やはり俺の軽巡ラブコメは間違っている   作:秋白秋乃

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第6話

遊ぶ約束をした。

遊ぶ約束を、した。

俺、比企谷八幡が、女子と遊ぶ約束を、した。

......ふぅ。やっぱ人生ヌルゲーだな。

とまぁ、こんな感じにウキウキウォッチあっちこっちそっちこっちいいとも♪って感じに歓喜している。小町には見られて引かれた。

夏休みはあと二週間、川内とは夏休みが終わる一週間ほど前の日曜日に遊ぶ約束になっている。つまり今から一週間後ということだ。

まぁ大体の予定は決まっている。こう、テキトーにフラフラ的な?ぶらり、千葉の旅的な。具体的な事はなにも決まってないです、はい。

1人で遊ぶ分なら問題はないのだが、なにせ今回は相手がいる。男としてエスコートするのは当たり前だろう。

「つってもなぁ...どこ行きゃいいんだよ...」

千葉の観光名所、となるとどうしてもディスティニーランドに目を向けがちだが他にも色々とある。ただ観光名所に地元民がよく行くかと聞かれれば決してそうではない。むしろ地元民だからこそ、行かないことだってあるだろう。まぁ俺も例外ではない、観光名所を上げられれば行ったことのあるところのほうが少ないと思う。

こういう時に頼れる身近な人と言えば、まず小町が思い浮かぶ。羞恥を抑え何かアドバイスを求めるべきだろう。

「こまちー、こまちちゃーん?」

何度呼んでも返事は返ってこない、リビングの扉を開けても誰もいない。返事がないということは恐らく部屋にもいないはず。

よく見れば机の上には書き置きがあった。どうやら塾に行っているらしい、特になにも用意されてないということは外でテキトーに食え、そういうことだろう。

外食自体は構わないが外に出るのがめんどくさい、外食のためだけに、というのも躊躇う要因の1つだろう。俺金持ってないし。テキトーに作るか...はぁ、小町ちゃんのご飯が食べたいよぅ...。

しかし何もしなければ飯は作られもしないし、出てもこない。ここは八万通りある料理の1つを披露するとするか、八幡だけに!

謎のやる気に駆られながら台所に立つと

机の上のスマホが震えた。

なんだなんだよなんですか、八幡君のカップ麺作りを邪魔するのは!麺が伸びるだろ!

文句を言ってやろうと思いスマホを乱雑に取り耳にあてる、聞こえてきた声は由比ヶ浜のものだった。

『あ、もしもし?ヒッキー?』

『なに?今忙しいんだけど、カップ麺の3分待ってて』

『あぁごめん...ってそれ忙しくないよね!?』

『いや超忙しいから、忙しいわーいい匂いだわー』

『全然忙しくなさそう!ヒッキーどうせこのあと暇でしょ?遊び行かなーい?』

どうせ...確かに暇であることには変わりないけど、なんかムカつくな...。

『まぁそうだけどよ...』

『じゃ、決定!2時に千葉駅ねー』

『お、おう...。あぁ、そいや今度その...あー、デート?みてーのするからそういうの考えてくんね?』

『...へー、相手ってゆきのん?』

ほんの少し、間が空いた。何か思うことでもあったのだろうか。普段なら感じるようなものではないはずなのに、何故か感じ取ってしまった。

『いや、雪ノ下が俺とするわけないだろ。そのあれだ、ほら。話した...ろ?』

『あぁ、そゆこと!じゃ、行くとことかあたしにも協力させてね!』

『お、おう...じゃあ頼む...』

『うんうんっ、じゃまたあとでね!』

確かに由比ヶ浜はこういうのは得意だろう。男女との交際経験が少ないにしろ、三浦や葉山と付き合っていれば自然とそういう知識も増えていくだろう。

ただ今回は、今回だけは彼女の力を借りるわけにはいかなかった。

話し合い、きちんとした結論を出したが確かに、由比ヶ浜結衣という1人の女性は比企谷八幡という1人の男性に恋して、好いていたのだ。今も好きなのかどうかは俺には分からない。それでも、2人で遊ぶ、ましてやデートコースを決めてくれ、だなんてのは幾ら何でも酷なものではないだろうか。

