とりあえずこちらは今週のノルマ達成です。
難しいなぁ……
2022/11/6 ―第1層 始まりの街―
もう一度、≪アインの武器屋≫に行き、替えの武器を買った。武器は生命線だ。武器屋や鍛冶屋でメンテもせず使い続ければ、それぞれに設定された耐久値が無くなって、ポリゴンとなって消えていく。そうなればモンスターを倒すことは非常に困難、というより不可能になる。戦闘中、武器を失って退避に失敗すれば、死ぬ。
「金より命だ」
とは言ってもこのゲーム、金は大事だ。金が無ければ宿を借りることも出来ければ、買い物も出来ない。現実と一緒。さらにはアイテムの購入だけでなく、武具の強化や情報を得るにも金が要る。
初期に与えられた500コル。武器を売買して-130コル。≪回復ポーション≫を二つ購入し-100コル。モンスターを数体倒して得た約200コル。残りは約470コル。二人で940コルくらいか。その後、防具屋に向かい二人分の防具を買う。二人とも軽い革装備。200コルの出費。残り740コル。
「金を稼ぐか……いや、先に経験値か」
βテスターである俺は≪効率のいい狩場≫というものを知っている。他のテスターたちの中には俺たちより早く動き出している奴もいるだろう。奴らに狩場を独占される前にどこか一つだけでも押さえておいたほうがいい。自分勝手な考え方だと思う。それでいいのか、とも。でも、止まってはいけないんだと強く強く自分に言い聞かせた。
経験値だけじゃない。金も欲しい。金だけを狙うなら金が報酬のクエストや高い値段で売れるアイテムが報酬のクエストを受けるという案もあるが……
「ホルンカは……」
≪ホルンカの村≫ではクエストの報酬で序盤ではかなりの性能を誇る片手用直剣が手に入る。俺も葵も片手剣は使わないが、あれはいい値で売れる。クエストはモンスターを討伐し、ドロップアイテムを集めるという単純なものだ。モンスターを倒すということは経験値も金も手に入るということとイコール。
ただ、問題はクエストの難易度が高いということ。ちらっと後ろを見る。
アオイは黙って、立っていた。
ほんとに落ち着いている。こいつを見ていると普通に現実世界にいるみたいな錯覚に陥る。アオイの深く黒い瞳と目が合うと、アオイが口を開いた。
「私は大丈夫」
何も言っていない。けど、俺が何を考えているか分かったのだろう。
「……行こう」
「うん」
俺たちは≪ホルンカの村≫へと足を踏み出した。
≪ホルンカの村≫への道。平坦に続く一本道。人の姿は見えない。
湧出する≪フレンジーボア≫青い猪や≪プレインウルフ≫普通の狼を倒しながら二人で歩いて行く。
「よし」
俺のレベルが上がった。ファンファーレが鳴り響く。
「何?」
「レベルアップだ」
「ふうん」
アオイは俺と話をしながらも短剣を振るい、自身の目の前の狼を斬り伏せた。
「あ」
二つ目の【Congratulations!!】の文字を見た。
「おめでとう」
「ありがとう?」
「はは、何だそれ?」
アオイは小首を傾げながら、目の前に出たリザルト画面を見つめている。
「ほら、ボーナスポイントを割り振らないと」
「……わかんない。ユーがやって」
「……メニュー画面を開いて、ステータス、BP割り振りを選べ」
アオイは俺の指示に従って、指を動かしていく。アオイの手が止まると次の指示、ポイントをSTRかAGIかのどちらに割り振るかを言う。アオイは短剣使い、考えるまでもなく
「AGIって書いてあるとこを三回タップ」
トントントン、とアオイの指がリズムよく動く。それを確認し、俺も自身のBPを振り分ける。STRに1、AGIに2。
「もう一つのスキルはどうするかな……」
アオイは初期の二つのスキルスロットをまだ一つ埋めていない。次のスロットはLv10で手に入る。その次はLv20。次は30。10の倍数だ。
エクストラスキルという特殊な条件で手に入るスキルはスキルスロットごと手に入るためスロットを圧迫することはない。その代わり入手したあと、スキルを消せばスロットごと消えてしまう。スロットだけを取って、スキルを抜くということは出来ない。
現在。俺が知っているエクストラスキルは≪瞑想≫だけ。「ありそうなもの」はあるが、どうやって取るのかが分からない。
初期で戦闘職の人間がよく選ぶのは≪索敵≫か≪隠蔽≫だ。≪索敵≫はともかく。≪隠蔽≫は自分の身を隠すスキルだからパーティ用のスキルではなく、ソロ用だ。かといってパーティでも使えないわけじゃない。
≪隠蔽≫はヘイトを下げる効果もある。つまりは敵から狙われにくくなる。だがパーティを組む奴らは壁役、いわゆる≪タンク≫と呼ばれるプレイヤーが≪挑発≫というヘイトを上げるスキルを取るため、ソロ用というイメージが強い。実際、パーティでの戦闘を考慮するなら目的は同じでも≪挑発≫の方が便利だ。
俺も葵も防御力を売りにする予定はないが、俺の方が「まし」になるだろう。だがそれはもちろん≪タンク≫をするほどの防御力ではない。ならアオイにはこれを取らせておいたほうがいいか?
