もし万が一待ってくださっていた方がいれば申し訳ないです。
今までの話を改定しました。
文の量を少し増やしています。
大幅な変更等はありません。
2022/12/12
第二層居住区―ウルバスの街。そこにあるNPCレストランで俺とアオイは一人の女性プレイヤーと会っていた。
「うぅぅ……めそめそ」
机を挟み、俺たちの前に座るのは金髪ポニーテールの快活な少女―アーネである。子猫は彼女の膝の上で気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てている。一方、その飼い主はいつもの元気が何処へやら。ぐすぐすと鼻を鳴らしながら出されたスープを飲んでいる。
「ぬるぬるだった……ぬるぬるだった……私、汚されちゃったよぉ……もうお嫁にいけない……」
何故彼女がこんなに泣いているのかと言えば、≪ウルバス≫から西に向かって数十分歩いた場所にある峡谷、そこにある橋から落ちたからだ。もちろん普通の橋から落ちたくらいではアーネもここまで落ち込まないのだろうが、その橋の下、つまり谷底にはスライム系のモンスターがわんさかいるのだ。アーネはそこに見事にダイブしたというわけだ。男の俺でさえ想像しただけで気持ち悪いのに、年頃の少女が受けた精神的ダメージなど計り知れない。
「そうか……残念だったな」
永遠に独り身。ご苦労さん。スライムに関しては同情するが、それに関しては俺がかける言葉なんてない。
「ユート……もし将来お嫁に行けなかったら…私を貰ってくれ――」
―――シュバァ!!
アーネの声を遮るようにSAOに来てから何度も聞いた音が近くで鳴った。その音は短剣や細剣などの小型武器がソードスキルを発動したときに鳴る鋭い音とよく似ている。というかそれだった。
「ひぃぃぃぃっ!?ご、ごめんなさい!ごめんなさい!出来心だったんです!右手が勝手に動いたんです!!」
現実世界ならペチペチと音が鳴っているのだろう、アオイの持つ短剣の刃の腹がアーネの頬をリズミカルに叩いている。どうもアオイはいたくアーネを気に入ったようだ。俺としてはアーネの右手にどんな怪物が封印されているのか、興味は尽きないが、あえてそこには触れないでおこう。
「はぁ……」
溜息をつきながらも俺の口はにやけているんだろう。自分でもわかる。アーネの馬鹿を見てるとSAOのなかでも楽しくやっていけるような気がする。そんな魅力が平謝りをしながら飲みかけのスープをアオイに献上しようとする少女にはあるようだ。
アーネと再会してから4日が過ぎた。その間俺たちは常に一緒にいるというわけではなかった。≪体術≫スキルを取って帰ってきてから一度別れた。その後は時たま会って一緒に狩りに行くという関係性だ。今はその打ち上げといったところだろうか。
レストランの喧噪に交るアオイとアーネの声。というよりほぼすべてがアーネの喚き声。その決着はアーネの「なんでも三品奢る!」という涙交じりの声によって着いたようだ。アーネの懐事情からして大したダメージではないだろうし放っておこう。
「いやーそれにしてもあの時は焦ったわね!変な蛇みたいな虫が出てき……って!そうよ!何であのときすぐ助けてくれなかったの!?」
「変な蛇みたいな虫」とは≪ジャグド・ワーム≫のことだろう。のこぎりのようなギザギザの長い体を持つワーム系モンスターだ。アーネの落ちた谷底から脱出するためにはそこから南にかなりの距離を移動しないといけないのだが、ここ二層の南エリアには≪ジャグド・ワーム≫という高レベルモンスターが存在している。
アーネは見事にそいつを引っ張ってきてくれた。アーネが言っているのは、俺たちがアーネなら何とかしそうという予想の下、少しの間放置していた時のことだろう。
「獅子は千尋の谷に我が子を突き落すって言うだろ?」
とりあえず適当に喋っておこう。少し難しい言葉を使えばすべてが解決するというのが、ここ数日で俺たちが学んだ「アーネのあしらい方」の一つだ。
「え?あ、ああ言うわね!獅子8センチの谷に我が子を突き落すって!!」
言わねーよ。8センチなんて猫の赤ちゃんでも余裕だ。
「ふふん!」
ドヤ顔。「難しい言葉、私知ってますよ?」と顔に書いてある。果てしなくうざい。
もうこいつと話したくないという顔で隣に座るアオイを見てみれば、何の興味もないくせに人間観察に興じていやがった。
「ちょっといいか?」
食事を楽しんでいた俺たち三人のテーブルに近づいてきた影がそのまま声を掛けてきた。見上げてみれば、そこには一層ボス攻略の時に見た顔―ディアベルの仲間であったリンドという男。最初にキリトを糾弾した奴。
「ええ。構いませんよ。何でしょうか?」
