タグやあらすじにも書きましたが、目標は「ギャルゲー」です。
甘々な展開やドロドロの修羅場になったりはしません。多分。
それなりに厨二な展開も出てきます。主に一話目。特に一話目。
あと、原作、アニメともに見ましたが全てを覚えてはいないことに加えて、話の都合上、オリジナル設定、オリジナルストーリー、原作設定改変があると思います。
それでもよろしければ。
2022/11/7
sword art online―通称SAO。世界初のVRMMOとして世間を賑わせているゲーム。
現在。それとは「違った意味」でも話題となっている。
2022/8/21
「ふっ!」
激しい体の動きに思わず息と声が漏れる。足を動かし、手に持った槍を振るえば、前にいた大きな狼が鳴き声を上げてポリゴンとなって霧散した。
ファンファーレ。目の前に「Congratulations!!」の文字が出たのを確認し、メニューを開きボーナスポイントを振りわける。考えもせず、まるで決まった作業のようにSTRに1。AGIに2。
「これで16レべか」
2022/7/20
「当たった!?」
信じられない。倍率1000倍とも10000倍とも噂があるSAOの一千人限定クローズドβテストへの参加権。ダメもとで応募してみれば当たるとは。まさかだ。生まれて初めてパソコンを二度見してしまった。ゲームをあまりしない、ゲーマーではない俺にこれが当たるのは「本気」の方々に申し訳ないような気がするが、これも神の采配だということで我慢していただこう。
茅場敦彦という一人の天才が作り上げた仮想世界SAO。どんな仕組みで仮想世界とやらを作り上げているのかは、わからない。というより、NERDLESがどうのやら脳波が何とかやらそんなこと知っている高校生の方がおかしい。ともかく、何だかよくわからなかったが、テレビやネットで大々的なニュースになっているのを見て、「おもしろそうだ」と思って応募してみた。
テスターに応募したのはただの気まぐれだったはずなのに、これが人生を変えることになるとは、思いもしなかった。だが、仕方のないことだと思う。茅場敦彦は天才で、俺は凡人。凡人が思いつかないことをするのが天才だ。とどっかの誰かが言っていた気がするのだ。
2022/8/25
学校の放課後というのはうるさい。それはどこか田舎の高校だろうが俺が通う東京の高校だろうが、きっと変わらないのだろう。HRが終われば、がやがやと皆が騒ぎだして、カラオケ行こうだの部活の試合がどうのと色んな話が耳に勝手に入ってくる。
「ねぇ」
そんな喧噪の中、机に座り帰り支度をしている俺の目の前には幼馴染の姿。
水無瀬 葵。彼女のことを一言で表すなら、猫。黒猫がいい。長い黒髪に大きな目。猫というのは外見が猫っぽいということもあるが、内面によるところが大きい。気まぐれ、気まま。すり寄ってきたかと思えば、フラッといなくなる。あと、いうまでもなく髪が黒いから黒猫だ。
「ねぇってば」
「あぁ。どうした?猫」
「猫?」
間違えた。
「いや。すまん。考え事してた。どうした?葵」
「…早く帰ろう」
半眼でこちらを見ながらそう言う葵。幼馴染と言ってもテンプレートよろしく葵の家と俺の家はお隣さんではない。マンションは一緒だが、住んでいる階が違う。アオイはマンションの大家さんの子。彼女は最上階に住んでいるが、俺は至って普通に部屋を親が借りて住んでいる。とはいっても、結局同じ場所に帰ることには変わりはないため昔から一緒に帰っている。 二人ともずっと帰宅部だ。
「相変わらず『帰りたがり』だな」
「だって家好きなんだもん」
葵は完全なるインドア派。平日は学校が終わると、とっとと家に帰る。休日は、語る必要もない。家でゴロゴロ。俺の家に来てゴロゴロ。ほんとに必要なかった。
「ねぇ」
一歩後ろをついて来る葵が声をけてきた。
「ん?」
「ユーの家行っていい?」
「ダメだ」
「……またあのゲーム?」
「ああ」
「む」
少しご立腹。SAOのβテストに参加してから一か月。俺は仮想世界に入り浸っていた。今までは葵は学校帰りに家に来ることが多々あった(来る来ないは葵の気分次第)のだが、この一か月は全て俺が断っている。そのせいで葵は最近ご機嫌斜めだ。
「ねぇ」
「ん?」
「壊していい?」
はい?
