「どうしたですか、あいちゃん?」
「……久しぶりにいい気分だったのに、悪いもの見ちゃったわ」
「何を見たですか?……見たですか?」
「幽霊とかじゃないから安心して。むしろ幽霊なら除霊のしようがあって楽かも」
ビシッとアイエフが人の波を気にかけながらある場所を指差す。
「はい、行くわよ」
「わ、私達が幽霊になるですか⁉︎」
「逝くじゃないわよ」
《わ〜、アイエフったらハレンチ〜》
「そういう意味でもない!ほら、いつものアレよアレ」
アイエフが指差す方を見るとそこには……。
い つ も の 。
《あっ……ふ〜ん……》
「ほら、うぃ〜っと行ってしゃ〜っとしてうぇ〜するわよ」
「あいちゃんが学生のバイトみたいになってるです……」
「5回目ですし、流石に手慣れたんですね……」
それはみんな同じなのだが。
人の波をかき分けて進む。人がいない道にまで抜けて回り込むと、リンダは5pb.を見ながら低く笑っているところだった。
「へへっ……あそこに乱入しちまえば……」
「はい死刑」
「せめて逮捕して送検して裁判かけるくらいはしろよ!……ん?」
《また会ったね、リンダ》
「げっ、テメエら!これでひー、ふー、みー……4度目かよぉ!」
《………え?》
「ラステイションからわざわざリーンボックスまで追ってくるなんて、なんで執念深い野郎どもだ!」
「は?ルウィーでも会ってるじゃない。ついにモウロクした?」
「は?それはこっちのセリフだ。アタイはルウィーなんか行ってねえぞ」
「…………え?」
「そ、そんな、忘れたんですか⁉︎あんなロボット操って、脳とか、出てきて……!」
「ロボット?脳?知ったこっちゃねえな、なんだよそれ」
(これ……!まさか、記憶が消えてる⁉︎)
ネプギアが目を見開いた。
それはアイエフもコンパもミズキも同じだ。
「チッ、ま、ライブ妨害は別に命令されたわけでもねえしな……。じゃあな!」
「あっ、ちょっと待って!」
相変わらず逃げ足が速い。
あっという間にリンダは見えなくなってしまうが、4人に新たな謎が襲いかかる。
(あの人まで記憶が消えてる……⁉︎なんで、どういうこと⁉︎)
しかもピンポイントでルウィーの記憶だけ。あの酷い有様を忘れるわけがない。
やっぱり、記憶は消えてるんだ……!
《十中八九、ビフロンスの仕業だね》
「でしょうね。でないと、説明がつかない」
「下っ端さん、会ったんでしょうか……」
記憶を消せるのはビフロンスないし犯罪組織マジェコンヌくらいのものだ。3人はネプギアに聞こえないように呟く。
「次のナンバー!みんな、まだついて来てよ⁉︎」
全員が謎の中に沈む中、5pb.の声が辺り一帯に響いていた。
ーーーーーーーー
アテもなくリーンボックスの街を歩く。
教祖チカのこと、リンダのこと。だがいくら調べても何も出て来ない。
まさかチカは気が狂ってるのですか、などと聞くわけにもいかないし記憶が消えてませんか、などと聞いたらこっちが変人扱いだ。
というわけで八方詰まりの状況だ。ええいっ、押すも引くもできないッ!
《そりゃ、簡単に見つかるわけないって思ってはいたけど……だいぶ堪えるね》
「ここまで何もないと、やめたくなるですよ」
「そうね。今回ばっかりは賛成だわ」
クエストをこなしながらプラネテューヌやリーンボックスのシェアを回復させ、さらに聞き込みを行っているが、やはり成果はない。
「…………」
ネプギアも考え込みながら歩いている。
記憶に関することを延々と考え続けている。しかし、答えは出ない。まさに、謎が謎を呼び、わからないことばかり増えていく。それは不毛とも言えたが、やめるわけにはいかない。
きっと、これはスミキという男にも深く関わっていることだから。
(私達を助けてくれる人だし、きっと悪い人じゃない。でも……)
何か大なり小なり謎があることは間違いない。それを解き明かしたい。
「ん〜……ん?」
トン、と背中が押された。
自分は最後尾にいるので、後ろには誰もいないはずだが……。
トン。
「………」
まさかこんな明るいうちから幽霊が出るわけないだろう。そう考えている間にも背中は叩かれ続ける。
段々とその間隔が短くなってそして………!