表面上はウェルカムな雰囲気を醸し出しながらも、内心はあまりお会いしたい人ではないなと思っていた。特別彼のことが嫌いとか苦手というわけではないが、あの一件以来、好きにはなれそうにない。それに彼が何しに来たかわかるからだ。
「一層の時はどうもありがとう。俺としたことが礼を言うのを忘れていてね」
ディアベルを彷彿とさせる爽やかな笑みを携えて話すリンド。
「いえ、僕たちにできることをしたまでです…こんなところまでそれを言いにわざわざ?」
そんなわけはない。
「礼をするというのも目的の一つだが、もう一つあってね。率直に言うと――俺たちの仲間にならないか?」
予想通り過ぎるな、リンド。
「……申し訳ないですが、お断りします」
努めて申し訳なさげに拒否する。仲良くはしたくないが、仲違いもしたくないからだ。
「……理由を聞いても?」
リンドは爽やかな笑顔を凍りつかせて言う。キバオウのところに行く気じゃないだろうな、という副音声が聞こえる。
現在、リンドとキバオウはトッププレイヤーたちの2大リーダーとして、その地位を盤石なものにせんと行動しているようだ。互いにライバル視する彼らはトッププレイヤーたちがライバル集団に加入することを恐れている。俺たちも一応はトッププレイヤーの一員なので、お声がかかったのだろう。予想より遅いのは、あの師匠NPCのせいだ。
「…ええ、こいつが重度の人見知りなもので…」
そう言って、リンドから見れば俺の後ろにいたアオイを前に押し出す。アオイは俺とリンドの間に立った瞬間、素早い身のこなしで俺の後ろに舞い戻ってきた。
アオイは確かに人見知りだが、ここまでひどくはない。素が二割、演技が八割といったところか。
「昔いろいろありまして…特に年上の男性が苦手なんです……ギルドやパーティを組むのは……」
アオイは俺の後ろに隠れてビクビクと震えている。これは十割で演技だ。もちろん昔も今も何もなかった。
「……そうなのか…怖がらせてしまって申し訳ない…では、俺はさっさと失礼することにしよう」
そう言って爽やかに去っていくリンド。この調子ならキバオウのところにも行くことはない、と考えたんだろう。その背中を見送った後、アオイに声をかけた。
「ごくろうさん」
すぐに俺のやろうとしていることを読んで行動したアオイ。艶のある黒髪を撫でて、労いの言葉をかける。
そして、気づけば子猫と共にアーネの姿が消えていた。
2022/12/13 ―ウルバス―
「アーネの奴どこ行ったんだ?」
昨日、姿を消したアーネ。アーネとはパーティを解消していたため、あいつが何処に行ったのかはわからない。≪ウルバス≫に宿を取っていると言っていたので、おそらくはここにいるんだろうが……
「…まぁ、また会うだろう」
あいつが俺たちに会いたいと思ってくれれば、会うことになりそうだ。何せラッキー少女だからな。しかし、いきなり姿を消したということは何か気に障るようなことをしたのだろうか、俺たち。思い当たることが多すぎてわからない。
「ねぇ、ユー。ボスは?」
考え事をしていた俺を引き戻すようにアオイの声。どうもボス戦へ行きたいらしい。
すでに最前線プレイヤーたちは第二層の迷宮区を探索し、ボス一歩手前まで到達したそうだ。おそらく明日か明後日にはボス攻略戦が行われるだろう。
「…行きたいのか?」
答えを知っていながら、尋ねた。
「うん」
俺としては自分とアオイが死なないような力さえあればいい。ボス攻略で得られる経験値やアイテムはそこまで必要ではないし、他の皆をこのデスゲームから助けてやろうなんて気概もない。きっと誰かがクリアしてくれる――多くのプレイヤーが抱いてる思いを俺も抱いている。
「アオイ…正直、俺はもうボス戦に出たくない」
第一層でもうこりごりだ。アオイに流され、空気に流され参加した。ボスへの恐怖心もそうだが、あの出来事も俺の足を鈍らせている。
「そうなの?」
疑問形。小首を傾げて尋ねてきた。
「…どういう意味だ?」
「あの時も今もユーは出たがってると思ってた」
そんなことはない、と言いたかったのに口が動いてくれなかった。
「ねぇ…ユー聞いてもいい?」
どことなく恐る恐るという風にアオイが聞いてくる。
「…何だ?」
「ユーは私が現実に帰りたいって言ったらどうするの?」
「え?」
葵が現実に帰りたいって言ったら。そんなこと考えたこともなかった。こいつは帰りたいんだろうか。本心を悟らせないアオイは心の奥でそう思っているんだろうか。もしそうなら。
あれ?どうするんだろうか、俺は。
俺が現実に帰してやるよって意気込むか?宥めすかして誰かがクリアしてくれるのを待つか?