「ダメに決まってるだろ」
チョップ。
「ぅ」
葵とエレベーターで別れ、帰宅。
別れ際、少し睨まれていたな。エレベーターが閉じて行く際にじっとこちらを凝視してくる無表情の美人というのは怖いらしい。ガチャンという扉の閉まる音がまるで福音のように聞こえた。福音なんて聞いたことないけど。そもそも決まった音なのか?まぁいいか。
またいつか埋め合わせをしないとほんとに壊されそうだ。百歩譲ってβ版ならともかく、製品版をやられてはたまったもんじゃない。とりあえず甘いものでも食わせとくか。
見慣れた家のドアを開け、これまた見慣れた自室のドアを開ける。鞄を机の上に置き、すぐに着替える。出来るだけ動きやすい格好に。
「さて」
ナーヴギアと呼ばれるヘルメットのような機器を被り、ベッドに横になる。
「リンクスタート」
その言葉を発した数秒後。目を閉じていたはずの目に、世界が映った。
2022/8/1
「ううむ」
難しいな。
「スキルねぇ…」
SAOのゲームシステムの特徴。それは≪ソードスキル≫と呼ばれる必殺技だ。SAOには魔法、というより遠距離攻撃というものが武器投擲系の攻撃を除いて一切ない。≪ソードスキル≫という必殺技といわゆる通常攻撃によって戦闘を行う。
その≪ソードスキル≫を使うためには≪武器スキル≫を取り、スキルレベルを上げて習得する必要があるのだ。
そして、現在。俺が悩んでいるのはその≪武器スキル≫の選択だ。始めに空きのスキルスロットが二つ用意されていて、プレイヤーは初期で選択可能なスキルを二つ選ぶ。普通はそのうちの一つを≪武器スキル≫に使う。選択可能な≪武器スキル≫は初期では7個。それ以外のものはスキルの派生やクエストの報酬で手に入るらしい。
結果論ではあるが≪武器スキル≫自体に強い弱いはないようだ。選択した≪武器スキル≫はそれぞれ特徴こそあれど、使い方次第でどうにでもなる。
「あー」
7種の武器。スキルスロットの数などそうそう増えないだろうから、武器は一つに絞るのが正解だと思う。そうは言ってもどれにすればいいのか。ゲームをあまりしないからそういう勘も働かない。攻略サイトでもあればいいのだが、β版の参加人数が少ないからか、まだ立ち上がってはいないようだ。
「よし」
一度、仮想世界から撤退。携帯を手にしてメールを送る。
『俺に似合う武器ってなんだと思う?』
『意味わかんない』
『適当でいいから』
『銃』
俺って銃のイメージなのか?何でだ?眼鏡だからか?
だがSAOに銃なんて武器は存在しない。
なんて聞こうか……
主だったやつでいいか。
『片手剣、短剣、槍、斧から選んで』
『槍』
決定。何故かは聞いてみないと分からない。
「あと一つか」
初期のスキルスロットは二つ。一つは≪片手用短槍≫。問題はもう一つの方だ。≪武器スキル≫と違って数が多い。≪索敵≫、≪隠蔽≫、≪釣り≫、≪料理≫、≪鍛冶≫、≪革細工≫、≪裁縫≫などなど。戦闘用から趣味用、生産職用のものとさまざまだ。生産職をするつもりはないから、やはり戦闘用か。どうせβ版なのだから冒険してもいいけれども。とりあえず便利そうな≪索敵≫にしておこうか。そう決めて、≪索敵≫スキルをスキルスロットに入れた。
2022/8/2
「もう朝か」
気づけば朝になっていた。夕食を食べたあと、再び仮想世界に籠っていたらいつのまにか。それほど没頭していたということだろう。
俺だけではなく、結構な人数がまだ向こうにはいたけど。同類だな。いや、もしかしたら強者かもしれない。
「ねむ…」
塾の夏期講習に行かなければ。これでも「まぁまぁの優等生」で通っているんだ。別に天才でもなければ、運動神経抜群でもない。成績は上の下。スポーツは、昔に葵と通っていた器械体操を除けばそこそこ。特別、器械体操が出来るわけでもないけど。
朝食を食べたあと、3階分の大量の段差を上がり、「水無瀬」と書かれた表札が掲げられた家のドアの前に立つ。チャイムを鳴らすと機械の向こうから「はーい!」という朝から元気としか言いようのない陽気な声がした。
「はいはーい!あら?ユー君じゃない!今日もご苦労様!」
ガチャという音と共に勢いよく飛び出してきたのは葵の母、水無瀬結さん。高校生の子の母とは思えない綺麗な容姿。そして、高いテンション。俺たちが小さいころからこの調子だ。もういいかげん落ち着けよ。
そもそも何故に「あら?」なのか。何故今気づきましたみたいなセリフが何故出てくるのか。疑問だ。「佐伯です」ってちゃんと名乗ったんですけど。それにこんな朝早くから来るの俺しかいないでしょう。
