7月もそろそろ末に差し掛かる真夏、だが相変わらずのイギリスらしい曇天の鬱陶しい天気。
でもそんな天気でも雨が降らない限り私の居る孤児院の子供たちはめいめいに遊んでいる。皆の楽しそうな声が響く。
そんな中に私はいる。いや、その空間にいるだけ。
遊び場になっている庭の隅、大きな木の木陰になっているベンチに一人腰掛け本を読む。ここは私の指定席。
平日は学校があり、雨の日は当然外で読めないから自室だがそれ以外は何時もここで本を読む。もう4年にもなる習慣だ。
そして、そんな私に声をかける者はいない。それどころか、孤児院の皆は私がいないかのように遊んでいた。
そう誰もいないかのように。
たまに私の方にボールが転がって来ると、ガキ大将の頭の悪い子に命令された気の弱そうな子が恐る恐るボールを拾いに行き、怯えながら足早に立ち去る。
まるで、私の近くに居ると恐ろしい事でも起きるかのように。
いつもの光景。そして私も特に気にせず一瞥すると本に目を落としながら、ふと柄にも無くこうなった経緯を思い起こす。
私は、幼い頃から此処に居る。聞いた話だと雨の日の夜遅く、いつの間にか孤児院の玄関前に、まだ2歳にも満たない揺り籠に入った私と名前と誕生日が書かれた紙と一緒に置かれていたらしい。
そんな私の身の周りでは、物心が付いた頃から不可思議な事が起こる。ガラスが割れたり、物が浮いたり、突然火がついたり。私に敵意や悪意をもつ者が相次いで怪我をする事もあった。
最初のうちは私も否定したし、周りも怪しく思いながらも、偶然程度に思っていた。
でも事ある毎に私の身の回りで、怪現象が起こるのだ。だんだんいぶかしみ距離を取り始める周りの者たち。
そしてある出来事が決定打となって、私は化け物扱いされ始めた。
今思えば、その出来事自体が私の軽率な行動が原因だった。悔やんでも悔やみ切れない、あの日の午後。
それが、5年前。
そして不気味がり怖がった者達は、私から離れて行く。
後はもう階段を転げ落ちるように孤立していく。
そんな奇怪な私にちょっかいを出した者もいた。でも、そう言う輩は何かしら悪い事が起こる。それがまた悪循環となって更に孤立する。そして私への態度は次第に迫害に変わっていった。
それは、普段の生活に良く出ている。孤児院の汚れた屋根裏部屋に押し込まれ、食事は旨くも無い残飯の様な物が階段の前に置かれるだけ。風呂は共用だから当然入れて貰えない、食事と一緒に置かれる濡れタオルで拭くだけ。
一応近所の学校には行かせてもらってる、でもそこも似たような物。まあしょうがない。先生を火だるまにしてしまったのだ、追い出されて無いだけマシだと思う。最もそれも私のせいじゃ無く、腹癒せの暴力を受けている時にその先生が勝手に燃えたのだ。いや、私のせいか。
そんな、状況だから近所の者も影響を受けて私を化け物扱い。一度、警察署に駆け込んだ事もあったけど相手にされなかった。いくらロンドン郊外って言っても此処は小さな町だから私の事は良く伝わっていたのだろう。
そして今に至る。
まあ、仕方ないと思う。事実、私は化け物に違いないのだから。
普段から化け物扱いの私にとって、この読書の時間は至福の時間。
孤児院で、学校で、近所の者まで化け物として扱い、恐る恐る接して罵倒してくる日常で唯一心を休められる。いつもの場所に座って黙々と本を読む。この時だけは、本の世界の住人になれる、この酷い日常を忘れられる。だから、黙々と読書に勤しむ。
そんな日課に突如、邪魔が入ってきた。
「隣に座ってもいいかの?」
突然の声の方を見ると、沢山の髭を蓄えた優しそうな表情の見た事の無い老人が立っていた。いつの間に現れたと驚くが、まあ読書に集中しすぎていたのだろうと納得して、老人に目で座って良いと伝える。伝わるかは分からないけど。
庭にいると言う事は、孤児院の先生が通した訳だから危険な人物じゃないだろう。多分。
流石に他の子供にまで被害の加わる人を通さないと思う。
でも警戒はしておこう。今まで会いに来たみたいな人かもしれない。
「なら失礼するの」
伝わったようだ。そして、老人は言葉を続ける。
「ワシの名は、アルバス。アルバス・ダンブルドアじゃ。ホグワーツ魔法学校で校長をしておる魔法使いじゃ」
やっぱり今までと同じだった。軽率な事はせず、何も言わず寝床に直行するべきだったわ。
変な爺さんに絡まれてしまった。
私は溜息をつき、胡散臭いペテン師を見る目で自称魔法使いの校長を見ながら、またかと頭を悩ませる。
これで三度目だ、私の不思議な噂を聞きつけたカルトな人に絡まれるのは。
この手の手合いは相手にするときりが無い。しかも孤児院の者は助けてくれない。
どうして孤児院の先生は、こんなカルトな連中を通すのだろう?おそらくはそのままカルト連中に私が連れられて行くのを期待しているのだろうか?