―ユーはどうしたい?―
俺はどうしたいのだろう?生きたい?守りたい?助けたい?
俺が本当にしたいことって何だ?一番したいことって何だ?
「俺は…」
何も考えずに喋ったら本心が出るのだろうか?
口を動かせばわかるのだろうか?
「……俺…は――」
「ごめん、ユー。意地悪言った」
ハッと意識が戻る。街のガヤガヤとした喧噪が耳に入ってくるのを感じた。俺はどんな顔をしていたのか自分ではわからないが、アオイの心配そうな様子を見ると、いわゆる思いつめた表情という奴をしていたんだろうか。
「今はいい。けど、いつかきっと、ユーはヒーローになる」
その言葉がゆっくりと耳に入り、脳に刻まれる。葵の黒髪が風に吹かれて、さらっと靡いた。青い空の下。全く対照的な黒色を見て、俺の心は幽かに揺れた。
次の日。第二層ボスは倒され、第三層へのゲートが開いた。
2023/1/4 ―第5層 ロービア―
SAOがデスゲームと化してから約一か月が過ぎた。トッププレイヤーたちは一層あたり一週間ほどと、なかなかのスピードで攻略を行っている様子。俺たちは前線を早くも前線を退き、レべリングやらアイテム集めやらで日々を費やしている。単純にすることがない、という理由もあれば、前線を走る彼らに置いて行かれるのが怖いという理由もある。
そんなことをしているなら前線に来いと言われたこともある。だが、行っていいのかがわからない。頭でっかちな俺は何も考えずに行動するということができない。考えて迷って惑ってでも物事を決めないと動けない。今はもうどうすればいいかがわからない。だから、俺はアオイを連れて前線を退いた。
「うまいな、このレストラン」
「うん」
とあるNPCレストランで昼食を食べる。出されたポークソテーを口に。現実をまねているのか、NPCレストランには当たり外れがある。うまい店もあればまずい店も。実際に入ってみて食べないと判断はつかないため、アオイが見つけてきたこの店は当たりだったようだ。正面に座るアオイは白身魚のムニエルを食べている。心なしかうれしそうだ。
SAOでの料理は食材アイテムを用いて行われる。一般的な「豚肉」や「魚」というものは存在せず、「スティッフ・ピッグの肉」といったMobから取れる食材もあれば、「ツインキャロット」など畑で採取できる食材もある。
ちなみに「スティッフ・ピッグ」は第四層に湧出する小豚で、プレイヤーの姿を見ると驚いて硬直してしまう。攻撃も逃走もしないため、誰でも簡単に倒せるが、倒しても経験値やコルはほとんど手に入らない。言い方は悪いが食材アイテムをドロップするためだけに存在するMobだ。こういったMobは他にも時たま登場する。それぞれレア度によってランク付けされていて、S級食材と呼ばれるレア食材アイテムは頬が落ちるくらいうまいらしい。いつか食べてみたい。
「今日はなにするの?」
食事を終え、レストランを発つ前に休憩をしていた時。アオイがそう聞いてきた。
「そうだな…今日は買い物でもするか?」
ここ第五層集住区ローピアには多くのプレイヤーが店を開く市場のようなものがある。まだ店を始めることができるほど職人プレイヤーたちのレベルは高くないのか、それほど多くの店はないが、NPCのショップと合わせれば現実の小さな商店街くらいの規模はある。
「ねぇ、ユー。私ナイフが欲しい」
その言葉だけを聞けば物騒すぎるな。