ただいくら考えても時間は近づいてくるだけで結論は出ない。どんなに考えても彼女が俺の誘いに、嫌がってか嫌がらずかは知らないが乗ったのは事実だ。

ならば俺は、彼女にどう応えればいけないのだろうか。

ただ1つ、そんなことを考えながら俺は待ち合わせの時間を待ち、そしてその場で由比ヶ浜結衣を待っていた。

 

 

「あ、ヒッキー!」

集合時間は2時、現在の時刻は1時58分。まぁ人と待ち合わせするにはだいたいこの時間に来るだろう。まぁ俺は色々と考えて気づいたら1時間前に来てましたがねあっはっは、はぁ...。

「おぉ、時間ぴったしだな」

「そぉ?ふつーでしょ」

そう言って由比ヶ浜は時計を見る。こいつ、基本アホの子だけど時間とお金のことだけはしっかりしてますね...。

そんな今日の由比ヶ浜の格好はーと...まぁ普通の高校生、って感じだ。短いスカートにTシャツ、それにいつものリュックサック。

まぁなにその、普通に可愛い感じなんですよねこれが。こいつは多分チャラチャラした服ならなんでも似合う、俺の今日食べる予定のゴリゴリくんをかけてもいい。

「なんつーか、お前。アホっぽ...チャラチャラした服ならなんでも似合いそうだな」

「えへへ...ありがと...ってアホっぽくないし!」

なにを言っているのかしら、この子。

「いやいや、超アホっぽいから。で、なんか行くとこあんの?俺の家とか?」

「デートで家もありだけど...って今日は違うし!」

「はいはい...悪かった、俺が悪かったから。今日は由比ヶ浜に任せるよ」

「う、うん...。なんだか全部任せるっていうのは珍しいね」

「まぁ、な...」

「うん...」

場にちょっとした気まずい空気が流れる、空気の読める子元気の子の由比ヶ浜だ。俺がだいたい何を考え、何を思って由比ヶ浜に全て任せたのかを察してしまったのだろう。空気を読める、読めすぎるというのは時に自らに刃を向け自らを傷つける。そういったところだろう。俺に、由比ヶ浜を理解できる時はきっと来ない。

「...さ、さぁ!行こー!」

そんな雰囲気を打破するように由比ヶ浜が大きな声を出して俺の手を引っ張って歩いて行く。彼女に触れることはできても、彼女の心に触れることはできない。俺はどうしても握られた手を握り返すことができずただ、連れ回されるばかりだった。

 

 

「...疲れた、すげー疲れた。ガハマさん疲れました」

ファミレス、まぁ俺がこよなく愛しているゼリア様で俺は死にかけていた。

本当に文字通り連れ回され休む暇もなく5時間くらい遊んでいたらしい。店内の時計は7時を少し回っていた。

「それ、ヒッキーが体力ないだけだし」

そして同じ運動量のはずなのにこいつは全然疲れた素振りを見せない。理不尽だ、同じくらい動いてるのに。無限の体力ってやつなのかしら。同調開始!