「おばさん。おはようございます」
「はい。おはよう。ユー君の愛する葵ちゃんはねぇ……なんと!!まだ寝てまーす!!」
知ってます。というか分かってます。ほぼ毎日来てるんだから。
「ともかく!上がって上がって!」
「おじゃまします」
「じゃあ葵ちゃん起こしに行こっか!!」
テンポはえーな。おい。
俺の家より長い廊下を少し進むと「AOI」という可愛らしいネームプレートがかかったドアの前に着いた。このネームプレートはおばさんの手作りで、ある日勝手にかけられていたらしい。けど葵は「どうでもいい」とか思っているんだろう、ネームプレートに「YUI」と書かれていても気にしないと思う。
別に親子仲が悪いというわけではなく、葵は全くファッションやらインテリアやらに興味がないのだ。あいつは多分、家や部屋は寝れればいいと思っている。
「さぁ!眠れるお姫様を目覚めさせないと!目覚めさせる方法は考えて!分からなかったらこれ読んで!」
背後ではおばさんが絵本を両手で持ってピョンピョンと飛び跳ねている。
うん。絵本は見なかったことにして。葵の部屋に入ると、ベッドの上に布団に包まった物体A。
「わくわく」
相変わらず猫みたいな寝方だ。
「どきどき」
一歩ずつ、物体Aに近づく。10歩程で手が触れる距離まで来る。
「そわそわ」
布団をゆっくり引きはがし、物体Aの容姿を確認。
「きゃー!きゃー!」
長い黒髪。女子高生の平均くらいの身長。少し痩せた体を黒いパジャマで覆っている。
「おとーさん!おとーさん!」
物体Aもとい葵の体をゆすり、起こそうとするが反応がない。
「カメラー!カメラ持ってきてー!!」
手触りのいい髪に触れ、さらさらのその感触を確かめる。
「やっぱりビデオ!おとーさんビデオ!!」
「ん…う?」
「起きたか?」
「……寝てる」
「いや。起きてるじゃん」
「まだ寝てるの。ねぇ」
「ん?」
「撫でて」
「はいよ」
俺の日常。いや、俺たちの日常。それが変わる二か月前。
2022/8/4
素人目にもしょぼい木の槍。手にしたそれを目の前の猪に向かって突き出す。猪の近くに出でいた赤いバーが消えて色を失う。それと同時に猪がポリゴンへと変わっていく。
「これで3レべ」
SAOではどうやったら強くなれるのか。数値的な話をするならば、モンスターを倒すと経験値が手に入る。この経験値が一定量溜まればレベルが上がる。レベルが上がればボーナスポイントが3ポイント手に入る。ポイントをステータスに振り分ければステータスが上がるという仕組みだ。レベルが上がるだけではステータスは上がらないというのが特徴だろうか。ただHPだけはレベルアップと共に皆一律に上がっていく。違いが出るとしたら装備の効果だろうか
数値に関係のない話ならプレイヤーたちの技術を上げるしかない。練習あるのみ。同じステータス、同じ装備、同じスキルでもうまい奴の方が強いのは当然。
ステータスは2種類しかない。STR、AGI。簡単に言えばそれぞれ筋力と敏捷を意味している。
STRを上げなければ攻撃力が低く、敵を倒すのにかなりの時間がかかる。加えて、武器や防具には要求STR値というものが設定されており、その値よりSTRが低いとその装備を装備できない。重すぎて持てないという状態だ。そしてSTRは攻撃だけでなく移動にも関わってくる。持ったはいいが、動けないという状態。重い武器や防具を装備したままで体を動かすためにも筋力がいるということだ。
AGIを上げれば足の速さだけでなく、体全体の動きが速くなる。単純な移動だけでなく、ステップの速さやジャンプ力、動体視力や反応の速さ、武器を振るう速度にも関係する。戦闘においては回避という一側面だけではなく、攻撃にも関わるため、上げておいて損はない。
結局、STRを上げるかAGIを上げるかという議論はパワー重視かスピード重視かという議論とイコールになるだろう。これは簡単にまとめただけで実際はもっとややこしいのので二アリーイコールか。
レベルアップによるボーナスポイントを得た俺はどちらのステータスを伸ばすかを考える。これは俺だけではなく、きっと他のプレイヤーたちも悩んでいるんだろう。
槍使いに必要な能力は何か。筋力か敏捷性か。槍を振るうのには筋力がいると聞いたことがある。けど、俺が持ってるのは≪片手用短槍≫だから軽い。おそらくそこまで筋力は必要ないとは思うんだが…本当に?