アオイが言うナイフは短剣のことではなく、投げナイフのことだろう。アオイはレベル10で増えたスキルスロットに≪投擲≫を追加していた。アオイのお気に入りだが、最近になって本格的に使い始めたスキルだ。≪投擲≫したアイテムは不便なことに返ってきたりはしないため、自分で拾うか諦めるしかない。戦闘中に拾うのは難しいし、外れて遠くに飛んで行ったアイテムを拾うのは一苦労。普通は使い捨てのアイテムを≪投擲≫することになる。まぁ何が言いたいかといえば、ずばり金がかかる。今まで碌に使ってこなかったのは金がなかったから。
とは言っても。我が幼馴染様はほとんど外さないし、外しても戦闘中に華麗に拾ってくるからそこまで財布を圧迫しないのだが。それでも金がかかることに違いはない。
「う~ん」
現在の経済状況を考える。普通のやつならいいのだが、アオイが言うナイフはオーダーメイド。高い。高いのだ。その分、性能がいいのは認めるが、値段が高い。俺は太っ腹な性格ではないため、ここで「よし!いくらでも買ってやる!!」とは口が動いてはくれない。いつか「甲斐性なし」と言われそうだが、ただ単に人にではなく財布に優しい男なのだ、俺は。
「ねぇお願い」
甘いな、アオイ。お前とどれだけ長い付き合いをしていると思っているのか。初対面、かつ女に耐性がない奴ならその上目使いでノックアウトだが、俺はもはや慣れた。
「仕方ないな、五本だけだ」
慣れただけだ。
前日に第四層からのゲートが開通し、「この調子でどんどん攻略だ」という活気があふれているのが目に見えてわかる≪ローピア≫の街。
NPCの店に交じって露店を始める見習い職人プレイヤーたちの姿が見える。多くは男性で、社会人といえる年の人が多い。俺たちのような若者は戦闘職に就くか、街に引きこもるかの二極化しているのだろうか。現実を見た選択をするのはやはり大人だと思う。
「はいよ」
「ありがとう」
とある職人プレイヤーの店。何回も投げナイフを作ってもらっている彼は俺たちの姿を視認すると「またか」という心の声を表した苦笑いで迎えてくれた。
「彼女へのプレゼントとしては色気がないんじゃあないか?」
受け取った投げナイフをアオイに渡すと、そう話しかけられた。
「ははは…」
彼女ではない。それに女性に渡すプレゼントとして投げナイフを選択する奴がどこにいるのか。いや、お互いにプレゼントだとは認識してはいないけども。傍から見るとそう見えてしまうのだろうか。
「ここの五軒くらい右隣りに新しく細工師の女の子が店を開いたんだ。彼女へのプレゼントに指輪でも買ってやったらどうだ?」
「細工師ですか…」
指輪ということは≪金属細工≫か≪宝石細工≫のスキルを持った職人なのだろう。もしかしたら両方かもしれない。
細工師は序盤ではあまり重宝されない職人だろう。なぜならステータスアップを一番に考えるなら武器や防具を新調するのが一番だからだ。細工師に金を払うくらいなら武器屋や防具屋に通う。だが、金に余裕が出てくると話が変わってくる。
細工師が造る指輪やネックレスなどの補助装備は色々な特殊能力を持っている。ステータスアップをしてくれるものもあれば≪毒軽減≫などの状態異常軽減・無効化系の能力や≪幸運補正≫といった普通の装備ではゲットできない能力を持つものもある。上の階になるほど単純な攻撃力、防御力で片が付かないMobが増えるため細工師は活躍するようになるのだ。
「顔だしてみるか?」
アオイに声をかけてみる。
「うん」
すると少し弾んだ様子で肯定の返事を返した。アクセサリーなんて全く興味ないくせに。残念ながら誰も買ってやるとは言ってはいないので、期待されても困るのだが。
「いらっしゃーい!」
俺たちの目の前には朗らかな関西弁を話す少女。二つくらい年下だろうか、黒い肩までの長さのおかっぱ頭にキリッとした釣り目が特徴的な整った顔。そこに人懐っこい笑顔を浮かべて歓迎の意を示してくる。