そもそもアオイの身の安全を考えると戦闘職ではなく、生産職にでもさせてどこかの街に住まわせるのがいいのは分かっているが……
「私は大丈夫」
何も言えない。ほんとに、甘えてる。
―ホルンカの村―
宿屋を訪ね、先に部屋を取る。
アオイの顔を見てから、言う。
「……このままクエストをやる」
「さっき言ってた……敵を倒して、アイテムを集める?」
「そうだ。倒すモンスターは?」
「リトルペネント」
「注意点は?」
「普通のと花付きと実付きがいて、実付きの実を攻撃してはダメ。花付きがアイテムを落とす」
「よし」
≪森の秘宝≫クエスト。βテスターの間では有名なクエストだ。宿屋の部屋の埋まり具合から推測するに、すでにここに来てクエストを始めている奴も何人かいるようだ。皆、報酬の≪アニールブレード≫狙いで間違いない。
このクエストが有名な理由は二つ。一に報酬が良いこと。二にクエストの難易度だ。
≪リトルペネント≫は普通の奴と≪花付き≫と≪実付き≫の3種類が存在する。≪花付き≫が目的のアイテムである≪リトルペネントの胚珠≫をドロップするのだが、≪花付き≫が湧出する確率はたった1%。それだけならばクエストの難易度は大したことはないのだが、≪花付き≫と同じ確立で湧出する≪実付き≫が問題だ。
≪実付き≫は名前通り、実を付けているのだがその実を攻撃してしまうと周りの≪リトルペネント≫が大量に集まってくるのだ。もちろんわざと攻撃して≪花付き≫が現れるのを待つという手もあるが、β版ならまだしも、今そんな危険なことは出来るわけがない。
宿にいる、はてなマークを頭の上に乗せた女将さんに話しかける。はてなマークはクエストの証。それを浮かべたNPCに話かけるとクエストが受けられる。
俺とアオイはそれぞれ個別にクエストを受けた。というのもこのクエストは一人用だったからだ。一人用というのは一人でやらなければいけないという訳ではなく、協力してすることも可能だ。
そして、このクエストに関しては俺たちには多くの選択肢がある。最悪の場合はクエストを断念。または一本だけを手に入れて二本目は諦める。二本とも手に入れるまでやる。二本手に入れてからも狩り続け、≪胚珠≫が出れば他のプレイヤーに売りつける。4択だ。
選択はケースバイケース。
もう日が沈みかけている。武器屋で武器のメンテをし、アオイと共に村の近くの森に足を踏み入れた。
―ホルンカの森―
≪スラスト≫―槍の基本ソードスキル―英語で「突き刺す」という意味の名のついた技。群青色の光が手に持った槍の刃先に色をつける。真っ直ぐ、地面と水平に放たれた線が≪リトルペネント≫の胴に、文字通り突き刺さる。不気味な外見の植物はHPバーが消えると同時に、消えていった。
「普通のしか出ないな」
数字上では100匹いれば≪花付き≫と≪実付き≫が1匹ずつでそれ以外は全て普通のものということになる。
「まぁβ版のときよりましか……」
森に入ってからまだ1時間も経っていない。だが辺りには他にプレイヤーがいないからか、結構な数の≪リトルペネント≫が湧出し、その全てを俺たちが倒している。β版は結構な取り合いになって苦労したものだ。
「……飽きてきた」
「おい」
それを言うなよ。俺だってしんどい。
「……で?軽業はどうだ?」