そんな事を思いつつ、どうやってこの状況を切り抜けるかを考えていると、カルト爺は言葉を続ける。
「信じておらんようじゃの、まあ当然の事じゃ。では、これでどうかの?」
そう言ってカルト爺は、懐から枝を取り出す。いやよくお伽噺で魔法使いが持つ杖と言う奴か。小道具まで凝ってる。さすがカルト爺だと思っていると、突然杖を振りながら何かを唱え始めた。呪文まであるとは、相当凝ってるな。ホント面倒くさい奴に絡まれてしまった。
え?
目を擦ってもう一度見る。
は?
私は目を疑った。ありえない。
私の前に突然机とティーセットがあらわれたのだ。いや突然と言うわけでもないか。
目の前にあった大きめの岩が机に変わって、小石がティーセットに変わり浮かんでやってきたのだ。突然では無いな。うん。
ありえない。目を閉じ、今目の前で起きた事について考える。やっぱりありえない。
でも目を開くとそこには、机とティーセットがさも当然の様に存在している。
更に今気がついたが、目の前で遊ぶ子供が一人もこちらを気にしないのだ。
いつも私を空気として扱ってるけど、これは異常だ。この怪現象に誰一人として気が付いていない。なんだこれ。
うん。考えろ、私。
考えろ、私。
答えは一つしかないわね。うん。
私の頭はイカレてるみたいだ。しかも重度のイカレ具合。本を読みすぎたせい?
遂に私は頭までおかしくなってしまったのかな。いや昔からイカレてて遂に幻覚幻聴まで見えだしたのか。
それとも今までの事が全部私の妄想だったのか。
「あ、ぁあ」
普段あまり喋らないのと相俟って、声が出ない。でも何とか振り絞って声を出す。
「あ・・・や、やっぱり私の頭は狂ってるのかな、え・・・え、何、これ幻覚?」
私は化け物でおかしな奴だと自分でも自覚してたけど、実は幻覚幻聴の妄想の類だったのだろうか。これは、みんな近づきたく無い訳だ。精神病院に行ったほうがいいわ。
「これこれ、そう自分を卑下するではないぞ。これは幻覚では無いしワシの声も幻聴じゃ無い、事実じゃ。今お主の前で起こったのが魔法じゃな。これで信じてもらえるかの」
私が混乱していると、カルト爺いや本物かもしれないカルト爺が目の前で作りだしたティーセットで紅茶を注ぎ、落ち着くから飲みなさいと渡してきた。
いや、怪しすぎる。絶対なんかあるよこの紅茶、さっきまで石だったんだよ。
うん、飲みたくない。石橋は叩いて渡るべきだ。この紅茶は元々石だけど。
でも良い匂い。嗅いだ事の無いくらい良い匂いの紅茶だ。
私は、匂いに誘われて意を決して一口飲む。
「おいしい」
「そうじゃろう、特別製じゃからな」
そうして、私はしばらく紅茶を飲む。味わい深い今まで飲んだ事が無い紅茶。
よほどいい茶葉を使ってるんだな。元々石だからいい茶葉もへったくれも無いけど。
それに心なしか落ち着いてくる。なんていうか心地いい。
ずっと飲んでいたい。
「さて、落ち着いた所で本題じゃ。突然ではあるが、単刀直入に言うとな。君にはホグワーツに入学してもらいたいのじゃ」
やっぱりか、途中から何となくそうかなって思っていたけど。と言うか本当に突然だな。
さっきから頭がついていかない位に話がぶっ飛んでるよ。
まあ、でも悪い話じゃない。と言うかさっきから今まで感じた事が無い程、心の奥底から歓喜が湧き出てくる。
「・・・また突然ですね。もう訳が分からないです。でも、魅力的なお誘いです」
そう、魅力的なお誘い。この酷い毎日から救い出してくれるかも知れないのだから。
そこからは、このカルト爺改めダンブルドア校長からホグワーツや魔法界について色々と教えて貰った。
教えて貰う事全てが嘘臭い位に現実離れした事で、一々質問してしまう。正直、頭の悪い子みたいな感じになってしまったが私は悪くない。ぶっ飛んでいる魔法世界が悪いのだ。