少女は≪ベンダーズ・カーペット≫という紅い絨毯のような「露店」を作り出すアイテムの上に行儀よく正座し、手遊びに細工道具らしきペンチのような物をくるくると回している。
「お?おにーさんらカップルか?ふぅん……彼女さんへのプレゼント買いに来たんか?」
朗らかな笑顔を少しニヤニヤしたものに変え、そう切り出した少女。
ここで肯定すれば確実に何か買わされる――瞬時にそう判断した俺は彼女の言葉を否定しようと口を動かした。が
「これなんかどうや?おねーさんはAGI特化のビルドやろ?攻撃力に心配があるやろうから、クリティカル補正がかかる指輪や」
有無を言わさぬ関西弁がアオイに襲い掛かる。人見知りのアオイは相手が年下の少女とはいえ、話しかけられてもうまく返せないだろうと思っていたのだが。
「ううん。もっと速くなる奴が欲しい」
普通に会話していた。
「え?AGI強化か?そんなら…これなんかどうや?」
細工師の少女が取り出したのは、シルバーのリング。蒼の紋様が少し描かれたもの。
「AGIにプラス3の補正。おまけにSTRにもプラス1の補正がかかる指輪や」
序盤のものとしてはなかなかいいアイテムではないだろうか。二種のステータスに補正がかかる。序盤はそれほど状態異常を振りまいてくるMobはいないため、どちらかといえばステータス強化のアイテムの方がありがたい。
「お~」
キラキラした目でこちらをちらちらと見てくるアオイ。煌びやかな商品棚の向こうではこちらをニヤニヤとした顔でこちらを見てくる少女。
「……これください」
男の性。
「毎度!!」
あぁ……その可愛らしい笑顔が憎らしい。
「こんな美人な彼女さんゲットしておにーさん幸せもんやなー」
商品を受け取り、代金を支払った後。少女はそう話しかけてきた。関西人というものはおしゃべり好きというだというイメージは真実のようだ。
「……彼女じゃあないけどな」
「え?そうなんか?」
「幼馴染だ」
「ほーなるほどな。で、今狙ってると」
誰もそんなことは言っていない。だが、ここでいらないことを言い、葵の機嫌を損なえばまた何か買わされると予想した俺はだんまりを決め込むことにした。
「ふふ…じゃあ気を引くためにこれからもいろいろプレゼントせなあかんなぁ」
俺のその沈黙を「恥ずかしがったから」と取ったのだろう。そんなことを言いだした少女。
「……常連候補には何かサービスはないのか?」
せめてものお返しだ。
「サービスね……ええで?ほんならこの後、ウチとデートしよか?」
はい?
「ウチみたいな美少女とのデートは素晴らしいサービスになるやろ?」
「……さてと、さっきのクリティカル補正のかかる指輪ももらおうかな」
何故俺がそんなことを言い出したかなんて言うまでもない。背後からのプレッシャーを感じ、自己防衛の観点から適切な判断をした結果だ。
嵌められた。この状況を予測し、ケラケラと笑う少女には商才があるのだろう。こんなものが商才だとは信じたくはないが。まぁ商才云々はともかく、この少女はよく人を見ている。
「ありがとー!!」
満開の花のような笑顔。指輪を受け取り、アオイに渡そうとした俺の目には買ったもの以外にもう一つ違うアイテムが送られてきた。指輪。
「これからも贔屓にしてな」
そう言って、少女は少し大人っぽく笑った。
俺がもらった指輪を見る。彼女の手作りであろうそれはAGIとSTRにそれぞれプラス2の補正がかかる一品だった。装備や立ち振る舞いから俺のビルドを予想してこれを選んだのだろう。どうにもやんちゃそうに見えてしっかりした子のようだ。
そういえば彼女の名前を聞いていなかったな。沈んでいく夕日の光。指輪がその光を反射した。