「さっさと振り向きなさいよ!」
「あうっ」
しまいには頭を殴られた。
涙目になりながら後ろを振り向くと、そこにはロムとラムがいた。
「ロムちゃん、ラムちゃん!」
「ちょっと前ぶり……」
「なんで叩いてるのに振り向かないのよっ」
「いや、その、いやぁ……」
適当に言葉を濁して苦笑い。
アイエフとコンパも気付いてこちらに戻って来た。
「リーンボックスに来るなんて、どうかしたですか?」
「そりゃあもちろん、シェアを頂きに来たのよ!」
「出来れば、マジェコンヌから奪うつもり……」
《考えることはみんな同じだね……》
奇しくもユニとまったく同じ理由。
(一応、ネプギアにも会いに来てあげたんだからね?)
(そのうち、ユニちゃんとも会うつもり……)
2人が耳打ちしてそっと教えてくれる。
どうやらリーンボックスに集って記憶についての話し合いをするつもりらしい。
「それで、アンタ達は何してんの?やっぱりシェアクリスタル集め?」
「それもありますけど、まあ、他にも色々調べてる途中です」
アイエフがそう言うと、ラムは食いつく。
「色々って?」
「ほら、ここの国が犯罪組織の規制解除したでしょ?それについて調べてるの」
「キセーカイジョ……ああ、アレね!」
「調べるも何も……教祖さんがおかしいんじゃ、ないの……?」
「それがね、スミキさんが言うには……」
《チカはそんなことする人じゃないんだ。何か理由がある。……そう思ってね》
ラムは少し訝しげな目になるが、すぐに腕を組んで考え始める。
「ん〜……じゃあ脅されてるんじゃないの?」
《それがわかれば苦労はしないんだけどね。だから、どんなことになってるか調べてるんだ》
「あ……あと、アレ……。前やったゲームの……」
「ああ。実は入れ替わってました〜ってやつよね」
《入れ替わる、か……》
それもあるかもしれない。
「その線で調べてみる?」
《いい加減直接会えないかな。一応帰ったら連絡するように職員には頼んだけど……》
「もしかしたら口止めされたかもしれないしね。誤魔化されたとか」
仮に帰って来たとしても「さっき会って来たから、連絡しなくて大丈夫」などと言っておけば連絡はしないだろう。
抜き打ちで会いに行ったほうがいいか……。
「ん、あれ?アンタ達……げ、ネプギア」
「げ⁉︎げって言われた!」
「いや、それは……うん、ゲプギア」
「ゲプギア⁉︎」
「そのほら、アレよ、あんまり気にしない方がいいわよ。ゴンザレス村内さんもそう言ってたし」
『あんまり気にするんじゃねえぜ、ベイビー。キラっ』
「誰⁉︎そのアメリカ然とした人は誰⁉︎ていうか、うわ、変なの聞こえた!やだ、聞きたくないよこの無駄にイケメンな声!」
『(ベイビー、好きな飯は何だい?やっぱり俺は、お袋の味噌汁だな)』
(こいつ、頭の中に直接………⁉︎)
「っていうかゴンザレス村内さん無駄に日本かぶれ⁉︎まさかの味噌汁好き⁉︎ステーキとかじゃないんですか⁉︎」
『違うぜベイビー。お袋の、味噌汁だ。そこを忘れちゃいけねえ。それは焼きそばにソースをかけないみたいなもんだ』
「塩にすればいいじゃないですか!」
ゴンザレス村内さんとの会話を早々に切り上げる。このまま会話を続けると、なんか、ダメな気がした。
「で、なんでアンタ達がいるの?」
《かくかくしかじか》
「あのね、それで伝わるわけが……」
「まるまるうまうま。……なるほどね」
「伝わった⁉︎」
「ベタなツッコミですぅ……」
「伝わらなかった……」
「それでいいのよ。それで普通なのよ。間違ってないから、私達」
ロムががっかりしているがラムは冷めた目で諭す。普通伝わるよねぇ、かくかくしかじか。
「それじゃ、善は急げってことで行きましょ?」
「どこに?」
「そりゃ、ここの教祖のところよ」
ユニがさっさと歩き出す。
他の人達もそれにつられてリーンボックスの教会へと向かった。
ーーーーーーーー
静かに教会のドアを開けて中に入る。
奥に進むと特徴的な長い薄い緑色の髪が見えた。アレは間違いなくチカの髪だ。
「失礼するわよ」
「ヒッ⁉︎あ、アナタは……?」
「ちょっとユニちゃん、そんないきなり……」
ユニが先陣を切ってドアをバンと開く。
中にいたチカの背筋はピーンと伸び切って頬も引きつっている。
「あ、ネプギアさん達も……。あの、お友達でしょうか?」
「あ、はい。友達です」
