彼と猫の世界   作:ノスタルジー

8 / 8
感想、評価等頂いてありがとうございます。
思ったより高い評価を頂いていて驚きました。

ヒロインは四人の予定。
勉強のためにギャルゲーを今していますが、「ギャルゲー風」をうたうなら個別ルートとか用意するべきなんでしょうか?
基本考えなしなので、ご意見を頂けたらありがたいです。




彼と猫と二人の話

 2023/1/4 ―第5層 フィールド―

 

 

 第五層のMobの多くは悪魔のような外見が特徴的だ。街は中世ヨーロッパ風で他の階層よりは少し薄暗く、フィールドは荒れ果てた荒野のような場所が一面に続いている。街から遠ざかれば緑はほとんどない。

 第三層から解禁された≪ギルドシステム≫により、いくつかのギルドがさっそく立ち上がった。キバオウやリンドもそれぞれギルドを作り、攻略メンバーの一角として戦っているらしい。この五層ではトッププレイヤーたちの仲間入りを目指すプレイヤーやギルドが日々レべリングに励んでいる。

 そのレべリングに勤しむプレイヤーたちの中に混ざろうと俺たちもフィールドに出た。夕食までの数時間、荒野を走る黒い猪を狩る。予定だった。

 

「思ったよりも多いな」

 Mobがではない。プレイヤーが、だ。街から近いということもあってかプレイヤーの姿が多い。街が走るとすぐに入れる場所にあるというのは、非常に安心できる要素だろう。

 ≪ギルドシステム≫の出現からどうにもプレイヤーたちは街の外に出て行く機会が多くなった気がする。ギルドを作るのも入るのも難しくはないため、攻略に意気込む戦闘職のプレイヤーの多くはどこかのギルドに入るのが普通だ。ギルドに入った彼らは仲間がいるという心強さを覚え、剣を振るう強さを得たのだろう。

 

「ねぇ、どうするの?」

 一つの狩場に幾つものパーティがいるのは問題が起きやすい。だが、ここは見晴らしのいい荒野。距離感は掴みやすいため、そうそう問題など起きないだろう。今日はここでいいか、と思った矢先。β版の時の知識をふと思い出した。

 そういえば五層は≪ローピア≫の近くにいい狩場があったな。βでは≪幽霊屋敷≫と呼ばれていた。≪幽霊屋敷≫とはいっても、五層ではゴースト型のMobは出ない。十層でも出現情報は聞いたことがなかったため、おそらくそれ以上の階で出るのだろう。五層の≪幽霊屋敷≫は単にそれっぽいからという理由で誰かが名付けたのだ。

 あそこの主なMobは悪魔型Mob≪グレムリン≫だ。SAOに登場する悪魔型Mobの基本系と言っていいのだろうか、漫画などに登場するような濃い緑色の身体に獣のような顔。攻撃方法は爪でひっかいてくるか飛び掛かって来るかの二択。ソードスキルも使ってこない楽な相手。≪幽霊屋敷≫には大量に出てくるためレべリングには最適。

 

「少し歩くけど、いいか?」

「うん」

 五層にはおととい来たばかりで忘れていた≪幽霊屋敷≫の存在。おそらくテスターたちはいないだろう。彼らは最前線にいるから。少し辺鄙なところにある≪幽霊屋敷≫を自力で発見する奴は少ないはずだ。狩場としてはいい場所だろう。俺はそこに行くことを決めた。

 少し夕飯が遅くなるかもしれないな。などといたって普通の思考で、足を進めた。

 

 

 

 五層の中心に位置する≪ローピア≫の街を南東に進む。迷宮区は北の方向にあるため、この方向は攻略のことだけを考える人間には関係のない場所に向かうことになる。二十分ほど歩くと森が見え始めた。草木が茂る大森林といった風ではなく、痩せているとでも言えばいいのか、木々に元気はないように見える。

「あと十分くらいか」

 この森の中を歩いていくと≪幽霊屋敷≫がある。何の目印もなくポツンと建っているだけなので、普通はなかなか見つけられない。だが、俺はテスターとして大体の位置を把握しているので問題はない。

「行くぞ」

「うん」

 アオイに声をかけ、森に足を踏み入れようとしたその時。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 聞き覚えのある馬鹿っぽい悲鳴が耳を打った。

 

 

 