「でー...参考になった?」

「さん...こう...?」

「忘れちゃったの!?デートするから行くとこ決めるの手伝ってくれって言ったのヒッキーじゃん!」

あぁ、それな。すっかり忘れてましたわ、ガハハ。いや、だってすげー疲れたんだもん。

「よーく考えたらお前と全然タイプちげーから参考になるか分かんねーわ、感謝はしてるけど。ここは奢るよ、なにがいい?ガムシロ?」

「今日やったこと無駄じゃん!?というかおごる気も全くないし!」

「まぁ...そのなんだ、あれだあれ。どれだかは知らんが」

「なにも伝わってこないんだけど!?」

目の前で由比ヶ浜がワチャワチャしてる、なんかおもしれーなこれ。

「あー...ほら、なに。その、ちゃんとしたデートっつの?した記憶ねぇから今日は良かったんじゃねーかなって。ついでみたいな感じになって悪いと思ってるけど」

俺の本心、思っていたこと、それ素直に言うと由比ヶ浜はさっきのムードから一転、真面目な顔になった。

「そっか...ヒッキーは、まだあたしに気を使ってくれるんだね」

「いや別に、気ぃ使ってるとかそんなんじゃなくて...」

俺が言いたいことを全て言い終える前に、由比ヶ浜が割って入ってきた。

「使ってるよ、だってヒッキーだもん。ヒッキーは優しい。今の関係を、前の関係を壊したくないんだと思う。だから、あたしとだってこうして遊んだり喋ったりするし、きっとゆきのんといろはちゃんにも変わらず接するんだと思う」

「違う、違うんだ。俺はただ、俺は......、お前の気持ちに応えられなかったから、また、応えられなかったからせめて変わらずに...、って...」

分からない。俺が一体これからどうして、どうやって彼女らと付き合っていくのだろうか。関係を壊す?今までのことをなかったことにする?そんなのは逃避だ、過去をなかったことにするなんてできやしない。受け止め、受け入れ、どうにかやっていくしかないんだ。俺はいつだって、そうしてきたつもりだったんだ。

「あたしね...、ヒッキーのそういうところが好きだった、好きなんだと思う。でも...、ずっと変わらないままでいたいなんて、ズルいよ。わたしだってあのままがよかった、だけどもう進んじゃった。戻ることはできないの」

由比ヶ浜な言ってることはきっと正しいんだと思う。変わることを恐れ、他者から感情をぶつけられることも恐れ、逃避していた。でも、願ったっていいじゃないか。やっと手に入れられたんだ、本物ってやつを。それだけを求めて、追いかけ、それ以外を憎み、その過程を経てやっと手に入れることができたものをそう簡単に手放せというのは、酷ではないか。

「逃げることは悪いことだっていうのは、あたしは思わないよ。でも、でもね...、今のヒッキーはカッコよくない。気づいてよ、わたしがヒッキーを好きだってことを。応えられなくてもいいから、知ることくらいしてよ...。2番目でもいい、そのヒッキーの好きな人ともし、うまくいかなかった時、あたしがいること覚えといてよ。今のヒッキーは...きらい」

後半の方、由比ヶ浜は泣いていたのかもしれない。俺は彼女を直視することができなかった、何故だろうか。

彼女はきっと、彼女なりに考えて彼女なりの答えを出して、俺とぶつかろうとしてる。

「......もう遅えから、送ってくよ」

「............」

その言葉に由比ヶ浜は答えない。何も離さないまま駅まで歩き、由比ヶ浜の自宅までただ歩く。俺は今までたくさんのことを見落としたんだと思う。

たくさん零して、取り損ねて、きっと今に至る。

俺が今まで落としてきたものなんかがなければ、俺を取り巻く環境は変わっていたのだろうか。

過去をどんなに悔やんでも戻ることはできない。何をしたって後悔が残らないもんなんて存在しないし、後悔しないようにやろう、なんてのは幻想にすぎない。

なら俺は由比ヶ浜に対して何をすればいいのか、どう接すればいいのだろうか。感情は言葉にされた、無視することだってできない。でも、どうやって接すればいいのかなんて分かるはずがない。

「...ここら辺でいいよ」

「...おう、そか」

今はそんな無愛想な返事しか返せない、なんてダサいやつなんだ俺は。どこまでもみっともなく、しょうもない。

「...ねぇ、ヒッキー。今日は付き合ってくれてありがと。デート、成功させてね」

由比ヶ浜は泣きながら俺に笑いかけた。そしてそのまま背を向け、夜の暗闇に消えていく。俺にはそれが、由比ヶ浜と俺との関係を絶つような、そんな様にしか見えなかった。

真夏の夜の冷たさと静けさが、俺を責め立てているように感じた。

結局由比ヶ浜とは、夏休みが終わるまで一切の連絡を取っていない。

 