でもまあ色々とあるが、話を要約すると私の様な化け物が沢山いる世界にある学校の様だ。
なんて言うか、色々言いたい事もあるが一言、もっと早く知りたかったな。
もっと早く魔法界に行っていたら、こんな毎日を過ごさなくてもすんだかも知れないのに。
でも、今は泣き事を言っていても仕方ない。もっと建設的に行こう。恨み節は絶えないけど。
それに、この話には一つ障害があるのだ。しかも大きな障害。
「凄く嬉しいお誘いです。私みたいな化け物でも普通に過ごせる世界に行けるなんて。でも一つ問題があります。私にはお金なんてありませんし、それに親もいません。孤児院の者は私を邪魔者扱いしてるので援助はしてくれ無いと思います。今の学校も義務教育と情けで通わせてもらってる様な物ですから。それどころかホグワーツ魔法学校について信じくれるかどうかも怪しいです。ただの頭の可笑しい戯言程度にしか取られないでしょうし」
普段、無口な私からは考えられないくらい、次々と言葉が出てくる。周りが見たら驚くな。と言うか私自身がまず驚いている。それだけ、この誘いが甘美なものだから、すらすらと言葉が出るのかもしれない。いつもは使わない声帯を酷使しているからか喉は痛いし、少ししゃがれているが。
私がダンブルドア校長にそう言うと化け物と言う単語に悲しそうな表情を一瞬したが、直ぐに先ほどまでの優しい顔に戻り、諭すように告げてくる。
「さっきも言ったが自分を卑下する物では無いぞ。お主は化け物なんかじゃ決してない、ワシが保障しよう」
そう言って、私の頭を優しく撫でる。今まで生きて来て初めて頭を撫でられた。
一瞬戸惑うが、案外悪い物でもないかな。うん。
ダンブルドア校長は頭を撫でた後に言葉を続ける。
「その辺りは安心しなさい、ホグワーツにも奨学金や奨励金制度はある。それにワシもお主の事を出来る限りの手助けをしよう」
そう優しく告げて、さらに言葉を続ける
「それにワシは、そんな事よりもお主がどうしたいのかが重要じゃと思う。お主はどうしたいのかの?」
ダンブルドア校長がその澄んだ、青い瞳で見つめてくる。
何処までも見透かす様な瞳を見つめながら私は、もう決まっている答えを口にした。
「それはもちろん。ホグワーツに入学したいです!」
柄にも無く大声で返事をしてしまい、噎せてしまう。
「そうか、そうか。ならホグワーツに入学し学びたいと言う子をワシは無碍には出来んの。しっかりと入学をさせてあげるから安心しなさい」
私の返事を聞いたダンブルドア校長は大きく頷きながら、優しくそう告げる。
今ここに、私のホグワーツ入学が決まったのだった。
「ありがとうございますダンブルドア校長。いや校長先生?」
お礼を口にして、ふと呼び方をどうするべきかと考える。
ここは普通に校長先生か?
「どちらでも構わんよ。好きに呼びなさい」
ダンブルドアがそう言うので私は、失礼なく短く言える呼び方にする。
とそこで私がまだ名乗っていない事に気付く。私とした事が。
「では校長先生と。ところでまだ私が名乗っていませんでしたね。先生なら知っておられるとは思いますけど、私の名前はアルゲディ。アルゲディ・レストレンジです。出来ればアリーでお願いします」
正直、私はこの名前が嫌いだ。何でわざわざ星の名前でもやぎ座のデルタ星なんかから取ったのだろう。
それに何か女の子っぽく無い。
だからダンブルドア先生にわざわざ愛称で呼ぶように頼んだのだ。ずっとフルネームで呼ばれたら、それこそ死活問題だ。
そんな気持ちに気付いたのか、ダンブルドア先生は特に突っ込む事も無く愛称で呼んでくれた。そう言えば、アリーって呼ばれたのはいつ以来だろう?