「危ねーマジ危ねー」

 すがすがしい顔で額の汗を拭う金髪の馬鹿。SAOでは汗など流れないため、彼女の行動は何の意味もない。一方でアオイはアーネ、というよりタマを見つけるとじゃれ合い始めた。気ままだ。

「お前……何してるんだ?」

 俺はアーネにそう尋ねてみた。そもそも何故こいつが俺たちの前に現れるときはいつもその前に悲鳴が聞こえるのか。

「何って?」

 きょとん、と首を可愛らしく傾げ、馬鹿をアピールするアーネ。こいつが馬鹿でなかったら単に可愛らしいで終わるはずだったのに、残念な奴。

「何は俺の疑問だ。もう一度聞くがここで何してるんだ?」

「え、え~と…その…あれよ……人生という道に迷ったのよ!!」

 ビシィという擬音がよく似合う、素晴らしい指さしだ。人を指さすなとは習わなかったのだろうこいつは。もしくは習ったが忘れたかのどちらかに違いない。

 どこかで聞いたような言葉。おそらくアーネ自身もどこかで聞いたことがあるのだろう。記憶から適当にひっぱり出してきていると予想。きっとただの迷子なのだろう。愉快な構造の頭だ。

「それは大変だな。で?正しい道は見つかったか?」

 とりあえず面白そうだから乗っておこう。

「え?……ま、まぁね、私くらいになると正しい道の一本や二本すぐに見つかるってものよ!!」

 自慢げに語るアーネ。正しい道が二本あってもいいのか、人生。何だか深いことを言っている気がしてムカつく。

「そうか、ならその道を辿って行け。俺たちは俺たちの道を進むことにする」

 馬鹿に合わせて馬鹿なセリフを言ってやる。その言葉が聞こえたのか、タマと戯れていたアオイがこちらに来る。アオイを連れて森の奥に進もうとすると背後から焦ったような声が聞こえた。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」

「何だ?」

「えっと…あ、あれよ!助けてもらったお礼!お礼する!だから街に帰ろう!!うん、それがいい!!……ヤバい…私って天才?くふふ」

 急に焦りだして、勝手に納得し始めた。全て聞こえているし、心の声までも手に取るようにわかるのは俺だけだろうか。

「じゃあな」

「え!?ちょ、ちょっと!お礼!お礼するから!!帰ろ!!」

「また今度でいい」

「今日!今日じゃないとダメ!ダメなの!」

「へぇ、何でだ?」

「え?そ、それはその……きょ、今日は私の誕生日なの!!祝って!!いや、祝え!!」

「……本当か?」

「嘘!!…あ……ま、待って待って待ってー!!ごめんなさーい!!」

 

 

 

 ―2023/1/4 第5層 ローピア―

 

 

「いやーほんとに助かったー道にまよ、じゃなくて……お、おいしわねー」

 まだ隠し続けるつもりなのだろうか。「お前が道に迷って帰れなくなっていたということはわかっている」と言ってやるのも一つの優しさかと思ったが、必死に隠そうとするアーネの姿が滑稽なので言わないことにする。

 

 ローピアの街のレストラン。昼とは違う場所だ。アーネに適当に道案内させて入った。かなりの「当たり」だと言える。流石。

「久しぶりだな」

「う、うん。そうね」

 俺の言葉を聞いて返事は返すものの目を逸らし、どこか罪悪感を露わにするアーネ。おそらく前に急に姿を消したことを悪いと思っているのだろう。俺はそんなことを糾弾するつもりなんて全くなかったが、「何故?」とは思っていた。「何か悪いことをしたのならこちらも謝らないといけない」とも。

「……何で急に消えたんだ?」

 俺がそう切り出すとピクッとアーネの肩が上下した。怒られると思っているのだろうか。できる限り優しく声を続けてみる。

「心配したんだ。急にいなくなるから」

「ご、ごめんなさい」

 ペコリと金髪を縦に揺らす。

「何か気に障るようなことをしたのか、俺たち」

 アオイもどこか心配そうに、タマとじゃれ合うのを止めて耳を傾けている。

「ううん……そういうわけじゃなくて……」

「なくて?」

 歯切れの悪いアーネ。いつもとは随分違う。目を泳がせて合わせない。どうも怒られているという意識が強いように思える。

「ユートたちに話しかけてきた人……トッププレイヤーの人だったし、二人はその人からパーティに誘われるようなすごい人だったんだって知ったら……私…場違いかなって」

 そんなことを気にしてたのか、こいつ。

「アーネはトッププレイヤーになりたいのか?」

 前線一歩手前にいるんだ。しかもソロ。アーネにもそんな意志があるのだろうか。

「ううん…そうじゃない」

 俺の質問に首を振って否定の意を示す。そして

 