 

ごつん、と頭をぶつけた。

床がいつの間にか立っていたのだろうか、顔と床の距離が近い。床ふざけんなテメェ、何勝手に立ってんだよ。

もちろん、床が立つことなんてありえない。俺がベッドから転げ落ちたのだろう。超痛い。

あれから、川内に由比ヶ浜、さらには雪ノ下、一色とどうすればいいのか、どうしなければならないのかを考え続けた。今までと同じ態度?相手が俺を好いていると知っての対応なんてものは知らない。そんなことを考えていたらいつの間にか川内との、約束の日になっていた。頭超いてぇ。

とりあえず着替えようと時計に目をやると10時を少し過ぎたとこ、川内との約束は11時。まぁうん、ちょっと急ぎましょうか。

俺がちょっと(割と全力、朝食抜き)急いだら集合時間には充分間に合った。川内が来るまで特にやることもない、雲でも眺めるか、どっこいしょ。

あの雲、綿あめに似てんなー(ほぼ全部)

「あ、先輩じゃないですかー」

俺が雲で綿あめ作って遊んでたらどこぞの誰かさんが話しかけてきた。うるせぇ!俺は綿あめを作るんや!素人は黙っとき!

「せーんぱーい、無視しないでくださいよぉー」

後ろから肩を叩かれて振り向くとそこには一色いろはがいた、なんなの?やっぱり後ろに這い寄ってるよね?こいつ人間じゃねぇ。

「お、おう...、なんだよ」

「いえ、たまたま見かけたので声をかけたみただけです。何してるんですか?」

たまたま、というのは本当だろう。制服だし、予備校に行く途中なのだろうか。

「待ち合わせだけど...」

「待ち合わせ?誰とです?雪ノ下先輩?それとも結衣さんですかー?」

「いや、違うけど...」

「えー?先輩他に女子の知り合いいましたっけー?」

え、なにこいつ俺の交友関係把握してんの?怖っ。

「っせーな、しっしっ。はよ予備校でも行けよ」

「もー、冷たいですねー。あ、ポッキーあるんですけど、食べます?」

「なんでそういう事早く言わないの?食べるから早く出してください」

ほんとこいつ大事な事言わねーな。ポッキーあるなら先言えよ。あるって言ったら誰しもが食べるって言うだろ、言わない?

「しょうがないですねぇ...、はい、あーん♪」

「..........」

「...あーん♪」

...いやいや、あーん♪ってやられても食べないから。食べないよね?や、ほんと恥ずかしいんで勘弁してくださいいろはさん。

「...ほら、先輩。あーんですよ、あーん。おとなしく口開けてください」

「いや、無理だから。それはできないから、やめてください」

「はぁ...、そんなんだから先輩は先輩なんですよ」

なに言ってんだこいつ...。俺が俺以外になるわけないだろ、ばかじゃねーの。つーかポッキー食うな、よこせ。

俺がそーっとポッキーに手を伸ばすとガシッと手を掴まれた。ですよねー。

「せーんぱーい、何しようとしてるんですかー?あ、ポッキーそんな欲しいんですかー?」

そしてそのままにっこりと笑いながら話しかけてくる。怖い怖い痛い握力いくつあんよお前!?