「ちょっといい?シェアクリスタルについて聞きたいんだけど」
アイエフがさっさと話を進める。
チカはしどろもどろになりながら話し始める。
「あ、あの、その件はこちらでも調査中でして……」
「まだ終わってないの?」
「も、申し訳ありません……」
《…………》
やっぱりおかしい。
言っては失礼だが……チカはこんなにしおらしいだろうか。言ってしまえばチカは大きい子供というイメージがミズキの中にはあった。
「と、ところでその、アナタ達は?」
「私はラムよ!」
「ロム……」
「ロム、ラム……。聞いたことないですわ」
「ルウィーの、女神候補生……」
「そうなんですか。あれ?アタイ本当に覚えてねえぞ……」
「何か言った?」
「い、いや何にも?」
チカがボソッと呟いたが、誰にも聞こえなかったようだ。
「それで、アナタは?」
「……忘れたの?私よ、ユニよ」
「ゆ、ユニさん?」
「ええ。2日前に会ったじゃない」
「2日前……あ、ああ、会ったような、気がします。最近物忘れがひどくて……」
「いや……3日前だったかしら?」
「3日前?そ、そんな気もしますね」
「1週間だったかしら」
「い、1週間?そうかもしれないですね……」
「………………」
アイエフが頭を抑えて深い溜息をつく。
ああ、もう、これはビンゴだ。ビンゴっていうかダウト。
「ごめん。私アンタに会ってないわ」
「………はい?」
「はい、偽物発見〜。取っ捕まえるわよ」
「っていうか、完全に声が下っ端じゃない……。こんなのも見破れないって、諜報部員失格よ……」
アイエフが勝手に凹んでいる。
その間にも他の人達はユニの号令でチカを囲むようにジリジリと動いている。
「な、なんのことです?私は教祖チカで……」
「観念しなさいよ。もう取り繕いようがないわよ」
「やぁっぱり偽物だったのね!」
「おとなしく、して……」
「ぐ、ぐ、くそっ!このアタイの完璧な変装を見破りやがって!」
「あ、下っ端さんです!」
「全然気づかなかった……!」
「……アンタ達バカ?」
《何も言い返せないね……》
「こ、こうなりゃ!」
「逃げるですか?」
「逃げるんですか?」
《逃げるの?》
「逃げるのよねぇ」
「四段活用になってんぞ!普通そこは三段活用だろうが!このゲームのアレとしては!」
《テイク2》
「逃げるんですか?」
「逃げたです」
「逃げたわよねぇ」
「じゃーーーなーーー!」
「あっ!逃げられた⁉︎アンタ達何してんのよ!」
「はっ、つい……」
「追いかけるです!」
「ったく、毎度毎度逃げるなぁぁっ!」
とっとと逃げ出したチカ、じゃなくてリンダを全員で追いかけた。
ーーーーーーーー
「ひ〜っ、ひ〜っ、ここまで来れば……!」
リンダがダンジョンの中で息を整える。だいぶ走ったはずだが……さすがにここまで追いついては、
「まぁてぇぇっ!」
「来た⁉︎」
しまったフラグを立てすぎた。
「く、くそっ!」
捕まるわけにもいかないのでさっさと走り出す。しかしこのままではラチがあかない。
「なんか時間を稼げるもの、時間を稼げるもの……!そうだ、これがあったじゃねえか!」
それから少し後。
「どこ行った⁉︎」
「………あっちから足音が聞こえる……」
「あっちね!」
「ふえぇ、もう疲れたです……」
「コンパさん、頑張ってください!」
十字路を左へ。
すると走っていたロムが道の途中でピタッと止まる。
「……………」
「ロムちゃん?どうかした?」
「……なにか、イヤな感じがする……」
「イヤな感じって……いつものアレ?」
「それとはちょっと違う……。なんていうか……すごぉくイヤなんだけど、ゾワゾワはしないの……」
「なんだっていいわよ、早く行きましょ」
ユニがさっさと駆け出す。
「あ、ああ待って!」
ネプギアもユニに追いつこうと駆け出した。
道の向こうの暗闇に2人が消えて、数秒後。
「きゃーーーーっ⁉︎」
「ねぷぎゃーーー⁉︎」
「ネプギア⁉︎」
「ギアちゃん⁉︎」
「ユニちゃんの声……!」
「急ぐわよ!」
2人の甲高い悲鳴が聞こえた。
急いで進み、アイエフが懐から懐中電灯を取り出して先を照らすと、そこには……!
「きゃっ、この、触るな!」
「ふぇぇ、冷たくて、ゾワゾワするぅ〜!」
「げっ」
「あぅ」
アイエフとコンパか苦虫を噛み潰したような顔になる。
あの時の再来……スライヌ、再び。