結局、アオイは≪軽業≫スキルを取った。アオイは今までさらっと見ただけで、ろくにスキルの一覧を見ていなかった。自分のことだし自分で見てみろと言って全て見させたら、見終わったあとで≪軽業≫を取ると言い出したのだ。
≪軽業≫は身軽になるスキルだ。ステップやジャンプの性能が上がるだけでなく、アクロバティックな動きを可能する。スピード重視のプレイヤーが主に取るスキルだが、β版でも使いこなしている奴は見たことがなかった。前者はいいのだが、後者がトリッキーすぎて皆使えないのだ。いくら仮想世界とはいえ戦闘中に前方宙返りやらバク転やらをするのは難しい。それに多くのプレイヤーはゲーマーだ。運動よりゲームの人間。ソードスキルなどには≪システムアシスト≫が働いているが、≪軽業≫にはそれがない。使える道理はないだろう。
夢のあるスキルだがほとんどの人間は断念し、ステップやジャンプに関してのみ恩恵を受けているというのがβ版の結果だった。残るプレイヤーは夢を追い続けていたが。
「ちょっと動きやすくはなった」
あれで「ちょっと」だと?≪リトルペネント≫の触手攻撃や腐食液を無駄に軽やかなステップや側転で避けるのが、「ちょっと」だと?俺はお前がそんな回避をする度に周りに危ない木や岩がないかハラハラしてるんだぞ?当たってもそれで死にはしないが、隙が出来て一気に襲い掛かられたら、さようならだぞ?分かってるのか?
「ユーは失礼。私はそんなに鈍くさくない」
アオイからぷい、という音が出た気がする。そういう問題じゃねぇよ。
アオイはそっぽを向いて、俺はため息を吐いた。
しばらくすると≪花付き≫が現れた。≪花付き≫を守るように普通の奴が二匹両隣についている。
≪花付き≫は通常の≪リトルペネント≫を倒せば倒すほど出現率が上がる。俺が出したかアオイが出したかは分からないが、出てきた以上、あれは確実に倒さないといけない。
「アオイ」
「うん」
俺の意図が名前を呼ぶだけで分かったのか、アオイは簡単な返事をして一歩右にずれた。
「ふっ!!」
駆け出し、≪スラスト≫を≪花付き≫に叩き込む。HPバーを4割ほど削られた≪花付き≫は少し後退した。三匹とも俺の存在をしっかりと認識したようだ。取り巻きの二匹が攻撃モーションに入るが、俺の右にいた一匹の背後からアオイが飛び出し、短剣ソードスキル≪ピアース≫をその背に放つ。攻撃を受けた一匹はヘイトが上がり、俺からアオイに攻撃対象を移した。俺はそれを視界の隅に入れながら、左手で槍を横に振り回し、左から迫る触手を打ち払う。
≪花付き≫が体勢を立て直し、腐食液攻撃のモーションに入った。腐食液は武器でガードすると武器耐久値が大幅に減るため回避するのが望ましいが、俺は回避すらせず、無視して先ほど触手攻撃をしてきた一匹に向き直った。
再び≪スラスト≫を、今度は違った相手に放ち、満タンだった体力を削る。ギリギリ視界に入らない背後から、びちゃ、という気持ちの悪い音が聞こえたが俺には何の影響もなかった。代わりに人のものではない悲鳴が聞こえ、それに「うるさい」という冷たい声が付随した。アオイが相手をしていた奴を俺と≪花付き≫の間に誘導し、盾にしたのだ。