「いやあのほら、甘いもの食べたいなーって...あっはっは」

「そんなに甘いものが好きですか...、しょうがないですねぇ」

そう言うと一色はガサゴソと鞄の中を漁り始めた。見つめるのも無粋だし、俺は綿あめ職人だからほげーっと空を見て綿あめを作っていた、作っていた、まる。

「あ、特別甘いものあげます」

「え、なにそれ、ちょうだい、いやください」

ばっと振り向いた俺の顎に手を添え、そっと唇を重ねてきた。

熱い、照りつけてくる太陽もそうだが今触れ合った唇が熱い。ドクン、ドクン、と自らの鼓動音が内側から大きく聞こえてくる。一瞬、何をされたのか分からなかった。

気づいたときには一色の顔が近づいて、すぐに離れて。あ、まつ毛なげーな...と思ったときには口が塞がれていた。

「ふふっ♪特別、甘いのです。女の子は甘いお砂糖と秘密、特別なスパイスでできてますからね♪ではでは〜♪」

そう言って一色は鼻歌交じりにスキップして去って行ってしまった。まだ鼓動は元に戻らない、大きく早く脈打ったままだ。改めて一色いろはの、彼女の恐ろしさを見た気がする。ほんと、強え女だよなぁ...。

唇に触れながら、そんなことを考えていたら改めて熱くなってきた。あー、やべーな、夏やべーわ。ほんとやべー、夏まじぱない、ぱないの!

......、これ誰かに見られてねーかな、見られてたら恥ずか死ぬわ。すごい勢いで首を回しながら周りを見ていたらぼーっと川内がこちらを見ていた。何やってんだあいつ...、いるなら声かけろっつの。とりあえず手振ってみっか...。

「おーい、せんだーい。おーい」

声をある程度出して手を振って見るも彼女は気づかない、俺のことは視界に入っているはずなのに。こうなったら直接声をかけるほかない。トテトテとかそんな可愛い感じじゃないけど小走りで川内の元にかけていく。

「おい、川内さん?大丈夫?」

「...わっ!?な、ななに!?」

目の前で手を振って声をかけるとビクッと猫のように跳ねながらアタフタし手をブンブン振り回してた、かわいい。

「いや、なにって...、見かけたから迎え?的なのだけど...」

「あ、あー!なるほどね!アリガト!だんく!」

「お、おう...」

こいつ...ホントに大丈夫か。夏の暑さでおかしくなっちゃったの?実はもともとこんなんなの?不思議、発見。

「で、どこ行く?俺ん家とかどう?」

「え?帰んの?いや、私はそれでもいいけど」

...おや、これは新しい反応ですね。割と反応に困る。困ったなぁ、帰ろうかなぁ。いや、俺は帰りたくないけど?帰りたくないけどね?川内さんがなー、ほら帰りたいって言うからなんー、ってな訳ないだろ。馬鹿か。というか多分こいつ付いてくる気だ、なんか犬みたいな反応してる。

「や、冗談だ。テキトーに回ろーぜ」

「うーん...じゃああっちのすたばー?とか?それともあっちの大きいとこ入る?」

スタバの発音がお婆ちゃんっぽかったのはスルーするとして、こいつ以外に詳しいな。千葉らーなの?

「スタバはダメだ、空気に殺される。入るなら向かいの方だな」

「あー、ドーナツショップだっけ。あそこのカフェオレ美味しいよねー」

「あぁ、そこそこ。そのカフェオレを甘くして飲むと千葉的にも俺的にもポイントが高い」

「それ甘すぎじゃなーい?てかそのポイントなにっ!?」

ゆっくりとスタバ、ドーナツショップの方向に歩みを進めつつそんな会話を広げていく。やはり初めの方にぼーっとしていたのは夏の暑さのせいだろうか、それとも考え事?...、一色との...なんてのも考えてしまうがきっと気のせいだろう。

「まぁ一回飲んでみろって。千葉ポイントはあれだ、千葉愛的なの。なんかそんなん。八幡ポイントに意味はない、皆無だから」

「じゃー、後で行こっ?え、そんなポイントいらないいらない」

「おー、5時頃な。覚えてたら言ってくれ。だよなー...俺もいらねーし」

「はいはい。いらないもの渡さないでよ!?」

でへへ、ばれちった☆で、そんなポイントはどうでもよくて、今日の川内の格好はカジュアル?な感じで短いジーパンみたいのにおへそが出るか出ないかのTシャツ、その上に袖が肘ほどのパーカーを前を閉めずに来ている。まぁ...、そのなに、似合ってますけど...、そのチラチラ見てるおへそはよろしくありませんね。