いや、知らない。武術などかじったこともありません。どうしようか。
「困ったときの」
動物の勘。猫の勘ってなんだかすごく当たりそうな気がする。
『力が強いのと足が速いの。どっちがいいと思う?』
『意味わかんない』
『いいから。選んで』
『どっちも』
『強いていうなら?』
『足』
はい。決定。AGIメインでいこう。
2022/8/25
俺が通う学校は八月の後半一週間は補修との名目で生徒は学校に通うことになる。これは全員参加で、補修があるのは一応進学校だからなのかは知らないが、まだ休みの感覚が抜けきっていない俺たち生徒にとっては全くもって不必要な制度だ。その学校からの帰り道。葵と二人で下校中。
「ねぇ」
この「ねぇ」はご機嫌斜めな時の言い方だ。だてに小学校の時から一緒にいるわけじゃない。この口癖、「ねぇ」の言い方で葵の機嫌を察するなど造作もないこと。
「どうした?葵」
「……何してるの?最近」
私に構えよ。バカヤロー。という副音声が聞こえる。しかし、それが分かっていても俺にはやるべきことがあるんだ。具体的には第10層のボス戦に参加するとか。
「ゲームだよ。葵も聞いたことあるだろ?ソードアートオンラインっていうゲーム。有名だぞ?」
「……何か聞いたことある気がする」
その程度の認識かよ。あれだけ話題になっているのに名前を聞いたことある程度で済むのはすごい気もする。
「そのゲームに嵌ってるんだ。だから忙しい」
「何それ」
私とゲームどっちが大事なの?と目で語っている。その目に対し良い返事をすることが出来ない俺は黙って葵の頭を撫でる。
「……ずるい」
「また埋め合わせするから、な」
「……今は、我慢しよう」
恨めしそうで、悲しげな眼で俺を見つめる葵。
「……明日でいいか?」
「うん」
結局その目には逆らえず、約束を取りつけざるを得ない俺だった。
2022/10/31
今日はSAO製品版の発売日だ。俺は大手のゲームショップや家電量販店に並ぶことなく、それを手に入れた。βテスターは優先的に手に入れることが出来るのだ。
サービス開始は一週間後。β版は終了しているから特別することもない。
「……葵のご機嫌取りでもしとくか」
葵にメールを送る。しかし、待てども待てども返事が返ってこない。
「まだ寝てるのか?」
現在、午前11時。今日は休日。葵のことだから昼過ぎまで寝ているというパターンも考えられる。まさかあいつが朝から出て行ってることはないだろう。
「家に電話してみるか」
この時間ならおばさんは確実にいる。きっと昼飯でも作っているに違いない。携帯を手に取り、履歴から「水無瀬葵」の選択。携帯ではなく、家の電話番号に電話をかけた。
数回のコールのあと、耳が捉えたのは娘とは全く違ったハイテンションな声。
「はーい!水無瀬でーす!」
ギャルかよ。あんた。
「……もしもし。佐伯ですけど。葵いますか?」
「何と!?この声はユー君ではないですか!?」
だから佐伯って名乗ってるから。俺以外の佐伯が電話かけてくんのか?