刺突、刺突、刺突。アオイが二匹を相手している間、俺は対峙する一匹に猛攻をかけ、倒しきった。ポリゴンもリザルト画面も見ずに背後を振り返り、アオイの救援に入ろうとした。そんな俺の目に映ったのは、アオイが二匹の攻撃を華麗に躱し、短剣で苛烈な反撃を加えている姿だった。二匹とももう瀕死だ。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。そんな言葉を脳裏に置きながら、思いっきり、ただただ槍を振るった。
「これで一個か」
「あと一つ?」
「……そうだな」
ここで下りてもいいが、≪花付き≫の出現確率が上がっていると考えるともったいない気がするな。欲を出すのはよくないのだろうが……
アオイの頭の近くにある緑色のゲージを見て、決断した。
「あと一つだ」
俺の≪索敵≫スキルを頼りに≪リトルペネント≫を探していると、プレイヤーの反応があった。二人。ここにいるということはβテスターの可能性が高い。というよりまだ初日だ。間違いないだろう。なら向こうもセオリー通りどちらかは≪索敵≫を取っていると予想できる。向こうも俺たちの存在は認識しているはず。
「前方にプレイヤーだ。二人」
後ろにいたアオイに言う。
「……どうするの?」
いまだアオイ以外のプレイヤーと出会ってはいない。いや、正確には出会ってはいるが関わっていない。他の人間はこの状況でどうするのだろうか?
……このデスゲーム。正直、あまり他人を信用すべきではないと思う。あまり関わらない方がいい、よな。そう判断して踵を返そうとしたその時。
大量の反応を≪索敵≫スキルが表した。
「なっ!?」
これは……あの二人が≪実付き≫を攻撃したのか?こんなところにいるのはβテスターだと思っていたが、運が良かっただけの初心者だったか?どちらにせよ、あの数じゃまずいんじゃないか?
「くそっ!」
「どうしたの?」
「……辺りがモンスターだらけだ。多分あいつらが実を攻撃しやがった」
何も知らないアオイに早口で言う。
「そう」
自分の身に危険が迫っているにも関わらず、アオイの声にも表情にも何の変化もない。
「ねぇ。どうするの?」
「……どうするって」
ここから離れる。それしかない。だろう。
「……逃げる」
けど。それでいいのか?本当に?
「そう。わかった」
アオイは是とだけ言って、今来た道を戻ろうと足を動かす。
「……何も言わないのか?」
聞くつもりなんて全くなかったのに。何故か勝手に口が動いた。その言葉は俺の支配下ではなく、アオイの背に降りかかった。アオイはゆっくりと振り返り、その黒の大きな瞳で俺の目を見つめる。
「ユーが逃げるって言ったんじゃない。ならそれでいい」
「っ」
なら。なら。
「なら……お前は俺が『一人で全部倒して来い』って言ったら行くのか!?」
馬鹿だ、俺は。そんなくだらないことが言いたいわけじゃないのに。
俺はあいつらを見殺しにしようって言ったんだぞ?それでいいのか?
お前はそれが正しいって断言してくれんのか?
「いいよ。ユーが望むなら」
了承。それは俺の言葉にか?俺の心にか?
葵の顔を見れなかった。下を向いて、葵の目を見ないように。落ちていた石ころに視線を固定した。
「ユー」
「……ごめん」
「何で謝るの?ユーがしたいようにすればいいよ。私はそれに従う」
「……俺がしたいように?」
「ユーはどうしたい?逃げる?戦う?」
見殺しにする?助ける?