反対に俺の格好はドン小町氏監修のもとに組まれた七分丈のズボンにTシャツだ、普通だ。川内と共に一緒に行動するには不釣り合いかもしれないが、俺レベルのやつには無難なものだろう。

「悪い悪い...。で、あれだ。どっかテキトーに回っか」

「うーん...、あのおっきなとこでいいんじゃない?中いろんなの入ってるし」

つい、川内の顔をじーっと見つめてしまった。

「?...なーに、どうしたの?」

川内がその視線に気づくのは早く、問われてしまった。嘘をつく必要もないし、まぁ言うか。

「いや、お前なんか詳しいなーって思ってよ」

「あぁ...、テキトーにぶらぶらしたからねー。大体のどこに何があるかは覚えた」

あぁ、なるへそ。そゆこと、理解。

「...1人でか?」

「うん、そうだけど...、なんで?」

「ほら、俺結構暇だから来てるなら呼んでくれればーって思ってな...」

「えっ、えぇー。い、いいよ。迷惑とか...、かけたくないし。......、ちょっと恥ずかしいし」

「別に迷惑とかんなもん考えなくていいんだよ...、まぁ、次は来るときはあれだ。案内とか、してやるよ」

「う、うん...。わ、わかった」

...シーンと2人の間に間が生まれる。気まずい、というかあれ?俺すごい恥ずかしいこと言ったよね?しれっとデートのお誘いだよねこれ!?いやぁぁ!恥ずかしいぃいい!!八幡大失敗!お外走ってくるぅぅう!!と心の中で暴れ狂いながら歩いていた。やだもう、恥ずかしい。

「...とりあえず入ろっか」

「...おう、そだな」

ゆっくりと、言葉を投げかければそれに応えるように少し後ろから後を追った。今日は疲れそうだ。

 

 

「ちげーよ、もちょっとミルクと砂糖入れろ。超うまいから、まじで」

「え、やだよ。太りそう。あぁ入れないで!」

抵抗するから無理やり入れた、砂糖とミルクを。あれからでっけーショッピングモールをぐーるぐるぐるして現在ドーナツショップ。川内に千葉流カフェオレを教えている最中だ。超うんめー。

「うっせ、ほら飲め飲め」

「うぇー...、太ったら責任取ってよ」

「おう、テキトーにダイエットメニュー考えてやっから」

「そっちかぁー」

そっち以外に何があるんですかね...、いやわかるけど断じて触れない絶対。テキトーに受け流しながら千葉流カフェオレを勧めると案外簡単に飲み始めた。この子の周りの人は怪しい宗教とかに気をつけてくださいね、うまっ!とか言っちゃってるし。

「あー、疲れたー。遊んだなー」

「まーなぁ...、お前があんなにゲーマーだとは思わなかったわ」

「やーほら、普段あんまりやらないから」

「おー...、そか」

ゲーセンの前を通りかかった時に飛びかかるようにUFOキャッチャーに吸い寄せられたのには少しびびった。他にも太鼓さんとかなんか色々遊んでたし、八幡くんのお金の大部分もあそこで失った。途中で材なんとか君だか新木場君だか第五福竜丸君がいたけど気にしなかった、見なかったことにした。あいつ、ゲーセンのときは普段の3万倍うざいから。

「そういえばさー...、私転属...あー、引っ越すんだ」

「ふーん...、どこ?」

「詳しくは言えないんだけど。海外、になりそう...」

一気に、川内の声音が萎んでいった。海外、どこかは分からないけどそれだけで簡単には会えないことが分かる。だけど、俺1人の我儘が通じるわけがない。ただ、唇を噛む力とコップを握りしめる力だけが強くなっていく。