 ――私はこのゲームをクリアしたいの

 アーネはしっかりと俺の目を見て、そう言った。

 

 

 

 

 ―2023/1/5 第5層 ローピア―

 

 

 翌日。朝。俺たちはアーネを連れて≪ローピア≫の街を歩いていた。≪幽霊屋敷≫に行くため。昨日の彼女の、彼女らしくない姿に心打たれたのか。わからない。気づけばアーネを誘っていた。ただのレべリングにアーネがいても全く問題はないし、アオイも何も言わなかった。そういえば、アオイはどう思ったのだろうか。とふと思った。

 

 ―ユーはどうしたい?―

 

 ―私はこのゲームをクリアしたいの―

 

 昨日のアーネは確固たる意志を持っていた。真剣な顔、真っ直ぐな目。アオイの問いから逃げている俺とは違う。何故それを目指しているのかは知らない。それは、何か重いものが彼女の中にある気がして、聞けない。

振り返ると後ろを歩く二人。その小さな体がどうにも大きく見えて、また前を見た。

 

 

 

「何や何やー?昨日彼女に指輪あげたのに、今日は違う人も連れて。おにーさん二股はアカンなぁ」

 三人と一匹。歩く俺たちに聞こえたのは昨日聞いた関西弁だった。いつの間にか露店が立ち並ぶ大通り。横を見れば、アクセサリーが並んだショーケースの向こうで細工師の少女がニヤニヤと笑っている。

「ん?何や見たことある馬鹿面やなー思たら、アーネか」

「誰が馬鹿面だー!?ケイ!あんた年下のくせに年上に対する敬意が足りないのよ!!」

 細工師の少女―ケイと呼ばれた彼女はアーネの姿を見ると、笑顔をうんざりしたものに変えた。どこでもそういう反応されるんだな……

「……ごめんなーアーネおねーちゃーん」

「ムキー!またそうやって馬鹿にするー!!」

 明らかにアーネで遊んでいる様子のケイ。その様子を見るに

「二人は知り合いか?」

「そうよ!こいつとは……どういう関係?」

「はぁ……前にフィールドでモンスターに追われてたんを助けたったんや」

「そ、そう!助けた人間と助けられた人間の関係よ!!」

 何でお前が偉そうにするんだ…?アーネの後ろではケイが溜息を吐き、首を横に振っている。俺もそうしたい気分だ。

「おにーさんらこそアーネと知り合いやったんか?」

「ああ。助けた人間と助けられた人間の関係だ」

「そうかぁ……それはご苦労様やなぁ」

 重みのある言葉。

 

 

 

「ウチはケイ。ご存知の通り≪金属細工師≫や」

 赤いカーペットの上に行儀よく正座して、ケイはペコリと頭を下げた。一見、破天荒そうに見えるケイだが、一挙手一投足が上品だ。もしかしたら所謂お嬢様なのかもしれない。などとどうでもいい感想を抱いた。

「俺はユート。こっちはアオイ。前にも話したが幼馴染だ」

 何度も言う。幼馴染。ケイは何も言わずニヤニヤした笑顔で俺たちを見る。一方でアーネは「へぇー幼馴染だったんだー」と至極普通のコメントをしていた。

「あれ?そういえば…ケイって剣士じゃなかった?」

 思いついたようにアーネが言った。ケイは馬鹿を見る目というのはまさにこの目のことを言うのだろうと思わせる目をアーネに向ける。

「……前にメッセージ送ったやん。店開いたから来てやって」

「そだっけ?」

「鳥頭」

「はぁ!?誰が鳥よ!?こんなカラフルな頭の鳥がいるかー!!せめて虎にしなさいよ!!百獣の王!!」

「…鳥頭」

「しつこい!!」

 

 仲いいな、こいつら。年が近いというのもあるんだろうが相性がいいという理由もあるのだろう。会ってそう時間も経ってないだろうに、まるで現実でも友人関係だったようにも見える。

「そういえばユート…はんらはウチの指輪つけてくれてるんか?」

「ああ。もちろんだ。それと、『はん』やら『さん』やらは別につけなくてもいい」

 大して年も変わらない。一つか二つくらいだろう。俺は先輩後輩関係を意識するような体育会系ではない。

「そうか?そんならお言葉に甘えて、ユート」

「ん?」

 何故、今名前を呼んだ?しかも微妙に甘ったるい言い方で。嫌な予感しかしない。また何か買わす気か…?

