彼と猫の世界   作:ノスタルジー

3 / 8
日曜に「ネギま」のほうを上げます。

あと2話を改定しました。

オリジナルが多いかもです。


彼と猫が迷子の招き猫に出会う話

 2022/12/2

 

 SAOがデスゲームと化してから一ヶ月。10000万人いたプレイヤーは8000人ほどに減った。約2000人がSAOからその存在を消したのだ。

 この1ヶ月の間。プレイヤーは様々な行動を起こした。

 これは、青年と猫が進む道に迷い込んだ、迷子の招き猫の話。

 

 2022/12/2  ―第1層 サイルの森―

 

「ギャーーーー!!!」

 静かな森に少女の悲鳴がこだました。

「何だ!?」

 近くにいたなら確実に耳を塞がねばならないほど大きな声。

 熟練度が初期に比べ上がった《索敵》スキルでも探知できないほど遠くからだ。

「ギャーーーー!!!こっち来るなーーー!!!」

 と思えば目に見えない所から大量のモンスターを引き連れ、近づいてくる誰か。俺たちは武器を構えてその存在を警戒した。

 

「うおぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 女性らしからぬ変わった雄叫びを上げて、目の前に飛び出して来たのは金髪の少女。俺たちの姿をその目に映すとまるで神を見た宗教家のような顔をして。

「助けてぇぇぇぇ!!」

 その後ろには大量の蜂型モンスターが羽音を立てていた。

 

 

 

 

「あぁ……はぁ……死ぬかと思った……危ねぇ~」

 金髪の少女は地面に仰向けに寝そべり、ぜぇぜぇと息を吐いている。

 その横では金色の子猫が惨めな姿の少女を見下ろしていた。

 信じ難いが少女のテイムモンスターだろう。

 

 《テイム》とはモンスターを自分の仲間にするシステムのことだ。SAOでは数十体の小型モンスターが《テイム》可能なモンスターとされている。

 時々出会ったモンスターが敵対行動をしないことがあるそうだ。その時に餌をやったりすれば《テイム》成功ということらしいのだが、β版、そして正規版で成功したという話は初めて聞いた。もちろんそれを見たのも。いつか見ることが出来るかもとは思っていたが、まさかこんな序盤も序盤で見ることになるとは。

 

 というのも《テイム》は確率が異常に低いのだ。そもそもアクティブモンスターが敵対してこないことなどまずない。おそらく0,00何%とかそんな確率だろう。

 それに餌など普通のプレイヤーは持ち歩かない。ストレージ容量を食うだけだ。それなら《回復ポーション》を一本でも多く入れる。

 

 そして、《テイム》成功者が第一層攻略途中で現れたことより異常なことは、その少女の《テイムモンスター》が超レアモンスター《ネルキティ》だったことだ。

 

 《ネルキティ》は上級プレイヤーなどには有名なモンスターだ。

 見た目はシンプル、ただの金色の子猫だ。角が生えてるわけでも、尻尾が二本あるわけでもない。名前からしてよく「寝る」らしいが。猫としては普通だろう。

 能力は最弱。≪始まりの街≫周辺に湧出する≪フレンジーボア≫よりも弱いらしい。らしい、というのは実際に戦った人間がいないから誰にもわからないからだ。

 ≪ネルキティ≫はSAOの説明書に登場する。その説明はこうだ。

 【金色の子猫。SAO内で最弱。逃げるだけ。見ることが出来た君はLucky!捕まえることが出来た君は超Lucky!!でも倒すと……】

 きっと、ろくなことにはならないのだろう。

 

 ≪ネルキティ≫の出現情報は全くない。説明書のモンスター紹介の欄には序盤の序盤のモンスターしか書かれていないため、第1層に出現することは確かだろうという話だったのだが、実際に見たプレイヤーはいない。

 

「あの~?ちょっと~?聞いてる~?」

 そんなモンスターをこの少女は≪テイム≫したというのだ。あり得ない、と誰もが言うだろう。先ほどまで惨めに地面に這いつくばっていたこの少女にそんな幸運があるとは到底思えない。

「あのー!ちょっとー!聞いてるー!?」

 ≪ネルキティ≫をどうやって捕まえたのか、そいつにどんな能力があるのか一プレイヤーとして疑問が尽きない。

「……あの……おらー!無視すんなーー!!」

 

 

 

「ごめんなさい~悪気はなかったんです~ついカッとなったんです~もうしません~」

 土下座する少女。何故彼女が土下座しているかと言えば、無視された怒りに任せて剣を振るった結果、アオイに取り押さえられ、ボコられたのだ。

 

「あぁ…いや、さっきはすまない。少し考え事をしてたんだ」

「いえ…こっちこそごめんなさい」

 そう言って立ち上がった少女にポーションを渡し、顔を見る。割と整った顔立ちに金髪のポニーテール。だがその顔はアジア系、というより日本人で間違いないだろう。

 