「そ、そうか。まぁなんだ、がんばれよ?俺は何するか知らないから他にはなんも言えねーけど。体にだけは気をつけろよ」

虚勢を張る、そんなことは無駄だと知っているのに。こんな事をしても、何にもならないと分かってるのに。

店内の明るいBGMとは別に、俺らの周りだけがどんどん暗くなっていく。俺が出来るのはやっぱり、この場から逃げ出すことだけだった。

「...店、出るか」

「うん...」

会計を簡単に済ませ、自然と相手の手を引きながら駅の方へと向かう。夏の夜の冷たさが俺の体を刺すように身に染みてきた。互いの間に言葉はない、何を言えばいいのか分からない。というのが正しいのかもしれない。

俺の行動が、もうちょっとだけ早ければ何かが変わっていたのかもしれない。たらればの話は嫌いだが、どうしてもそんな事を考えしまう。そんな事を考えても、何も変わらないというのに、俺の願いだけで世界を、変えることなどできないのに。

「...ねぇ、はちまん」

駅に近づいていくにつれ遅くなっていく歩調に合わせながら川内がポツリと呟いた。

「...おう、どした?」

駅前に着けば、足を止めてしまった。川内は俺の背中にそっと擦り寄るように距離を縮めて密着する。心臓の鼓動が聞こえていないか、心配になる。

「はちまんはさ、ずーっとここにいる?」

「おう...、多分な。しばらくはいんだろ」

「そっか...、なら安心、かな?」

「まぁなんだ、ケータイとかあんだから連絡は取れんだろ」

「そっか、そうだよね...、会えなくなる、だけだもんね...」

...、今までたくさんの人との別れを体験したきた。人一倍、と言っても過言ではないかもしれない。ただ、親しくなった人との別れはこれが初めてかもしれない。こんな時、どんな顔をしてどんな事を言ってやればいいのか俺には分からない。ただ、ただ単に、流れる涙とぐずる声を抑えるのに必死だった。

「...引っ越すのは、いつなんだ?」

「詳しくは分かんないけど、今年以内には...、って感じかな」

「そか...、10月なったら文化祭とかあっから、まぁ...、来てくれよ」

「うん...、きっと行く。今度会う時はそん時ね、じゃあ...」

川内が俺の背中を離れ、俺を追い越し、駅に進むと離してはいけない気がした。今離したら、一生会えないようなそんな感じすらした。そうして気づけば、彼女の手を取ってしまった。情けない、顔を見られているかもしれない。それでも、今はそんなの関係ない。

「はちまん...?んっ...」

手を取り、引き寄せると相手の唇を塞いでしまった。体が勝手に、というのはこういう事を言うのだろうか。

彼女の吐息を感じる、彼女の目元に雫が溜まっているのも分かる。

口を離せば川内は頬を朱に染めつつ涙を浮かべたまま笑い、そのまま後ろを向いて去ってしまった。

 

 

俺は、初めて大切なものをなくしてしまったのではないか。これはもう2度と、手に入れることができないものでらないか。世界ってのはいつも理不尽だ、手に入れたと思わせて奪っていってしまう。俺は結局、気持ちを言葉にすることができなかった。最後まで何をやっているのだろう、とこの時ばかりは自分を責め立てた。

でも俺にはもうできることなどない、また会うことはできるかもしれない。だけどただ、あの瞬間離れるように見えてしまった。

世界は平等であるべきだ、そんな事を言う人がいるがそんなものは幻想だ。

完璧や平等など望むことができないし、そもそも誰だって望んでないかもしれない。

世界は理不尽で残酷なものと、すでに全員が知っているのかもしれない。自らの都合がいい時にだけ、平等という言葉を使っている人だっている。男女平等社会?そんなものには反吐が出る。

世界が平等なのはきっと、残酷な時だけだ。

 

 

悶々としたまま残りの夏休みを終え、何時もよりない元気を無理やり出しながら重い足取りで学校へ向かうのだった。

空は俺への当てつけだろうか、光り輝いているのがどうも憎かった。

 

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