「うふふふふふ」
何だ。受話器から気持ちの悪い音声が流れてくる。無性に切りたくなる。
「ユー君の愛する葵ちゃんはねぇ……なんと!!出かけていまーす!!」
「え?」
いや、それはほんとに「なんと!!」だ。
「どこ行ったんです?」
「それはぁねぇ……ひ・み・つ」
「そうですか。じゃ」
ツーツー。
「どこ行ったんだ?」
考えてみても全くわからないな。あの葵が休日の朝から出かけてるなんて。雪でも降るんじゃないか。もしくは桜でも咲くかも。
「どうするかな……」
予定がない。ベッドに寝転がって、携帯を弄る。適当にネットを漁るとすぐにすることがなくなってしまった。最近SAOのせいで勉強できてないから勉強でもしようかと考えていると、携帯が鳴った。
「メール……葵か」
本文はない。写真だけが添付されている。見ると
「……製品版SAOだと?」
テスターの1000本と通常販売版9000本とを合わせて10000本しかない製品版SAO。
その9000本しかない通常販売の製品版SAOのうちの一本。葵の小さな手がそれを持っていた。
「どういうことだ?」
「買った」
買ったって……こいつは。
「もしかして並んだのか?」
「うん。昨日の朝からずっと。だから眠い」
いつの間に。
小さな口をあくびで広げ、俺のベッドで寝る体制に入る葵。
おいおい。あの行列に並んだのか。
葵がSAOをやるのに反対意見なんてないけど、理由がな……何だか罪悪感を感じる。
早々に寝息を立て始めた葵の髪に触れる。この感触が俺はすごく好きだ。髪フェチというやつなんだろう。とんだ変態だ。
さらさらとした手触りを感じながら、ずっと葵の寝顔を眺めていた。
2022/11/6
運命の日。SAOのサービス開始の日だ。
『いいか。キャラメイキングが終わったら景色が変わると思うけど、そこを動くなよ?』
『わかった』
『あとキャラネームは考えたか?』
『え?アオイでいい」
『本名と同じは止めたほうがいいぞ』
『そうなの?じゃあユーは?』
『……俺はユートだ』
『アオイでいい』
『はい』
―リンクスタート―
家にいるはずの葵の声と自分の声が重なった気がした。
β版のキャラを引き継ぐことの出来る俺は早々にSAOの世界へ入った。
「二ヶ月ぶりか……」
βテストに参加していたのは一ヶ月という短い間だったのに、何だかすごく懐かしい気分になる。視界に入る人たちは皆ワーワーと騒いで、感動を表現している。初心者なのだろう。俺はそれを視界と耳に入れながら、葵が来るのを待った。
しばらくすると黒髪ロングの女性キャラが現れた。葵と同じらいの体格。じっと立ったまま動かない。仮想世界に来たというのに全く心を動かしていないのか。それとも動きすぎて頭がショートしてしまったのか。十中八九、前者だろうな。
「アオイ」
「ユー」
体格だけじゃなく、顔も葵にそっくりだ。と言うより葵にしか見えない。知り合いが見たら一発で分かる。
「ユーもあんまり変わってない」
「まぁ、あんまり現実と変えたら動きにくくなるって聞いたからな」
例えば身長150センチの人間が急に180センチになったらうまく動くことはできないだろう。使っているうちに慣れるじゃないか、と言う人もいるがSAOと現実を行き来すれば一体それにいつ慣れるかわからない。だから顔の造形などはともかく、身長や手足の長さは現実と同じにしておいた方がいい。
身体だけでなく、俺は顔に関してもあまり変わっていない。何故かといえば、「顔」を作るのは非常に面倒なのだ。髪型から始まり、目の色、鼻の高さ、口の大きさ、耳の形などなど…顔の色んなパーツについて細かい設定がありすぎて、自身の納得のできる顔に仕上げるのはかなり面倒だ。
そういう奴のためかアバターのキャラメイキングでは現実とほぼ同じ容姿のアバターを作り出すこともできるようになっている。こちらは一度のタップですべてをSAOがやってくれるため、プレイヤーは数分待つだけ。キャラメイキングが途中で面倒になった俺はそれを選択したというわけだ。
「ふうん」
興味なさげに返事をするアオイ。実際大して興味はないのだろう。現実世界で泣いている人たちに謝れ。
「……じゃ話してた通り、まずは武器スキルを取れ」
「わかった」
アオイは手を動かしてスキルスロットを埋めていく。
≪短剣≫
一番扱いやすいらしい≪短剣≫スキルを葵は選択した。