目には見えない線。それを超えたくはない。英雄や勇者みたいなかっこいい存在じゃない。俺は所詮「そこそこ」だ。「まぁまぁ」だ。頑張って努力して、そこにしがみつく。
確かに今、俺は強いだろう。だがそれはβテストの時の経験と努力が反映されているだけだ。葵がいなけりゃすでに死んでた可能性だってある。そもそも街から出ていないかもしれない。
葵と二人で助けに行ったらおそらく助けることが出来るだろう。だがそれは見知らぬ人間のため葵を危険に晒すということだ。
デスゲームだからという理由で何もかもを割り切れない。狩場がどうのとか言っていた割に、いざ自分の手が届くところに何かあれば、おろおろと戸惑うばかり。多分これからもそうだろう。そう思っても、どうすればいいかがわからない。
葵を守りたい。死なせたくない。けど。断ち切れない。
「ねぇ。ユー」
この「ねぇ」は何の「ねぇ」だったか……
「そんなに考え込まないで。私が聞いてるのは『どうすればいいか』じゃなくて、『どうしたいか』だよ?」
「……俺がしたいこと?」
「そう。ユーは」
―どうしたい?―
「……助けに行きたい。だから助けに行く。お前にはついて来てほしくない。けどついて来てくれないか?」
「うん。いいよ。一緒に行こう」
俺は振り返り、足を進めた。声の聞こえたほうへ向かう。後ろからアオイがついて来る。
先程まで俺と葵の立ち位置がいつもと前後逆になっていたことに、気が付いた。
森を駆ける。あの二人のいるところまで距離はそこまで遠くない。熟練度が低い≪索敵≫スキルでも探知できる範囲なのだ。
「っ!?」
その途中。反応が一つロストした。間に合わなかったのか……?迷ってだらだらと足踏みしてたから?
「くそっ」
「ユー?」
「……急ぐぞ」
木々の間を駆け抜け、反応が密集している場所へ飛び出る。そこでは大量の≪リトルネペント≫と一人の少年が戦っていた。
少年は的確にモンスターの弱点を手に握った片手剣で斬り、突き、敵をポリゴンへと変えていく。その姿はこんな命のかかった状況下でかなり落ち着いているようにもひどく興奮しているようにも見えた。
「アオイ!」
アオイの名を呼び、少年の救援に入る。
少年は俺たちの登場に驚いたのか、それとも救援に入ってきたこと自体に驚いたのかはわからないが、目を見開いて俺たちの方を見た。
そのことで紙一重の戦いをしていた少年に隙が生まれ、≪リトルネペント≫が少年に襲い掛かる。
敏捷に秀でたアオイが真っ先にカバーに入り、少年を守る。それに続いて俺も少年を庇うように前に出た。
「大丈夫か!?」
「あ、ああ」
線の細い中性的な容姿の少年の無事な姿を見て、すごく安心した。
そして気づけば、三人のみがいた。自分の目も≪索敵≫スキルも少年とアオイの姿しか映していない。興奮からか、心臓が速く動いている感覚を覚える。仮想世界のリアリティを再び感じながら、木を背もたれに腰を下ろし、疲れきった自分を休ませていた。
「……助かった。ありがとう」
落ち着いた、小さな声で少年が言う。
「ああ。……すまない」
「……何で謝るんだ?」
「……一人助けられなかった」
「……あいつは――」
少年と共にいたコペルというプレイヤーは少年にMPKを仕掛けたらしい。MPKというのはMonster Player Killer―モンスターを利用した、殺人だ。コペルは≪実付き≫の実をわざと攻撃。自分は≪隠蔽≫スキルで姿を隠し、少年に集まったMobを押し付けようとしたそうだ。だが≪隠蔽≫はあくまで「姿を隠す」スキル。目がない、つまり視覚情報で敵を発見しない≪リトルネペント≫から逃れることはできない。
それを知らなかったコペルは、≪リトルネペント≫に殺された。
「……君は彼を恨んでいないのか?」
君を殺そうとしたのに。
「恨んでないよ……ここはそういう世界だ」
自分より年下だろう少年からそんな言葉が出たことに驚いた。
一方でそんな言葉を悲しげに言う、この少年は強くなる――そんな予感がした。
「……何で助けたんだ?」
何故か。それは。