 まず気になったのは。

「その髪は?」

「え?あぁこれ?えへへ~いいでしょ~?」

 さっきの落ち込んだテンションは何処へやら。照れた様子で髪をいじってみせる。

「染髪アイテムを?」

「そ!何か適当にモンスター倒してたら3つGETしたのよ!白と緑と金ね!で!その中なら金髪がいいかなぁと思ったから金髪にしたの!!」

「へ、へぇ」

 染髪アイテムは序盤では割とレアなアイテムだ。1つあれば「なかなか運がいいな」と言われること間違いない。

 それを3つ。

 

「ね!ね!あんたたちの名前は?」

 明るい口調で話す少女。きっとこれがこの少女の素なのだろう。

「俺はユート。こっちはアオイ」

「ほうほう!ユートにアオイね!よろしく!」

「そっちは?」

 俺たちは名乗ったが少女は名乗ってない。

「え?」

 俺が名前を聞くと少女は目を泳がせて言葉を詰まらせた。どういうことだ?

「いや、あの~その~…あ、アーネ、です」

「アアネ?」

「違ーう!アーネ!いや!アーネじゃない!」

「は?」

 この子は何が言いたいのだろうか。

「間違えたの!Akaneって打ちたかったのにkが抜けちゃったのよ!何よ!?悪い!?」

「…いや、別に悪くはないが」

 おそらく少し頭の弱い子なんだろう。

 

 この出会いが俺たちとアーネの運命を変えていった幸運だったのだろうか。

 

 

 

 ―第1層 トールバーナ―

 

 ≪トールバーナ≫は大きな風車が立ち並ぶ中世ヨーロッパのような街並みの第1層最大級の街だ。アーネが「お礼する!!」と言って森から俺たちを連れ出し、連れて来た。

 森へ行ったのはただのレベリングだったので、特別用事のない俺たちはその好意に甘えることにした。決してアーネが「お礼!お礼!」とうるさかった訳ではないと彼女の名誉の為に言っておく。

 

「う~ん。どうしようかな?お礼って何がいい?お金?アイテム?ご飯?」

 何も考えてなかったのか…

「……そうだな…俺としてはテイムについて聞きたいな。つまり情報だ」

「え?そんなのでいいの?」

 頭の上に子猫を乗せ、驚いた顔で答えるアーネ。

「あぁ」

「ふ~ん。まぁいいけど…えっとね、この子はタマ」

 子猫を下ろし、抱き上げて俺の顔の前まで持ってくる。

「タマ」

 アーネと遭ってから初めて口を開いたアオイの言葉。

 単純にネーミングセンスを疑う。

「そ!2週間くらい前に道を歩いてたら、急に出て来たのね。それで持ってたカマボコをあげたら何かついて来た」

 何かおかしい?と顔が語っているが、おかしいだろう。そもそも何でカマボコを持ってるんだ……?

 

「ううん……やっぱりこんなんじゃお礼にならないでしょ?あたしに出来ることなら何でもいいから言ってよ」

 タマを地面に下ろし、真剣な顔で話すアーネ。確かに何の意味もない情報だったが、お礼が欲しくて助けたわけじゃない。

「……いや、これで十分だ。役に立つ情報をありがとう」

「え?う、うん?役に立つの?」

「あぁ。すっごく」

「そ、そうなんだ…ふうん。よくわかんないけど。すごい人はなんかに使えるのかな?」

 アーネは納得していないという顔をしていたが、黙った。

 その時。

「ねぇ。これちょーだい」

 いつの間にかタマを抱き上げていたアオイがそう言った。

 

「え?イヤイヤイヤイヤ!無理無理無理!!」

「何でもって言った」

「言ったけど!確かに言ったけども!!その子はダメ!!」

「何でもって言った」

「その子以外!それなら何でもするから!!」

「何でもって言った」

「だからぁ!その子は!……うぐぅ」

 不動のアオイに押され始めたアーネ。少し泣きそうな顔で俺の方を見る。仕方ないな…

「アオイ。テイムモンスターの譲渡は出来ないぞ。もし万が一アーネがくれるって言ってもシステム上不可能だ」

「そうなの?」

「あぁ」

「そう」

 アオイは心なしか残念そうな顔をして子猫をアーネに返した。ネコを腕の中に抱いたアーネは少し疲れた様子で。

「……欲しいアイテムがあれば言って。無かったらお金でいい?」

 俺は是と答えた。

 

 

 

 

 おかしい。

 このアーネという頭の残念だと思われる少女は絶対におかしい。

 この少女はMMOを全くしたことがなく、SAOの知識も無いらしい。MMOのマナーとしてレベルを聞くのは憚られるのだが、アーネは聞いてきた。俺もアオイも別に気にはならなかったので、普通に答え、アーネのレベルも聞きた。

 

 アーネのレベルは7。俺たちは11になったばかりで現在のトッププレイヤーは13とか14とかそれくらいだろう。7という数字は決して低くない。それはおかしくはない。

 おかしいのは彼女の持ち物だった。

 