「もう一つのほうは決めたか?」
「いっぱいあってよくわかんない」
確かにな。多すぎて何を取ればいいかよくわからないだろう。俺もそうだった。今すぐに取らなければいけないということもない。SAOをやっていくうえで必要だと思うスキルは人それぞれだし、ゆっくり考えればいい。
「ひとまず保留しておけばいいさ」
「うん」
「よし。それじゃ行くか」
「どこに?」
「まずは武器屋だ」
≪始まりの街≫の路地裏。街の喧噪を置いてけぼりにして、アオイを連れて路地裏を進んでいく。βテストに参加した際、この日のために≪始まりの街≫で一番安い武器屋を調べていた。それが俺たちが向かっている場所、≪アインの武器屋≫
「ここ?」
古く、寂れた外観。営業しているのかしていないかも分からない店だ。
「ああ」
中に入ると後ろをそろりそろりとついてくるアオイ。
いらっしゃいませの一言も発さず、カウンターの奥で船を漕いでいる店主。こいつは海外の接客でも真似ているのだろうか。
「武器が欲しいんだが」
少し大きめの声でそう言うとゆっくりと目を開け、こちらを見る店主。人を睨むときのジロリという擬態語を再現している。
「短槍と短剣をくれ。あと片手剣を2本買い取ってくれ」
「……あいよ」
全く愛想のない店主から短槍と短剣を受け取る。それぞれ90コル。そして、初期装備の片手剣を売る。1本50コル。2本で100コルだった。40コルの損失を甘んじて、店のドアを開けた。
店を出るとアオイが口を開いた。
「ねぇ」
「ん?」
「何なの?あの店員。態度悪い」
ぶっきらぼうに言う。言いたいことは分かるが、お前が言うな。人見知りで客商売なんて出来ないくせに。
忘れもしない今年の文化祭。喫茶店を開いた我がクラスで圧倒的な支持を得てウェイトレスデビューした葵だったが、客が来ても接客には行かないし、接客したと思ったら「何?」か「うん」しか言わなかった。容姿がいいので客は来たが、それは高校の文化祭だからだろう。社会に出てあれなら上の人に大目玉をくらうに違いない。
「何って……NPCだ」
「何それ」
あんまり興味ない。副音声。
NPC。Non Player Character。プレイヤー操作ではないキャラクターのこと。店番やイベントの登場人物など、ゲームではなくてはならない存在だ。
SAOのNPCはまるで感情があるかのように、つまりまるでプレイヤーのように振る舞うため、一目でNPCかどうかを判断するのは非常に困難。
あの店主もNPCだが、「この道40年の頑固おやじ」感を全身から醸し出していた。
「ふうん……あと、あんな注文でよく買い物できるね」
「あれはあの店だけだ」
あんなことは他の店では出来ない。
「どういうこと?」
「あの店は武器1種類に対して1つしか武器がないんだ」
だから「槍」と言えば≪ウッドランス≫しか出てこないし、「短剣」と言えば≪スモールダガー≫しかない。
「それに他の店はもっと丁寧だ」
「ふうん」
武器を手に入れた後。道具屋で≪回復ポーション≫を購入した。≪回復ポーション≫、説明書きを見ると【10秒間、HPを毎秒50回復させる薬】とある。
β版と同じだ。初めの頃はこれさえあれば体力は全快する。初期のステータスはHPが500でSTR、AGIは共に10。≪回復ポーション≫の回復量は500だから、Lv1ならHPが0でも全快する計算だ。HP0なら死んでるけど。
「よし。外行くか」
「外?」
「街の外だ。戦闘しに行く」
「えー」
えーって。お前ここに何しに来たの?戦闘が醍醐味だよ?このゲーム。やらないんだったら返品して来なさい、とは言えないな……立場的に。
「いいから。行くぞ」
強引にアオイの手を引いて行く。アオイは先ほどまで文句を言っていた口を閉じ、黙ってついてくる。
路地裏を抜けて街の外へ。目の前には広大な草原、奥には深い森が広がっていた。風を感じながらアオイを連れて、草原を駆けた。
フレンジーボア。SAO内で最弱のモンスター。能力値的な理由もあれば、その攻撃方法が≪突進≫だけという理由もある。ただ走ってくるだけだから簡単に避けることができるし、隙も多い。VRMMOに慣れるためには最適の敵なのは確かだが……
「えい」
3匹目。全く苦労する様子を見せずに青い猪を倒していく我が幼馴染。
