でもないかのように首を傾げていた。
「どうかしたんですか?イッセーさん」
「ど、どうかって……アーシアは平気なの……?」
まさか、死体を見慣れているとでも言うのだろうか?こんなにも純粋で優しい娘が。
「えっと……」
困ったような表情を浮かべてアーシアはニコリと微笑んだ。
「―――――イッセー1度見てみろ。
そこには何がある……??」
意味深なドライグの言葉に私はアーシアが見ているであろう場所を見てみる。
そこには逆十字に貼り付けられている死体が―――――
「……な、何も……ない……??」
綺麗さっぱり、そこには、何も、無かった。
男性の遺体も、こぼれ落ちていた臓物も、飛び散っていた血痕すらも。
「……おそらく
「ふーくんが……?」
「そうだろうな。
それ以外考えられまい」
私とドライグの話にハテナマークを頭に浮かべるアーシア。
何にせよ、あんな悲惨なモノをアーシアが目にすることがなくて良かった。
「ひとまずは此処から移動だ。
イッセー、その娘を連れて部室に戻ろう」
ドライグはアーシアを指さして言う。
「そ、そうだね。
アーシア、私たちと一緒に行こう?」
突然の事で頭は混乱しているだろうけれど、ふーくんから頼まれたのだからやり遂げたい。
「は、はい……。
フリード神父から話はうかがってます」
アーシアは悲しそうに言う。
ふーくんから何を言われたのだろうか?
そして、しばらくの静寂の後、胸の前で手を合わせて祈るようにし、苦しそうに口を開いた。
「―――――堕天使の皆さんは私の
「……なるほど、そういう事だったか……」
ドライグは眉間にシワを寄せて腕を組む。
つまりはアーシアから神器を抜き取ろうとしていたということだろう。
ドライグに聞いた話によれば、神器を抜き取られた者は―――――死んでしまう。
「……酷い……」
無意識のうちに言葉を漏らしてしまう私。
「本当はフリード神父も一緒に来てくださるはずだったんですけど……此処に堕天使の皆さんが向かって来ているからと言って……行ってしまわれました……」
アーシアの続けた話に私は一瞬頭が真っ白になるのを感じた。
「助けに―――――「それは駄目よイッセー」」
私の言葉に被せるように聞いたことのある声が響く。
声の方を見てみると、そこに居たのはグレモリー先輩を初めとしたオカルト研究部の皆。おそらく、魔法陣でここまで来たんだろう。
「行くことは認められないわ」
「どうしてですかっ!!」
私はグレモリー先輩に近づいて言う。ほぼ怒号に近い、荒々しいものだっただろう。
「貴方だけで行けば確実に殺されるわ。
もう生き返ることは出来ないのよ?」
グレモリー先輩は冷静に、私を諭すように言った。
「そんなの―――――「イッセーッ!」っ!?
……ど、ドライグまで……!」
今度はドライグの大きな声が響く。
私は悔しくて唇を噛み、拳を握りしめる。
「違うぞイッセー。
俺はお前に行くなとは言わん。
だがな―――――冷静になれ」
優しい声音でドライグは私の頭を撫でた。
「グレモリーの娘は何と言った?」
「……私だけで行ったら確実に殺される……」
自分の力不足なんて言われなくても理解している。だけど、何もしないというわけには行かない……から……。
私はその言葉を自分でいってみて、何処か違和感を感じた。
……『私だけ』で行ったら確実に殺される……?
「―――――あ……」
「分かったようだな……。
こういう時こそ冷静になるのも大切だぞ?」
ドライグはそう言うと、私の背中を軽く押した、グレモリー先輩の方に。
「……ぐ、グレモリー先輩」
「何かしら?」
グレモリー先輩は穏やかな表情で私を見つめ返してくる。
「―――――一緒に、ふーくんを助けてください……っ!!」
私だけで駄目ならば、一緒に。
これは私のワガママだ。
でも、グレモリー先輩はそれでも私にチャンスをくれたんだ。
だったら、それを掴むべきだろう。
「えぇ。可愛い眷属の頼みだもの。
―――――皆も聞いてくれるかしら?」
「「「はい!」」」
初めから、みんなを、仲間を頼るべきだったんだ……。
私ひとりで出来ることなんて、限られているんだから。