「ちょっとちょっとー指輪って何よー?」

 次なるケイの攻撃に構えていた俺が聞いたのはアーネの声だった。彼女が気になったのは「指輪」というワードらしい。目の前にはズラリとアクセサリーが並んでいるのだから大体の予想はつくだろうとは思うのだが。いや、アーネだからつかないのか。

「ウチは細工師やって言ったやんか。昨日ユートらがウチの作った指輪を買ってくれたんよ」

「へぇーどんなの?見せて見せて!」

 興味を持ったらしいアーネ。目を輝かせて俺とアオイを見る。光物が好きな女の性なのか。特に隠すものでもないので、アーネの目の前に左手をかざす。その人差し指には銀色に黒い紋様が描かれた指輪がはまっている。

「あれ?買ったのはユートなの?私てっきりアオイだと……」

「いや、アオイもだ」

 買ったのはアオイで俺は貰ったのだが、こいつに説明するのは時間がかかりそうだと判断した俺は言わないことにした。

「ん」

 指輪を見せるように視線を遣って促すとアオイも左手を掲げた。その小指には銀色。

「へー」

 ケイから指輪を受け取った俺はそれをアオイに渡した。一応ここSAOでも相手の指に指輪をはめることは可能。そのためアオイに指輪を渡す時にふと思った。どこにはめればいいんだ、と。指輪をはめる場所には意味がある。

 結局。迷った末にアオイに渡し、自分ではめさせることに決めた。指輪を受け取ったアオイは俺の目をじっと見つめてきた。どうにも居心地が悪くなってしまい、視線を逸らし、指輪をはめる場所によって意味が変わることを伝えた。一通り意味を説明するとアオイは左手の小指にはめることにしたようだ。

 ――その意味は「願いを叶える」

 

 何故一男子高校生である俺がこんなに指輪に詳しいのかといえば、それはとある人物のせいだと言うしかあるまい。別に隠すような人物でもなく、その人物とは葵の母である結さんだ。あの人は去年の葵の誕生日の前に俺を家に呼び出し、指輪に関して書かれた雑誌を机の上に並べて、俺に見せてきた。その時はご丁寧に葵をお使いに出かけさせ、家には俺と二人きり。葵をお使いに行かせるなんてきっと相当な苦労をしたのだろう。で、ペラペラと指輪に関する薀蓄やら何やらを語ってきた。その時の知識が今活かされているというわけだ。ちなみに葵の誕生日には活かされなかった。

 

「よし!私も売り上げに貢献するわ!なんかちょーだい!!」

 アーネがそんなことを言い出した。アーネのことだから金は掃いて捨てるくらい持っているのだろう。

「お!アーネのくせにええ事言うやん!じゃあこれをやろうではないか!!」

 そう言ってケイは黄色が目立つシルバーの指輪を取り出した。俺たちのものとは色こそ違うもののよく似たデザインの指輪。

「買った!!」

「毎度!!」

 効果を何も聞いていないのに購入の意を即座に示したアーネ。ケイを信頼していると言えば聞こえはいいが、何も考えていないだけだろう。

 ほんとに仲いいな、こいつら。

 

 

 

「で?三人はどこ行くんや?」

 アーネは支払を終えて、はしゃぎながら指輪をはめている。ケイはそんなものは目に入らないとばかりに、普通に俺に話しかけてきた。

「レべリングにちょっとフィールドにな」

「ふぅん」

 ケイはペンチをくるくると回しながら、どこか考え込む素振りを見せた。彼女も誘うべきなのだろうか。話を聞く限りもとは戦闘職だったようだが、今は生産職。レべリングに興味があるのか。

「一緒に行くか?」

 だが、ここで誘わないというのも何だか具合が悪い気がした。

「ん~誘ってくれたのに悪いけど今日は止めとくわ。今日は店で商売したい気分やし」

 気分。気分か。

「ふふ…めげずにまた今度誘ってな。何ならデートのお誘いでもええで?」

 含みのある上品な笑い。背後のアオイからの視線を感じる。

「……ユート、あんた手出すの速いわね…」

 アーネの蔑むような声。

「……誤解だ」

 それしか言えなかった俺。ケラケラと楽しそうに、可愛らしくケイは笑っていた。

 

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