 まず所持金がおかしい。8万コル。聞けば特にクエストなどもクリアしていないし、コルが大量に入った宝箱を開けたということもないらしい。

 そんな大金をどうしたのか、と聞けば「え?勝手に貯まったんだけど?」と不思議そうな顔で言ってくる。

 

 次に武器がおかしい。SAOでは武器の強化ができる。だが、その為に必要な素材はレアな物が多く、さらに強化すればするほど確率が下がる。つまり武器の強化は運がほぼ全てと言ってもいい。

 アーネの武器は両手用大剣≪バスターブレイド+7≫だ。≪バスターブレイド≫自体もレアなモンスタードロップ品。

 ≪バスターブレイド≫の強化試行上限回数は7。つまり7回の強化ギャンブルができるということだ。アーネが持つのは≪バスターブレイド+7≫―これはアーネは7回のギャンブルに挑戦し、全て勝ったということを意味する。

 

 そしてさらにアイテムがおかしい。1層の迷宮区以外で手に入るレアアイテムをほとんど持っていた。ドロップ確率が一桁のものばかりのはずなのに出るわ出るわ、レアアイテム。ヤバいプレイヤーに聞かれたら命を狙われるんじゃないかと本気で心配したくなるブルジョアっぷりだ。

 

 この少女の幸運値は一体どうなっているのか?何かのバグではないかと疑いたくなる。ふと、横を見るとアオイがじっとアーネの膝の上で寝ているタマを見ていた。

 

 

「え?タマを捕まえる前?」

 ≪ネルキティ≫がこの幸運の原因ではないか?

 そう思った俺はまともな思考回路をしているはずだ。だがアーネの答えはそれを無残にもショートさせた。

「う~ん……大して変わらなかったと思うけど?コルに関してはタマを捕まえたときは4万くらいあったし、アイテムとかもけっこういっぱいあったかな。何で?」

 何で?じゃねーよ。

 

 つまりこの金髪は≪ネルキティ≫を≪テイム≫してラッキーになったのではなく、≪ネルキティ≫を≪テイム≫できるほどラッキーだったということか。

 何だそれは?

 だが冷静に考えると≪ネルキティ≫って最弱なんだよな?

 こいつは運があるのか悪いのか。よくわからない。

 いやきっと運はいいんだろうな。

 

 

 あまりの幸運値の高さに軽く殺意を抱いていると

「で?そろそろ決めてほしいんだけど?」

「え?あ、ああ。そうだな。じゃあ≪フライビートルの羽≫を3つくれないか?」

 ≪フライビートルの羽≫は≪フライビートル≫が9%の確率で落とすレアドロップだ。俺の持っている≪ハードランス≫の強化素材なのだがなかなか集まらず困っていた。

「え?3つでいいの?5つあるし全部持って行っていいよ」

 アーネはそう言ってウィンドウを出し、≪フライビートルの羽≫×5をくれた。もらった身でありながら、何故かイラッときたことは顔には出さない。

「アオイは?どうするの?」

「私も?」

「そりゃとーぜんでしょ!私はあんたたち二人に助けられたんだから!!」

 威張ることじゃないだろう。

「……じゃあ?」

 俺の方を向いて疑問形で言うアオイ。

「……こいつには≪ヴェイルウルフの牙≫をやってくれ」

「おーけーおーけー!はいよ!!」

 アオイは≪ヴェイルウルフの牙≫×6を手に入れた。

 その後は適当に談笑し、フレンド登録をして別れた。

 

「じゃーねー!今日はありがとー!!」

 人が大量にいる街のど真ん中でそう言って大きく手を振る金髪の少女を無視し、アオイと共に宿屋に戻った。

 

 

 

「いい人たちだったね」

「……そ、そうだね」

「信用できない?」

「そ!そ、そんなこと…ない…と思う」

「ふふ。また会うかもね」

「け、けどあの人たちってトッププレイヤーだよ?」

「だね。レベルも10超えてたし」

「お、追いつけないよ。そ、それに今日だって危なかったし」

「大丈夫大丈夫。いつもあんな感じだけどいつも助かってるじゃん」

「そ、それはそうだけど……もうやめない?」

「え?なんで?」

「だ、だってやっぱり危ないよ」

「心配性だなぁ……大丈夫!君は私がもとの世界に帰してあげるから!!約束したでしょ?」

「う、うん」

「よーし!そうと決まれば、レベルアップを目指してーといきたいところだけどもう夕方だし、帰ろっか!」

「うん。そ、そうだね」

 金色の少女と金色の子猫が夕焼けに染まる道を歩いて行った。

 




ネルキティ…大体どのゲームにもいる金とか経験値を馬鹿みたいにくれるレアモンスター。
      すぐ逃げるから見つけてもエンカウントしにくいやつ。
      

モンスター名が思いつかなかったので、かなりダサくなってしまいましたがちゃんと意味づけしているのでいいかな。
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