「助けたい、と思ったからだ」
「……そうか」
それだけ言って少年はゆっくりと立ち上がり、コペルのものと思しき剣を地面に突き立てた。
「……あんたたち、名前は?」
「俺はユート。こっちはアオイ。そっちは?」
極度の人見知りのアオイは少年の前では話さない。アオイは黙って俺の隣に座り、ちらちらと少年の様子を窺っていた。他人に興味を示さないのに珍しい。
「キリトだ」
キリト。その名前は聞き覚えがある。β版では有名なソロプレイヤーだったはずだ。確か…ボスへのラストアタックをよくとっていた高レベルプレイヤーだった。まさか彼が自分より年下の少年だったとは。名前だけではわからないが、きっとこの少年がそうなのだろう、と何となく感じた。
静かに立ち去ろうとする少年に向かって声を掛けた。何故か掛けたくなった。
「……君はこれからどうするんだ?」
「一旦村に戻って先に進むよ」
「……最後に一つだけいいか?」
「ああ」
「君は…これからどうしたい?」
「俺は、強くなりたい」
「そうか……じゃあまたな」
俺の言葉に対し初めてほんの少しの明るさを顔に出して、少年―キリトは
「ああ。またな」
そう言った。
≪索敵≫スキルが遠のいていくキリトの存在を知らせてくる。
しばらくしてから、後ろを歩くアオイの存在を感じながら、村へ戻った。
―ホルンカの村―
クエストの達成報告をし、ボーナスの経験値を得た。その経験値で二人のレベルが上がり、ともにレベル3になった。だが、その喜びをかみしめることもしなかった。
「今日はもう休もう」
「うん」
アオイを連れて宿の部屋に戻る。節約のため部屋は一つしか借りていない。二つの簡素なベッドと木の机が置かれただけの部屋。
部屋についた途端、ベッドに沈み込み、すぐに目を閉じた。
2022/11/7 ―ホルンカの村 宿屋―
目を覚ますと隣のベッドにはアオイが寝ていた。朝の6時。いつもの時間、現実世界で起きる時間だ。
「……そうか」
学校はない。こんな時間に起きる必要などないのに、勝手に目が覚めた。アオイは寝ている。これも同じだ。現実と。
アオイをもう一度見てから静かにドアを開けて、下に降りた。
―ホルンカの森―
ポリゴンのエフェクトが視覚と聴覚に刺激を与える。
俺はアオイを置いて、一人でレベリングに勤しんでいた。昨日レベル3になったばかり。アオイが起きる前までにレベルを上げることは不可能だろう。
槍を振るい、≪リトルネペント≫を狩る。≪花付き≫ではない、普通の個体だ。敵はたったの二体。こちらも一人だが、昨日に比べれば随分と楽な戦闘だ。アオイとキリト。あの二人ならもうとっくに終わらせているだろう。
≪トワイス≫―槍が群青に光り、体が回転する。槍の刃先が二体の捕食植物にヒットし、そのHPバーを減らした。カシャアァンという音が重なり、二体の≪リトルネペント≫は四散した。
「そろそろ戻るか……」
午前8時。そろそろアオイを起こして、先に進もう。
踵を返し、一人で村に戻った。
―ホルンカの村 宿屋―
「アオイ。起きろ」
「ん……」
寝ぼけ眼をこすり、小さく欠伸をする。上半身だけを起こしたかと思えば船をこぎ始め、その長い黒髪をゆらゆらと揺らす。
「ほら。起きろ」
頭をガシガシと撫で、覚醒を促す。
「う……」
ゆっくりとベッドから立ち上がり、もう一度欠伸。
「……何時?」
「8時半だ」
「……そう」
「下で朝食を食べよう」
「……うん」
まだ若干夢の中にいるアオイの手を引いて、宿屋の食堂に向かった。
「もうBPは割り振ったか?」
俺は朝出かける前に済ませた。前と同じようにSTRに1、AGIに2。
「ううん。まだ」
「そうか。じゃあ今やろう」
「うん」
「じゃあ前回と同じで」
「わかった」
トントントン、と細い指が動き、止まる。
「できた」
「よし。それじゃあ行くか」
「うん。次はどうするの?」
「武器と防具を新調したい。少し大きめの町を目指す」
「わかった」
宿屋のドアを開け、明るい空の下に一歩踏み込んだ。
なんかいろいろ間違っていたので直しました。
追加しました。