先輩としてレクチャーしてやろうと思っていた俺の気持ちなど素知らぬ顔で短剣を振るうアオイ。加えて
「弱い」
はい。そうですか。
葵は普段の行動は馬鹿っぽいが、実は頭がいいし運動も出来る。
授業中は大概寝てるけど。だからあいつを窓際の席にしてはいかんと言っ……てはいが、俺は常に思っている。それでもテストではトップクラスの成績だ。
昔二人でやっていた器械体操は葵の方が上手かった。男と女の違いがあるから今ではスポーツで負ける事なんてないだろうけど、子どもの頃は何も勝てなかった。かけっこも水泳も逆上がりも。何においても葵の方が上達も速いし、上手かった。
そんな天才肌な幼馴染は、この仮想世界でもその才能をいかんなく発揮している。その才能に嫉妬していた頃もあった。いや、正直今でもそう思うことがある。でもそれ以上に思うことは、「こいつは俺がいないとダメだ」という、腐った思い。
葵は一人でも生きていける。けど、葵は俺の後ろをついてくる。前を走ることだって簡単なはずなのに。
俺は「俺」という存在に葵を縛りつけて、自己満足に浸っているだけ。そして葵もそれを良しとしている。他人の前では隙を見せない葵は、俺の前では隙だらけだ。
俺も葵も互いの胸の内なんてわかっている。俺は葵で自分を慰めて、葵は俺の甘えを許しつづけることで絆を保ちたがっている。
何故かはわからないが、いつからかそんな関係。
アオイと猪狩りに興じていると急に視界が変わった。森の中にいたはずなのに、街の広場にいる。強制テレポートか。大量のアバターが目の前に立っているということは俺たちだけじゃない。ならこれはトラップなどではなく、運営がしたことで間違いない。
「何?」
一歩後ろにいた葵が相変わらず興味なさげに、一応聞いとこうかという感じで尋ねてくるが。
「わからない。何かのイベントだろうな」
「ふうん」
β版の時にはこんなイベントはなかった。正規版のサービス開始のセレモニーか何かだろうか。その割には雰囲気がひどく悪い。セレモニーという感じは全くしない。
ゴーン、ゴーンという重い鐘の音を聞きながら、何かを待った。
空が真っ赤に染まり、赤いローブが浮かび上がった。
「何だ?」
「イベント?ゲリラかな?」
「すげぇ!SAOマジすげー!!」
その光景にギャラリーから様々な声が発せられる。
しかし、ローブから発せられたらしき音が辺りに響くと、その声も全てが黒く染まった。
―SAOはログアウト不可のデスゲームとなった―
「おい!!ふざけんな!!」
「いや!帰して!!家に帰してよ!!」
「そんな馬鹿なことがあるわけねぇだろうが!!」
ローブ曰く、HPの全損は現実での死を意味。ログアウトは不可。現実世界に帰るには100層の最終ボスを倒すしかない。
ローブはご丁寧に現実世界のニュース記事まで出してきて説明を進めていった。そして≪手鏡≫というアイテムを配り、アバターを現実世界の俺たちと全く同じ容姿にして見せた。
俺にとって、いやここにいる人たちにとって、ローブの言葉は信じられないことばかりだった。ここでの死が現実の死とイコール。
けど、実際に死んでみないと向こうで死ぬかなんてわからない。でも死ぬことを試す気にはなれない。死後の世界があるから死んでも大丈夫なんて言って死のうとする奴がいたら警察を呼ばれても仕方ないだろう。
ここで死ぬことがどういう意味なのかは分からなくても、俺たちは生きるしかない。
ここでの死が向こうでの死を意味すると仮定しつづけて。
俺はローブの言葉を聞いたあと、周りが騒いでいるのをじっと見ていた。何をするわけでもなかった。その場から動かず、悲鳴と怒声を耳に入れて、現実味のないこの状況についてちっぽけな頭脳で考えているだけだった。
真っ先に考えなければならないことだ、と脳が結論を下したのは葵のことだった。
ゆっくりと後ろを振り返ってみた。
葵は変わらず落ち着いた様子で、赤いローブなど最初からいなかったかのような顔で、俺を見ていた。
現実の葵の顔に瓜二つなアオイの顔を見ると、何故か急に心が落ち着いた。
「……葵」
「何?ユー」
「……二人で街を出る。行こう」
「うん。ユーがそう言うなら」
この日から二人は変わっていったんだろうか。
SAOの設定集みたいなのないんですかね?
あとゲーム欲しいな……
ハードがPS3でもっとグラが綺麗なら買ったのに……