その後は、今後の事。入学について詳しく話を聞いたり、お菓子を出してもらって食べたりした。カエルチョコレート食べにくい。
それからは慌ただしく、ホグワーツ入学に向けて準備が始まった。
まず、私のいる孤児院の退院手続きだ。次に学校。他にも色々ある。
いきなり魔法界に行くから孤児院を出て、学校を辞めますじゃ、すまないのでどうなるか心配だったが、それは杞憂に終わった。
ダンブルドア校長や後から来たザ魔女みたいな格好の先生が魔法の力で何とかしてしまったのだ。
正直、魔法って反則だと思ってしまう。初日に会った時は認識阻害の魔法を使っていたそうだし、今回は人間界からの生徒の入学用の魔法具や魔法を駆使してやり過ごしたみたいで、こんな風に人を簡単に操れるなんて一歩間違えれば、とんでもない脅威だ。
もっと細かく人を操れる様な魔法も有るのかも知れない。
正直、私も早く魔法を使いたい。と言っても別にやましい気持ちは無いわ。
今までの様に私に向けられた敵意や悪意、嫌悪を簡単に逸らせそうだからってだけ。
まあ、今までも何もしなくてもそう言う奴は不幸な目に合ってたけどね。
だからか魔法界の人間は、普通の人間をマグルと呼び差別する事もあるようだ。しかも、マグル出身の魔法使いも差別されるみたいだから気をつけないと。
最も、差別や迫害は正直慣れてしまってると思うから別に深く考えなくて良いかな。
で今日は、念願の孤児院を出る日だ。正直、幼い頃から居た場所だから、もっと感慨深くなるものかと思っていたけど、そうでも無かった。
まあ当然か。酷い目に合ってきた訳だし。決して私が淡白ドライな人間な訳じゃない。と思う。
で今は孤児院の前で、僅かな荷物の入ったカバンを手に迎えを待っている。
今から入学に必要な物を買い行くそうだ。
その後は何処かで入学まで過ごす事になっているけど詳しい事までは分からない。まあダンブルドア校長が手配してくれたみたいだから酷い事は無いと思うけど。
それに、孤児院の屋根裏部屋よりは、何処でもましだと思う。
いや酷かったら直訴してやる。そんな事言える立場じゃないけど。
しばらく、ぼぅとしながらどうでもいい事を考えていたら視界の端に毛むくじゃらの山賊みたいな人が見えた。しかも、私と同じ位の歳だと思う少年を連れている。人攫いの山賊かな。幾らなんでも山賊は無いか。でも何て言うか怪しいな。
そんな事を考えていると山賊と拉致少年が、私に近づいてくる。今度のターゲットは私か?そんなバカな事を思っている私に山賊が話しかけて来た。
「お前さんがアルゲディだな?アルゲディ・レストレンジ」
山賊が何処か棘のあるような声で、そう聞いてくる。と言うか目つきも何か怖い。私、何かした?とりあえずは聞かれたからには私は首を振って肯定する。
すると山賊は私をいぶかしむ様な目つきでじろじろと見てくる。何て言うか値踏みされるみたいで不快だ。
しばらく私を見た後に、どこか納得したようにちょっと崩れた態度で話しかけてくる。
「そうか、いやスマンな。レストレンジ何て苗字だからついどんな奴かと身構えちまった。俺の名前はハグリッド。ルビウス・ハグリッド。ホグワーツで番人をしちょる。今日は、買い物案内を頼まれてる」
そう言って、山賊改めハグリッドは握手を求めてくる。
私は、差し出された手を握手しながら、いきなり人の姓に文句を言うなんてこの人どこか失礼だなぁなんて思ってしまう。がどうしてレストレンジって姓に引っ掛かったんだろう。
「そんなに私の苗字は変ですか?後私の事は出来ればアリーでお願いします」
私はハグリッドにそう言い返す。すると。
「いやな、過去に魔法界にその苗字の魔法使い共がいてな。後で説明するがそいつらがちょっとな。まあ、お前さんには関係無い事だから気にするんじゃねえ」
そう言いながらハグリッドは横の拉致少年を私の前に引き出す。
「それで、この子はハリー・ポッター。お前さんと同じ今年からホグワーツに入学する1年生だ」
「えっと、はじめまして。僕はハリー・ポッター。ハリーって読んでよ」
そう言って、ハリーと名乗る少年が手を差し出してくる。
「そう。よろしく、ハリー。私はアルゲディ・レストレンジ。アリーって読んで」
私はその手に握手を返しながら、自己紹介を繰り返す。
すると、ハリーはちょっと痛そうな顔する。
え?私何かした?正直、自慢じゃないが同年代の子よりは非力なのは自覚してるんだけど。
すると、そんな私の感情に気付いたのかハリーは理由を説明しだした。
「いや、ちょっとおでこの傷が痛んだだけだよ。大丈夫」
そう言って私に笑い返す。
なら良いんだけど。ハリーは片頭痛持ちなのかな?
何て事を考えているとハグリッドが私の事を難しそうな顔をしながら見ている事に気付く。
私が見ている事に気付いくと目を逸らし、直ぐに表情を変えて、さあ行こうと進みだしてしまう。
その後、ハリーと一緒に着いて行きながら、本当に失礼な奴だなと考える。それとも、そんなにさっき言ってた同じ苗字の魔法使いが酷い奴らだったのだろうか?
いずれ分かる事だとは思うが、今後の事が少し不安になってしまう。
今までの様な事が起きない事を少し願いながら私はハグリッドとハリーに続いた。
如何でしたでしょうか?
皆さんの小説に触発されて勢いで書いてみました。
人生初のSSでいざ書いてみると本当に難しい。文字に起こすのって大変ですね。
とりあえずはエタら無い事を目標に頑張って行きたいと思います。
次回更新は出来れば8月中には仕上げたいと思います。
一応、見直しをしていますが作中に誤字・原作設定から大きく間違えている点・他作と著しく被っている点が有れば教えて下さい。
また、本作の感想が有れば是非お願いします。